非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ part38 [無断転載禁止]©2ch.net
- 1 :創る名無しに見る名無し:2016/10/11(火) 20:30:25.65 ID:9XK6guSh
- 1999年刊行された小説「バトル・ロワイアル」
現在、様々な板で行われている通称「パロロワ」はリレー小説の形をとっておりますが
この企画では非リレーの形で進めていきます。
基本ルール
・書き手はトリップ必須です。
・作品投下前に登場キャラクター、登場人数、主催者、舞台などを発表するかは書き手におまかせです。
・作品投下前と投下後にはその意思表示をお願いします。
・非リレーなので全ての内容を決めるのは書き手。ロワに準ずるSSであればどのような形式、展開であろうと問いません。
・非リレーの良さを出すための、ルール改変は可能です。
・誰が、どんなロワでも書いてよし!を合言葉にしましょう。
・ロワ名を「〜ロワイアル」とつけるようになっています。
〜氏のロワは面白いでは、少し話題が振りにくいのでAロワ、Bロワなんでもいいのでロワ名をつけてもらえると助かります。
・完結は3日後だろうが5年後だろうが私は一向に構わんッッッ!!
前スレ
リレー型バトルロワイアルを発表するスレ part37
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1452525053/
非リレー型バトルロワイアルwiki
ttp://www26.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/1.html
- 19 : ◆84AHk0CknU :2016/12/06(火) 22:35:09.73 ID:fHd6dcvI
- 第一話投下します
- 20 :守る少女/守れなかった男 ◆84AHk0CknU :2016/12/06(火) 22:36:34.90 ID:fHd6dcvI
- 金髪のツインテールを揺らしながら、力強い足取りで少女は進む。
中学生くらいのその少女は、強い決意を抱いていた。
脳裏に浮かぶは一つの名前。
先程確認した参加者名簿に記されていた自分のよく知る、記載されていないことを願った名前。
大切な親友、ナナリー・ランペルージ。
(ナナリー…)
何故彼女が、こんな危険な場に連れて来られているのか。
何故あの心優しいナナリーが、殺し合いを強要されなばならないのか。
胸の奥から抑えきれない憤怒が湧き出る。
無意識の内に拳はきつく握られ、ギチリと歯軋りをする。
決断は一瞬であった。
早急にナナリーを見つけて保護する。
ブリタニア軍の兵士である事がバレてしまおうとも構わない。
ナナリーを助けるのに己の身分の心配などしていられるものか。
(急がないと…!)
ナナリーは視力と両足が不自由な少女だ。
殺し合いに乗った危険な参加者にとって狙わない理由は無い。
この場には元イレギュラーズのマオがいる。
何故目の前で死んだはずのマオの名が名簿にあるのかは分からない。
だがどうやって生き返っただとかは、今はどうでもいい。
(あいつがまたナナリーを襲う可能性は十分ある)
そうはさせない。
今度こそ己の手で確実に殺す。
太腿のホルスターに差し込んだ銃を意識しながら、騎士は徐々に足を速めた。
【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康
[装備]:SIG SAUER P220(10/10)@現実
[道具]:共通支給品一式、マガジン×3、C.C.細胞抑制剤@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー
[思考]
基本:ナナリーと共に殺し合いから脱出する
1:ナナリーを探す。
2:ゼロ、マオを警戒。マオは確実に殺す
[備考]
※参戦時期はマオ死亡直後。
- 21 :守る少女/守れなかった男 ◆84AHk0CknU :2016/12/06(火) 22:38:08.29 ID:fHd6dcvI
- ◇
獣のような鋭い視線で辺りを睨みながら、力強い足取りで男は進む。
人を寄せ付けない雰囲気のその男は、強い決意を抱いていた。
脳裏に浮かぶのは一つの名前。
数年前、理不尽に命を奪われた甥の少年。
大切な家族、ひで。
(死人の蘇生、か…)
あの胡散臭い関西弁の男は言った。
殺し合いに勝ち残れと。
最後の一人の願いを何でも叶えてやると。
死者を蘇らせることも可能であると。
決断にはほんの少し時間を要した。
幾らなんでも荒唐無稽過ぎる。
それに殺すというのは最初に死んだ赤い服の少年のような、年端もいかない子ども。
我が子を失い泣き叫ぶ、かつての自分と同じ悲しみを味わったその両親。
そんな者達も含まれているのだ。
当然悩んだ。
(それでも俺は…)
ひでに生き返って欲しい。
この身が汚れ切っても構わない。
…ひょっとするとこの選択も、自分にとって「逃げ」なのかもしれない。
ひでが死んだという現実、自分の無力さから目を背け迫真狩りという八つ当たり染みた事をしてきた。
そして今もひで蘇生の為に、殺し合いを肯定している。
「それでもいい。いいんだよな。OK?OK牧場?(激寒自問自答)」
そうだ。
ひでが生き返るのならそれでいい。
だから、
「MUR。俺はもう止まれねえよ」
【葛城蓮(虐待おじさん)@迫真ヤンキー部 漢の裏技】
[状態]:健康
[装備]:吹雪丸の刀@クレヨンしんちゃん
[道具]:共通支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:優勝してひでを生き返らせる
1:参加者を探して殺す
[備考]
※参戦時期はKBTIT撃破後〜MURとの決着前
- 22 : ◆84AHk0CknU :2016/12/06(火) 22:39:01.30 ID:fHd6dcvI
- 投下終了ナス
- 23 : ◆84AHk0CknU :2016/12/08(木) 17:54:37.07 ID:A1KOIfoh
- 第二話投下します
- 24 :糞遊びDays ◆84AHk0CknU :2016/12/08(木) 17:56:27.51 ID:A1KOIfoh
- 「わけ分かんないなぁ」
岡山、ではなく殺し合い会場の川の土手下。
ガシガシと頭を掻きながら銀髪の少女、マオは呟いた。
殺し合いもそうだが、もっと奇妙なのは自分の肉体についてだ。
「どうなってんのよこれ」
反作用による痕がどこにも無い。
皮膚をほとんど隠さねばならぬ程に醜く膨れていた筈が、今やシミ一つ見当たらなくなっている。
あれだけ忌々しく思っていた、自分を蝕む腫瘍。
しかし理由も分からず消えていれば、嬉しさよりも気味の悪さを感じてしまう。
「っていうか……何でボク生きてんの?」
殺し合い巻き込まれる直前、マオはナナリー・ランペルージの魔導器を奪おうとした。
あと一歩までの所でウィッチ・ザ・ブリタニア―――今は魔王ゼロの妨害を受け、
その結果、反作用を促進させられてしまった。
挙句に残りの抑制剤を目の前でアリスに破壊され、ギアスユーザーの運命を呪いながら消滅したのだ。
あのウザったいグラサン男に反作用を消し、死を覆すような力が有るとは思えない。
強力な力を持ったギアスユーザーが、背後に居ると考えた方がまだ納得できる。
ともあれ生き返ったというなら、嬉しくなくはない。
反作用が消えているおまけ付きであるし。
これで殺し合いに参加しているという状況でなければもっと喜べただろう。
(殺し合いねぇ…)
デイバッグを開き中身を確認する。
早速見慣れたものを見つけた。
C.C.細胞抑制剤。
人造ギアスユーザーにとっては生きる為に必要不可欠な代物。
生き返ったからといって、反作用とは無縁の肉体になった訳ではないということか。
舌打ちをしながら続いて目に入った参加者名簿とやらを開く。
知っている名を見つけ、ため息が出そうになった。
ナナリー、ゼロ、アリス、ロロと厄介な相手ばかりだ。
ナナリーからは何とかして魔女の力を奪いたいが、一度襲われている為当然警戒されているだろう。
アリスとゼロは間違いなくこちらを殺しに掛かってくる。
ロロは多分優勝狙いだろうが、上手くいけば途中まで同盟を組めるかもしれない。
最優先はやはりナナリーの魔女の力を手に入れ、反作用とはおさらばする事だ。
その後で脱出か優勝かを決める。
とりあえずの方針が決まったマオは、早速行動開始しようとし――咄嗟に身を屈めた。
「くっ!」
頭上で何かが振るわれた感覚と、背後に人の気配を感じながら急ぎ駆け出す。
襲撃者から距離を取ると振り向き、姿を確認する。
- 25 :糞遊びDays ◆84AHk0CknU :2016/12/08(木) 17:57:40.37 ID:A1KOIfoh
- 襲った者は、一言で言うなら変質者だった。
禿げ上がった頭部に中年太りのオヤジ。
身につけているのはサングラスとふんどしのみ。
手には縞模様の槍が握られている。
男は槍でマオを突き殺さんと襲い掛かる。
「大人しく死んでくれや」
「断るに決まってんでしょ!」
全速力で男から逃げるマオ。
自分のギアスは相手の目を見なければ発動できない。
サングラスを掛けた男にはギアスが使えず、武器になりそうなものも支給されていない。
故にここは逃走を選んだ。
幸い男はあのメタボリックな体型の通り、運動神経はそれ程高くはない。
これならば逃げるのは容易いはずだとマオは確信する。
「く」
男が立ち止まる。
「そ」
マオに背を向け、何を思ったか尻を突き出す。
「が」
そして次の瞬間、
「ドバァァァァァァァァァ!!」
茶色い濁流が発射された。
紛れも無く糞である。ハイドロポンプかなにか?(PKMN)
「うわ汚っ!」
反射的に避けたため糞の直撃は免れた。
最初に会った参加者があんなクッソ汚らわしい異常者とは。
なんで自分ばかりこんな目に、と忌々しい思いを抱きつつマオは急いでその場を離れた。
◇
糞を発射した男、『変態糞土方』は脱糞の余韻を味わっていた。
腹に溜まった穢れを排出し、どこか晴々とした笑みを浮かべている。
「ああ^〜、たまらねぇぜ」
糞土方は殺し合いの優勝を目指していた。
まだ死にたくない。
糞遊びに精を出していたあの日々を失いたくない。
どうせここに知り合いは居ないのだ。
ならば優勝しテリトリーである岡山の県北に帰るのが、一番手っ取り早いだろう。
「はやく糞まみれにして殺りたいぜ」
糞を愛し糞と共に生きてきたスカトロ野郎。
糞土方は今、血塗られた道を歩こうとしていた。多分血じゃなく茶色に汚れた道だと思うんですけど(名推理)
- 26 :糞遊びDays ◆84AHk0CknU :2016/12/08(木) 17:58:37.71 ID:A1KOIfoh
- 【マオ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、C.C.細胞抑制剤@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー、不明支給品×1
[思考]
基本:何とかして生き残る
1:変態親父から逃げる
2:ナナリーから魔女の力を奪う
3:アリス、ゼロを警戒
4:枢機教とは協力できるかも
[備考]
※参戦時期は死亡後。
【変態糞親父@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康
[装備]グングニルの槍@でろでろ
[道具]:共通支給品一式
[思考]
基本:優勝する
1:どいつもこいつも糞まみれで殺りたいぜ
- 27 : ◆84AHk0CknU :2016/12/08(木) 17:58:58.96 ID:A1KOIfoh
- 投下終了です
- 28 :◇js6o2luy:2017/02/20(月) 00:51:02.21 ID:lWu+LYKp
- 新ロワいきます
参加作品
銀魂
VOCALOID
双星の陰陽師
灼熱の卓球娘
魔法少女かずみ☆マギカ
結城友奈は勇者である
タブー・タトゥー
Go!プリンセスプリキュア
おそ松さん
今のところこれくらいです
もしかしたら追加あるかも?
- 29 :◇js6o2luy:2017/02/20(月) 01:00:23.53 ID:lWu+LYKp
- すみません題名忘れてました
題名 スーパーバトルロワイアル
あと、銀魂と灼熱の卓球娘の参加メンバーが決まっているので発表します
12/12【銀魂】
【○坂田銀時/○志村新八/○神楽/○近藤勲/○土方十四郎/○沖田総悟/○志村妙/○高杉晋助/○桂小太郎/○坂本辰馬/○神威/○猿飛あやめ】
6/6【灼熱の卓球娘】
【○旋風こより/○上矢あがり/○天下ハナビ/○出雲ほくと/○大宗夢音/○後手キルカ】
- 30 :◇js6o2luy:2017/02/21(火) 22:26:28.05 ID:vDEqpZRG
- 他作品の参加キャラも決まりました
6/6【VOCALOID】
【○初音ミク/○鏡音リン/○鏡音レン/○神威がくぽ/○GUMI/○巡音ルカ】
6/6【タブー・タトゥー】
【○赤塚正義/○ブルージィ=フルージィ/○一ノ瀬桃子/○トム=シュレッドフィールド/○アリヤバータ/○イルトゥトゥミシュ】
6/6【双星の陰陽師】
【○焔魔堂ろくろ/○化野紅緒/○天若清弦/○斑鳩士門/○聖丸/○氷鉋】
7/7【おそ松さん】
【○松野おそ松/○松野カラ松/○松野チョロ松/○松野一松/○松野十四松/○松野トド松/○弱井トト子】
続きます
- 31 :◇js6o2luy:2017/02/21(火) 22:44:42.22 ID:vDEqpZRG
- 続きです
7/7【魔法少女かずみ☆マギカ】
【○かずみ/○御崎海香/○牧カオル/○宇佐木里美/○浅海サキ/○神那ニコ/○若葉みらい】
6/6【Go!プリンセスプリキュア】
【○春野はるか/○海藤みなみ/○天ノ川きらら/○赤城トワ/○クローズ/○シャット】
5/5【結城友奈は勇者である】
【○結城友奈/○東郷美森/○犬吠埼風/○犬吠埼樹/○三好夏凜】
合計61人
残り61/61人
基本的なルールは、アニロワ4thを参考にします。
主催者 トワ@オリキャラ
次回、第0話『The beginning』
- 32 :◇js6o2luy:2017/02/21(火) 23:36:55.66 ID:vDEqpZRG
- 投下します
第0話 『The beginning』
無機質な部屋の中、そこで彼らは目覚めた。
何が起こっているのか、ここは何処なのか。彼らの疑問は、やがて怒りへと変わっていく。早く出せ、何が起こっているんだ。という怒号の中、一つのモニターが点灯した。
「目が覚めたかしら?」
モニターに映っているのは、黒髪ウェーブの一人の少女。そして、彼女は恐ろしい事を口にする。
「今からあなた達には殺し合いをしてもらうわ。正真正銘の、本当の殺し合い」
殺し合い!?部屋がざわめく。
「ふざけるなっ!俺達がそんな脅しに乗ると思うのかよ!」
怒号を飛ばすのは、くせ毛が特徴的な高校生。
「ろくろ…今は落ち着いて、逆らったら、何をされるか…」
姫カットの女子高生が、少年を止める。
「でもよ…!」
「そうよ…今は静かにしなさい」
「くっ…」
女子高生に止められ、仕方なく腰を下ろす少年。
「その通りだぁっ!」
「なーに?まだ状況を理解していない人がいるの?」
その時、サングラスの男が立ち上がる。
「俺はようやく仕事を見つけたんだ!ここで殺されてたまるかよ!」
「はぁ…」
モニターの少女はため息をつく。そして…
- 33 :◇js6o2luy:2017/02/21(火) 23:40:15.34 ID:vDEqpZRG
- 「皆、よく見てなさい、私に逆らうとこうなるわよ、ハイクラスサラマンダ!」
ゴオォ
「うわぁぁぁぁ!」
一瞬にしてサングラスの男が炎に包まれる。そして、彼は黒焦げになり、地面に倒れた。
ザワザワ…
「静かになさい!あなた達もこうなりたい?」
状況が理解できない参加者達。すると、緑髪のツインテールの少女があることに気付く。
「これ…さっきの男の人が描いてある…」
「あら、説明が中断されてしまったわね。では、続きを説明するわ。まずあなた達には、四色のカードが支給されているわ」
初めに、少女は白いカードを取り出す。
「まずは白カード。これは一番重要なカード。ルールやマップ、参加者の名簿まで確認できる。」
「この殺し合いで殺されたり、私に歯向かったりしたら、このカードにあなた達の魂が入る。そこのおっさんのように…ね。」
「出せるのは私だけ。でも、出してなんかあげない。負けた人は皆このカードに入ったまま」
次に少女は黒のカードを取り出す。
「これは黒カード。出てきてと願えば、ランダムにアイテムが出てくる。勿論、何が出るかはお楽しみ。しまおうと思えばすぐにしまえる。このカードは一人1〜3枚支給するわ」
その次に少女は赤色のカードと青色のカードを取り出す。赤カードの中央にはショートケーキの絵が、青色のカードには水の絵が描いてある。
「赤いカードがフードカード、青いカードがウォーターカード。どちらもあれが食べたい、飲みたいと思えば、たちまちそれが出てくる。」
「ただし、黒カードと違って、一度出したものはしまえない。それと、二枚とも10回の使用制限がある。回数か0になるとそのカードは消滅してしまうから気をつけなさい」
「そして…最後の一人になった人には、どんな願いでも叶えさせてあげる。死者の蘇生だって可能よ」
「死者の蘇生」…その言葉に体を震わせる一部の参加者達。
「さあ、もうすぐ始めるわよ、戦って勝利を掴むか、それとも負けて暗闇を彷徨うか…あなた達には選ぶ権利がある…それだけでも、まだあなた達は幸せなのよ…」
空間が歪み、参加者達はランダムな場所に転送された。
「さあ、殺し合いなさい!そして勝利を掴むのよ!」
主催者直々に、ゲームの開始が宣言された。
【見せしめ:長谷川泰三@銀魂】
【ゲームスタート】
- 34 :◇js6o2luy:2017/02/21(火) 23:46:34.49 ID:vDEqpZRG
- 投下終了です
- 35 :創る名無しに見る名無し:2017/02/22(水) 01:37:43.18 ID:fJuU1Q53
- https://goo.gl/9bFxVp
これは、マジなの。。?
普通にショックでしょ。。
- 36 : ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 03:57:06.83 ID:7flaZGxo
- かきこみてすとだよ。かきこみてすとだよ。
- 37 : ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:06:42.67 ID:7flaZGxo
- 書き込めている。
四字熟語ロワ、投下します。
- 38 :48sj ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:08:22.96 ID:7flaZGxo
-
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「あなた が 私 の 幸せ を 殺した。
あなた と 私 は 同時 には 幸せ に なれない。
あなた の 苦悩が 私 の 幸せ で。
あなた の 痛みが 私 の 幸せ だ。
あなた は 私 に 幸せ を 永遠 に 邪魔 され続ける。
あなた は 私 を 殺さなければ 幸せ に なれない」
「あなた と 私 は、
幸せ に なれない」
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- 39 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:09:05.07 ID:7flaZGxo
-
「あアッ!!」
――悪夢を見たあとだから、飛び上がるように起きた。
「あ、ひぃ……はっ、はぁ……はっ、は、ぁう……!」
あまりに勢いよく跳ねのけたので掛け布団が裏返ってベッドの下に落ちた。
ぞ、ぞぞぞ、と全身から脳天に這い上がってきたいやな気持ちに小さな身体が大きく震えた。
首の後ろの血管内で血がずるりと動く音がする。寒気がする。わたしは一瞬で眠気を消し飛ばして目を見開いていた。
遅れて心臓も高速で脈動する。痛いくらいのばくばくにわたしは思わず右手で胸元を掴んで浅い呼吸を繰り返す。
でも勢いよくベッドから離したその右手は起き上がる時に体重を掛けた手だったので、
バランスを崩してベッドに横倒しになる。
痛くは無かった。ふかふかのベッドだったから。
これはわたしの部屋のベッドだ。間違いない。目線の先のカーテン付きの窓がある壁も、わたしの部屋の壁だ。
間違いない。部屋の右側には学習机と収納棚と積まれたいろんな本とカバン掛けと服掛け、間違いない。
左側は壁、そう、わたしの部屋は一人用の狭い部屋なのだ。これも間違いない。
「……戻っ。て。きた、んです、よね」
知っているはずのそんなことすら新たな体験に思えてくる。
わたしは虚空を見つめながら思考をそのまま口から漏らした。何日も別の場所に居たような心地だった。
いや実際に、一日には足りていなかったと思うけれど、はっきりと何時間も別の場所にいた記憶がある。
記憶? いや、体験だ。夢だろうとなんだろうとそれはわたしの体と心に刻まれた体験だった。
あれもこれもそれもこれもどれもこれもなにもかも。
体験で、経験で。本物で、最悪な。ひどい夢、ひどいおはなしだった。
「ああ、起きたの鈴女(すずめ)ちゃん。おはよう。大丈夫? うなされてたけど」
息を整えていたら、学習机の椅子に座っている姉さんが不思議そうに話しかけてきた。
「おはようございます……だ、大丈夫、です。
わたしは、ええと。鈴、女――そうですよね。すずめでした」
「なに言ってるの?」
「いえ、……なんでもありません」
どこか遠くを見つめたまま姉さんに返事をし、そのまま繰り返し頭の中で唱える。
そうだわたしは鈴女だ。文字じゃない。ヒトだ。
人間だし、名前だってある。名前は鈴女。すずめ。名字は……名字はそう、鬼塚だ。
わたしの名前は鬼塚鈴女(オニヅカ・スズメ)。
鬼塚家の次女。一人の姉と一人の父がいる。母は病気で、もういない。
市立鳥姶中学三年二組、出席番号四番。所属は生徒会、役職は生徒会長。
周りより背が低いから学校では基本的に可愛がられていて、
真面目可愛いし頭撫でたいとかよく言われててそれが少し癪だけど、
おかげできついことを言ってしまっても怖がられずに済んでいるところもあって何とも言えない、
あと他のメンバーにも常に助けられていて、自分ひとりじゃ何もできなさを感じてて。
そんな感じの学生生活を、送っていた。
うん大丈夫だ、思い出した。奪われて忘れてた、覚えているはずのことを、ちゃんと覚え直せた。
わたしはわたしに帰ってこれた。
「勇気凛々」は、鬼塚鈴女に帰ってこれたんだ。
- 40 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:10:02.72 ID:7flaZGxo
-
「ちょっと、嫌な夢を……嫌な旅を、していたんです。それだけです」
「ふうん」
「今は……ええと、寝る前が確か夜の十時で……ごめんなさい、今何時ですか?」
「朝の四時だよ」
「そうですか」
わたしの部屋には、時計はなかった。
時間を確認しようと姉さんに問いかけると、返ってきたのは意外な時間だった。
体を起こして、部屋の中を、カーテンの隙間から見える外を、改めて見回すと確かに薄紫だ。それに肌寒い。
早朝の雰囲気が確かにある。四時で合っているのだろう。
寝てから起きるまでの時間と、夢の中で経った時間に差がある気がするけれど……
考えてみれば、夢ってそういうものだ。
そこまで現実と合わせてしまったら、半日以上寝て騒ぎになってしまうかもしれないし。
上手く出来るようになっているのだろう、とか。
わたしはどうにか頭の隅でそんなことを考えられるくらいには、落ち着きを取り戻したみたいだった。
完全に体を起こしきると、ベッドのふちに座る。
呼吸も平常になって、冷や汗も身体の震えも止まって、
どこかに飛んでいっていた、起き抜けのぼやっとした気分がちょっとだけ復活する。
わたしは――鬼塚鈴女は――その浮遊感にも似た感覚を伴いながら、
机に座っているわたしの姉さんのほうに目を向けた。
薄暗い中、姉さんは学習机の明かりを付けて、机に向かって座って本を読んでいた。
姉さんとはけっこう年が離れていて、少しだけ他人行儀な関係。
「姉さん」
わたしは姉さんを姉さんと呼ぶ。
「ええと……何を、読んでるんですか? こ、こんな時間に」
「ん?」
そしてぎこちなく問いかけた。
朝の四時、一人部屋のはずの場所になぜかいる姉さんを不思議に思ったわけではなくて
(姉さんはけっこうよく不思議なことをする人なので、そういうこともなくはない)、
どちらかといえば何か会話をして現実感を得たかったという思いが強い、そんな問いかけだった。
でも口に出したあとで、わたしは一つ思い至る。そういえば、わたしは悪夢にうなされていたのだ。
「あ、もしかして、心配、……してくれたんでしょうか。わたしがうなされていたから」
我ながら一番しっくりくる答えだった。確か、姉さんは、そのくらいにはわたしに優しくしてくれる。
「ん? 違うよ」
でも違った。
「え、違うんですか」
「私はさっきここにきて、これを読みながら君が起きるのを待ってたんだよ、鈴女ちゃん」
「……ええ?」
くるりと椅子を回して、姉さんはこちらを向いた。
学習机の明かりが少し逆光になっていて顔が見えにくいけど、
本を持ったままこちらを向いたので、どんな本を読んでいるかのタイトルが分かった。
分かったのだけれど、わたしが一見して本だと思ったものは、どうも本ではなかったようだ。
それは辞典だった。
類語辞典。
だった。
って、類語辞典?
そんなのわたし持ってないし、家にも無いはずだけど。
- 41 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:11:49.64 ID:7flaZGxo
-
「ああ、これ? これは知り合いから貰ったんだよ。買ったけど使わなかったとかで」
「そ、そうなん、ですか……」
「買うことそのものに意義があるものって、あるでしょ?
あの人にとってはこれはそういうものだったらしいんだ。渡されたときは面食らったけど」
「……」
「読んでみるとなかなか、面白いんだよね。
なるたけ沢山の単語を通って元の単語に戻ってくる遊びとかもできるし」
「あの……そ、それで」
「語彙が増えてく感覚が心地よいっていうか――ん?」
「それで、わたしに何か用ですか?」
「……ああ、用ね」
脱線しかけた話をわたしは元に戻す。
姉さんは一度喋りだすと長いし、話を遮られるとつまらなさそうな顔をする人だというのは知っているけれど、
それより起きるのを待たれてた理由が気になったのだ。
用事があるというなら教えてほしかったし、もし辞書の利点を話したかっただけだというならその旨を伝えてから喋ってほしかった。
すごく心が不安定な状態で、分からないことがあるままで話を進められたくない……という、若干のわがままだ。
それくらいは許してほしい気分だった。
「用は、まだなんだよねぇ……早く早くって急かしてるんだけど」
すると、わたしの催促に対して、
姉さんは不機嫌な声でそう返してきた。
催促をしているのはわたしなのに、姉さんは誰に催促をしているというのだろう。
不思議な気分になったわたしは、「?」の文字を頭に浮かべる勢いで小首をかしげた。
目線が少しずれたからか、逆光の関係で見えなかった姉さんの顔がそのとき見えた。
それは間違いなく、いつも見てきたわたしの姉さんの顔だった。
当たり前だけど、親しみのある。何度も見てきた、顔だった。
「……早くって、何をです?」
「何をです? って……むしろ、こっちが何でです? って言いたいんだけどな。
まだ寝ぼけてるの? ちょっと遅いよ……ねえ、気づかない?」
「気づ、く……?」
気づくって、……何にだろう?
変化に気付けと言うのなら――姉さんが、化粧でも変えたのだろうか?
それを気付いてもらうのが、望みだったのか? こんな時間に?
でも見たところ、わたしには姉さんの変化は分からない。いつもと同じだ。
髪は少々くせ毛で横にはねていて、たまにしか洗わないのか皮脂で奇妙に照らされている。
ちなみに家族唯一の黒髪で、手入れすればちゃんと綺麗だ。成人式くらいでしか見たことはないけれど。
顔だっていつも通り。洗面所に行ったのか、少しさっぱりしているけど、あの大学の講義室みたいな所で見たのとあまり変わらない。
綺麗な二重で、瞳は大きいけど目付きはどこか怖い感じ、鼻がちょっと高くて、唇は少し不健康そうで、片目だけ眼鏡をしている。
いつもは白衣のまま帰ってきてそのまま寝てたりするのに今日は私服なのは違いと言えばそうだけど、新しい服って訳でもないし――――ん?
「え?」
あれ、ちょっと待った。
いま。
記憶の引き出しの開け方に、違和感があった。
- 42 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:13:43.68 ID:7flaZGxo
-
「え」
「気付いた?」
姉さんは笑った。
赤子にそうするような、慈しみのある微笑み。でもどこか違和感がある。
瞳の奥が笑っていない。嘲っている。見下している。目だけがそうだから、ひどく歪んで見えた。
記憶の中でも、こんな目をされた。そう、大学の講義室のような場所で。
忘れるわけもない。わたしは。わたしは。今ここにいるわたしは――その場所から始まった。
それまでのわたしを殺されて、別のわたしとして生かされ、殺し合わされ、生き残って。こうして戻ることができた。
戻ることが出来たけれど、取り戻すことが出来たけれど、でも、別物になってしまった。
させたのは。
そうさせたのは。
「き」
そうさせたのは、あなただったの?
「奇々、怪々……?」
「あらら。実の姉に向かって、いったい何を言ってるの? 鈴女ちゃん」
あの殺し合い実験の主催の一味。
奇々怪々と同じ姿、同じ顔をした姉さんは。まずそう言った後、
「なーんて。いまさらはぐらかしても、雰囲気でばれちゃいますよねえ……ふふ、あはは、正解ですよ正解。
私が奇々怪々です。その通り。そして、貴女の姉でもある。
殺し合い実験の脱出者の姉が、殺し合い実験の進行者だった……なかなか奇々怪々な出来事だと、思わない?」
「……姉さん……な、なんで……」
「なんでもなにもない」
唐突に、類語辞典に挟んでいた一枚の紙を、わたしに見せるようにして広げた。
「復讐ですよ」
わたしは目を見開いた。
それは紙ではなく、写真だった。
見覚えのある、写真だった。
家族写真だった。
わたしの家の、家族写真だ、四人家族が、映っている。
「……あ……」
- 43 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:14:16.92 ID:7flaZGxo
-
七年前の、七五三だ。
思い出す。思い出せる。
わたしはまだ七歳で、姉さんのことはお姉ちゃんと呼んでいた。
お姉ちゃんはいまと変わらずわたしのことをすずめちゃんと呼んでいた。
お母さんはまだ健康で元気で、着物を着てはしゃいでいるわたしたちを見て、しょうがない子たちねと笑っていた。
うん。覚えてる。着物の感触と特別感が面白くて、じっとしてなさいって言われてもじっとしてられなかったんだ。
お父さんはといえば、そんなわたしたちを見て、後ろで優しく微笑んでいた。
お父さんはけっこう無口な人だった。
口下手だといつも言っていた。
けれど、わたしにとっては、お父さんこそが、わたしの、ヒーローだった。
自衛隊で鍛えた大柄の体は、たくましくて、頼もしくて。
町内運動会なんかじゃ敵なんていなくて。
釣りとか、キャッチボールとか、お仕事で忙しくてもわたしと遊んでくれて。
疲れたらおんぶして運んでくれて。その背中があったかくて好きで。
「あ……え……?」
その背中を、わたしはずっと目指そうと。
お父さんみたいな、ヒーローになろうって、思って。
なのに――なのに、写真で見る、その顔は。見覚えがありすぎるくらい、見覚えがあって――。
わたしは言葉を、思い出す。
“なにしろ、無作為選出ですので。調べでは近親者はいないはずですが、親戚や知人くらいならいるかもしれません。”
参加者の選出に対する、奇々怪々の言葉。
わたしたちはあの時点では、その言葉を信じるしかなかった。
だけどあれは、あくまで「今回の参加者の中で」という枕詞がついた言葉でしか、なかったのだ。
目の前にいる「主催者側」である彼女との間に近親関係があっても、適用されなかった。
そしてもうひとつ。
“そしてもう一つは――”己だけが前回のルールを引き継いでいる”ということだ。”
前回のルールを引き継いで、「前回の参加者の延長戦」としてゲームに挑んでいた彼も、ルールの適用外だった。
つまりそういうことだったのだ。
だから。
でも、なんで。
どうして、じゃあ、あの時?
「分からなかったでしょう?」
類語。並べられた一見違う三つの単語は、実のところすべて同じ意味。
奇々怪々は――わたしの姉さんは――“鬼塚雷鳥”は。
わたしに語り掛ける。
わたしに語り倒す。
わたしを、語りで、殺す。
「それが、ルールでしたからね。
『この人間関係を、悟られてはならない』。それがあの男が課されていた、本当の首輪。
あの男は――傍若無人は、「貴女を守る理由を貴女に知られることなく、貴女を生き残らせなければ」いけなかった。
そうしなければ首輪を爆発させると、私は言いました。ふふ、そのうえで私はあの男を、ひたすら虐めてあげました。
苦戦するあの男を見るのは最高に笑える娯楽だったし、それを乗り越えても、すでにそのときにはもう、貴女は反転に堕ちていて。
死ぬほど滑稽でしたよぉ? 抱きしめたくて堪らないだろう愛娘が、ぼろぼろに死にたがりながら、自分の元に向かってきて!
それを慎重に、慎重に! 取り返しのつかない痛みを与えないように慎重に、返り打たないといけないあの男を見るのは!
あのまま、あの男が貴女を殺してしまうというのが一番面白かったんですがねぇ♪
結局、ゲームはあの男の勝ち。死んで勝ち逃げされて、私は腹の虫が収まらないんですよ。
だから、こうして貴女の前で“種明かし”をするのだけを楽しみにしていたの」
- 44 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:15:13.72 ID:7flaZGxo
-
ぎぃ。と音が鳴った。油が挿さっていない学習机の椅子が、ひどく耳に刺さる音を出した。
姉さんは類語辞典を机の上に置いて立ち上がった。わたしは立ち上がった姉さんに見下げられる形になった。
そう、分からなかったわたしに、分からせるように。知らなかった話の雨を降らせる側だと、見せつけるように。
見下した。
……喉が渇く。眼がそらせない。夢から醒めても悪夢は終わっていなかった、なんて、そんな言葉さえ陳腐化するような状況。
朝の寒さが背中を這い回る。やってしまったこと、させられていたこと、わたしの、わたしは、わたし……。
そんなわたしの震える姿を楽しそうに見つめて、にっこりと笑って、姉さんは続ける。
「私、養女なんですよ」
「……ぇ……」
「髪の色が違うでしょう? 血がつながってないんですよ、私と鈴女ちゃん」
――家族唯一の黒髪をくるくる遊ばせて。
種明かしは、まだ終わらない。
「もともとは孤児でした。ショッピングセンターに置き去りにされた、両親の帰りを待つ純粋無垢なこども。鈴女ちゃんも、会ったでしょう?」
わたしは思い出す――あの悪い夢の中、最後の最後に出会った小さな女の子がいた。
無我夢中に、自分を忘れて、理由も忘れて、待ち続けているあの子。
あの女の子も、黒髪だった。
あの女の子も、姉さんの類語だった?
「そのこどもは、悪くない大人に娯楽施設から体を移されても、
ずうっと、ずうっと。お父さんとお母さんの帰りを待っていました。待ち続けていました。
でもある日、子宝に恵まれない一組の夫婦に、カワイソウカワイソウと言われながら引き取られたんです。
それがあの男と、あの女。自分たちの都合だけで私を自分たちの間にぶら下げた、偽善者たちです」
「……!」
そんな言い方、と反論しようとしたわたしを遮るように、姉さんはまくしたてる。
「ああ……言い過ぎだという意見も、貴女以外になら言われてあげましょう鈴女ちゃん。
でも貴女にだけは、言う権利がないはずですよ?
鈴女ちゃんは私よりは頭の回転が遅いけれど、その答え……計算できないわけないですよねえ?
だって、その計算式に代入する変数が、自分自身なんですから」
口から出かかっていた言葉を、強制的に飲み下させられる。
姉さんのヒントで、わたしは確かに答えを導いてしまう。
わたしがいること。わたしが産まれて、ここにいること。
「貴女が産まれてこなければ。私も私を受け入れられていたかもしれません。
偽物の親と偽物の娘だけで過ごした3年間は、はっきり言って、悪くありませんでした。
娯楽施設に私の一部を取り残して、いろいろを割り切った今の私を作る程度には、悪くありませんでした。
たとえそれが望んだ暖かさと違っても、ぬるま湯につかった氷が暖かく溶けていくように。
意固地に凍った私のこころは、たしかに溶かされていたんでしょう。……でもお前たちは本物になった。私を置きざりに、本物になった」
子宝に恵まれなかった夫婦が、子宝を手にしてしまった。
もう別の場所から子宝を譲り受けていたというのに、そういうことをして、そうなってしまった。
お姉ちゃんになるのよ。お姉ちゃんにならなきゃね。最初はそう言われただろう。
そして姉さんも受け入れただろう。そうなろうとしただろう。
でも、でも。
……お父さんもお母さんも間違いなくいい人だ。悪い人だなんてわたしが言わせない。
だけど想像できてしまう。今目の前にいる姉さんの憎しみに満ちた目が、何を見てきたのかを。
- 45 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:16:32.87 ID:7flaZGxo
-
どれだけ頑張ったとしても、人は誰かと別の誰かを完全に平等には愛せない。
あるいは、どれだけ愛されてるのかなんて、愛された側にしか判断ができないもの、測ることこそ冒涜だ。
それでも、偽物の姉と、本物の妹。わたしとお姉ちゃん、どちらが愛されていたか。それを俎上に載せるのなら。
わたしから見て、姉さんから見て、お父さんから見て、……お母さんから見て、どうだったんだろう?
少なくとも、姉さんから見てそれは……。
わたしと姉さんは他人行儀な関係。もっと昔はそうじゃなかったのに。
それは、どうしてだったろう?
ああ、どうしてだったっけ?
お母さんが病に倒れてしまって、
何もできないまま死んでしまったとき。
あのとき、姉さんが、それほど悲しくなさそうだったからだっけ?
「だから、復讐です。
私を置いて幸せになったあなた方への、復讐です。
私は、誰もかれもを恨むことしか、もうできないんですよ。鈴女ちゃん、貴女のせいで。
いまだに私を迎えに来てくれない本物のお父さんとお母さんも、
私で満足せずに貴女なんかを作ってしまった偽物のお父さんとお母さんも、
私が受けるはずだったものをいっぱいたくさん死ぬほど持って行ってしまった貴女も、恨むしかないんですよ」
薄ら笑いを浮かべて姉さんは言う。
それは、決定的な破綻の先にある笑顔だった。
つい少し前に見たばかりの顔で、今まで知らなかった顔であって、ほんとは、知っていなければならなかった、歪み。
「同じように幸せになれないなら、せめて同じだけ苦しんで欲しい」
同類に。
類語に。
なってほしい。
「貴女が苦しんでくれることだけが、私の幸せなんです」
それが、姉さんがわたしに、
鬼塚雷鳥が鬼塚鈴女に向けた、ただ一つの感情だった。
「ねえ鈴女ちゃん――苦しい? つらい?
大好きだったお父さんをその手にかけた気分はどう?
私は大嫌いだったあいつを殺せて今とってもとっても気分がいいよ。天まで飛べそうなくらい。
死にたい? でもまだまだ死なせてあげないよ。すべての始まりである貴女だけは、もっと苦しめないと気が済まないから。
だから生き残ってくれて、本当に嬉しかった。
死んでいった人たちの分まで、鈴女ちゃんは、生きなきゃ、いけないですもんねえ?
……あはは、あははは。その顔。その顔が、見たかったんですよ。
いっぱい恨みあって、永遠に殺し合いましょう? かわいいかわいい鈴女ちゃん……」
「姉さ……」
「でも、今日はここまで。今回はここまでで終わり。
今日はあなたを底まで突き落としに来ただけだから。
これから、私が孤独を噛み締めた時間と同じだけ、鈴女ちゃんにも絶対の孤独を味わってもらいたいから。
だからここまで。いったんこのお話には栞を挟んで閉じるの。開けさせない、進めさせない。
二年後、また会いましょう。今度はもっといっぱい、恋しく故意して、愛しく意図してあげる」
「姉さん!!」
- 46 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:17:56.83 ID:7flaZGxo
-
じゃあね。と手を振られた。
言いたいだけ、やりたいだけやって、姉さんはそんな別れ言葉を私に送った。
姉さんが消えてしまうような気がして、わたしはベッドから跳ね起きた。手を伸ばして、立ち上がって、姉さんの服をつかもうとした。
でも、《悪い予感は、的中してしまう》。
《確かに届くはずだったわたしの手は、奇々怪々なまでに空を切った》。
バランスを再度崩して、カーペットに膝をつく。
《姉さんはすでにわたしの部屋の扉を開けていた。》振り返って、わたしを嘲る。
「ふふ、だめですよ、鈴女ちゃん。《触れられないかもと考えた時点で、私には触れられないんですよ》。
最悪の想像は現実になる。ほんの少しの疑いが真実になる。それはもう、奇ッ怪至極に。あなた方の悪い予感は的中する」
「ルール、能力……! 《奇々怪々》の……!!」
「ご名答。別に夢の中じゃないと使えないとか、そういうことはないんです。文字さえそこにあればいい。
貴女の枕の下にも、ありますよ。今使っても、意味はあまりありませんけれど。いずれまた、使ってもらいます。では」
「……待ってください! まだ、まだ、何も……何も聞けてない! 何も言えてないです!」
わたしはごちゃごちゃの頭から言葉を絞りだす。
「姉さんも! わたしは、姉さんも憧れでした!」
いまにも消えてしまいそうな姉さんを前に、何を言えばいいかなんて考える時間も余裕もない。
それは、ほとんど条件反射で出たような、剥き身の言葉だった。
取り戻したばかりの、本心だった。
「父さんの、ヒーローみたいに強くて優しくて、大きくて頼れるところと、同じくらい!
何でも知ってて、頭がよくて、でもそれを自慢したり鼻にかけたりしない姉さんのことが、わたしは、誇りだったし、憧れでした……っ!」
「……」
「だからわたし、勉強だって頑張って! 生徒会長だって、似合わないと思ったけどやって。
でも母さんがあんなことになって。いろいろあって。少し他人行儀になって。でも、それでもわたしは、……わたしは!」
「…………」
「わたしは、姉さんのことを、本当の姉さんだと思います。
たとえ姉さんが、偽物のまがいものだと思っていたとしても、わたしは……父さんだって母さんだって、きっと!!」
「………………解釈違いですね」
瞳を細めて。眉間にしわを寄せて。
嫌なものを見るような顔で、姉さんは、わたしに向かって呟いた。
「いいでしょう。では、解釈合戦といきましょうか。
歴史上の死者がのちのちの人々に好きなように解釈されるように。貴女はそのまま、本当はすべてが正しかったのだと信じてください。
私が勝手に愛の差を感じて、貴女たちを羨んで、妬んで、間違って、それでこうなってしまったと。
そうやって私を馬鹿にすれば、いいと思いますよ」
「馬鹿に、なんて」
「もう届かないんですよ。口当たりの良い、当たり障りのない正論は、私には一切ね。
誰からも愛されなかったと、世界から愛されなかったと、そう解釈してしまう以外に、生きる動力が湧かないんです。
そんな私の解釈を、否定するというのなら。結局、殺し合うしかない。
私と貴女の終末は、血まみれの泉の中でひとりが斃れ、ひとりが勝ち残る風景以外にはありえません。それ以外を、望みません」
姉さんは冷たく言い放つ。
「私を救えるだなんて思わないでくださいよ? 小さなヒーローさん」
- 47 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:21:19.75 ID:7flaZGxo
-
そして扉に手をかける。閉じていく扉が、わたしと姉さんとの間に絶対の断絶をつくるのを、わたしは黙って見ている。
その瞬間のわたしの感情を、どう言葉にすればよいのだろう。
最悪の出来事に巻き込まれて。
自分の自分たる根源を沢山奪われて。
残った少しの自分らしきものを頼りに戦おうとして、
なのにその意思すら嘲笑うように反転して、間違えさせられ。
制御できずにだだ流して、すり減らして、すり減らして、枯渇して、赤く染まって。折れて、崩れて、ばかになって、振り乱して。
そんなわたしだったのに、助けられて。
間違えたからって間違え続ける必要はないって、言ってもらえて。
もう一度、前を向けるくらいになったのに。
助けてくれた人たちのほとんどには、ありがとうさえ言えず。
すごすごと帰ってきてみれば、すべてを奪われた後だった。
そして今。
すべてを奪ったその人を、絶対にわたしは救えない。
そんなの。
そんなのって。
そんなのって――。
認められないに、決まってる。
だめだ。
だめだ、勇気凛々。
その四字熟語は、ここで何もしないような意味合いだったのか?
違うだろ。
唇を精一杯噛みしめてから。
扉が閉まり切る寸前に、わたしは心の蛇口をありったけ捻って、叫んだ。
「それでも、助けます!」
空気が震えるような声。学校の、合唱コンクールでも、応援合戦でも出したことのないような声。
扉は閉じ切らない。止まった。姉さんは――振り返らない。
声量に驚いて扉を引く手を一瞬、止めただけ。
言いたいだけ言って、遮断してしまったのかもしれなかった。
わたしの言葉はもう聞こえていないのかも、届いていないのかも、知れなかった。
それでも叫ぶ。
それでも叫ばずにはいられない。
そうだ。
だってわたしは、勇気凛々だった。
失敗を恐れず。危険も恐れず。勇ましく気力を振り絞って、物事に立ち向かうという意味の四字熟語だった。
わたしがわたしに帰ってもその文字は、わたしの中に、刻んである。
わたしはわたしで。
わたしは勇気凛々で。
沢山貰って、沢山学んで、あの場所で、変えてもらえた。
なのに、今。
これだけされて。
これだけやられて。
それで、何にも言い返せずになんて――――終われるか!
- 48 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:22:54.30 ID:7flaZGxo
-
「助けます。救ってやります。あなたの望みなんて知らないです。
あれだけわたしをめちゃくちゃにしておいて、望み通りにしておいて! 自分だけ望み通りに終われるだなんて、思わないでください!
ぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶっ、否定してやる!
あなたのその、恨むだけの人生ってやつも! 血まみれの結末なんてものも! そうするしか無いなんて、そうなるしか無いなんて、絶対に、言えなくしてやる!」
沢山の言葉に助けられたから分かる。
自分が文字になってしまっていたからより分かる。
紙に書き起こす。言葉に出す。
そうしてこの世に産み出した文字には確かに、姉さんが最初に言った通り、不思議な力がある。
それは、祝福かもしれないし、あるいは呪いかもしれない。
どちらでもいい、わたしに力をくれるなら。
空気が変わるまで吠えてやる。
未来が変わるまで、戦ってやる!
「言ってくれれば、よかったんだ! つらいなら、苦しいなら、悲しいなら、もっと早く吐き出せばよかったんだ!
わたし、知りませんでした、気づけませんでした、姉さんはいつだって、いつだって、わたしの知ってる姉さんのままだったから!
わたしは不器用なんです! 父さんだって同じです! ううん、誰だってそうです!
人の気持ちなんて、そうそう分からないんですよ! 心の中に、夢の中にまで隠してるものを、察しろったって無理です!
ううん、違う、察されようとも、してなかったんですよね!?
姉さんは過去にすがって、後ろだけ見て口を閉じて! 恨んでばっかりで変わろうとしなかった!
死んでも変わってやらないって思ってる! それが、一番、いちばん許せない!
敢えて言います!
あなたの意固地なわがままに、わたしを付き合わせないで下さい!
わたしは、やりたいようにやります! 生きたいように生きます!
もっともっと、もっと力強く、勇ましくなって! 救いたいように救って、変えたいように人生を変えてやる!
だから、だから! わたしは、わたしが、姉さんを助ける! 殺し合いをするような人たちから引きはがして、全部の罪を償わせる!
誰よりそばで見てたから! 誰より、あなたに憧れてたから! あなたを無理やり変えてでも、あなたに生きていてほしいんです!!」
わたしの感情の高ぶりに呼応したのかもしれない。《手のひらがいつの間にか、一緒に戦い抜いたあの剣を握っていた》。
考えるより前に先が動く。わたしは《りんりんソード》を床に突き立て、強引に立ち上がった。
何年も寝たきりの病人みたいに動かない足を無理やり動かして、前へ。進む。
大質量のその銀色は、わたしにだけは重くない。扉に《りんりんソード》をぶつける。
扉なんていらない。二度と閉じたり開いたりしなくなってしまえ。それでわたしと姉さんとの間にあるものが取り払われるなら、それでいい。
「《りんりん》……《ソード》ッ!!」
こじあけた、というか、ぶち破ったら。
《案の定、姉さんは不可思議な闇の中に吸い込まれて消えようとしていた》。逃げようとしていた。
ああ。案の定だとか。悪しき諦念が脳裏によぎっている。
これだけ勇気を振り絞っても、まだ今のわたしにはここまでだ。
それでも、虚勢は張ってやる。
ヒーローならばそうするとかじゃない。文字ならばそうすべきとかじゃない。わたしがそうしたいからだ。
わたしがわたしでありたいからだ。
- 49 :48◇家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:24:11.34 ID:7flaZGxo
-
「絶対に、助けます」
そんなわたしに背を向けて。姉さんは捨て台詞を放った。
「絶対に、助けられてあげません」
当然それは、類語なんかじゃなかった。
とびっきりの反語だった。
偽物を恨み続ける姉さんと、本物だったと信じ続けるわたし。
救われることを拒絶する姉さんと、救うことを押し付けるわたし。
意固地に主張する真逆の意味を。
折れずに掲げる正反対の願いを。
どちらも譲らないのであれば、それは確かに、解釈合戦の始まりだった。
■■■■
■■■■
■■■■
こうして、少女がひとり、冷たい部屋に残る。
薄暗い部屋の中、ベッドの縁に頭をのせて、天井を見つめている。
終わりのあとの種明かしも終わって、彼女の殺し合いはこれで、ひと段落。
生きている限り、お話は終わらない。
たった今、その勇気で破った扉の先に、再びの戦が彼女を待ち迎えている。
それでもせめて、朝日がこの部屋を照らすまでは。
彼女がどんな顔で時を過ごしているかは、誰にも分からないようにしよう。
【鬼塚家・2F 鬼塚鈴女の部屋】
【勇気凛々/女子中学生】
【状態】
【装備】なし
【持ち物】なし
【ルール能力】勇気を出すとりんりんソードを具現化できる
【スタンス】救ける。
- 50 :家族関係 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 04:27:02.33 ID:7flaZGxo
- 投下終了です。
エピローグでありプロローグみたいな感じですね。
今日中に第49話を投下して四字熟語ロワは完結になります。
wikiの編集とかしなきゃ。
- 51 : ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:33:49.97 ID:7flaZGxo
- 投下します。
- 52 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:34:51.98 ID:7flaZGxo
-
――世界は解釈しだいで姿を変える。
目で見て、形と色を定義して。
鼻で嗅いで、匂いと刺激を感知して。
耳で聴いて、音と声とを認識して。
手で触って、感触と湿度を確かめて。
口に含めば、味と温度を理解する。
それはまだ、受け止めただけで止まっているただの情報にすぎない。
情報を情報のまま処理するのなら、人間と他の動物は何も変わらない。
その情報をさらに脳で変換して、意味を付加する。
言葉に変える。
それが、解釈のひとつめ。
ひとりひとりやり方は違う。言葉の選択も、表現の仕方も。
故に人それぞれの解釈で、世界は虹めいている。
そして。
なぜ文字にするかと言えば、他の誰かに伝えたいからだ。
自分だけが持っている情報を、体験を、解釈を。物語を。ほかの人と共有したいからだ。
だから人間は文字を使う。
そこに凝縮した他人の解釈を解きほぐして、明らかにし、自分の中に入れる。
それが、解釈のふたつめ。
記号の羅列から意味を読み解く、人間にしかできない行為。
人と人を繋いで、生かし合うための行動だ。
「だから、解釈で殴り合うなんてことをやる時点で、言葉の使い方間違ってんだよ。
ましてや解釈で殺し合うだなんて、それこそ履き違えの極致だな。
おい会木ィ、今度そんな戯(ざ)れたことほざいたら秒で赤点つけるから覚悟しなさい」
……以上、現文のリリリ先生こと刑利則(しおき・としのり)先生より、
赤点控え選手の高校生、会木巡(あいき・じゅん)が受けたありがたい補習講の一幕だ。
「いやどんなことを口走ったらそんな講義受けんのさ」
「それは秘密で」
「ええー。じゃあなんであたしにその話をしたのさ」
「なんとなく。七晴さんがどう思うか聞きたくなったというか」
放課後ゲーセン、音ゲーコーナー。
俺は右手と左手を交差させ、ボタン6とボタン3を同時に押した。
げっ、と声を出しつつ、隣の台の七晴(ななはれ)さんはボタン5に手をひっかけた。
アップテンポにオーケストラを重ねてダブステで煮込んだボス曲のスコアアタック。
終盤のさみだれ入り乱れの譜面を処理するには先の交差押しが必要なのだが、その入りをミスするということは、
「うぎゃ〜崩れた〜」
98873 vs 96325 で俺の勝ち。
ううん、あとgood5減らせれば新スコアだったけど。
腕が鈍ってないのを確認できただけで御の字か。
「脇が甘いですね七晴さん」
「てかスコアタ中に話しかけんなクソガキ」
「すみません、俺ゲーム中以外はコミュ障なんですよ」
「せめて選曲中とかにしてよねもー」
- 53 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:37:56.07 ID:7flaZGxo
-
愚痴口しつつ、マニキュアを塗った右手でぽりぽりと頭を書く七晴さんは、近くのアパレル系の会社で働くOLだ。
見た目ファッション勢ながら実はこのゲーセンでは音ゲ勢の古株で、
高校の頃から「ゲーセンに通うから近い会社行くわ」と宣言し、実行したつわものだという。
そんな七晴さんに今の話を振ったのは、上記のステータスを見てではない。
「で、どう思いました? 何かの解釈で揉めるのは、間違い、なんでしょうか?」
「そうねえ。抽象的な話だから、いまいちピンと来ないけど。
あたしとしては……一理あるけど、結局はそれもあんたの解釈じゃないの、って感じかな。
あたしは別に解釈でガチりあってもいいと思うよ。AxBとBxAみたいなもんでしょ?」
「掛け算なら答えは同じじゃ?」
「ビンタしていい?」
「すみません」
七晴さんは同人活動家でもあるのだ。
ジャンルはもちろん音ゲーである。
初めて知ったときは、世界って広いな、と感心したものだ。
「xの奥深さに関しては話の腰じゃないから無視して先に進むと。
解釈ってのはそれこそ、10人居たら10通りあるわけでしょ?」
「そうですね」
「で、当然いろんな解釈があるわけじゃない。
パッと見の印象だけの解釈と、読み込んで自分の中に落とし込んだ解釈。
ハッピーな方向の解釈と、バッドな方向の解釈。
自分本位の決めつけ解釈に、誰かの影響を受けまくりの解釈……」
七晴さんは小気味よく腕を動かし、空中にぽすぽすと解釈を並べる。
「自分に近い解釈とか、はっとさせられる解釈とか、まあ美味しいものも多いと思うけども、
人間ってグルメだから、舌が受け入れにくいのもあるわよね。
受け入れられるなら頂けばいいけど、
受け入れられないなら、そういうのは視界から消すしかないわけよ」
ぺし、と空中の解釈をその場から払う。
「解釈の、取捨選択。
いいものだけを食べていく。
転じて、より多くの人に食べられた解釈が、強い解釈になっていく」
「……う」
「その、国語の先生? の解釈を混ぜるなら、きっとそういうのも人間のつくりなのよねえ。
強い解釈が生き残って、弱い解釈が淘汰される。
そういう仕組みにしておかないと、解釈が増えすぎて支離滅裂になるんだと思うわ――って、ジュンくん聞いてる?」
七晴さんが俺の方を向いた時、
俺は胃の中から込み上げてきた吐き気を抑えようと口に手を当てていた。
「……どしたの」
「すみません」
「?」
「いえ、気にせず。続けてください」
大丈夫。一、二回くらいならそこまででもない。
俺はすぐに姿勢を直す。
七晴さんは頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、
まあジュンくんがそういうならいいけどね、と言って話を続けてくれた。
- 54 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:39:21.01 ID:7flaZGxo
-
「ま、結局、解釈ってのは殺し合いになる運命なのよ。
みんながみんなの解釈を自然と受け入れられたら、いちばん平和なんだろうけどさ。
どんな解釈でも楽しめ、許せ、受け入れろってのは、横暴よね。言ってしまえば、愛が足りないとさえ感じるわ」
「愛、ですか」
「思い入れの強さとも言うかな。たとえば10年同じジャンルで同じカプの本書き続けてる子とか知り合いにいるけどさ、
そのレベルまでいくともう、自分の解釈が自分そのものと一緒なのよ。
あのカプといえばあの子、みたいなのを超えて、あのカプイコールあの子になるくらいの感じね。
そういう子の前でその解釈を否定することは、その子の全部を否定する事になりかねないでしょ」
人差し指を使って、顔の前でバツをつくる七晴さん。
「人それぞれに譲れないものがあって――だからこそ誇らしいものがあって――だからこそ戦争になる」
「七晴さんは言った経験があったり?」
「ないねえ。あたしは空気と譜面だけは人より読めるから。帳簿はあんまり読めないけど」
「仕事大丈夫なんですか……」
「意外とピンチ。タカとかラックあたりもらってくれねーかしらん」
「あの人らはゲームバカなんで無理では」
「別にジュンくんでも構わないけど?」
「えっ」
「冗談でーす。もう五年後なら分かんないけどね。――で、長々言ったけど、アンサーになった?」
「……はい。十二分に」
「そ。じゃ、もう1クレやろっか」
台待ちベンチからさっぱりと立ち上がると、七晴さんは俺に手を差し伸べた。
「タカとかラックもだけど、あたしらもそうでしょ?
こうやってないと死んじゃうって、自分で自分をそう解釈して、ゲームやってるようなバカなんだから。
死んでも戻ってくると思ってたよ。おかえり、ジュン」
「……ただいまです」
このあとめちゃくちゃ音ゲーした。
途中でタカさんとラックさん(ゲーセンの最常連、もはやゲーセンが仕事勢)に声をかけられ、格ゲやらSTGやらカード系やらビビるほどやらされた。
再会祝いということでクレは全て向こう持ちだった。ありがたやありがたや。いつか返さなきゃ。
閉店の間際まで続いた宴は、俺にやっぱりゲーセンは楽しいのだという現実を、嫌というほど教えてくれた。
ちょっと前まで。
俺は、あんなに楽しかったゲーセンのことを、楽しめなくなってしまっていた。
上手さとか正しさとかそういうものに囚われて、楽しむ心を見失っていた。
自分の解釈を、殺していた。
でも。世界は解釈しだいで姿を変える。
いっとき灰色に見えてしまっていた世界は、世界が灰色になったのではなくて、
世界を見る俺の目が灰色に見えるように変わってしまっていただけだったのだ。
蓋を開けてみればなんてことはない。楽しもうとする心を、忘れていただけのこと。
「タカさん、ラックさん、あざす」
「いいってことよ。久々にジュンの技を喰らえたからな。それに喰い返せたし」
「まさかまだあんな繋ぎがあったなんて……抜けてました。研究します」
「休憩してた分のビハインドは重いぞ〜? もう俺たちに追いつけないかもしれねーな、くくく」
「大丈夫です、赤点さえ取らなければめっちゃ張り付くんで」
- 55 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:41:54.51 ID:7flaZGxo
- ぱき。
ラーメン屋のカウンター席で、割り箸を割る。
極太麺とシャキリとしたもやし、絡む豚骨スープが深夜の胃袋にこってりと染みる。
閉店後の感想会。
いつもは門限の関係で断っていたけれど、今日は親に無理を言って参加している。参加したかった。
「今日は、マジでありがとうございました」
「おう?」
「何だよお前急に改まって」
「いやその、いろいろと。気を使って貰ったというか」
「ああ、七晴を呼んだことか? お前が呼べって言ったから呼んだだけだぞ」
「あいつどうせ暇なんだから気にするこたねーよ」
「てかラーメン喰いに来いってのな! 肌なんてどーせいつも荒れてんのに!」
「全くだよな」
「いやその……それもなんすけど。何も言わずに消えてたの、もうちょっと突っ込まれるかと思ってたんで」
「あ?」
小さくつぶやくと、タカさんとラックさんは不思議そうな目で俺を見た。
「おいおいジュンよお。そいつはどうにも解釈違いってやつだぜ」
「そういうとこ考えすぎるのはよくないぞ若坊」
「……そうなんすか?」
驚いた顔の俺に、あきれ顔の二人。
「遊びはあくまで遊び。やりたい時にやって、やめたいときにやめて。
戻りたいときに戻ってくることができる場所。そういうのが俺たちの理想なの」
「あと、プライベートなことはむやみに持ち込まないってのもな。
相談されたら話は別だが、自分からは突っ込んでいかない。
そのへんは忘れて楽しめる場所であってほしいってのが、俺たちの本音だよ」
「戻ってきたってことは、嫌いになったわけじゃなかったってことだしな」
「そうそう。まあ強いて言うなら、そうだな……」
タカさんは何かの力仕事かで鍛えた腕を使って、俺の頭頂部をがっしと掴むと自分の方を向かせた。
顔が近い。
めっちゃ見られる。
「な、なんすか」
ここまできてBのLな展開は勘弁なんすけど。
「――いや、やっぱちょっと変わったよなと思ってな」
「か、……変わった?」
「それな。精悍になったというか。修羅場を超えたというか。いい顔つきになったよな」
「いない間にどっかで修行でもしてたのかお前?」
「そ、れは……」
驚いた。
何も言ってないのに。
さすがは、人生の先輩なだけはある。
俺はやんわりとタカさんの腕を払うと、
「や、秘密っす」
と言って、豚骨スープを喉に流し込んだ。
- 56 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:43:24.88 ID:7flaZGxo
-
いくら何でも言えるわけがない。
人生三回やり直しても遭遇しないような夢の中で、文字になって解釈で殺しあっていたなんて。
ゲームの設定にしたって、チープが過ぎるものだから。
ラーメンは、死ぬほど美味しかった。
「食い過ぎたな……」
若干ぽっこりと膨らんだお腹をさすりながら、帰路、マンションの階段を登る。
午前一時。月の明かりだけの世界、冷たい空気が頬を冷やす。
満腹の胃袋の苦しささえどこか心地よく、自然と俺は微笑みを浮かべていた。
好きに生きている実感がある。
あらゆる現象を前向きに考えられている確信がある。
深夜、一人でも寂しくない。廊下の奥の暗闇に恐怖を感じない。
回り道なんてしなくても、心を準備するためのタイムラグがなくても、今ならきっと、すこしだけ強く生きていける。
「ただいま」
もう寝ているだろう親や兄弟を起こさないように、そっと玄関のドアを開けた。
「――よう。遅かったな」
待っていたのは、顔の半分を失った優柔不断さんだった。
まるで痛みを感じてないかのように笑って、フレンドリーに語り掛けてくる。
「人を殺して食うラーメンは美味いか?」
「美味しかったですよ」
俺も笑って、優柔不断さんの胸のあたりに思い切り手を伸ばす。
ずぶずぶ。
ケーキにフォークを入れるくらいのゆるやかさで、手刀は優柔不断さんの体へと突き刺さる。
生ぬるい、肉の感触。
隙間からこぼれていくラズベリーソース色の血液。
たとえ胡蝶の夢の残滓だと分かっていても、それはどこまでも悪趣味で。俺は小さくため息をつく。
「デザートがあなたじゃなきゃもっと美味しかった」
「おいおい情緒がねえな。久々の登場なんだからもっと歓迎して欲しいんですけど」
「すみませんが、もう眠いので。化けて出るのは明日とかに回してくれませんか?」
「おいやめろ、突っ込んだままぐちゃぐちゃ搔きまわすな。っていうか、もうちょいびびれ?」
「昨日猪突猛進さんが出てきたときはそりゃあびびりましたけど、二日続けられるとこっちも冷めるっていうか……」
「ずいぶん勝手なことを言うようになったなお前、言っとくがオレは――」
一気に腕を引き抜いて、放っておくといつまでも喋り倒してくるであろうその口を塞ぐように、優柔不断さんの半分の顔を掴む。
そのまま靴を脱いで、玄関から家に上がる。
その一歩のアップダウンの動きを使い、優柔不断さんの顔を一瞬掴み上げ、そのまま思い切り床に叩きつけた。
「ぐわレ」
断末魔のトーンがなんとも微妙だった。
赤い水風船が弾けたみたいになって、優柔不断さんの頭部が元の形を失くし、そのまま動かなくなった。
- 57 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:44:55.63 ID:7flaZGxo
-
振り返らず、自分の部屋に歩を進める。
でも、そうそう上手くはいかない。
ぐいんと伸びてきた左手が、俺の右足に爪を立てる。
どこからか、優柔不断とは程遠い、強く決断的な声がする。
反響する。
『後悔だぜ』
「……」
『前に前に歩くのは、別に止めないけどなぁ……辿ってきた道を振り返るのを止めるなよ?』
わかっている。
わかり切っている。
優柔不断さん、あなたは、「僕」の後悔だ。
だってあなたは、あの場所で「僕」が唯一、唯一無二、ただひとりだけ。
棒立ちな理由でもなく、前向きな理由でもなく、……後ろ向きな理由をもってして殺した人間なのだから。
『忘れるなよ。閉じたままにするなよ? そして一切、脚色するなよ?
凛々ちゃんの手前じゃあ、ごまかしの言葉も言わせてやったけど……お前って人間は』
「……」
『お前って人間は。オレだけは。オレのことだけは、「嫌いだから」殺したろ?』
「……はい」
そうだ。
その通りだ。
「僕」は、優柔不断さんに関してだけは、一回も言っていない。
殺してしまって申し訳ないだなんて、一回も言っていないんだ。
「嫌いでした。
あなたの事は、好きになれませんでした。
僕が、苦しんで苦しんで人を騙しているときに、
僕を疑わずに信じてしまうあなたがただ憎らしかった。
僕が、苦しんで苦しんで人を切り捨てているのに、
自分も生き残った上で他人も救っているあなたが憎らしかった。
僕が、苦しんで苦しんでリョーコさんを信じているときに、
凛々ちゃんと何の疑いもない信頼を結んでるあなたが、羨ましくて、憎らしかった……」
敵として対面していた、破顔一笑や、先手必勝さんたちや、傍若無人とは違う。
たとえ一時的だったとしても……仲間の体をとっていたにもかかわらず、生まれてしまった感情。
吐き捨てるように、俺は言った。
「あなたも僕も、人殺しなのは同じなのに。
あなたも僕も、弱いのは同じにのに。
あなたも僕も、生き残ろうとしてるのは同じなのに。
どうしてこんなに違うんだろうって、思ってしまったんだ」
『だよなあ』
声は心の深いところで反響する。
嘲笑うような納得の呟き。そうだ。解釈は口に出せば納得を生み出す。
うん、そうだ。
俺はあなただけは、仕方なく殺した訳じゃない。
最後の一押しを自分の手で出来なかっただけで――そこには、惨めで汚い、嫉妬色の悪意が隠れていたんだ。
だから――後悔だ。
一生後ろに引きずって悔い続けなきゃいけない、「僕」の罪だ。
- 58 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:47:03.53 ID:7flaZGxo
-
『まあ、わかってんなら良いんだよ、オレはね。
これからもいつまでだって、お前がちょっといい気分になって帰ってきたときに、
こんな風にお前の心をちくちく刺しに現れてやるってことだけ、わかってんなら。
どんだけ雑に殺し直されようと、笑って見過ごしてやるよ。
特別じゃねえさ、誰にだっているもんさ、世の中には……どうやっても好きになれないやつも。
どう足掻いても許してもらえねえことをしてしまった奴も。いくらでも。ありふれているのさ……』
オレたちは、だから人間なんだぜ。
くは。くははは。
くはははは。
俺の脳を揺さぶるような不快な笑い声を、俺はつとめて聞くようにした。
それを聞き続けることだけが、俺にできる償いだったから。
じきに足にかけられた爪の重みも融ける。
足りない懺悔は明日に回して、今日はもう寝る時間だ。
部屋の扉を、開ける。
「あうー」
「……ただいま、××××」
閉じた扉のこちら側には、四角い紙が乱雑にピン留めされている。
現実感を喪失させる、病的に白いその紙には、「胡蝶之夢」の七色の文字が光っている。
俺の部屋の扉は夢と現実の境界線になっている。
そして、俺の部屋のベッドの上には、××××がいる。
首輪につながれたまま、手足をばたばたさせて無邪気に俺を出迎える。
「うー、たらいまー、おにー」
「こういうときはただいまじゃなくておかえりって言うんだよ」
「おかえいー? おかえいー! おかえーいー!」
「……まあ、いいや」
はしゃぐ××××を半ば無視して、俺は机の上に向かう。
机の上に置いてある本を手に取って、ベッドへと歩いていく。
昨日新しく買ったその本は、四字熟語辞典だ。
「今日もおやすみのまえに、言葉の勉強をするよ」
- 59 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:49:24.64 ID:7flaZGxo
-
――あのとき。
最後の部屋での最後の瞬間、××××が最後に使った文字は、「自己否定」だった。
自己の否定。
事故の否定。
世界を否定し、あらゆる結末を否定し、
あらゆる死を否定して生きようとし続けた彼女が最後に否定したのは、それでも殺されようとしている自分の存在だった。
心臓を撃ち抜かれた瞬間に使われたその文字は、撃ち抜かれた自分という事実を否定した。
それと同時に、彼女自身の存在も否定した。
結果、残ったのは――生き残ったのは。
全てを忘れ、全てを失くし、自分でも自分を何と読めばいいのかわからない、××××。
《読めない文字》だけだった。
もう俺にも、彼女が何と呼ばれていた存在だったのか、思い出すことはできない。
ただ、彼女が人間ではなく文字であることと。
絶対に許してはならず、殺さなければならない憎むべき存在であることは、しっかりと覚えている。
彼女が俺たちの人生を歪ませた張本人だということは、間違いない事実だ。
だから俺は、××××に首輪を付けた。
夢に閉じ込めたまま、俺の部屋から動けない様にして。××××の命を、握り返してやった。
「えへー、おにー」
「何だよ」
「えへーへー、ほんー、おにーのほんー、たのしいー」
「……絡みついてこないでくれ」
この状況は俺にとって、決して悪いものではなかった。
こうなって良かったと言ってもいい。
まず、俺の命が助かったということが一つ。完全に刺し違える覚悟だったから、何よりの僥倖だった。
次に、彼女の命を握ったことで、俺の安全が保障されたことが一つ。
どうやら、彼女の存在は俺たちをあの実験に巻き込んだ勢力において、信仰と崇拝の対象だったらしい。
『そうですか。そう、なりましたか。分かりました。貴方には、もう手が出せません。
私達に関わりに来ない限り、貴方の人生の平穏を約束しましょう。貴方の勝ちです――私達の、負けですよ』
番号の分からない電話の主にそんなことを言われたのが昨日、殺し合いから開けて初日のことだ。
勝ちだの負けだの言われてもいまいち感慨はなかったし、勝手なことをとしか思わなかったが、
ともかくこうして、俺は普通に生き続ける権利を得た。
リョーコさんと約束したように。精一杯生き続けるための、切符を得たのだった。
「じゃあ、今日は4ページ目から」
でも、それで納得ができているかといえば、そんなことはない。
自分を失くしてしまったとはいえ――無邪気で何も知らない、まっさらな《読めない文字》になってしまったとはいえ。
××××が生き残ってしまっていることを、俺はやはり、許せていない。
優柔不断さんの言う通りだ。
世の中には、どう解釈したって許せないやつが、一人くらいはいる。
かといって、今の××××をただ殺したところで、なんの意味もない。
こうして××××に文字を教えているのは、一種の実験を兼ねている。
幼児のように何もわからなくなってしまった彼女に、文字を教え続ければ。
いつか自分が自分をなんと読むのだったのかを思い出すのではないか、そういう期待を込めている。
もし、うまくいって、彼女が自分の読み仮名を思い出すそのときがきたら、今度こそ――――。
- 60 :49◇死句発苦 ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:50:42.04 ID:7flaZGxo
-
「この文字は、切磋琢磨」
「せつさーたーくまー」
「この文字は、破顔一笑」
「はーがんいっしょ」
「この文字は、鏡花水げ――うえっ」
「にー? どしたー?」
「何でもない。この文字は、青息吐息。この文字は、以心伝心。この文字は、一刀両――――う、えええっ」
「おにー!?」
「……ごめん。ちょっと、トイレ」
それと、もうひとつ、この時間は、俺のリハビリも兼ねている。
急に嗚咽をし始めた俺を心配そうに見つめる××××をその場に置き去りにして。俺はふらふらと部屋を出る。
トイレに入ると、勢いよくうずくまり、胃の中身を吐き出し始めた。
バケツをひっくり返したような勢いでどざーーーー。そのあと、ちょろちょろ、ぼとり、ぼとり。
ラーメンと酸が混じったひどい匂いと汚い色の吐しゃ物が便器の底にたまるのを、どこかふわふわとした視界でじっと見つめ続けた。
ああ、やっぱり。
いくつも続けて耳に入れるのは、まだ無理だったみたいだ。
どうしてもそれがただの文字に思えない。
どうしても、聞き流すことが出来ない。
「……今日は、ここまで。続きはまた明日」
「あしたー」
「おやすみ」
「……おやすみー」
三、四回ほどトイレと部屋を往復しつつ授業を終えて、部屋の電気を消す。
おやすみの四文字を機に、すぐさま××××は隣ですやすやと寝息を立て始めた。
まったく――人の気も知らないで。
なんて、文字でしかない彼女に、言うことではないのかもしれないけれど。
◆◆◆◆
こうして、「紆余曲折」を経て――俺は悪夢を終えて、日常へと帰ることに成功した。
ちょっとだけ、強くなって。
家に帰ると夢見が悪くなって。
年の離れた妹が出来て。
あと――四字熟語が、吐くほど苦手になったけれど。
それでも俺は、この世界を、生き延びていく。
(終)
- 61 : ◆YOtBuxuP4U :2017/04/23(日) 22:53:11.27 ID:7flaZGxo
- 投下終了です。
紆余くんの物語はひとまずここまでとなります。
四字熟語ロワ、本当に紆余曲折ありありでしたが完結となります。
読んでいただいた方、ありがとうございました。
- 62 :創る名無しに見る名無し:2017/04/23(日) 23:50:01.79 ID:4zGODs70
- 完結おめでとうございます。
投下乙です。
雷鳥関連のネタバラシといい紆余曲折側の後味といい最後の最後までらしい話でした
- 63 : ◆2C/2roNgWQ :2017/04/28(金) 13:58:18.23 ID:QQE2IRa3
- 投下します
- 64 :6話 運が良い ◆2C/2roNgWQ :2017/04/28(金) 13:59:12.89 ID:QQE2IRa3
- 島に飛ばされた鯊倉はまず初めに、背中に背負ったデイバッグを地面に下ろして中身を確認した。
一生の内一回は人を殺してみたいと思っていた鯊倉にとって、この状況は僥倖といっても過言ではない。
何せ首輪を嵌められて、24時間の監視体制の中、絶海の孤島で殺し合いをさせられているのだ。
こんな異常な状況下ならば、例え一人くらい殺しても免訴される可能性が高いだろう。そう鯊倉は考えた。
「こんな凶行を警察サマや政府の方々が見逃してるわけないし……さっさと一人くらいは殺しとかないとな」
そうする為に、まずは人を殺す武器が必要である。刃物、鈍器、銃火器…とにかく凶器となるものが存在しなければ話にすらならない。
だが覇轟という謎の男曰く、支給品はランダムに支給されるとのこと。
つまりは人を殺せない武器や、そもそも武器ですらないものまで支給されるということだ。
それを聞いて鯊倉は、人を殺せない可能性に悲観するわけでもなく、人を殺せない可能性に対して怒りに身を震わせるわけでもなく――ただただ喜んだ。
揺るぐことのない確信が胸の中を渦巻いていく。
「ふっ、はっはっは……何が出るんだろうなあ〜♪」
上機嫌となった鯊倉は口笛を吹きだし、満面の笑みを浮かべながらデイバッグの中身を取り出す。
彼は疑わない。自身のデイバッグに入っている支給品が、当たりの中の当たりであることに。
傍から見ればそれは呆れるくらいに、根拠もヘッタクレもない、出鱈目な信頼。
――しかしその信頼に裏打ちされた結果があるからこそ、鯊倉は根拠も無しにこうなると決めつけることができてしまうのだ。
「……! ハハハッ! やっぱりな! 俺はツイている!」
デイバッグの中に入っていた支給品を取り出し、鯊倉はそれがなんであるか確かめる。
それは間違いなく、凶器と呼ぶに相応しい代物であった。
「"アイスピック"……これさえあれば俺はどんなやつでも殺せる……!」
鯊倉に支給されたもの、それは氷を小さく割る為の道具、アイスピック。
先端が非常に鋭いこの道具を人体に刺すことができたならば、刺された当人は痛みに悶え苦しむことになるだろう。
心臓や首、顔に刺されば常人ではひとたまりもない。
「さぁて、武器も手に入れたし、標的探しますか!」
デイバッグの中を探してみたものの、これ以外にめぼしい支給品は無かった。
しかし鯊倉はそのことに気にする様子は微塵もない。上機嫌で鼻歌混じりに街へ向かって歩き出す。
最初にして最後となる殺人を実行する為に。
【E-3/森/一日目・日中】
【鯊倉 尭尾】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、アイスピック
[思考・行動]
基本:一人くらいは殺す
1:標的探し
【鯊倉尭尾(ハゼクラ ギョウビ)】
運が良いと自称する高校二年生。性格はかなり楽観的な上に傲慢
ズレたポジティブ思考の持ち主で、大抵の不幸を気にしない。というか不幸だと思ってない
些細なことでも自身にとって良い結果ならば幸運だと感じてしまう、少々おめでたい人物
その為おみくじの結果が何であろうと、良い結果に解釈することができてしまう
- 65 : ◆2C/2roNgWQ :2017/04/28(金) 13:59:46.83 ID:QQE2IRa3
- 投下終了
- 66 : ◆ymCx/I3enU :2017/05/30(火) 10:27:20.41 ID:H6WMMrv/
- お久しぶりです、ymです
現在新たにロワ執筆中です、生存報告です……
仕事の方が物凄く多忙でしてストレスやら何やらで長らくこっちで活動してないですが
何とかぼちぼち執筆中です
ある程度書き溜めたらその内投下しようと思っていますのでよろしくお願いしまづ
- 67 : ◆ymCx/I3enU :2017/05/30(火) 10:28:13.08 ID:H6WMMrv/
- そして皆様投下乙です
まだまだ非リレーは生きていますね……良かった
- 68 :◇js6o2luy:2017/06/04(日) 19:13:17.09 ID:ngT4c+IM
- 投下します
第1話「厨病激発ボーイ」
エリアB-4のかぶき町。
そこを少年、鏡音レンは歩いていた。
(殺し合い…何て事を…許せないな…!)
支給品はすでに確認してある。
黒カードは2枚。
中々切れ味が良さそうな鋼の剣に、塩酸が入っている瓶。
(これで、僕たちに殺し合いを…)
(…いや、それよりも、今はこれからの事を考えないと…殺し合いに乗っている人がいるかもしれないし…)
レンがこれからの事を考えていた、その時だった。
一旦切ります
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