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あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part326 [転載禁止]©2ch.net

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/09(月) 04:09:02.13 ID:404WNclQ
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part325
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1413459352/

まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.shitaraba.net/otaku/9616/


     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'    ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし    内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ     ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l     ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。


.   ,ィ =个=、     ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉    ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|       ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ     ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
                 ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
               SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
               レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。

2 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/09(月) 12:08:38.68 ID:KtxCRyuk
代理立て、どうもありがとうございます。

3 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/16(月) 20:16:48.97 ID:y7ES4Q8n
新スレ乙で保守

4 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/17(火) 21:31:58.37 ID:1HIHdvoO
殺せんせーだったら魔法学院も”手入れ”してくれるかな

5 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/17(火) 23:05:56.09 ID:qTGdEbJG
皆様、お久し振りです。
遅くなってすみませんが、よろしければ23:10頃から続きを投下させてください。

今回は短めですが……。

6 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/17(火) 23:10:06.98 ID:qTGdEbJG
ルイズが多くの友の立会いの下で、失敗呪文改め爆発を起こす未知の超常能力の実験を済ませた、その次の日のこと。

「えい! やっ!」

早朝のトリステイン魔法学院の中庭に、シエスタの澄んだ、気合いのこもった掛け声が響いていた。

彼女は待ち合わせたディーキンと軽く雑談を楽しみ、パラディンとしての心構えを助言してもらった後、まずは素振りなどの基礎訓練を一通り済ませた。
そうして今はデルフを握り、彼に武器戦闘の手合せをしてもらっているのだ。

この時間にはルイズはまだ、寝床で夢の中である。

シエスタは両手で携えたデルフを様々な角度から振るい、自分の知る限りの技で懸命に攻撃を仕掛けた。
若い少女がこの大きさの剣を振るい続けられるだけでも大したものだが、剣技の方もそこそこ形になってはいる。
おそらく、そこらの平凡な傭兵に後れを取ることはないだろう。

だが、ディーキンは自分の体より大きい剣が唸りを上げて襲ってくるこの状況に、まるで脅威を感じていないようだ。
いつも通りの涼しい顔で、時折助言などを交えながら余裕を持って対処していた。

「ウーン、シエスタ。
 ディーキンみたいに小さいのを相手にするときは、もう少し剣を低く構えて、小さく振った方がいいと思うの。
 そんなに力んで剣を大きく振りかぶったら、振り下ろすより前に懐に入られて組み付かれるよ?」

足さばきだけでシエスタの攻撃を右へ左へとかいくぐり、立て続けに空を切らせる。
時には自分の武器を使って勢いのついた斬撃を軽く受け流し、またある時には小枝のように容易く打ち払う。

「……はあ、はあ……、は、はいっ!」

シエスタは息を切らせながらそう返事をすると、助言を考慮して剣を構え直し、また必死に打ち掛かっていく。
自分の半分ほどの背丈しかない相手に渾身の打撃をこうも軽々といなされていることに、彼女は内心舌を巻いていた。

もちろん、彼女には自分が『先生』と仰ぐディーキンが強いのであろうことは先刻承知していたが、実際にこうして相手をしてもらうと想像以上だった。
あの決闘の時、自分は歌の力で強くなった自分は自惚れて、今の自分以上に強い剣の使い手などいないかもしれない、と考えた。
しかるに今、戦っている彼の力は、それを明らかに上回っている。そのくらいは、彼女にもわかった。

これまで自分の知っていた世界の、なんとちっぽけだったことか!

「ンー……、」

そうこうしてある程度つきあった後、ディーキンはシエスタが大分疲れてきたようだとみて、終わらせることにした。

彼女が幾度目かに仕掛けてきた渾身の唐竹割りを受け流さずにがっちりと受け止めると、そのまま力任せに勢いよく押し返す。
両手で握っていた武器を突然上に跳ね上げられたシエスタは、驚愕していた上に体勢を崩されて隙だらけになった。

ディーキンはその隙に素早く懐へ潜り込み、そのまま勢いよく彼女に体ごとぶつかっていく。
幼児のごとく小柄な体格からは信じられないほどの衝撃に、シエスタはひとたまりもなく吹き飛ばされてデルフを取り落とし、地面に転がった。

そのまま起き上がる暇もなくディーキンに体の上に押さえ込むように飛び乗られて、首元に小さいが鋭そうな爪をぴたりと突きつけられる。

7 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/17(火) 23:12:03.08 ID:qTGdEbJG
「あっ……、ま、参りました……」

シエスタは一瞬呆然とした後、素直に負けを認めた。
それから、嬉しそうに微笑んで、自分の上から降りようとしていたディーキンを腕を伸ばしてぎゅっと抱き締めた。

「すごい! 先生、すごいです!」

もちろん、あっけなく負けたのは悔しいし、自分の未熟さを恥じる気持ちもあった。
だが今はそれよりも、敬愛する『先生』が自分が想像していたのにもまして強かったことを喜ぶ気持ちの方がずっと強かった。

「オオオ……? えへへ、そんなに抱き締められると、ディーキンは照れちゃうの。
 でもシエスタは、こんなことして、痛くないの?」
「平気です。……あ、あの、先生。私、誰にでもこんなことする女ってわけじゃ、ないですから。
 こ、これは、その、先生が、相手だから……」

シエスタはほんのり頬を染めて上体を起こすと、そのままディーキンに頬ずりをする。
確かにウロコに擦れて少し痛いが、そんなことは気にもならなかった。
胸の奥から湧き上がってくる暖かい感情に比べれば、僅かな肉体的な痛みなど些細な問題に過ぎない。

……なにやら脇の方からぼそぼそと呟くような小さな声が虚しく響いたが、2人とも全然気にしていない。
それは先程吹っ飛ばされたデルフが少し離れた茂みの中から愚痴る声と、ディーキンが腰に下げたエンセリックの低く呟く声だった。

「……おい娘っ子、俺はどうなるんでえ。
 おめーら爆発しろ……じゃなくて、いちゃいちゃしてるとこ悪いがよ、さっさと拾って泥を払ってくれよ」

「……羨ましい御身分ですね、コボルド君。
 そんな可愛い娘さんを乱暴に押し倒しておいて、嬉しそうに抱き締め返してもらえるとは。
 しかし、どうせ爬虫類の君では、柔らかい肌に包まれても十分には楽しめないでしょうし……。
 ここはひとつ、私を君と御嬢さんの胸の間に挟むとか、そのくらいの気を利かせてくれてもいいのではありませんかね……」





「……ねえ、シエスタ」
「はい? 何でしょうか、先生」
「王都の方に、ディーキンが演奏できそうな場所はないかな?
 ディーキンはもっといろんな人に、歌とかお話とかを聞いてもらいたいんだけど……」

稽古が終わって、一通り身なりを整え直して後片付けを済ませた後、ディーキンはそうシエスタに聞いてみた。

なお自分とシエスタの朝の仕事は、稽古の間に、影術の《従者の群れ(サーヴァント・ホード)》で呼び出した見えざる従者たちが済ませておいてくれた。
今でも雑用なんかに呪文を使うのは勿体ないと思ってはいるが、こうして使ってみるとなかなかに便利であることは否定できなかった。
お陰で自分が仕事をする手間が省けて、その時間を別な作業に当てられるのだから。

「え? 演奏……、ですか?」
「そうなの。ディーキンは頑張ってどこででも演奏させてもらえるようにしたいけど、ルイズたちに迷惑はかけたくないからね。
 ちっちゃなコボルドが演奏していても、文句を言われないような場所が、あったりしないかな?
 もちろん、無かったら無理にとは言わないけど……」

8 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/17(火) 23:14:06.58 ID:qTGdEbJG
フェイルーンの普通の街なら、そんな都合のいい場所があると期待する方が間違っているだろう。
だがこのハルケギニアでは、あるいは単に運が良かっただけなのかも知れないが、召喚されて以来随分と良い扱いを受けられている。
だからちょっと欲張ってみる気になって、駄目元で彼女に聞いてみたのである。

ルイズらに聞いてもいいだろうが、街のことなら平民である彼女の方が詳しそうだ。
それに、なまじ権力のある貴族の少女たちに聞けば、あるいは気を遣って多少無理にでも力になってくれようとするかも知れない。
その結果彼女らの立場を悪くしたり、迷惑をかけてしまったりするようなことになるのは避けたい。

「……うーん、そうですね。
 私としては、先生のような方ならどこででもすぐに受け入れられるとは思いますけど……」

そうはいっても、確かにいきなり受け入れてもらうのは難しいかも……、とはシエスタも考えた。

自分だって、初めて彼の姿を見た時にはぎょっとして、外見で危険な亜人と判断して果物ナイフに手をかけてしまったのだ。
人々を落ち着かせて話を聞いてもらうことはきっとできるとは思うけれど、上手くいかずに騒ぎが大きくなってしまう危険性も否定はできない。
そうなった場合にルイズや学院の教師たちに迷惑がかかることを、彼は懸念しているのだろう。

王都の広場ではたまに芸人や詩人が来て商売をしているが、そんな不特定多数の人が通りがかる場所ではいつ騒ぎが起きるかも知れない。
ディーキンが安全だと広く知られるまでの間は、誰か彼の身元や安全性を保障してくれる人物が管理している場所が必要だろう。
とはいえ、亜人が役所や衛兵にかけあう……などというのは現実的ではなさそうだ。
ヴァリエール家の令嬢である彼の主人が仲介すれば別かも知れないが、それはシエスタが判断や保証をできる話ではない。

そうなると、どこかにいい場所はあっただろうか?

「………あ」

しばし思案していたシエスタは、ふとある場所と、そこに住む自分に近しい人々のことを思い出した。
あそこなら、間違いなく彼を受け入れてくれるに違いない。
そうすることであの人たちが迷惑を被る事もないだろう、むしろ益になるはずだ。

「……ン? 本当に、どこかいい場所があるの?」

ディーキンが目を少し大きく見開いて、そう尋ねる。
シエスタの様子から、彼女が何かいい場所に思いあたったのを察したらしい。

彼女は微笑んで頷いた。

「ええ。私の叔父さんと従姉妹が、トリスタニアで居酒屋をやっているんです。
 あの場所……、『魅惑の妖精』亭でしたら、先生を詩人として雇って、身分を保証してくれるはずですわ!」

それを聞いて、ディーキンはにこにこと顔を綻ばせ、手をこすり合わせた。
まさかシエスタの身内が王都で酒場を経営していたとは、何と素晴らしい偶然だろうか!
酒場は、バードが歌を披露するのにうってつけの場所のひとつだ。

そこでエンセリックが、横から口を挟む。

「ほう、酒場……? 『魅惑の妖精』亭ね。
 名前からするときれいな女の子などがいそうな感じですが、そういう場所ですか?」

9 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/17(火) 23:16:04.83 ID:qTGdEbJG
シエスタは少し頬を染めて、ちょっと困ったように視線を泳がせる。

「え……と、その、はい。
 いえ、そんないかがわしいところではないのですけど、スカロン叔父様と従姉妹のジェシカは、その……、
 私とは、ちょっと考えが違って。少し型破りで……、でも本当にみんな、とってもいい人たちですから!」
「ほほう、なるほど?
 いやいや、そのようなよい方々とは是非会ってみたいので、行くときは私も連れて行ってもらいたいですね」

そんなシエスタのちょっと不審な様子と、エンセリックのやや浮かれたような声とに首を傾げていたディーキンだったが、少し考えて頷いた。

「うん、ディーキンも、是非紹介して欲しいの。
 ねえシエスタ、今夜一緒にトリスタニアまで行って、その人たちに紹介してもらえるかな?」

そうして二つ返事で了承してくれたシエスタとデルフにひとまず別れの挨拶をすると、ディーキンは満足したように笑みを浮かべて大きく伸びをした。
今日もまた、長く充実した、良い一日になりそうだ。

ディーキンはルイズを起こすべく、洗濯物を従者らに持たせると、水を汲んでから部屋へと戻っていった。





そしてその日の夜、シエスタと一緒に出かけたトリスタニアの『魅惑の妖精』亭で。
ディーキンはシエスタと同じ黒髪のアアシマールで、しかし彼女とは違って秩序の属性ではないらしいジェシカやスカロンに会って挨拶をした。
そして、毎日は無理でも、顔を出したときにはいつでも歓迎する、という言葉をもらうことができたのだった。

ちなみにエンセリックはというと、店で働く色とりどりのきわどい衣装を着た女の子たちを見て最初は喜んでいたようだったが……。
同じように露出が多く、型破りな姿と立ち居振る舞いをしたハーフオークのごとく逞しい中年男性のスカロン店長の姿を見てからは、口を噤んでいた。
生理的に、どうにも受け付けなかったらしい。

ディーキンとしてはユニークな恰好で面白いし、いい人だし、遥かにおぞましい外見の怪物なんて掃いて捨てるほどいるじゃないか、と思ったのだが。
まあ、怪物相手ならともかく、元人間のエンセリックだからこそ人間相手では受け付けない、ということもあるのかもしれない。
美しい少女たちが大勢いたにもかかわらず、次に来るときには私は連れてこなくていいですとまでいっていた。

さておき、この店でのディーキンの活躍ぶりは……。
それはまた、別の日のお話である。

10 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/17(火) 23:19:52.89 ID:qTGdEbJG
今回は以上になります。
他所の方への掲載や、それに先立つ過去話の修正などで遅くなってしまいましたが、またおつきあいいただければ幸いです。

それでは、またできるだけ早く続きを書いていきたいと思います。
それまでは皆様もどうか良い日々をお過ごしください、失礼いたします……(御辞儀)

11 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/18(水) 00:53:53.04 ID:KhQ0ChVQ
ディーキン新作乙でした。
次回も期待してます。

>他所の方への掲載
もしよければ掲載先(あるいはタイトル)を教えて頂けると嬉しいです。

12 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/18(水) 06:43:14.11 ID:R0a/LEqQ
>>11
ハーメルン

13 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/19(木) 00:22:35.62 ID:WsO37z+L
>>11
>ハーメルン
感謝ー!

14 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/19(木) 14:33:21.72 ID:MZlZBZDl
ゼロの使い魔って貴族連中の名前三銃士の時代の貴族そのまんま持ってきてるよね
リシュリューやらマザランいないのが逆に変な違和感あるw

15 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/19(木) 17:58:28.67 ID:8uOxEaDS
三銃士がわからないとリシュリューといえば戦艦とか思い浮かばないしマゼランといえばドクドクの実の能力者のほうになってしまう

16 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/19(木) 19:26:56.01 ID:MZlZBZDl
ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエールとかヘンリエッタ・アン王女(フランス語名でアンリエット・ダングルテール)とか
あまりにもそのまんま持ってきすぎてちょっと笑ってしまう

一番ひどいのはやっぱりギーシュ
グラモンもギーシュも両方称号、グラモン伯爵にギーシュ伯爵で名前ですらないw

>>15
マゼランはともかく普通リシュリューで戦艦は思いつかないだろw

17 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/20(金) 11:51:42.62 ID:ICreQ9QR
戦艦といえばプリンス・オブ・ウェールズもだっけか、皇太子の名で出てきたた時点で
元ネタ的にあーこの人武運に恵まれない最期だなと確信してしまった。

18 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/20(金) 13:09:52.11 ID:Meg1mNSO
ブラックアウトのssはエタッてしまったのか
もう投稿ないのかなぁまだ待ってるんだけど
トランスフォーマーとゼロ使は相性がいいのにエタるものが多くて残念

19 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/20(金) 21:58:10.95 ID:MlgXzo6t
>>18
初代TFはそこらのスクラップとかで傷ついた仲間を修理したり
場合によっては(頭脳回路はちゃんとしたものを持ってきたりする必要あるが)
一から新生させたりするからロボット召喚時に生じるパーツとかの問題も
ある程度は解決しやすいんだよな

20 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/21(土) 00:00:16.37 ID:NBQz5FsE
まぁTFとのクロスで一番面白かったのは一話完結方式でゼロ魔終了させちゃうテンポの良い短編ではあった

21 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/21(土) 15:17:13.65 ID:lhshZihu
4Gから移動のアクションが軽快になってるからおすすめ
小さな段差でいちいちちょっと止まったり
卵抱えて必死に迂回路探すのいやだろ?

22 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:20:43.29 ID:BVcMjmlJ
皆さんおひさしぶりです。

もし大丈夫でしたら10時半ごろに投下を開始します

23 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:31:01.36 ID:BVcMjmlJ
それでは、始めます。

『魅惑の妖精』亭の一室で、キュルケはベットに体を預けた。
 貴族を追っ払ったあの後、店内は拍手喝采だった。それに満足しながらワインを煽っていたのだ。
 しばらくそうやって盛り上がっていた後、そろそろ夜も更けたということでこの店に泊まることにした。無論ルイズのツケで。
「あああ、あの女、いいい、いつか絶対殺してやるんだから…」
 遠巻きにそんなことを呟いていたルイズを思い出しながら、キュルケはふと起き上がった。
 夜で暗くなった外は、街の灯りだけが綺麗に映し出されていた。その中に、あの子の姿は見当たらない。
「本当にどうしたのかしら…」
 何か事件に巻き込まれたのだろうか、探しに行った方がいいかな。とそんなことを考えているキュルケだった。
しかし今でも不思議に思う。最初に会った頃なんて「本の虫」以外の感想なんて無かった筈の彼女に対して、こんな気持ち…。
 もしあの決闘がなかったら…未だに自分と彼女とは犬猿の仲だったろう。決闘の後、何であんなこと言ったのかは自分でも分からないけど…悪い気はしなかった。
 それに、あの子は今大きなものを背負い込んでいる。決して消えぬ復讐の怒りと、あるもの全てを奪われた悲しさ、その両方のせいで、あんな無表情が出来上がってしまったのだ。
 あの子の素性と過去を知った今、少しでも助けになってあげたい。それはキュルケの感情の中にも確かにあった。
「…やっぱり、探しに行こ」
 そう言って、キュルケは仕度を整える。するとドタバタするような音が、下の階から響いてきた。



          第四十一幕 『微熱と雪風 後編』



 店の下では、大変な騒ぎとなっていた。何せさっきこっぴどくやられた貴族たちが、今度は一個小隊レベルの兵隊を連れてきたのだから。
 数からして五十かそこらだろうが、それでもその数が店の前に並ぶといいのはまさに圧巻と言えた。

24 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:32:44.89 ID:BVcMjmlJ
 さて、そんな軍隊の前に立つ貴族の一人…キュルケに瞬殺された男は、腰を抜かしているギーシュ達の方へと歩み寄った。
「な…何の用ですか?」
 震える声で、ギーシュは尋ねる。男はにっこりと笑いながら言った。
「いや何、是非とも我ら、先程のお礼を申し上げたいと思ってな。しかし我らだけでは十分なお礼が出来そうもないので、このように軍隊を引っ張ってきた次第」
 ギーシュ達は唖然とする。そして窓の外には更に何十人もいるのを見て、椅子から転げ落ちそうになった。
 そして直ぐに逃げようとしたが、その道をほかの騎士たちに阻まれた。
「ちょっと待って、アイツを今呼んできますんで!!」
「いやいや、お礼でしたら貴方達も一緒に。仇を討ち、討たれるのはこれ、友人の権利であり、義務でありますからな」
 そう言って、ギーシュやルイズ、モンモランシーを引っ張って外に連れ出した。
「助けて!!」
そう絶叫したが、それを聞き届けてくれる人は居なかった。


 外へと連れ出されたルイズ達は、そこで兵隊五十人以上を前にして囲まれていた。こんな数の軍隊を目の当たりにしたのはワルドの時以来だった。
 あの時は、剣心が神速の剣術で敵を一瞬の内に薙ぎ払っていたが、今回その頼りになる使い魔がいない。
 ルイズ達はガタガタと震えた。彼女は今働き詰めで精神力を使い果たしていたし、ギーシュなんかはとっくに戦意喪失している。モンモランシーは必死で中立宣言していたが認められていないようだった。
「あんただけ逃げるんじゃないわよ!!」
「何よ、わたしは関係ないでしょ!!」
 騎士たちより先に喧嘩を始めるルイズとモンモランシーだったが、それで状況が変わるわけない。キュルケにやられた騎士の一人が、ニヤリと笑った。
「まあまあ、あのレディのご友人なのだから、貴方達も相当の使い手でしょう? ご遠慮なさらずに精々暴れていただきたい!!」
「いや、わたし達アイツの友人なんかじゃないから!!!」
 そうルイズ達が思いっきり叫んでも、その言葉は虚しく空に響くだけだった。
 騎士はゆっくりと杖を掲げる。それに合わせて周りの兵隊も杖を上げた。
「いやぁああああ!! 助けてぇ!!!」
 脳裏に彼の姿を思い浮かべながら、ルイズは目を瞑った。そんな時、向こう側から声が聞こえた。
「只の喧嘩でござろう? そんな大人数でするものではないでござろうに」
 若干呆れたような声、そちらをルイズ達は素早く振り向く。
そこには剣心とタバサが立っていたのだ。
「ケンシン!! タバサ!!」
 ようやくホッと胸をなでおろしながら、ルイズは叫んだ。
「あら、あんた達こんなとこで何してんの?」
 今度は、店の入口からそんな声が聞こえてくる。ギーシュ達が見ればそこにキュルケがいたのだった。
 キュルケの姿を見た騎士は、怒りで顔を歪ませながら言った。
「何、お礼参りに来ただけですよ。貴方の前にそこのご友人たちに相手をしてもらおうと思った次第」
「なあに、貴方達そんな殊勝なことしてくれていたの?」
 クスクスと笑いながら、キュルケはルイズ達を見る。すかさずルイズ達は叫んだ。
「んな訳ないでしょ!! 元はといえばあんたのせいでしょうが!! あんた何とかしなさいよ!!」

25 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:37:51.24 ID:BVcMjmlJ
 しかしキュルケは、そんなルイズたちの心の叫びをスルーしてタバサを見た。
「あっ、タバサ!! 丁度良かった。今から探しに行こうと思っていたのよ」
「人の話を聞きなさああああい!!」
 最早緊張感もへったくれもないような空気が流れていたが、それを振り払うように騎士が告げる。 
「なれば丁度いい。ここで今仇も揃ったことだし、改めてお相手願いたい」
「まあまあ落ち着いて。ここで喧嘩したって周りが迷惑かけるだけでござろう?」
 剣心が諌めるように口を開いた。剣心としても、余り目立つようなことはしたくない。敵にここに居るとバラすようなものだ。
 だが、彼等はそんな剣心を一瞥して叫ぶ。
「貴様のような平民風情に用はない!! 私は彼等に話しているのだ。引っ込んでいろ」
 どうにも彼らは止まりそうもなかった。既に掲げた杖は、ひっきりなしに剣心達に向けている。引く気は皆無のようだった。
「ほらキュルケ、あんた何とかしなさいって」
 ルイズがここぞとばかりに口を開く。キュルケはキュルケで、心底呆れたような顔で先程酌を誘った騎士の一人を見つめた。
「男の嫉妬程醜いものはないわね。どうしてここの国はそんなにプライドや面子にこだわるのかしら。大して大事そうにも見えないのに」
 だがその言葉は、完全にここの兵隊連中(ついでにルイズたち)の心に火をつける結果となった。ふざけるな!! お前なんかに何がわかる!! この牛女!! 乳女!! と口々に怒鳴り込む。
(あ〜あ、やっちゃったか…。ま、いいか)
そう思いながらもそれを気にした風でもなく、キュルケは杖を構える。
 と、その前にタバサが身を乗り出した。
「加勢なら間に合ってるわよ。あなたは関係ないんだから」
「借りがある」
 タバサは、キュルケの方を振り向いて言った。
「ラグドリアンの件? あれはいいのよ。あたしが好きで行ったんだし」
「違う。その前」
 タバサは、人差し指を突き立ててはっきりと言った。

「一個借り」

 それを聞いたキュルケは、優しげに微笑んだ。
「随分前のこと覚えているのね。でも今それを返さなくてもいいのよ。また別の機会にでも―――」
 と言いかけて、タバサの周りに冷たい氷が吹きすさぶのを感じた。思わず兵たちや騎士も後ずさりする。風自体が音を立てているわけでもないのに、異様な圧迫感を醸し出していた。
 それを気にせず、タバサは剣心の方を向いて言った。
「貴方は見ていて欲しい。目立つのは避けたいはず」
 まるで一人で全員を相手にするかのような物言いに、騎士たちは恐れながらも憤慨した。
「コラコラ、人を舐めるのを大概にしないか!! 君一人で私たちを相手にするとでも!!」
「…そうでもしなければ、先には進めない」
 そう言い置いて、タバサは一歩前へ出る。それを見た騎士たちは笑うというより、呆れ果てた様子だった。
「子供がお遊びで首を突っ込むものじゃない!! そこまで我らを愚弄するか!!」
「ああ、言い忘れていたけれど、この子はあたし以上の使い手よ。何せ『シュヴァリエ』の称号を持っているのだからね」
 シュヴァリエ…。そう聞いただけで兵隊達は顔を見合わせる。あの子供が…?
「その反応だと、シュヴァリエの称号を持つ者はここにはいないようね。なら相手にとって不足はないのでは?」
 キュルケはそう言ったが、流石にこの数相手だと心配なのか、こっそりタバサに耳打ちして囁く。

26 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:41:14.55 ID:BVcMjmlJ
「…無理だと思ったらあたしも介入するから。元々あたしの蒔いた種だしね」
「大丈夫、見ていて」
 キュルケと、剣心を見てタバサは言った。二人共、いつでも加勢できるように油断なく構えていた。
「でもあの子ってば、つまらない約束をいちいち覚えているんだから」
 どこか嬉しそうに、キュルケはそう呟いた。


 既に周りでは、人だかりで一杯だった。誰も彼もが、恐れながらもこの決闘の行く末を見届けたかったのだろう。
 しかし、王軍の兵隊達からすれば、なんとも舐められたものだった。この数相手にたった一人、しかも『シュヴァリエ』を擁しているからとは言え、見た目は年端もいかぬ少女ではないか。
 これでは名誉も何も…と思ったが、軍隊を引き連れている時点でもはや名誉もへったくれもないのではあるが、それでも子供相手に本気など出せぬ。それこそ名誉が地に落ちてしまう。
ならばどうすれば良いか?
「簡単だ。子供に教育を行うのは、大人の役目であろう?」
 先に杖を抜かせればいい。要はそういうことだった。よくよく見れば、あんな子供がシュヴァリエの称号を持つなんて笑わせる。
どうせ詐称かハッタリだろう。ならばここで間違いは正さねばならん。
 誰も彼も、こんな少女に負ける姿なんて想像もつかなかったのであろう。
 騎士の一人が、前に乗り出して杖を構えた。
「お嬢さん、先に杖を抜きなさい」
 タバサは、ゆっくりと杖を構える。だがそれは、騎士や兵達から見ても独特の構えだった。
 飛びかかるように腰を屈ませ、杖は鞘を持つように後ろにし、もう片方の手で丸みの手前部分に手をかける。

 抜刀術の構え…それを彼女なりにアレンジしたものだった。

「おいおい、何だあの構えは!!」
「ひどいものだ。本当にシュヴァリエなのかも怪しいな!!」
 それを見た兵隊は、どっと笑った。だがタバサはそれを気にする風でもなく、ただその構えで佇んでいる。
 前に出た騎士が、呆れたようにため息をついた。
「やれやれ、構えすらまともに出来ん子供がシュヴァリエなどとは笑わせる。詐称は正せねばならん。悪く思うなお嬢さ―――」
 しかし、言葉はそこでうち切られた。
 タバサの居合を放つかの如く、杖を振り抜く動作と共に、『エア・ハンマー』を唱えたからだった。
「――――ぐわっ!!?」
 視界から、身を乗り出した騎士の姿が吹き飛ばされ消える。囲んでいた何人かの兵士を巻き込んで。
 彼らがそれに呆気にとられる隙に、タバサは走って前に詰めた。
「このガキ―――」
 驚き、そして怒りながらも杖を向けようとするも、その前にタバサの風によって薙ぎ払われる。
 返すように杖を振って、そこで四、五人が宙を舞う。その隙に敵の魔法が着弾するかと思えば、まるで天狗のように『フライ』で身を空に踊らせ、それらをかわしていく。
 その華麗でいて流暢、美しさすら感じられる動きに兵士たちが見惚れる、その隙を的確に狙い風と氷の魔法を撃ち込んでいく。相手も負けじと魔法を放つが、それすらも上手く同士打ちを誘うように狙わせて、その数を減らしていった。
「…凄い…」
「え…彼女、ここまで強かったのかい…?」
「わ、わたしには何が何だか…」
 ルイズ達が呆然としてその光景を見ている。隣ではシルフィードが嬉しそうにきゅいきゅい喚いていた。
「ほら、そこ、今なのね!! お姉さまもっとやっちゃえなのね!!」
 そしてタバサの戦いぶりを見て、驚いたのはルイズ達だけではなかった。
「…あの子、やっぱり強くなってる」
 キュルケもまた、思わずそう呟いた。随分昔に決闘したときとは、まるで別人のように動きが違っている。

27 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:45:49.82 ID:BVcMjmlJ
 もう一年以上前の話だが、それでもここまで強くなっていると感じたことは無かった。何せあの時以来ずっと一緒にいたのだから、こうまで腕を上げているのなら気付くはずだから…。
 そして剣心も剣心で、彼女の動きに中々に目を見張らせていた。
(あれは『見取り稽古』か?)
 彼女の身のこなし、あれは間違いなく自分の動きとかぶるものがあった。アンドバリの指輪の一件で、どことなく自分の動きを参考にしていたのは知っていたが、こうやって見るともう間違いなかった。

『見取り稽古』というものがある。日々の稽古に加え、更に強敵との戦いを見てそれを取り入れる練習法。
自分のよく知る一番弟子も、飛天の技を模倣とはいえ使いこなしているのを聞いたことがある。
 彼女の動きはまさにそれだった。小さな体躯を利用して動き回り、素早い魔法で的確に倒す。まだまだムラっ気はあるが、足りない部分は魔法でカバーしている。
それはちゃんと一つの戦い方になっていた。
(そういえば、タバサ殿は隣で拙者の戦いをよく見ていたでござるな)
 フーケとの時や、ワルドだった仮面の男との時のことを、剣心は思い出した。式場でワルドとの戦闘も、彼女は動き一つ漏らさず自分の剣を見ていたっけ…。
 けど、だからといって直ぐに覚えられる程甘いものではない。それこそ血の滲むような努力と執念とも言える向上心があって初めて培われるものだ。
(一体何がここまで、彼女を動かすのだろう…?)
やはり、剣心はタバサに対してそう思わずにはいられなかった。

「くそっ、ここまで来て負けられるかぁ!!!」
 ここで、キュルケにやられたあの騎士が叫ぶ。
既に兵の大半が倒れ、残りも恐れをなして逃げていく、そんな中で彼は怒りに任せて突進していった。
杖を強化する『ブレイド』を唱え、接近戦を仕掛けてくる。騎士の振り下ろした一撃が、タバサの真上へと飛んでくる、そんな事態でもタバサは慌てなかった。
「喰らえ!!!」
 空を切るような音と共に剣の一閃が光を放つが、そこにタバサはいなかった。否、空を飛んでいた。
『フライ』を唱え、一早く上空へと逃れたタバサは、杖を振り上げてそのまま騎士目掛けて落下していく。騎士は、それに迎え撃つ形で杖を振り上げた。


『フライ』+―龍槌閃―


 騎士の杖が、落ちてくるタバサの頬を掠める。対してタバサは、落下の勢いに乗りながら杖を振り下ろし、騎士の頭へ打ちはなった。
 ガツン!! と小気味よい音を響かせながら、タバサはふわりと着地する。頭を打たれた騎士は、目を上に回して昏倒していった。
「ひっひいいいいいいいいいい!!!」
「わ、分かった。あんたは本物の『シュヴァリエ』だよ!!」
「だっだから助けてぇぇぇぇ!!!」
 この攻防が決定打になったのか、残りの兵隊達は皆恐れをなして逃げ出していった。誰も彼も、進んであんな目に遭うのは御免被りたかったのであろう。
 タバサは杖をおろした。それと共に、周りからは拍手喝采で包まれる。

「すげえ!! あの数相手に対したもんだぜ嬢ちゃん!!」
「見たかよ、逃げたアイツ等の顔! みっともねえったらありゃしねえぜ!!」
 普段からの貴族の振る舞いに鬱憤を貯めていたのだろう。まるで英雄のようにタバサをはやし立てた。

28 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:49:29.67 ID:BVcMjmlJ
 タバサはそれを気にせず、いつも通りの無表情でキュルケ達の元へと歩み寄る。その顔はとてもさっきまで戦闘を行っていたようには見えない雰囲気だった。
「これで一個返し」
「ええ…でも貴方、いつの間にそんなに強くなったのよ?」
 驚きの感情が抜けきっていないのか、どこかポカンとしながらもキュルケは尋ねた。
 しかし、タバサはいつもの無表情で言った。
「別に…何でもない」
 そして今度は、剣心の方を向いた。
「どうだった?」
「今のは……『龍槌閃』?」
 剣心はポツリとそう呟いた。さっきの技は間違いない。今のは確かに自分の十八番の『龍槌閃』だ。
 それを聞いたタバサは、ゆっくりと首を振る。
「まだ完璧じゃない」
 けど、一応形にはなっている。『模倣』や、『見様見真似』がつくが、今のは確かに『龍槌閃』だった。
「これでもまだ、その人には敵わないの?」
 タバサは、周りの倒れた兵士達を見て剣心に問うた。その目は相変わらず、どこか危なげな印象を与えた。
 一見、確固たる信念を持ちつつも、少し崩すと脆く散っていきそうな、そんな目だった。

「…敵う敵わないではござらんよ。奴は『強い』んじゃなく、『危ない』でござるから…」

 しばらくすると、向こうから更にたくさんの兵達が押し寄せてくる。どうやら騒ぎを聞きつけ本格的に動き出したようだった。
「いたぞ! こっちだ!!」
 流石にこれ以上はマズイだろう。特にタバサの場合、先陣切って暴れた張本人なのだから、この場にいると厄介事になりそうなのは火を見るより明らかだった。
「…しばらく身を隠す」
 タバサは、シルフィードを連れてそう言った。戸惑うルイズ達に、更にこう付け加えた。
「この騒ぎはわたしが起こしたことにして。それであなたたちに火の粉はかからない筈」
「…タバサ殿」
 剣心は、その意味を素早く理解する。このままでは素性がバレる剣心にとって、こちらの情報を敵に与えるようなものだ。だから自分が身代わりになることでそれを一手に引きうけるつもりなのだ。
 それを聞いたキュルケは、慌てて口を開く。
「ちょっと待ってよ、事の発端はあたしよ。何もそこまでして―――」
 タバサは、皆まで言わせず首を振った。そして意味深げにこう呟く。

「…これでいい」

 そして最後に、剣心の方を向いて言った。
「もし何か進展があったら、連絡する」
「もう、止まらないのでござるか?」
 タバサは、剣心を強く見つめた。その目はもう、留まることを知らない。
 剣心は、小さくため息をついた。
「分かった…でも絶対に一人で追わないで欲しいでござるよ。必ず知らせて欲しいでござる」
 コクリ、と頷くと、シルフィードを呼んで一目散に駆け出していく。
「じゃあ皆、バイバイなのね〜〜!!」
 いまいち状況をよく分かってないシルフィードの呑気な声が、最後に辺りに残っていった。
 キュルケと剣心は、どんどん小さくなるタバサの後ろ姿を見つめた。考えることは違えど、恐らく二人は同じような気持ちをタバサに向けていた。
 そんな剣心の腕を、ルイズが不安そうな表情で無意識に掴んでいた。どこにも行って欲しくなさそうに…。

29 :るろうに使い魔:2015/03/21(土) 22:58:46.09 ID:BVcMjmlJ
以上です。

最近忙しくて中々投稿できずに済みません。
これからも細々とですがお付き合いいただけたらと思います。

それでは。

30 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 20:38:27.06 ID:NjHFLdOa
こんばんは。焼き鮭です。今回も投下します。
開始は20:42からで。

31 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 20:43:21.30 ID:NjHFLdOa
ウルトラマンゼロの使い魔
第五十九話「果てしなき復讐」
対話宇宙人メトロン星人
洗脳宇宙人ヴァリエル星人 登場

 教会にメトロン星人が持ち込んだ畳の上で、ルイズ、シルフィードとメトロン星人、リュシーが
ちゃぶ台を囲んでいる。
 現在のリュシーは、昼間の彼女とはまるで別人というほどに纏う空気が違った。昼の彼女は、
春の陽気のような穏やかで優しい雰囲気であったが、今タバサたちの目の前に座っているリュシーは、
真冬に吹き荒れる吹雪よりも冷え切っている、まともな人間のものとは思えない恐ろしい様相であった。
およそ聖職者の放つ気配とは思えない。
 この百八十度の変貌は、一体どういうことなのか。リュシー自身の口から、真相が語られる。
「もうお気づきでしょう。本当のわたくしは、心の底から神官であったのではありません。
それは世を忍ぶための、偽りの仮面でしかありません。心の底では、復讐の炎が常に燃えたぎっておりました」
 淡々と、リュシーは語る。鬼もかくやという形相の彼女が感情の見えない口調であることが、
シルフィードには逆に恐ろしかった。
「理由は申すまでもないでしょう。オルレアン公派であった、ただそれだけの理由で父を殺し、
家族を散り散りにした王政府への復讐……、それのみです。わたくしはじっと、修道院で機会を
うかがっておりました。艦隊付き神官として、両用艦隊への赴任が命じられたとき、ついに復讐の
チャンスがやってきたと、わたくしは考えたのです」
「……」
「当初は、わたくしに味方などはおりませんでした。そのため全て一人で復讐劇を行うつもりで、
そのための計画も用意しておりました。来るべき日のために必死で習得した“制約”の呪文を使い、
告解にやってきた信者を利用してフネの爆破を起こさせる……そういう計画でした。もちろん、
わたくしに真っ先に疑いがかかることを見越し、鏡を使って己に“制約”をかけることで、昼間は
完璧な神官を装っておりました。復讐など、微塵も感じさせない慈愛に満ちた神官になるように。
何度も、何度も“制約”をかけなおしました……」
 シルフィードは戦慄した。自身に魔法をかけて、自分の心をも変えるなど、正気の沙汰ではない。
しかも身体を突き動かす復讐心を、たった一つの生きがいであろう復讐心をも、魔法によって
抑えつけるなんて……。どれほどの憎しみがそれを可能にするものか、リュシーの心境が
どのようなものだったのか……全く理解の及ぶ世界ではない。
「しかし、計画を実行する寸前になったところで、こちらのメトロン殿がわたくしの前に現れ、
復讐劇を代行してくれることを申し出てくださったのです」
「それじゃあここからは、私の話をしようか」
 リュシーと交代して、メトロン星人が自身について語り始める。
「私は他の宇宙人と一緒に、この星へやってきた。この星には“魔法”という、夢溢れる力を
持った人間たちがいると聞いて、俄然興味が湧いたんだ。そしてあわよくば、戦ってでも
星をいただきたいと、そう思った。……だけどねぇ」
 ハァ、と深いため息を吐くメトロン星人。
「実物を見て、すごく失望したよ。夢なんてどこにもない、実につまらない星だったから、
もう欲しくもない。だからさっき言ったように、私はもうすぐ帰ることにしたのだ」
「つまらない? 何がつまらないのね」
 キッとにらむシルフィード。自分の住む世界を「つまらない」と言われて、いい気分であるはずがない。
 理由を、メトロン星人が述べる。

32 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 20:46:54.95 ID:NjHFLdOa
「この星の人間たちだよ。“魔法”といえば聞こえはいいが、そんなのは扱える人間が威張り散らすための
単なる道具に過ぎない。それを使って世界を良くしこうって気概を持つような人間は、どこを探しても
いなかった。それどころか“魔法”を扱うメイジって人間は、それ以外の人間を踏んづけて、利益を
むさぼることしか頭にない、浅ましい連中ばっかり! 本当にガッカリだよ。貴族だの高貴な血筋だの
言ってるけど、本性はお山の猿と同じだね!」
「お、おねえさまはそんな人じゃないのね!」
 シルフィードがムキになって言い返すが、メトロン星人はため息を吐いた。
「そういうこと言ってるんじゃないよ。君の主人がどうだかは知らないけどね、他のメイジが
そうじゃないって、君は言えるの?」
 そう言われて、シルフィードは言葉に詰まる。彼女自身、口では高貴だの言っておいて、
行動が伴っている者はほとんど知らなかった。
「それ以外の人間だって同じだ。自分らのことしか頭になくて、他のことにはこれっぽっちも
関心のない、無為に寿命をすり減らすだけの低脳だらけ。貴族がボス猿なら、平民はボスに
へいこらするだけが能の子分猿だね。極めつけには、同じ種族同士で殺し合い、奪い合い、
森を伐採して工場から煤煙を撒き散らし、環境を食い潰す! そうまでして生み出すのは、
何の益にもならない一瞬だけの享楽! これならまだ猿の方が利口じゃないか。そう思わないかい?」
「し、知らないのね、そんなこと!」
 何も言い返せないシルフィード。だがメトロン星人は続ける。
「砂漠のエルフって種族も変わりはない。自分たちのことしか見えてなくて、人間のことは
まるっきり見下して理解を示す姿勢すらなく、偉ぶってる割には暴力に暴力で返すだけしか
知らない高慢ちきなお山の大将! 争ってばかりじゃ先に待ってるのは滅亡しかないのに、
だーれも気づきもしない。この世界はどこもかしこも猿ばっかり! ほとほと嫌になっちゃったよ。
だからこの世界には見切りをつけて、自分の国へ帰ることにしたの」
「……だったら、早く帰ればいいのね! こんなところで、何をやってるのよ!」
 メトロン星人の言い分は無性に腹が立つが、言い返すことが少しも出来ない。そのためシルフィードは、
苛立ちをそんな形でしかぶつけられなかった。
「それが帰り支度をしてる時に、このリュシーくんを見つけたんだよ。彼女が力ずくで自分の
とても押し殺せない感情を押し殺してることに気づいて、そうまでして何をしようとしてるのか
不思議に思った。そして話を伺ったら、とてつもなく大きな敵相手に親兄弟の仇を取ろうと
してるじゃないか! 感動したよぉ。その辺の猿どもより、ずっと立派な心がけだ。それで、
帰る前に彼女に手を貸していこう、と思った次第さ」
「感動って……復讐に感動するなんて、おかしいのね!」
 シルフィードには、メトロン星人の心情がさっぱり理解できなかった。復讐が所詮益に
なるものではないというのが、彼女の考えだった。タバサにだって、本当は復讐のために
危険なことをしないでほしいと思っている。彼女の場合は、母親を取り返す目的もあるので、
止めることはないのだが。
 しかし、メトロン星人は、
「何を言うかね。こんな若い身空の子が、家族の無念のために、自分を偽ってでも身を粉にして
頑張っている! これほど立派なことがあるかい?」
「でも、だからって、何の罪もない人を巻き込むなんて……!」
「何の罪もない? この軍港の人間たちがぁ?」
 メトロン星人がせせら笑う。
「彼らは人殺しじゃないか。それも名誉欲や金銭欲なんて欲望を満たすためとか、伝統やしきたりなんて
中身のないものを理由にして思考停止し、見ず知らずの人間を大勢犠牲にしようとうずうずしてる連中だよ。
何か間違ってる?」

33 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 20:50:00.26 ID:NjHFLdOa
 シルフィードは、やはり、何も言えなかった。兵隊というのは、どんなに言い繕おうと、
上の命令一つで人の命を奪う類の人間なのだ。
 戦争を仕掛ける人間というのは、どんな言葉で飾ろうと……人殺しなのだ。
「まぁともかく、私はリュシーくんに協力した。彼女の計画も悪くなかったが、この世界の方法じゃ
騙し切るのは難しいと思って、私の持ち込んだこの世界にない手段を用いた。……けれど、何故か
ことごとく失敗してね。遂には君たちに踏み込まれてしまった。こうなったからには、私は潔く
諦めて退散するつもりだ」
 そこまで語ったメトロン星人は、リュシーを一瞥する。
「リュシーくんには、二つの道を提示してるんだよ。一つは、このままこの世界に留まること。
もう一つは、私とともにこの世界を去ること。二度と帰ってくることはないだろうね」
 とんでもない申し出に、ギョッとするシルフィード。
「な、何てこと言うの!? リュシーさんに、故郷を捨てろだなんて……!」
「別にひどいことじゃないと思うけどねぇ。むしろ、このままこの地に彼女を残らせる方が
ひどいんじゃないかな? この世界に、リュシーくんが幸福に生きていける道が残ってると思う?」
 ぐっ、と言葉を詰まらせるシルフィード。この地にいる限り、リュシーが復讐心を捨てられないのは
明白だ。しかも彼女には、もう誰も家族がいないのだ。
 更にメトロン星人は、タバサにも打診する。
「何だったら、シャルロット姫、君も連れてってあげようか?」
「え!?」
「シャルロット姫、君のお母さんは私が連れ出してあげるよ。治療もしよう。ただし、私と
来ることが条件だけどね」
「そこまで言うなら、ただで手を貸してくれてもいいじゃない!」
「私だって慈善事業家じゃないんだ。何もなしにって訳にはいかないね」
 メトロン星人はタバサに問いかける。
「どうだい。母親が助かるのなら、この世界にこだわる必要もないだろう。低脳で、環境を破壊し、
本当の礼儀ってものも知らない人間たちの間で生きることもなかろう!」
 それに対して、タバサは――。
「――わたしは、」
 その時、この中の四人の誰のものでもない声がした。
「見つけたぞ……」
「!?」
 窓を見ると、いつの間にか開かれていて、見慣れない女が外に立っていた。そして両脇は、
感情の見えないほどの無表情でいる水兵たちが並んでいる。
 同時に扉が開け放たれ、水兵たちがゾロゾロと現れて出入り口を塞いでしまった。シルフィードは、
突然現れた女と異様な様子の水兵たちに不気味さと強い警戒を覚える。
「メトロン星人。散々余計なことをしてくれたものだ」
 女は、線の細い外見とは不釣り合いな低音の声を出してしゃべる。
 メトロン星人は彼女を見て、得心が行ったかのようにうなずいた。
「なるほど。いつもいつもやけにタイミングよく爆破が阻止されるものだと思ったら、君が裏で
糸を引いていたのか、ヴァリエル星人」
 ヴァリエル星人と呼ばれた女をにらみつけたタバサは、次いで水兵たちを見回してつぶやいた。
「あなたが、まだ解けていなかった謎……水兵の異常の犯人」
「えッ!? おねえさま、それってどういうこと?」
 シルフィードが驚いて聞き返すと、タバサが「謎」の意味を説明する。
「水兵たちの協調性の良さは、異常なくらい……明らかな違和感があった。何らかの力が
働いてなければ、あそこまではならない」
 水兵たちが見せた笑顔……タバサの目にははっきりと、不自然なものであることが見えていた。
しかし爆破未遂事件の黒幕が、わざわざ犯行を阻止するはずがない。ずっと不可解に思っていたのだが……
二つの思惑が働いていた、というのが真相だったのか。
「そこまで見抜かれていたならば、お前たちも生かして帰す訳にはいかない」

34 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 20:52:43.90 ID:NjHFLdOa
 女はタバサたちも脅迫する。メトロン星人は彼女へ問う。
「どうして君が人間の味方をしてたのかい? 君は確か、自然を破壊する者が嫌いだったはずだけど」
 それにより、ヴァリエル星人が己の目論見を語り出した。
「人間に味方したのではない。人間同士を殺し合わせて破滅させるための道具を潰されることを阻止したのだ」
「ど、どういうことなのね?」
 ヴァリエル星人とやらは、何をしようとしているのか。シルフィードが冷や汗を垂らす。
「私はこの星の美しい自然を食い潰す人間の存在を許さない。しかし、ウルティメイトフォースゼロと
まともに戦っては勝ち目がない。そこで、人間同士を争わせて自滅させる方法を選択した。人間同士の
争いならば、奴らは立ち入りすることが出来ない」
「ほぉう。私の同族と同じようなことをするね」
 メトロン星人が感心する。
「そのための道具が、この軍隊だ。私は兵士の記憶を消去し、代わりに私の意のままに動くようになる
記憶を植えつけた。既にこのように、軍港の大半の兵士は私の傀儡だ。それが完了した時に、兵士どもを
操ってハルケギニア全土を襲わせる。これが火種となって、世界戦争の始まりだ。そういう筋書きだ……」
 何と恐ろしい計画を考えるのだ。シルフィードは思わず背筋が寒くなった。
 ヴァリエル星人はメトロン星人とリュシーを指す。
「しかし、お前たちのせいで危うく計画が台無しになってしまうところだった。軍艦を破壊されては、
世界全土の攻撃は出来ない。もうこれ以上の邪魔立てはさせん。邪魔者は、全て排除する!」
 突然、ヴァリエル星人の片手に大型の銃が出現し、何の予告もなしにいきなり撃ってきた!
「!」
「おねえさま危ないッ!」
「おっとっと! リュシーくん、こっちに!」
 機関銃の弾丸を咄嗟に回避するタバサたち。リュシーをかばうメトロン星人は、ヴァリエル星人へ尋ねかける。
「全く、乱暴だねぇ。君、そうやって暴力に頼って、本当に上手く行くって自分で思うの?」
「黙れ!」
 メトロン星人を狙って弾丸を発射するヴァリエル星人。メトロン星人はサッとかわす。
「おぉ、危ない。お陀仏は御免だ、逃げさせてもらおうかな。それッ!」
 メトロン星人が扉を塞ぐ水兵たちにぶつかっていき、退路をこじ開ける。その後にリュシーが続く。
「シャルロット様……さようなら」
 リュシーは最後に、その一言だけを告げていった。
 二人が逃げると、ヴァリエル星人はタバサたちの方へ銃口を向けた。しかし、むざむざやられる
タバサではない。既に呪文を唱え終え、反撃に出る。
「『ウインド・ブレイク』!」
 風の魔法で窓のヴァリエル星人と水兵たちを纏めて吹き飛ばす。そして自ら窓より外へ躍り出て、
ヴァリエル星人へ追撃を繰り出す。
「『ウィンディ・アイシクル』!」
 氷の槍がヴァリエル星人にぶち当たった。ヴァリエル星人は槍に押されて教会を囲む雑木林の
中へ消えていったが……。
『グオオォォ―――――!』
 すぐに林から、右肩と両腕が花のような形になっている異形の怪巨人が伸び上がった。
ヴァリエル星人がその正体を露わにしたのだ。
「おねえさま! 早く逃げるのね!」
 シルフィードは人間から翼竜の姿に変化し、タバサを乗せて逃れようとする。だが、ヴァリエル星人は
両腕をしっかり二人へ向けて狙っている。このままでは撃ち落とされる!
 だがその時に、大空の彼方からものすごいスピードでこちらへ飛んでくる巨大な火の玉が!
『ファイヤァァァァァ――――――――!』
 ヴァリエル星人の出現を感知して直ちに駆けつけたグレンファイヤーだった。彼が体当たりしたことで
ヴァリエル星人は姿勢が崩れ、タバサとシルフィードは狙い撃ちから逃れることが出来た。
『グオオォォォ……!』

35 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 20:55:31.66 ID:NjHFLdOa
 グレンファイヤーの体当たりを食らってつんのめったヴァリエル星人だがすぐに体勢を立て直し、
すぐにグレンファイヤーに反撃を行う。
『グオォォォォッ!』
『おっしゃぁー! 来いやぁーッ!』
 夕焼けの日差しに照らされる中、グレンファイヤーとヴァリエル星人の決闘が開始される。
ヴァリエル星人がまっすぐに向かってくるのを、グレンファイヤーは自ら迎え撃ちに駆け出し、
両者は掴み合いになる。
『ウルティメイトフォース! 貴様らは、何故自然の破壊者である人間に味方する!』
 ヴァリエル星人は取っ組み合いながら、グレンファイヤーに詰問した。
『何だってぇ!?』
『人間は愚かな生き物だ! 美しい自然を食い潰す! 助ける価値などない!』
 と主張するヴァリエル星人。確かに彼やメトロン星人の言う通り、科学文明がさほど発達していない
ハルケギニア社会でも、ゲルマニアを筆頭に徐々に工業化が進み、自然破壊の兆候は出始めている。
彼らの言うことも一理あるだろう。
 だがそれに対し、グレンファイヤーは、
『テメェが人間の価値を決めるんじゃねぇッ!』
『グハッ!』
 叫びながら、ヴァリエル星人の顎に強烈なアッパーを入れた。
『俺たちは最後まで人間の可能性を信じる! それだけだぜ! うらあぁぁぁッ!』
 ひるませたヴァリエル星人に猛ラッシュを仕掛けるグレンファイヤー。こちらもパンチを繰り出す
ヴァリエル星人だが、グレンファイヤーはウルティメイトフォースゼロ屈指の肉体派。格闘の実力は
段違いで、あっという間にヴァリエル星人を弾き返す。
『グファアッ!』
 ヴァリエル星人は大きく吹っ飛び、地面に叩きつけられた。グレンファイヤーはそれを追いかけ、
どんどん追い詰めようとするが、
『グファアーッ!』
 起き上がったヴァリエル星人は開いた両手より、ロケット弾を乱射! グレンファイヤーに
猛攻を浴びせる。
『うおおぉぉぉぉッ!?』
 さすがにこれには苦しめられるグレンファイヤー。それでもガッツのある彼は前へ突き進もうとしたが……。
 ヴァリエル星人は次に、肩の花から緑色の花粉を噴出。それを光線のように飛ばした。
『ぐううぅぅぅッ!? こ、こいつは毒か……!』
 花粉を浴びたグレンファイヤーが大きく悶え苦しむ。そう、ヴァリエル星人の花から出る粉は、
猛毒を含んだ毒花粉なのだ。さしものグレンファイヤーも、毒を耐えるのは難しい。
『グファファファファファファ!』
 動けないグレンファイヤーに、すかさず猛攻撃を繰り出すヴァリエル星人! 再び両手から
ロケット弾を乱射。しかも今度は、先ほどの倍以上の量。
『ぐわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!』
 ロケット弾の爆発の連続が林の木々を焼き払い、グレンファイヤーを業火に呑み込む! 
絶叫を上げるグレンファイヤーの赤い姿が、火炎の中に見えなくなった。
『グファファファファ……!』
 グレンファイヤーが倒れたと見たヴァリエル星人は踵を返し、木々を荒々しく踏み倒しながら
歩み出す。向かう先には、タバサを乗せたシルフィード。
「こ、こっちに来るのね! 逃げなきゃ!」
 シルフィードは慌てて遠くへ離れようとする。が、しかし、
「待って」
 タバサがそれを止めた。彼女の目は、グレンファイヤーを覆い隠した大火災に向けられている。
 その中から、立ち上がる姿が!
『おい……テメェが、自然を破壊してるじゃねぇか……』
『グファッ!?』
 振り返るヴァリエル星人。その視線の先には、雄雄しく立ったグレンファイヤー!
 ヴァリエル星人のロケット弾攻撃は、実は失策であった。その爆炎が花粉を焼き、毒の効果を
薄れさせていたのだ。その結果、グレンファイヤーは復活した!
『とうッ!』
 グレンファイヤーは合わせた平手から火災を吸い上げ、見事に鎮火せしめた。そして、

36 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 20:58:05.03 ID:NjHFLdOa
『おらッ! お返しするぜ!』
 吸い取った炎を火炎弾にして、ヴァリエル星人に投げつけた!
『グファアァァ―――――――!!』
 それを食らったヴァリエル星人は大ダメージを負う。その隙を突いてグレンファイヤーは
ジャンプで一挙に距離を詰めた。
『とどめだッ! 行くぜぇぇ―――――!』
 ヴァリエル星人の身体をむんずと掴むと、グルリと天地を逆さにする。そして手で足首をがっしり掴んで、
『おうらぁぁぁッ!!』
 脳天から地面に叩きつけた! 大技のグレンドライバーが炸裂した。
『グッファッ……!』
 ヴァリエル星人は短い断末魔のうめきを上げて、爆散。完全に倒された。
『ふぅ……』
 グレンファイヤーがひと息吐いた時……林の中からいきなり、巨大化したメトロン星人が伸び上がった!
『うおッ! お前もやろうってのか!?』
 即座に警戒し、ファイティングポーズを取るグレンファイヤー。
 しかし……メトロン星人は、何故かその場で走るポーズで足踏みするばかり。特に攻撃をしてこない。
『……?』
 不可解な行動に、グレンファイヤーも思わず首を傾げる。
 と、その時、どこからともなく赤い楕円を二つくっつけたような円盤が飛んできて、メトロン星人の
上空で停止した。すると、メトロン星人はグレンファイヤーとタバサたちに背を向けて、円盤の方を向く。
 そしてちょっとだけ振り返ったかと思うと、筒状の腕を振った。別れの挨拶をするように。
『あッ……ああ……』
 つい手を振り返すグレンファイヤー。するとメトロン星人の身体が円盤に吸い込まれていき、
見えなくなった。
 メトロン星人を収めた円盤は、そのまま天高くへと飛び去っていった。そのままこの惑星……
ハルケギニアから去っていくのだろう。
『……』
 グレンファイヤーは、呆然とそれを見送るだけであった。
「侵略者はいなくなったのね……でも……」
 シルフィードが小さくつぶやく。彼女は今、複雑な心境であった。
 侵略者の目論見はくじいた。しかし、今回守られた人間は――メトロン星人の指摘した、
「人殺し」たちなのだ……。

 戦いが済んで、タバサとシルフィードは先ほどの部屋へ戻ってきた。
 そこには、誰もいなくなっていた。メトロン星人はタバサの回答を待たずに帰った。しかし、
リュシーはどうなったのか?
 部屋には畳とちゃぶ台だけが残されていて、その上には、「シャルロット様へ」という書置きが
ポツンと置いてあった。それを手に取り、広げるタバサ。
 書置きには、こう書いてあった。
『シャルロット様、突然ですが、あなたにお別れを申し上げます。もう二度とお会いすることはないでしょう。
 わたくしは、メトロン殿と共に彼の故郷へ旅立ち、この地を永遠に捨てることに致しました。
 生まれ故郷を捨てることに、ためらいがなかった訳ではありません。しかし――やはりこの世界には、
わたくしの幸福はもう残されておりませんので。
 わたくしの中には、絶えず復讐の炎が燃えたぎっております。その炎は、一度や二度の“制約”では
抑えきれないほどの強さなのです。
 わたくしの復讐は、とても困難なもの。絶対に完遂することは出来ないでしょう。しかしこの復讐心は、
どうしても捨てることは出来ません。魔法で一時的にごまかすことは出来ても、時間が経つに連れて
心の底から這い出てくるのです。そのためわたくしは、夜には誰にも会わないように注意しておりました。
 この果てしなき復讐がもたらすものが破滅であることは、理解しております。しかし、
この世界にいる以上は、どうしようもないものなのです。
 そのためわたくしは、生きる世界を全て変える道を選びました。後悔はありません。わたくしが
復讐者でなくなるには、こうするか、死ぬしかないのです。

37 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 21:00:04.17 ID:NjHFLdOa
 もう一度申し上げます。さようなら、シャルロット様。
 心残りがあるとすれば、わたくし以上の復讐の炎を抱えていらっしゃるあなたの行く先が
見られないことだけです』
 ……書置きを読み終えたタバサは、ゆっくりと天を見上げた。
 仮に、メトロン星人が回答を待っていても、自分はこの地を離れる決断はしなかった。
メトロンもそれが分かっていたから、待たなかったのだろう。
 自分は――リュシーと違って、何が何でも復讐を完遂する。この手で。母親も自身の力で救い出すつもりだ。
 それは、自分がタバサになった時の誓いがあるから。命の恩人のファルマガンに誓ったから。
それが、自分とリュシーの違い――。
 ――本当にそうだろうか?
 本当は、リュシーの指摘した通り、彼女よりも強い、果てしなき復讐心がそうさせるからではないか――?
 仮に復讐を終えても、この心の炎はそのまま、自分を燃やし尽くしてしまうのではないか――。
「おねえさまッ!」
 シルフィードに呼ばれて、ハッと正気に返った。
「大丈夫だったの? 顔色が悪かったのね」
 自分を心配しているシルフィードの顔を見返して、冷静さを取り戻すタバサ。
 これ以上考えるのはよそう。まだ終わりの片鱗すら見えないのに、その後を考えても仕方ない。
今は、とにかく母親を取り返すことに専念しよう、と思い直す。
 取り返した後は――とにかく生きよう。メトロン星人はこの世界を、人間を、どうしようも
ないものだとこき下ろした。しかし、自分はそんな大きなことは分からない。自分がそんなことを
決めたって、どうしようもないではないか。
 自分は、この世界で生きていくのだ。なら、自分に出来ることを精一杯やって生きていこう。それしかない。
 ――とにかく、爆破未遂はもう起こらない。極秘裏に洗脳されていた水兵たちも、ヴァリエル星人が
いなくなった以上は元に戻るだろう。これで、この事件は終わりにするのだ。
「ところでおねえさま」
 最後に、シルフィードがこんなことを尋ねた。
「メトロンって奴、この板と机を置いていったのね。これはどうしようかしら?」
 畳とちゃぶ台は、教会の備品ではない。このままでは、他の神官が処分に困るだろう。
 タバサは少し考えて――結論を出した。
「持って帰ろう」

38 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/22(日) 21:18:33.42 ID:vgDfS8cF
これは手遅れっぽいが支援が必要かな

39 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/22(日) 21:28:52.83 ID:wx+xOkGc
お、やった!
久しぶりにるろうにが更新されてた!

40 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/22(日) 23:42:01.71 ID:NjHFLdOa
以上です。
タバサ編は一旦終わり。次回から本筋に戻ります。

41 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/26(木) 00:49:09.40 ID:gBtLnmat
皆様、お久し振りです。
夜分遅くに失礼いたしますが、よろしければ1:00頃より続きを投下させてください。

42 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/26(木) 01:02:09.38 ID:gBtLnmat
ある日のトリステイン魔法学院、図書館の一角にて。

「ンン〜……、」

ディーキンが何冊もの古びた本に次々と目を通しては、考え込んだり、メモを取ったりしていた。
人間用に作ってあるがゆえにコボルドにとってはいささか大きすぎる本が多く、机の上に座って、本を抱え込むようにして読んでいる。

今は日中で、生徒らはまだ授業中である。

ディーキンは毎日時間割を見たり、時には挨拶がてら教師に確認に行ったりして、授業内容を事前に把握するようにしていた。
自分が出ても仕方が無さそうな授業の時間には、ルイズに断って席を外し、他の作業をしに向かうのだ。

やりたいことはいくらでもあるのだが、そういった時間には主として今のように、図書室へ向かう事が多かった。
そこで自分に必要な勉強や調査をしたり、ルイズの爆発について何か前例や手掛かりがないか、古い文献を調べてみたりするのである。
そんなわけで、ルイズに召喚されてまだ数日だが、ディーキンは既に何度もここに顔を出している。
学院の全ての施設の中で彼が一番有用性が高いと考えており、また気にいってもいる場所がこの図書館なのだ。
フェイルーンのように本がまだまだ高価で希少な世界に住む者としては、書物の与えてくれる知識の素晴らしさを高く評価するのは当然であった。

入り口に座っている若い女性の司書は、そんな彼の様子を僅かに微笑みながら見つめていた。

彼女は、ディーキンが最初にここを訪れた時には、汚い亜人に触られて貴重な本が傷まないかと嫌そうな顔をしていたものだが……。
彼が非社交的な雰囲気を醸し出している彼女に対しても愛想よく友好的に接し、本も丁寧に扱うのを見て、程なく態度を改めた。
だからなのか、机の上に座るなどの行儀の悪い行動に対しても、体の大きさの関係上やむを得ない事と理解して見逃してくれている。

まあ、彼がちょこんと座って本を抱える姿が愛らしくて気にいったから、というのもあるのかもしれないが。

「……ウン。これはもういいから、返しておいて。
 次は、あの本と……、アア、それと、そっちの本も取って来て欲しいの」

ディーキンはめぼしい部分を読み終えた本を傍らの《見えざる従者(アンシーン・サーヴァント)》に渡し、元の場所へ返却しておくよう指示する。
それに加えて新しく目をつけた本を持ってくるよう、さらに別の従者にも指示を出した。
不精なようだが、自分で本を取ろうにも、図書館の中で翼を広げて飛び回ったり、本棚をよじ登ったりするわけにもいくまい。
その点これらの従者は形を持たぬ力場なので、音もなく移動でき、高いところの本でも楽々取って来てくれるのだ。

最初はルイズの要求を満たすために仕方なく呼び出した従者だったが、自分自身でもあれやこれやで存外便利に有効利用できている。
なんでも試してみるもんだね、とディーキンはひとりごちた。

そういえば、フェイルーンでもウィザード・ギルド内部では、あらゆる種類の雑用に呪文を使っていると聞いた。
掃除や給仕などはすべて見えざる従者が行い、本のページをめくるのにすら《魔道師の手(メイジ・ハンド)》などの呪文を使用するらしい。
それは、自分は賤しい雑用などに筋肉を使う必要がないのだと誇示することで、仲間たちからの尊敬を集めるためだという。

そこでディーキンも、ためしに自分も偉大な魔法使いっぽくやってみようと、一度は見えざる従者に本のページをめくるよう指示を出してみたのだが……。
ちょっと読むたびにいちいちページをめくれと口で指示しなくてはならないのが面倒だったので、すぐに止めてしまった。
こんなことをするくらいなら、自分の手でめくっていく方が遥かに手っ取り早くて楽だ。
試してみてはいないが、《魔道師の手》の呪文にしたところで自分の手で本のページを捲るよりも楽だとはまず思えない。
あの呪文は使用するのに精神集中が必要なのだ。
呪文に精神を集中したままで本の内容にも注意を払って読んでいくなんて、余計疲れるに決まっている。

43 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/26(木) 01:04:09.73 ID:gBtLnmat
掃除や洗濯などの雑用を呪文でぱっぱと済ませるのは、やってみると確かに楽だった。
だが、自分の手を使う方が楽に決まっている作業にまで呪文を使うとは。
ウィザードという人々も合理的に見えて、おかしなところで虚勢を張るためにエネルギーを使っているのものなのだなあと変に感心した。
ハルケギニアのメイジがどうでもいい雑用まですべて呪文でやるというのも、似たような理由であるらしいし……。

「―――あなた、ずいぶんと精が出るのね?」

そんなことを考えながらページをめくっていると、脇の方から急に声を掛けられた。
司書が興味を持って席を立ち、傍に見に来たのだ。

「ンー……、そうかな?」
「ええ。ここの学生や教師にも、あなたくらい本を熱心に読む人は少ないわ」

これは別に、お世辞でも何でもない。

図書館に何日も続けて通う生徒は少ないし、借りていくのも大概小説とかの娯楽本だ。
テスト時期などのごく一部に参考書などの類を借りていく生徒が増えるくらいで、せっかくの蔵書の大半は埃を被っている。
この亜人に負けないくらい熱心にここに通っていろいろな本を読んでいるのは、眼鏡をかけた青髪の小柄な留学生の少女だけだろう。
あとは、何かの研究に熱中しているらしい時のコルベール教員が、たまに数日から数週間ほど集中して入り浸るくらいだ。

ここは歴史あるトリステイン王国でも有数の図書館であり、数千年前からの貴重な蔵書が収められているというのに、何とも嘆かわしいことである。
もっとも、親元を離れて青春真っ盛りの若者たちとなればそのくらいがむしろ健全だろうし、教員は何かと忙しい。
仕方がないことだとは自分も理解してはいるのだが……、司書の身としてはどうしても、一抹の虚しさを覚えてしまう。

それに、自分はお世辞にも社交的な方だとはいえないが、それでも学生が訪れない日中からずっとここで本の番をしていてはいささか寂しくもなってくる。
件の青髪の少女は授業をサボっているのか日中でも時折姿を見かけるのだが、あいにくと彼女は自分以上に極端に非社交的な性質らしい。
これまでに何百冊もの本を借りているにもかかわらず、未だに事務的な用件以外では口を聞いたことさえない。

「……よければ、一息入れて一緒にお茶とお菓子でもどうかしら?
 人間の食事が口に合うのかは分からないけど、この間王都で美味しい御茶菓子買ってきたの」

だから時には、たとえ相手が変わった亜人の使い魔であってもこんな風に話し掛けてみたくなったりするのは致し方ないことなのだった。

それに聞いた噂では、この亜人は最近、ちょっとした人気者になっているらしい。
なんでも、この間の決闘の時に立ち会いをして、それに関する出来のいい詩歌を作ったとか……。
図書館で歌ってもらうわけにもいかないが、もし今日話してみて彼のことが気にいったら、今度聞きに行ってみようか。

さておきそれを聞いて、ディーキンの方は少し首を傾げた。

「ンー……、ディーキンはお茶もお菓子も大好きなの。
 だけどここで飲んだり食べたりしたら、本が傷むんじゃない?」
「ええ、もちろん、ここで食べては駄目よ。
 でも、カウンターの奥の方に私の私室があるから、よかったらそこで……」

ディーキンはもちろん二つ返事で承諾して、満面の笑みを浮かべる。

フェイルーンにいたころにも、縁あって呪いから救い出した有翼エルフの女王が返礼として歓待の宴に招待してくれたりしたことはあった。
だが、特に何の借りがあるわけでもないコボルドに自分から声を掛けて招待してくれるとは、なんとも嬉しいことだ。

44 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/26(木) 01:06:07.06 ID:gBtLnmat
このお礼に後で何か、芸でもお見せしなくてはなるまい。
図書館の中で楽器演奏というわけにもいくまいし、無声劇でもやってみようか?
そんなことを考えながら、ディーキンはその素敵な、親切な女性の後についていった……。





「…………」

そんな一連のやりとりを、タバサが少し離れた物陰から、黙ってじっと見つめていた。

彼女は今の時間の授業は自分には出る必要がないと判断したので、図書館へ行くことにしたのだった。
いまだに何か勘違いしているらしいキュルケに、「あら、ディー君と逢引? 頑張ってね」などと応援されたりしたが……。

実際のところ、大好きな本を読むために図書館へ来たのではあるが、ディーキンに会えればいいなと思っていたのも事実であった。
まだまだ聞いてみたいことがたくさんあったし、彼の語る様々な物語や不思議な音楽もとても気にいっていたから。
だから、図書館にディーキンがいたのは彼女にとっては願ったり叶ったりの状況……の、はずだった。

しかしタバサは、彼がちょうど司書と親しげに言葉を交わして私室へ招かれていくのを見て、声を掛ける事が出来なかったのだ。
しばらくの間俯いて、じっと立ち尽くしていたが……。
やがて大好きな本を見もせずにくるりと図書館に背を向けると、その場から静かに立ち去る。

(……私は、あの人と会話したこともない……のに……)

タバサは心中、穏やかではなかった。

私だって、思っていたのだ。
自分と同じようにいつも一人で、静かに図書館で本と向き合っているあの司書に、内心では少しく親しみを感じていたのだ。
それでたまには話でもしてみようかと、時折ぼんやり思ってもいたのだ。

でもできなかった。彼女と親しくなるのが怖かった。彼女を自分の運命に巻き込んでしまうのが怖かった。
両親の仇である叔父に服従しながら復讐の期を伺うという、道を外れた生き方を選んだ自分は、無闇に人と親しくなれるような身ではないから。

いや、そうではないかもしれない。

そもそも、自分が彼女と親しくなれるのかと思うと怖かった。確かめるのが怖かった。
私のように愛想のひとつも振りまけない、笑顔ひとつ向けられないものが友情を求めて、人が応じてくれるものだろうか、と。

キュルケの時は、紆余曲折あった末に、彼女の方から進んで友人になろうと申し出てくれた。
ディーキンの時は、彼が最初から当たり前のように友人と呼んでくれていた。
自分から進んで誰かと親しくしようと試みたことは、未だになかった。

なのにあの子は、亜人で、使い魔の身でありながら……。

「……私だって……」

45 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/26(木) 01:08:34.89 ID:gBtLnmat
自分だって、昔は彼と同じように明るかったのだ。3年も前なら。
無知で無力で、幸せだったころの自分なら、あのくらいはできたはずだ。

それに彼は芸達者なようだけれど、自分だって昔は魔法で、上手に人形を躍らせたりしていたのだ。
それでお芝居などをやって、父様や母様からずいぶん褒められたりもしたのだ。
どうして彼に劣る事があろうか。

――――いや、だが。本気でそんな、愚にもつかないようなことを信じられるのか?

公女時代の自分は、他人にこちらから進んで愛情を求めたことなどなかったのではないだろうか。
親しい使用人はいたけれど、それは自分が公女だったから、大公の娘だったから、彼らの方から進んで世話を焼いたりしてくれたのだ。
同年代の、上下関係のない本当の友だちなんて、思えばキュルケの前には一人もいなかったような気がする。

芸にしたところで、昔の自分なんてまるで無力で、ただ小器用だっただけではないか。
家族や使用人からは、子どもに対する御愛想で褒められただけではないのか。
比べれば彼の歌はずいぶん妙だし、不器用そうな印象もあるけれど、本当の力に満ちているのは、聞いていてわかる。
自分にはとても、出せないような力が……。

「……そんなはず、ない……」

様々な取り留めもない考えが頭の中を去来し、何に対してかもわからぬ否定の言葉が、ぽつりと口をついて出た。

なんだか、あの子に図書館を……、自分の居場所をひとつ、取られたような気がした。
いや、そうではない。取られたのはあの司書だ。
彼が私を出し抜いて、先を越して、彼女と親しくしはじめたのだ。
いいや、それもちがう。むしろあの司書が彼を私から取ったのだ。
今日は自分が彼と話をしようと思っていたのに、それを、あの女の方が先に。
いや、それも違うか?

自分が本当に気にいらないのは、そうではなくて……、ああ!

(……私はいったい、何を考えているの……?)

ディーキンに対する得体のしれない不快なざわめきと、好意的にしてくれる相手に対してそんな気持ちを抱く自分自身に対する嫌悪感とで胸がもやもやする。
考えれば考えるほど気持ちがネガティヴになり、ぎすぎすと心がささくれ立ってきた。
先日、逆上したルイズを取り押さえようと身構えていたのに、ディーキンに後れを取ったときもそうだった。
今はあの時よりも、もっと酷い。

しかし、どう考えても、あの子にはなにも非はないではないか。

なのに自分は、なぜこんな些細なことで、一人で勝手に心を乱しているのだろうか。
今では危険な任務の最中でも、命の危険を感じる時でさえも、滅多に心が乱れることはなくなったのに……。

「……わからない……」

思案の海に沈みながらぽつりと呟いたタバサは、いつの間にか図書館のある本塔を出て、中庭のあたりにまで歩いて来ていた。
自分が慕う主人の姿を目ざとく見つけたシルフィードが、すぐに傍へとやって来る。

「きゅいきゅい!! ………、きゅいぃ?」

46 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/03/26(木) 01:10:09.73 ID:gBtLnmat
嬉しげに可愛らしい鳴き声を上げながら主人の顔を覗き込んだ彼女は、しかしすぐに、不審そうに首を傾げた。
それから無言で主人の首根っこを咥えて自分の背中へ乗せると、上空へ舞い上がる。
その間タバサは人形のように無抵抗で、されるがままであった。

十分な高空まで達したところで、シルフィードは待ちかねたように口を開くと、人語で主人に質問する。

「お姉さま、いったいどうしたの?
 今日はなんだか、すごくむっつりした顔をしていらっしゃるわ。なにか心配事でもあるの?」
「別に、何も」

そっけなく返事をすると、タバサはシルフィードを促して、自分の部屋へ向かわせた。

今さら授業へ戻る気もしないし、なんだか本を読む気にもなれない。
今日はもう部屋で休んで、気持ちを切り替えよう。

しかし、そうはいかなかった。

「きゅい? お姉さま、何か鳥がこっちへ飛んでくるのね」

部屋について、タバサが窓から中に入ろうとしたあたりで、シルフィードがそんなことを言った。
そちらに目をやったタバサの眉が、ぴくりと動く。

それは、フクロウであった。
灰色の毛並みをしていて、足には書簡が結び付けられている。
いつも意地の悪い従姉妹からの任務を伝えに来る、ガリアの伝書フクロウに違いない。

フクロウは傍にいる大きな竜を怖れる様子もなく、真っ直ぐにタバサの元まで飛んでくると肩に留まった。
タバサはその足から書簡を取って、目を通す。
案の定、そこにはただ一言、『出頭せよ』とだけ書かれていた。
任務の内容を事前には一切伝えられず、ただ一方的に呼びつけられるのはいつものことなのだ。
そうして毎回、非常に厄介な仕事を押し付けられる。命に関わるような危険を伴う事も、珍しくない。

だが、自分を庇って心を壊された母を人質にとられているも同然のタバサには、拒否する権利はなかった。

このような任務を歓迎した事など、今までに一度もない。
今回だって歓迎などまったくしていないが、とはいえ、このぎすぎすした気持ちを切り替える役には立つかもしれない。
命がけの任務に取り組んでいる間は、埒のあかない考えごとで心を悩ませている暇などないだろうから。

タバサはそう考えてひとつ溜息を吐くと、気を引き締め直して、もう一度シルフィードに跨った。

「きゅい? お姉さま、どうしたの? また出かけるのね?」
「遠くへ行かなくてはならなくなった。飛んで」

この子を連れていくべきだろうか、と少し悩みはしたが、これからもこういう任務はくるはずだ。
自分の使い魔に、いつまでも隠しておけるような事でもあるまい。危険に巻き込みたくはないが、仕方がない。

任務に向かう道すがら、自分の抱えている事情をこの子に説明することにしよう。
果たしてこのいささか足りない部分のある子に、ちゃんと理解してもらえるかどうかは不安だが……。

そんなことを思案しながら、タバサは飛び立ったシルフィードに、ガリアの方角を指し示した。

47 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2015/03/26(木) 01:11:22.60 ID:gBtLnmat
メイジ・ハンド
Mage Hand /魔道師の手
系統:変成術; 0レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:近距離(25フィート+2術者レベル毎に5フィート)
持続時間:精神集中
 術者は指先を物体に向けて、その物体を遠くから意のままに持ち上げ、動かすことができる。
動かせる最大重量は5ポンドであり、また魔法の力を持つ物体や、誰かが装備中の物体は対象にできない。
術者は精神集中を続けている限り、移動アクションとして物体をどの方向にでも毎ラウンド15フィートまで移動させることができる。
術者と物体の間隔が呪文の距離制限を超えた場合、呪文は終了する。
 この呪文で、たとえば罠がある扉や宝箱などを遠くから安全に操作したり、部屋の反対の端においてある鍵をこっそり引き寄せたりできる。
ハルケギニアの念力と比べると非常に力は弱いが、それでも様々な用途で有効に活用することができる、とてもポピュラーな呪文である。

48 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2015/03/26(木) 01:13:46.53 ID:gBtLnmat
短いですが、今回は以上になります。
タバサの冒険は本編との時系列が今ひとつ判然としない部分もありますが、まあその辺はあまり細かくは考えなくてもいいかな?

それでは次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします……(御辞儀)

49 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/26(木) 20:08:53.60 ID:VOEkas+r


50 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/26(木) 21:03:12.32 ID:vY6eZ8XT


51 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/26(木) 21:46:04.11 ID:+t0o11Lh


52 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/26(木) 22:41:01.71 ID:vY6eZ8XT


53 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/27(金) 23:09:34.48 ID:zht8+eh4


54 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/27(金) 23:22:02.57 ID:9D0O59yR
一体なんの真似だ、この乙一文字だけの連発は

55 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/27(金) 23:32:09.13 ID:9WMI6eIh
なろうでいえばポイントみたいなもんだと思えばいいさ
ないよりずっといいと思うよ

56 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/28(土) 00:00:16.06 ID:8ERtqLRr
乙多いなおい
面白かった

57 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/28(土) 04:12:42.72 ID:PZ92VDJH


58 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/28(土) 12:01:08.71 ID:lvBCrnKA
仮面女子みたいな素人女性集団はマジ神だった!!

暇つぶしにやってみたが、この超本命リアルだわ↓

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▲をt.neに変換

59 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 20:58:39.97 ID:XWyj0cHd
皆さんこんばんわです。

早速ですが、9時10分頃より新作の投稿をしたいと思います。

60 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 21:10:46.15 ID:XWyj0cHd
それでは始めます。


 その後、遅れてやって来た軍の人々から、ルイズ達は色々と質問を受けた。
 この騒ぎは何だとか、この兵達を倒していったのは誰だとか、そんな質問だった。
 ルイズ達は、取り敢えずタバサの言ったとおりに話し、事の発端はキュルケが起こしたが、軍を蹴散らしたのは「たまたま通り掛かった」タバサだったということにした。
 勿論、彼女との関係も幾つか聞いてきたが、それに関しても知らぬ存ぜぬの一点張りで通した。自分達の身を庇ってくれたタバサに対して、なんとも心が痛む結果になったが、そうでもしないと身の潔白の証明にはならない。
 特にキュルケの場合、原因は自分で起こしただけにかなり苦しそうな表情をしていた。
 その辛そうな顔は、ルイズですらどこか同情の視線を送ってしまう程だった。
 後は、スカロンやジェシカのフォローもあって、取り敢えずこれ以上の追求はなんとか逃れた。軍を蹴散らされたのは問題だったが、事の発端に関してはあちら側が絡んできた原因もあってか、厳重な注意を受けた程度で特に気にした様子は見受けられなかった。
 軍が帰った後は、キュルケはそのまま寝泊りすることに、ギーシュとモンモランシーは一旦学院に帰ることにした。
 キュルケはまた明日、タバサを探すことにしたらしい。

「でもアイツさ…何でこんな事引き受けたんだろう…」
 就寝する前、ルイズはポツリと剣心に呟いた。確かに彼女のおかげで、自分が身をやつしてここで情報収集していることがバレなくて済んだのではあるが、それをしてくれたのがタバサだということにどこか納得がいかないようだった。
 しかし剣心は何も答えない。
「ねえケンシン、あんた今まで何してたの?」
久々に剣心に会えたのに、彼はずっと黙したまま。何も喋ろうとはしなかった。
 それに耐え兼ねたように、ルイズは口を開いたのだった。
「そりゃあ、あんたがただ遊んでたわけないのはわたしだって知ってるわよ。でもさ…」
 もっとこう…構って欲しい。その一言が言えなかった。
 こっちだって辛いのよ。貴族のわたしがあんな風に下賤な男共相手にして…それに必死に耐えているのよ…って、不満を爆発させたかった。
 でも、今している剣心の目は、そういう感情がとても身勝手と思えるほどに、深刻な顔をしているのだ。
 やはり、タバサのことを考えているのだろうか…そう思うと、ルイズの中にモヤモヤした感情が渦巻いていくのを感じた。
 確かに、自分を庇ってくれたタバサには感謝している。
(でもさ…何でそんなに深刻な顔しているのよ…)

 ルイズは、剣心が何でタバサをそんなにも心配しているのか理解できなかった。理由が分からないからこそ、ルイズの頭の中では「剣心とタバサ」という方程式が出来つつあるのだった。
 思えば、剣心とタバサはずっと一緒だった。戦いの時は、自分以上に気があったり、絶妙なコンビネーションを見せたり…。
(何よ、タバサタバサタバサって……)
 実際にはそんなに多くはないのだが、それでもルイズはタバサに対して…ある種の劣等感を抱かずにはいられなかった。
 ルイズは、再度剣心に話しかけてみた。何か、黙っていると色んなことが頭をもたげてくる。この状態では眠ることもできなかった。
「ねえ、ケンシンってば!」
「………」
 けど、剣心は考え事でもしているのか、ルイズの耳には届かない様子。ルイズは再び声をかけた。
「…何か言ってよ」
「………」
「ねえ…」
「………」
 とうとう、ルイズの怒りが爆発した。
「何か言いなさいよ!!」
「……おろ!!?」
 その言葉で、ようやく剣心はルイズに気づいたようだった。それがまた腹立たしくて、ルイズは嫌な気分になった。

61 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 21:13:28.81 ID:XWyj0cHd
「…もういいわよ、ずっとそこでぼけっとしてなさいよ!! このバカ!!!」
 ルイズはそう叫んで、ベットの中へと潜り込んだ。そして思わずポロポロと涙をこぼした。
 何だろう…ここに来てから、どんどん剣心と距離が離れていくのを感じる。彼は今、重大なことを抱えているのに、それを教えてくれない。
 ルイズはただ、不安だった。これに似た感情は、今までも少しだけだが感じてはきた。

 召喚した当初、キュルケに取られるのではないのかと思った不安。

 アルビオンの時、ワルドと結婚したらいなくなってしまうのではと思った不安。

 それらは今まで取り越し苦労だと思いながらも、今度の不安は、それよりもずっと強く、そして大きくルイズの心を揺さぶるのだった。

 『剣心は、いつか本当に自分の元を離れていくかもしれない』

 それが怖くて、ルイズは泣いていた。
そんな事、考えたくもなかったから…。



          第四十二幕 『動き出す者達』



 あれから更に、いくつもの月日が流れた。
 『魅惑の妖精』亭恒例行事、『チップレース』もいよいよ最終日を迎えていた。今回の仕事を持って、優勝者を決める運びになっているのだ。
 トップにぶっちぎりで独走しているのは、スカロンの娘であるジェシカだった。その端麗なる容姿も然ることながら、キュルケと同等かそれ以上に男の扱いが上手く、最早この差は揺るぎないものだろうというのが、おおよその見解だった。
 そんな彼女に対し、ルイズは逆にぶっちぎりの最下位。というかまだチップの一つももらえていなかった。
 特に剣心との邂逅が会って以降、そのストレスを自重せずに客に撒き散らしている節があり、むしろ前より悪化している感じが見られていた。
 チップレース最後のこの日も、ジェシカが文字通り客を魅了する中、ルイズはいつも通り人を怒らせてはいつも通りスカロンが止めに入っていく。
 最早当たり前の光景になりつつあるこの騒ぎも、それでも今回は度が過ぎたのだろうか、ルイズは一旦皿洗いまで仕事を落とされてしまった。


(これも全部、ケンシンのせいよ……!)
 冷たい水に耐えながらも、ルイズはトロトロと皿を洗う。その目には生気がまるで宿ってなかった。
 いつも通り客に怒りをぶちまけてきた為、今はやるせない悲しみがルイズを襲っていた。
 そこに、今度はジェシカがやって来た。ルイズは思わず、不貞腐れた様子で目をそらす。
「何よ、何の用?」
「決まってるじゃない、皿が足んないのよ。誰かさんのせいでね」
 ジェシカは、腰に手を当てて頬を膨らませる。そして止まっているルイズの手を見て怒った。
「全く、もっとハキハキやりなさいよ。皿一枚に何分も使わないの」
 そう言って、手本を見せるかのようにジェシカが皿を洗う。ルイズの十分の一にも満たない速さなのに、その皿はルイズよりピカピカに輝いていた。
「ホラ、こうやってやるのよ。分かった?」
「……」
「返事くらいしなさい」
「…分かった」
「そうじゃないでしょ、ありがとうでしょ?」
 ずいっ、とルイズの顔を真正面に近づけながら、ジェシカは睨みつけた。
 その真剣な表情に、とうとうルイズは抑えていた気持ちを爆発させてしまった。
「…もうやだ。辞めたい」
 とうとう、ルイズは涙を流してそう呟いた。
 剣心は構ってくれない、任務すら満足にこなせない、そして店では怒られる。
 大体、こんな仕事自体柄じゃない。無理があったんだ…。
「じゃあ辞めればいいじゃない。わたしだって迷惑してんのよ。でもね、一つ言っとくけど、そんな調子だとどこ行っても通用しないわよ。貴族のお嬢ちゃん」
 厳しい眼でジェシカは言った。ルイズは若干驚いたようだったが、ジェシカは構わず続ける。
「隠さなくてもいいわよ。どうせバレバレだし。でもこの際だから言わせて。あのね、皆必死で働いているの。色々な事であくせくして、色んなことで怒鳴られて、それでも笑ってこの商売続けてるのよ」
 ルイズは、思わずジェシカの姿を見つめた。
「わたしだって、最初からこんな風じゃなかったわ。そりゃあ色々言われたわよ。注ぎ方がなってないだの、注文が遅いだの、云われないことで散々怒られたりしたわよ。
でもね、誰だって最初から凄い人なんていないんだから、要はそれから逃げずに必死で今を受け止めれる覚悟が必要なのよ。それがないんじゃ、何やったって大成なんかしないわよ」
「…何よ、言いたい放題言って…」

62 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 21:19:54.85 ID:XWyj0cHd
 涙を貯めた目をこすりながら、ルイズはジェシカを睨みつけた。
 思わずそう言ったが、ジェシカのその言葉に少し心を打たれたのも事実だった。
 事実なのだが…それでもここで引いてしまったら、自分の貴族としてのわずかなプライドまでもが無くなってしまうような、そんな気がしたのだ。
「…やってやるわよ…逃げてたまるものですか!!」
 ルイズはそう叫んだ。そうだ、貴族は背を向けない。どんな辛いことがあろうと、そこから逃げるわけには行かないのだ。
 …例え、今は独りだろうと…。
 ジェシカは、少しだけ感心したような表情を見せると、最後にルイズに手を振って厨房から出て行った。
「まあ、期待せずに待ってるわ。借金も返して貰わなきゃだし、それ洗い終わったらもう一度だけチャンスをあげるわ。だから頑張んなさい」
「何よ、もう!! 見てなさい、皿洗いなんてすぐに終わらせてやるわ!!」
 ジェシカが言い残した言葉を聞いて、ルイズは発奮したように皿を洗い始めた。

(これで少しは大丈夫かね…)
 張り切ったように皿を洗うルイズを見て、少し期待するような感じで厨房から出たジェシカは、再び営業の方へと戻ろうとして…そこで何人かのメイドが困ったような風で佇んでいた。
「どうしたの? 何かあった?」
「あっ…ジェシカさん。それが…」
 と、一人のメイドが恐る恐る指を、あるテーブルの方へと向ける。
 父が今接待をしているその相手を見たジェシカは、彼女達の迷惑そうな表情の意味を悟った。
「…全く…このタイミングであいつか…」
 苦々しげにジェシカが呟く。
 テーブルに座っているのは、いかにも貴族といった格好の男だった。
 部下の取り巻きを連れ、優雅そうに見える(ジェシカ達からはただ勿体つけているだけにしか見えない)所作で、父スカロンと会話している。
「ここも寂れたなあ。最近不景気なんじゃないかね?」
「いえいえ、貴族様が上に成り立っているおかげで、私共は生活できるわけですので」
「そうだろうそうだろう。私もこうやって客としてやって来ているのだ。そう簡単に潰さんでくれよ」
 嘘つけ、料金どころかチップ一つ払ったこと無いじゃないか。ジェシカは心の中で忌々しそうにそう呟いた。
 スカロンも、口ではああ言っているが、この男…チェレンヌにはほとほと困っているのだった。
地位と権力を振りかざす傲慢な貴族の典型。
 気に食わないことがあったらすぐ杖を抜く。気に入らないことがあったらすぐ権力に頼る。おまけに楽しむだけ楽しんで銅貨一枚払ったことがない。
 だが、権力や暴力を使われたらすぐにこの店も潰されてしまうのも事実なため、スカロン達も大きく出ることが出来ないでいた。
 今回だってそうだ。どこをどう見たって今は満席の状態なのに、それを見かねたチェレンヌは部下の一人にサインを送った。
 すかさず取り巻きの連中が杖を抜く仕草を見せる。それを見た客たちは大慌てで店から出て行ってしまった。
 残ったのは給仕中だったメイド達と、隅でこの様子を見ながら飲んでいる少女一人。閑古鳥が鳴くような今の店の惨状に、チェレンヌは愉快そうに笑った。
「成程不景気なのは確かなようだな!! ふぉふぉふぉ」
 ジェシカが悔しそうに目を伏せる。スカロンも疲れ果てた様子でチェレンヌを見ていた。
 それに構わず、チェレンヌはどっかと一番大きいテーブルのある椅子に座ると、未だにどうしようかと佇んでいる給仕の女の子に向かって叫んだ。
「どうした!? 誰か私に酌をするものはおらんのか!!」
 しかし、周りの給仕たちは困ったようにオロオロするばかり。それはそうだ。あんな助平を絵に書いたような男に、誰がただで相手をする物好きがいるというのか。
 だが、誰も名乗りを上げないのを見たチェレンヌは、つまらなさそうにフンと鼻を鳴らすと、今度は取り巻きたちと店の費用の削減だの、課税率の見直しだの、声高々にそう話し始めていた、そんな時だった。

63 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 21:22:47.33 ID:XWyj0cHd
「い、いらっしゃいませぇ〜〜〜」
 どこかぎこちない声が、チェレンヌ達の方へとかけられた。
 ジェシカが慌てて注目すると、そこにはルイズが作り笑顔を浮かべてヨタヨタと給仕に向かっている姿があった。
(あぁぁ、何かもっと話がこじれそうな気がする…)
 そんな不安を、ジェシカのみならず他の給仕達全員が抱えていた。
 しかし、ここで止めるのも不自然だ。チェレンヌの機嫌をこれ以上損ねるのだけは避けなくては…と思っていたジェシカだったが、どうやらルイズの体つきを見て早速難色を示しているようだった。
「何だこいつは…こんな子供に用はない!! この店は子供まで扱っているのか!!」
 それを聞いたルイズの額に、小さな青筋が浮かび上がる。普通ならこれで渾身と怒りの怪鳥蹴りが、顔面に飛んできてもおかしくはなかったのだが、ジェシカに諭された手前、何とか現状を奇跡的に維持していた。
「ま、まあお客様は…すす素敵ですわね…」
 震える声でお世辞を言うルイズは、何とも滑稽に写っていた。
チェレンヌは相手にもしなさそうに手を振ったが、よくよく見ればルイズは子供ではなくて「発育の悪い娘」だということに気付いた。
 すると、早速チェレンヌの中の助平心が爆発した。たまにはこういうのも悪くは無いなあ…うん。
「どれ、どれだけの胸の小ささか、私が見てやろう」
 そう言って、何の憚りもせずにチェレンヌはルイズの胸を掴もうと腕を上げた。
 余りの出来事にルイズはビクッとする。あともう少しで、チェレンヌの手がルイズの胸に触れようとした瞬間…。

 チェレンヌの視界が、急に赤い世界で染まった。
否、誰かが上からワインをぶっかけたのだ。

「き、貴様!!」
「チェレンヌ様に何てことを!!」
 取り巻きの部下が騒いで杖を抜く。ジェシカ達もこれには呆然としていた。
 ワインをかけたのは…先ほど隅で傍観していた少女だったのだ。

「見てられませんわ見てられませんわ見てられませんわ」
 少女は忌々しげにそう言うと、最後に空になったワイン瓶を振り上げ、未だあっけにとられているチェレンヌの顔めがけて叩きつけた。
 パリン!! と瓶が割れる音と共に、チェレンヌは椅子から転げ落ちる。
 漸く状況をつかめたチェレンヌは、ヨロヨロと立ち上がり、そして憎々しげな目でその少女を睨んだ。
「貴様…私にこんなことして…ただで済むと思うのか…!!」
「あら怖い。貴方如きが私をどうするおつもりなの?」
 少女はニヤッとした笑みをして、慣れ慣れしい手つきでルイズに寄り添った。黒を基調としたドレスに白いフリル。人形のような白い肌に冷たい翠眼が爛々と光る。
 一見すれば平民か貴族か、迷うような格好をしていたが、今のチェレンヌにはどうでもいいことだった。
「こやつとまな板娘を捕まえろ!!」
 激昂してチェレンヌがそう叫ぶ。すかさず取り巻きの部下たちは杖をルイズ達に向けた。
 しかし、今のルイズの頭の中には、先ほど吐いたチェレンヌの暴言がガンガンと響き渡っていた。
「ま…な…いた…?」
 完全なとばっちりなのに、これでも最善を尽くそうとしたのに、その挙げ句の果てがコレ…?
 この言葉によって、プッツンと、ルイズの中の何かが切れた。
 気が付けば、誰よりも早く、誰よりも力を込めて、ルイズは『爆発』を放っていた。

ドゴォォォン!!!

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!」
 チェレンヌと取り巻き一同を、まとめて店の外まで吹き飛ばした。
 チェレンヌ達は、何が起こったのか理解できない状態で、半ばパニックに陥っていた。
 しかし、それを許さないとばかりにルイズの地面を踏み砕くような音が聞こえてくる。
その足はチェレンヌのすぐ目の前で止まると、鬼のような形相でチェレンヌを見下ろしていた。
「あ、あああ貴方様はどなたで…」
 完全にへりくだった様な口調で、チェレンヌはルイズを見上げた。

64 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 21:25:39.82 ID:XWyj0cHd
 ルイズはゆっくりと懐から手形を取り出す。アンリエッタ公認の許可証だ。
 それを見たチェレンヌは、顔を真っ青にした。とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったことに、今更気付いたのだ。
「今日の出来事、全て忘れなさい。また私の前に現れたらどうなるか…これで分かったでしょう?」
「はっはい!! それは勿論!! ししし失礼しましたぁぁぁぁぁ!!!」
 チェレンヌは大慌てで、自分の財布を慰謝料がわりに地面に落とすと、同じように蒼白な表情の取り巻きの部下を連れて、一目散へと逃げていった。
 しばらくその、みっともない彼らの後ろ姿を見送ったルイズは、一旦大きく深呼吸した後、どこかやりきったような、そんな清々しい表情をしていた。
 さっきの『爆発』により、今まで溜まりに溜まった鬱憤をぶつけることが出来たのだ。今のルイズの心の中は爽やかな風が吹いていた。
 そしてそんなルイズの後ろから、今度は晴れやかな拍手が巻き起こっていた。
「すごいわ!!」
「よくやった!!」
「あいつの慌てた顔ったらなかったわね!!」
 あ、しまった…。とここでルイズは、遂に人目にはばかれずに呪文を唱えてしまったのを思い出した。
(どうしよう…)
 一瞬そのことに悩むルイズだったが、それを安心させるようにスカロンが笑みをたたえて言った。
「大丈夫よ。皆ルイズちゃんが貴族だってこと分かってたから」
 その言葉に、ウンウンと他の給仕の子も頷いた。ジェシカがペロッと舌を出してルイズに歩み寄る。
「だから言ったでしょ。バレバレだって」
「……あんたが告げ口とかしたんじゃ…」
「んなわけないって。あのね、この仕事何年も続けてるあたしらを舐めたらアカンよ。人を見る目は超一流なんだから」
 ジェシカは小悪魔のような笑みを浮かべた後、今度はにこやかな表情で肩を叩いた。
「別にバラしたりとかしないわよ。ここの子達はみんな訳ありだし、仲間を売るような事もないわ。寧ろスカッとしたわよ。ああ愉快だったなぁ」
 ジェシカの言葉に、取り敢えず追い出される心配はないようだと思ったルイズは、ほっと一安心して胸を撫で下ろした。これ以上剣心の足を引っ張れない。
 と、そんなルイズの前に、今度はさっきの少女…ルイズを助けてくれた人形のような顔立ちの少女が近寄った。
「これ、戦利品よ」
 少女は、ルイズの手の上にチェレンヌが落としていった財布を乗せた。
「あっ…ありがと…って、あんたは大丈夫なの?」
 ルイズは少し呆気にとられていたが、思えば少女がチェレンヌにした仕打ちまでは擁護出来ない。もしかしたらこの後彼等に八つ当たりされるかもしれない可能性もあった。
 しかし、少女は冷めた視線を遠くに向けながら、小さくポツリと、呟いた。

「別にいいわ…どうせアイツ、これからすぐ死ぬし」

「……えっ?」
「それにしてもあなたって面白いのねぇ」
 先程の言葉をかき消すように、グッとルイズに顔を近づけ、その目を覗き込むかのように少女は言った。
「魔法もそうだけど、さっきまであんなに怒った目をしていたのに。もうそんな清々しい顔ができるのね。…私はさっきの表情の方がよかったなぁ」
 と、何か変な魅力を放つ少女に、ルイズは少し後ずさった。それを察した少女はクスリと笑う。
「そう警戒しないで欲しいわ。折角お近づきになれたんですもの。私はジャネット。あなたの名は?」
「…ルイズ」
 何となく本名を明かしたルイズだったが、それを聞いたジャネットは一瞬、何かを思い出すかのように首をひねった。
(ルイズ…あれ…どこかで聞いたような…)
 何だっけ…確か、今回の『依頼』でお兄さま達が言っていた…。
(ああ!! そっか…この子か)
 途端に、ニヤッとした笑みをジャネットは浮かべると、ルイズの手に更にチップを乗せた。
「あなたの名前、覚えておきますわ。これは迷惑料としてとっておきなさいな」
 渡すだけチップを渡すと、最後にルイズにこう言い残して去っていった。
「あなたとは、また会うことになりそうね――――じゃあね!」

65 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 21:29:20.89 ID:XWyj0cHd
「…何なのかしら、アイツ」
 ルイズはしばらく、呆けた様子で少女が去った方を見つめていたが、スカロンの声でふと我に返った。
「それでは、チップレースの結果を発表しま〜す!! …まあ、今回は誰の目から見ても明らかでしょうけど」
 ルイズの手にある財布とチップを確認したスカロンは、ルイズの腕を思いっきりあげた。
「優勝、ルイズちゃん!! ホラみんな拍手!!」
「ルイズちゃんには我が家の家宝『魅惑の妖精のビスチェ』の一日着用権が与えられるわ!」
「え…あ……ちょっと待って!」
 しかし、盛り上がるスカロン達とは裏腹に、ルイズはどこか困ったような表情をした。
「どうしたの?」
「あの…その権利は、もうちょっと待ってもらえないかしら?」
 ルイズは、しどろもどろな口調でスカロンにそう尋ねた。『魅了』のかかったそのビスチェは、着ればたちまち色んな異性を虜にする強力な力を持っている。店の中を歩くだけでチップをたっぷり儲けられるほどだ。
 でも…その時、ルイズの頭の中には、剣心の姿が過ぎっていた。

 そうだ…結局のところ、見てくれないのでは…いないのでは意味がない。

 悩ましい表情のルイズから、その気持ちを察したスカロンは、ニッコリとした表情でルイズの方をたたいた。
「お兄さんに見せてあげたいのね? わかったわ。使いたいときはいつでも言ってね」
 そう言って、スカロンは今度は給仕の子達に片付けを命じ、再び店を開く準備をした。
「さあさあ、まだ夜は始まったばかりよ!! 今日もたくさんの人に楽しんでもらいましょう!!」



 さて、その一方。
 チクトンネ街では、フードを被った二人の少女が歩いていた。タバサとシルフィードだ。
(あれから、だいぶ経つ……)
 あの後、面倒事を避けるために身を隠しながらも、自分も何か、この事件に迫る情報を一つでも掴もうとあれこれ探っていた。しかし…。
(もうこれで、目星しいところは全て回った…)
やはり、身入りのある情報は入ってこなかったのである。
 これからどうしようかと考えて歩いていた矢先、今度はとうとうシルフィードが駄々をこね始めた。
「もう嫌、疲れたのね。今日はこれでおしまいにして何か食べたいのね!!」
 そのシルフィードの声に反応するかのように自分の腹も大きな音を立てた。今日一日ずっとまわっていたせいで食事をとることも忘れていたのだ。
「…分かった」
「やったああ!! じゃああそこにしよう!! きゅいきゅい!!」
 仕方なくタバサも、一旦探索を打ち切って料理店の一つに入り、そこで一息つくことにした。
注文して、運ばれてくる料理を、フードを外したシルフィードが美味しく平らげる。
「う〜〜ん、まったりしていい心地の食感なのね。きゅいきゅい!! おねえさまも食べるのね!!」
 ご満悦そうな表情で肉を頬張るシルフィードを見ていて、タバサも本格的にお腹がすいてきた。自分もフードを外して、料理に手をつけようとしたとき…。

「失礼する」
 店の扉から、一人の女性がそう言って入ってきた。思わず店内の人たちは、そちらの方へと注目した。
 その女性は、中々な存在感を放っていた。凛々しい目つきに短く切られた金髪。騎士のような格好に剣を下げた姿は、見るものに無骨なイメージを植え付ける。
 女性は、鋭い目でしばらく店内を見回していたが、やがてその目をタバサ達の方へと向けた。
 タバサは、特に気にする風でもなく料理を食べていたが、女性はそれに構わずツカツカとタバサの前にやって来た。
 女性は開口一番にこう言った。
「…成程、お前か」
「―――へ?」
 シルフィードがびっくりして女性の方を見るが、逆に睨み返されただけで萎縮してしまった。
その鋭い目をタバサにも向けるが、相変わらず彼女は無表情のままだった。
 女性は、全然臆さないタバサが気に入ったのか、少しニヤリと笑った。
「少しいいか?」
 返事を待たずに、女性は向かい側の席に腰掛ける。
「なっ、何なのね急に!!」
シルフィードはきゅいきゅい喚いたが、タバサはそれを手で制する。
「一体何?」
「単刀直入に聞こう。お前か? ナヴァール一個中隊を、たった一人で薙ぎ倒したというメイジは」

66 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 21:33:11.80 ID:XWyj0cHd
 タバサは目を少しつり上げた。途端に汗だくになったシルフィードがフォローになってないフォローを入れる。
「急に何言い出すのね。言いがかりなのね!! 証拠はどこにあるのね証拠は!!」
「簡単に言えば、お前たちのしている髪の色が、その証拠さ」
 女性は、不敵な笑みをしたまま続ける。
「お前達のような青い髪をしている連中は、そうそういない。私達の情報網を舐めてもらっては困る。一体どれだけの騒ぎだったと思うんだ? 証言者はたくさんいたんだ。」
 うっ…とシルフィードは声を詰まらせる。そう言われては逆にどう返せばいいのか分からないのだ。
 しばらく沈黙が流れる。タバサはゆっくりと水の入ったグラスを手に取り、一気に飲み干した。
 グラスを下げたあと、タバサは言った。
「それで…どうする気?」
 そして、女性に悟られないように杖に手を伸ばす。それに気付いたのか、女性は手で制する仕草をした。
「落ち着け、別に連行してどうこうする訳じゃない。それならこんな回りくどい会いかた、普通しないだろ? もっと堂々とお前達を捕らえにくるさ」
「なら…一体?」
 タバサは怪訝な表情で女性を見つめる。やがて女性はこう言った。
「その強さを見込んでな、頼みごとがある」

 タバサは、その女性から詳しく話を聞くこととなった。
「今この国に、殺人鬼が蔓延っているのは知っているだろう? 高位の貴族ばかりを狙った悪辣で非道な殺人事件。先週も、また一人殺された」
 女性は、一枚の紙を取り出してタバサに見せる。それは自分も見たことのあった、記事の一つだった。
「何とかして、これを止めなくてはならない。そのために今、強いメイジを募集しているんだ。地位や略歴は一切問わない、ただ純粋に強い奴をな」
「そんなの、軍を使えばいいのね」
「悪いが我が国は戦時中だ。そうやすやすと軍など動かせんし…それに…な」
「………?」
 シルフィードが無邪気に疑問符を浮かべる。やがて女性はタバサ達の近くに寄って、耳打ちするように言った。
「これは機密故に他言無用で願いたいのだが…先週起きた事件で、その貴族の私兵、政府の送った軍隊合わせて八十名近くを投入したんだが、…半分が重傷、その半分が殺された」
 タバサとシルフィードは、一度驚きで互いの顔を見合わした。
「ちょ…ちょっと待ってなのね、何でそんなにいたのに大惨事になっているのね?」
「分からん…だがかろうじて生き延びた連中は口を揃えてこういうんだ。『金縛りにあった』と…」
 タバサは、思わず背筋が凍りつくような気配を感じた。剣心が言っていたことが、脳裏に蘇ってくる…。

67 :るろうに使い魔:2015/03/28(土) 22:39:33.18 ID:XWyj0cHd
『奴は強いのではなく、危ないでござるよ…』

(心の一方…目を合わせた相手を不動金縛りにする術…)
 術にかかれば自分でもどうなるのか…だが女性の語りから見て無事では済まないのは確かなようだった。
 改めて、戦慄で汗がゆっくりと頬を伝う。
「…奴は楽しんでいるんだ。政府と貴族が手を打って作り上げた警護、それをどれだけ打ち崩し、人を斬るのを…。これ以上好き勝手にやらせる訳にはいかない。とにかく今は急を要するんだ」
「ということは…今、また誰かが狙われている?」
彼女の熱のこもり具合から見て、タバサはそう察した。女性は小さく頷く。
「ああ、今夜の零時丁度…そう書かれてあったらしい。時間がないのだが、その前にお前たちに会えたのは幸運だった」
 今夜…? タバサは壁にかかった時計を見る。襲撃予告まで、もうすぐではないか。
 そして、女性は遣る瀬無さそうな表情でタバサを睨みつけた。
「実を言うとな、本当は次の襲撃の護衛にはナヴァール隊の連中を入れるつもりだったのだが、『誰か』のせいでそれも適わなくなってしまってな…おかげで対応が後手後手に回ってしまって、急遽この件で募集した連中を投入せざるを得なくなってしまった」
 その言葉に、タバサも少し申し訳なさそうな顔をした。
「…御免なさい」
「別にいい。恐れをなして逃げる奴等に結果など求めても無駄だ。むしろ問いたいのは、お前が奴らの代わりになるぐらいの強さが、あるかどうかだ。だから頼もう」
 そして、改めて毅然とした振る舞いで、女性はタバサの目を見て、こう言った。

「その貴族の護衛を頼みたい。勿論報酬は約束するし、この一件も水に流そう。どうだ?」

 タバサは、剣心の言葉を思い出す。未知の人斬り、自分では絶対に勝てないと言わしめる程の相手。
 まさか、こんなにも早くその機会に恵まれるなんて思ってもみなかった。
「お姉さま、どうするのね?」
 シルフィードが心配そうな表情でタバサを見つめていた。
対策らしい対策はとっていない。でも、この機を逃したらもう、永遠にやってこない気がした。
 少しでも彼等に近づく為、そして本当の目的の為、今この地点が、自分を変える起点になると、タバサは強く感じていた。
だからタバサは、こくりと頷いた。復讐、そして奪われた人を取り返すために…今はただ強くなりたかった。
女性は、満足そうな笑みを浮かべ、そして席を立った。
「そうか、わたしはアニエス。よろしく頼む」

今回はこれにて終了です。
ここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

68 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/03/28(土) 22:55:49.58 ID:8towI8Wb
乙、しかしトリステインの皆さんはともかくガリア国民は何で誰も青髪=王族と結びつかないのかねぇ。
知っててもそれがどんな色合いなのかまでは知られてないとか?

69 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 21:58:58.21 ID:iLQEK4Vq
こんばんは。焼き鮭です。本筋に戻る六十話、投下致します。
開始は22:02からで。

70 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 22:02:18.56 ID:iLQEK4Vq
ウルトラマンゼロの使い魔
第六十話「疑心の雪山(前編)」
氷超獣アイスロン 登場

 空飛ぶ大陸に存在する国家、アルビオン。『白の国』の異名を持つこの地は、冬の季節、
一年の始まりである始祖ブリミルの降臨祭を間近に迎えようとしている時節であった。
 そのアルビオン大陸に連なる山脈に白い冠を被せる吹雪の中を、ハルケギニアの文明には
存在しないはずの複葉機が飛んでいた。これは才人がシエスタの一家から譲り受け、
コルベールに修復してもらったゼロ戦である。
「……ちょっとサイト、指定の場所への進路から、少し左にずれてるみたいよ。修正して」
 ゼロ戦のコックピット内で、ルイズが地図と計器を見比べて指示した。ゼロ戦は本来単座だが、
コルベールの改造によってルイズが収まる後部座席を加えてもらっている。
 しかし、操縦席で桿を握る才人はボーっとしていて、聞こえていないようだった。
「サイト! 聞いてるの!? 右に軌道修正してって言ってるの!」
 ルイズが強く呼びかけて、ようやく才人は我に返った。
「あ、ああ、ごめん……風が強くてさ……」
「言い訳しないで! しっかりしてよね! これからわたしたちは、とても重要で名誉な
任務を遂行するのよ。あんたのせいで失敗なんかしたら、承知しないわよ!」
 謝った才人だが、ルイズの強い語調のなじりでムッと顔をしかめた。
「おい、そんなに言わなくたっていいだろうが!」
「口を動かしてないで、操縦に集中してなさい! それがあんたの仕事でしょう! 使い魔なら
使い魔らしく、役目に集中なさい!」
 言い返すも、ルイズは更に語気を強めた。取りつく島もない態度に、才人は不承不承に顔を前に戻す。
「へいへい、分かりましたよ、ご主人さま。……ったく……」
 不機嫌に舌打ちする才人に、ルイズもまた苦虫を噛み締めた表情になった。

 トリステイン・ゲルマニア連合軍は二週間前、遂にアルビオン大陸への進撃を開始した。
連合軍はまず上陸を行うために、空軍基地ロサイスを占領した。もちろん敵軍の重要拠点だったので、
容易なことではなかった。しかし連合軍は、女王直属の極秘エージェントという立場になったルイズの
『虚無』の魔法により、第一次攻防戦に快勝した。『イリュージョン』で作った幻の艦隊を別の
ダータルネス港に近づかせ、敵空軍を陽動したことで、空戦力に劣る連合軍は大勝を飾ることが出来た。
 その後連合軍は、ロサイスに陣地を構えてアルビオン軍の反撃に備えた。しかし予想に反して、
アルビオンの攻勢は全くなかった。アルビオン軍主力は、首都ロンディニウムに立てこもったままだったのだ。
 連合軍に具体的な損害は発生しなかったものの、無駄な陣地構築によって兵糧を無駄にしてしまった。
財政がギリギリのトリステイン・ゲルマニア両国にとっては、兵糧の浪費はかなりの痛手だ。連合軍は迅速な
進軍を求められた。しかし、途中の敵拠点を無視して一気にロンディニウムまで進撃するのは危険が大きい。
 そこで、シティオブサウスゴータという古都を占領する作戦が立てられた。サウスゴータは
アルビオンきっての大都市であり、街道の集結点である。ここを取れれば、他の拠点を見張りながら
ロンディニウムまで進軍可能だし、持久戦もやりやすい。現状では最良の手と言えるだろう。
 しかしそれだけの重要地点、当然敵の守備が厚いことが予想される。なるべく安全にサウスゴータを
奪取するために、またルイズに白羽の矢が立った。主力に先行してサウスゴータに赴き、『虚無』の力で
敵に大打撃を与える。ルイズと才人は、その作戦の真っ最中であった。
 幸い、トリステイン側の士気は非常に高い。それは、女王アンリエッタがこの戦地に赴き、
自ら兵士たちを鼓舞しているからだ。先の上陸戦の勝利の勢いもある。これならば、ルイズの攻撃が
あまり効果を発揮しなくとも、占領自体は失敗しないだろう。そう考えれば、気が楽になるかもしれない。

71 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 22:05:42.88 ID:iLQEK4Vq
 だが、しかし……才人の心持ちは、意気揚々としている兵士たちとは逆に暗かった。
(みんな、どうしてそんなに活気があるんだよ。命の奪い合いをするんだぞ……!?)
 才人はアルビオンへ発つ前に、コルベールの死を目撃した。人の“死”に慣れるなという、
彼の想いを知った。そのために、いつもよりも人の生死に過敏になっていた。
 また、上陸作戦の際にも、人の死に直面した。『イリュージョン』の効果を最大にするために、
自分たちが直接ダータルネスに乗り込んだのだが、その際に護衛の名も知らぬ少年竜騎士たちが、
敵の攻撃からの盾となって次々と撃墜されていった。彼らの、死を目前とした者のみが出来る
諦めの境地の笑顔が、才人の脳裏から離れない。
 もっとも、彼ら自体はどういう訳か、一週間も経ってからひょっこり帰ってきたのだが……。
どうやって助かったのか、一週間どこに隠れていたのか、彼ら自身が何も覚えていないという、
何とも摩訶不思議な事態であった。その謎は、今も解き明かされていないままだ。
 ともかく、こういったことで才人は人の命を奪うことに強い疑問を抱き、戦争に荷担している
現状にも消極的な気分でいるのだった。侵略者を撃退するのとは、訳が違うのだ。
(俺は、どうしてこんなところにいるんだろう? そりゃあ、ヤプールと宇宙人に支配されてる
アルビオンを放っとくことは出来ないってことは分かる。でも……他に方法はなかったんだろうか。
人が人を殺す以外の解決手段が……)
 才人が塞ぎ込みがちなので、ルイズがきつく言って命令を言い聞かせるありさまなのだった。
 しかし、ルイズが才人に厳しく当たるのは、それだけが理由ではないのだった。ルイズも本当は
そんなことはしたくない、根を詰めている彼に優しくしてあげたいとは思っているのだが……。
(サイトは、直にこの世界からいなくなるのよ……。優しくしたって、しょうがないじゃない……)
 ルイズは、先日のことを回想する……。

 グレンが傭兵として連合軍に参加していると耳に挟んだルイズは先日、彼に挨拶をしようと
足を運んでいた。しかしその時はちょうどグレンとミラーナイトが会話をしているところであり、
ルイズは意図せずして二人の話を盗み聞きしてしまったのだ。
 その内容が、才人のことだったから。
『ところでよぉ、いつになったらサイトの命は再生するんだろうな? ランの時は、割とすぐに
再生したのに』
『サイトは命の損傷が非常に大きかったそうですからね。その分、時間が掛かるのでしょう。
あなたが助けたウェールズさんと同じですよ』
 グレンと鏡の中のミラーナイトは、そう話し合っていた。
『ゼロに聞いたところ、二人の分離は今年中には間に合いそうにないとのことです』
『そうか……。ってことは、ヤプールとの決戦でも二人は合体したままってことになるだろうな。
決戦までサイトを巻き込むってのは、気が引けるが……』
 ヤプールとの決戦は、連合軍がロンディニウムに乗り込む降誕祭の前後までに起こるだろうとの
予測が立てられた。わざわざ国一つを乗っ取っておいて、奪還されるのを指をくわえて見ている
だけとは到底思えない。その時点に、何らかのアクションを起こすはずだ。
 敵の攻勢は、こちらの攻勢のチャンスでもある。ウルティメイトフォースゼロは、これ以上
ヤプールの魔手にハルケギニアを侵させないためにも、無理矢理にでもその際に決着をつける
腹積もりでいるのだった。
『ですね……。しかし、こればかりは仕方ないことです。それに、決戦を無事に乗り越えさえ
すれば、ようやくゼロとサイトは分離できるでしょう。ヤプールさえ倒せば、ゼロが一旦この宇宙を
離れるのにも問題はないはずです。その時こそ、やっとサイトをチキュウに帰してあげられますね』

72 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 22:08:45.72 ID:iLQEK4Vq
『ようやくかぁ。サイトの奴も、故郷が恋しいことだろうな。あいつが無事に帰れるように、
俺たちがしっかりとサポートしてやんなきゃな!』
 それを聞いて……ルイズは、あまりにも大きなショックを受けた。
(サイトが……帰る!?)

 その時のことを思い返して、ルイズは悶々とした。
(サイトが故郷へ帰る……それは当然の権利じゃない。そもそもが、不当にこの世界に連れて
こられたようなものなんだもの。私に、それを止めることなんて出来ない。むしろ、進んで
送り出してあげなきゃ。……でも……)
 才人がいつまでもこの世界にいる訳ではないこと、いずれはいなくなる存在であること。
分かっていたつもりであった。しかし、いざ意識してみると……胸の辺りが、いやにもやもやと
する。それを認めたくない気分になる。けれど、その気持ちを肯定する訳にはいかない。
押し殺さなければ……。その気持ちの矛盾がルイズの心をかき乱し、つい才人に厳しい態度を
取らせてしまうのだ。
 それぞれ複雑な心情を抱えた二人を乗せたゼロ戦だが、とうとう目的地が近づいてきた。
 吹雪を抜けた先に、山間の広大な盆地に築かれた白い街並みが見える。あれがシティオブサウスゴータだ。
「ルイズ、見えたぞ! でも、『虚無』の魔法、上手く使えるのか?」
 ここに至って、才人は心配になった。『虚無』は威力が絶大な分、消費する精神力も大きい。
実際にルイズは何度か、精神力切れを起こしている。特に最近は、『虚無』を使用することが多かった。
今のルイズに、敵陣を壊滅させるだけの『爆発』を起こせるのだろうか。
「任せて! ……思ったよりもずっと、敵影が少ないわ。これなら何とかなるはず……!」
 眼下に見えるサウスゴータの街に在中している敵兵は、ほとんどがオーク鬼やトロル鬼といった
大柄の亜人で、それを指揮するメイジが何人かという謎の構成。兵隊の姿は異様に少ないし、
亜人だってわんさかといる訳ではない。大都市の守衛としては、いやに手薄な陣営だ。
 実に奇妙だが、隠れている訳でもなさそうだ。それに、敵が少ないならそれに越したことはない。
ルイズは風防を開いて、呪文の詠唱を開始する。
 だが、完成する前に一騎、ゼロ戦に急接近してくる竜騎士の影が見えた。騎士の跨る火竜が、
炎のブレスを吐こうとしている。
「待った、ルイズ! 敵が近づいてる! そっちを振り切るのが先だ! 一旦風防を閉じろ!」
 才人はルイズをコックピットに戻し、ゼロ戦を駆る。右にそれたゼロ戦は、ギリギリのところで
炎のブレスを回避した。あれが当たっていたら、機動力の犠牲に装甲を薄くしたゼロ戦のこと、
エンジンをやられていたことだろう。
 竜騎士から逃れようとするゼロ戦は、サウスゴータの上空からそれて雪山の方へと移っていく。
「街から離れちゃ駄目じゃない! 引き返して!」
「けど、敵が!」
「倒せばいいでしょ!?」
 確かにルイズの言うことの方が確実だ。撃ち落とした敵は、もう追撃してこない。
 しかし……自分にゼロ戦の機銃を、人に向けることが出来るのか? 撃てば……相手は
死ぬ可能性が高いのだ。
 逡巡する才人だが、決断を下す時間の余裕はなかった。山間の吹雪の中に……巨大な怪物の
影が見えたのだ。
「!? あれは!?」
「キョォォオオオオオオ!」
 吹雪のカーテンを潜って、青いトゲトゲとした氷像のような巨大怪物が姿を見せた。顔面には、
真っ赤な三つ目が荒天の中で爛々と輝いている。
「きゃあッ!? 怪獣よ!」
「いや、あいつは……超獣だ!」
 才人の叫んだ通り、怪物の正体は氷超獣アイスロン。ということは、ヤプールの放った
刺客に違いあるまい。自分たちの命を狙っているのか。
「キョォォオオオオオオ!」
 アイスロンは口から、猛吹雪をも上回る猛烈な冷凍ガスを噴射する。狙う先は、当然ゼロ戦。

73 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 22:12:04.90 ID:iLQEK4Vq
「危ないッ!」
 あんな冷凍ガスを食らってはひとたまりもない。才人は操縦桿を操り、ゼロ戦を動かして
アイスロンから逃げる。ゼロ戦の飛行速度ならば、不可能なことではない。
 だが、才人たちを追い回していた竜騎士が代わりに冷凍ガスに襲われた。火竜の翼が凍りつき、
飛べなくなって山中へ向けて落下していく。
「あぁッ! あの騎士が!」
「サイト! よそ見してるんじゃないわよぉ!」
 才人がそれに気を取られたことで、反応が遅れた。
「キョォォオオオオオオ!」
 アイスロンが吐いた冷凍ガスを、今度は避け切れなかった。ゼロ戦は機体が凍り、バランスを
崩してしまう。
「う、うわあぁぁぁッ! しまった!!」
「馬鹿ぁッ!」
 慌てて操縦桿を握り直す才人だが、もう遅い。機体を立て直すのは不可能だ。かと言って、
ゼロアイを取り出して変身している暇もない。少しでも手を離したら、その途端にゼロ戦は
真っ逆さまである。
「しょうがない……! 不時着するぞ!」
 才人は必死に桿を操って、山間部へとゼロ戦を降下させていく。その機体が、吹雪の中に
紛れて見えなくなった。
「キョォォオオオオオオ!」
 アイスロンは消えていくゼロ戦を追いかけて、山の間に引き返していった。

 その後、ルイズと才人は奇跡的に助かった。アイスロンに発見されなかったのだ。ゼロ戦を煽っていた
吹雪が逆に幸いとなり、不時着の地点をアイスロンの目から隠してくれたようだ。
 しかし、雪山に滑走路はない。着陸してしまったゼロ戦は、もう飛ばせなくなってしまった。
そのためルイズと才人はゼロ戦を捨て置き、徒歩でアイスロンから逃れることとなった。
「もう……サイト、あんたがよそ見をするから、作戦は失敗しちゃったじゃない。姫さまに何と
申し上げれば良いか……」
 かまくらで一夜を過ごし、吹雪がやんだ雪山の中を移動する中で、ルイズが苦言を呈した。
それに才人は顔をしかめる。
「だって、あの竜騎士が俺たちの巻き添えになったんだぞ。無視するなんてこと、出来るかよ」
 との発言に、ルイズは次のように言い聞かせる。
「相手は敵だったじゃない。襲われたからと言って、放っておけばよかったのよ」
 それを聞いて才人は、険しい表情でルイズを見返す。
「な、何よ……」
「それ、本気で言ってるのか? 敵とはいえ、本気で人を見殺しにしろって命令したいのか? 
お前、そんな冷たい奴だったのかよ」
 と言い返すと、ルイズはバツが悪そうに目を泳がせた。
「わ、わたしだって、本当はこんなこと言いたくないわ。でも……今は戦時中なのよ。冷酷に
ならなければいけない時だってあるのよ……。戦う相手にいちいち温情を掛けてたら、自分どころか
味方も危険に晒すかもしれないのよ」
「……」
 ルイズの言葉を受けた才人は、無言のまま目を伏して前に向き直り、再び歩き出した。
 ルイズの言うことは、もっともかもしれない。戦争は一言で言えば、命のやり取りだ。
ちょっとのミスが、死という取り返しのつかない結果に直結しかねない。自分の、味方の
命を守るためには、情けを心から消さなければいけないのかもしれない。
 しかし……才人はそれが嫌であった。もっと言えば、そんなことを唱えるルイズを見るのが
たまらなく嫌だ。ルイズは高慢なところもあるが、心優しい少女だったはずだ。だから才人は、
彼女の側にいるのが嫌にならない。そうだったのに……今の非情なルイズを見ていると、
悲しい気分になってくる。人が変わってしまったみたいだ。
 人が変わったといえば……アニエスを思い出す。立派な騎士であったはずの彼女が、仇のコルベールを
前にした時は、完全な復讐の鬼と化していた。恨みとは、それほどまでに人を醜く恐ろしいものに変えてしまうものなのか。
 その恨みを生み出す「殺し合い」に参加している現状は、どうなのか……。本当にこれで
良かったのか……。その思いが、ずっと才人の心の底に渦巻いている……。

74 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 22:15:54.16 ID:iLQEK4Vq
「……サイト、あれ見て! 何だか変よ」
 陰鬱な気分になっていると、ルイズの呼びかけで意識が現実に戻った。
 二人の進行先に、雪の山が出来ている。その下から、何やら赤いものが覗いているのだ。
あれは何だろうか。
「ルイズ、下がってろ。確かめる」
 才人はデルフリンガーを抜き、正体を確認しようと恐る恐る近づいていく。近くから見て、
火竜が雪に埋もれているのだということが分かった。
「火竜……? ってことは、昨晩の……」
「だあああぁぁぁぁぁぁッ!」
 つぶやいた瞬間、火竜の羽が持ち上がり、下から鎧を纏った青年が飛びかかってきた!
「おわッ!?」
 才人は体当たりを食らい吹っ飛ばされるが、どうにか受け身を取った。
「サイト!?」
「くッ……お前は……!」
 才人は相手の顔を見て、昨晩に自分たちを追いかけてきた竜騎士だと確信した。一瞬だけ見えた、
相手の顔つきとほぼ同じだ。
「貴様ぁッ!」
 青年竜騎士は杖となるレイピアを抜き、才人に風の魔法の攻撃を放ってきた。才人は咄嗟に
デルフリンガーで吸収して反撃に出ようとしたが、
「うッ……!」
 それきり騎士は攻撃をせずに、グラリとその場に倒れ込んだ。
「ん? 気を失ったのか……?」
 用心しながら騎士に近寄る才人とルイズ。ルイズは騎士の右足に注目した。
「足を怪我してるみたいね……」
 それを知ったルイズは、才人に指示する。
「サイト、彼を背負って」
「え?」
「このままじゃ凍え死んじゃうでしょ? いいから早く!」
 デルフリンガーと騎士のレイピアをルイズに預け、才人は言われるままに騎士を背負いながら、
ルイズに問いかける。
「お前、さっきは敵は放っておけって言わなかったか?」
「でも、今は戦闘行為中じゃないわ。わたしだって、出来ることなら見殺しになんてしたくはないわよ。
彼も助けましょう」
 その言で、才人はルイズに優しさがなくなった訳ではないと思ってほっとした。……しかし、
同時に複雑な気持ちとなる。
(戦いでは殺さなきゃいけない相手を助けようだなんて、矛盾してるじゃないか……)
 ここでこの騎士を助けても、次の戦場では彼を手に掛けねばいけないかもしれない。そうでなくても、
助けた騎士が味方の命を奪うことは十分にあり得るのだ。戦場では、人助けも正しい行為にならないかも
しれないことを、才人は知ってしまった。
(くそッ……人として正しいことをしてるはずなのに、何でこんなことを考えなくちゃいけないんだ……)
 また才人が憂鬱になっていると、背負っている騎士がかすかに動いた。目覚めたのか。
「死んでも、名誉は守る……!」
「え? うわぁぁぁッ!?」
 才人は背負っている相手から、首を締めつけられる!
「くッ! この野郎!」
 当然才人は抵抗して、取っ組み合いとなる。その際の勢いで、騎士の懐からロケットが
飛び出してルイズの足元に落下した。
「あッ……」
「何しやがるんだぁッ!」
 才人は騎士に頭突きを食らわせて、弾き飛ばした。
「ぐぅッ!!」
 騎士は足の負傷もあり、立ち上がることが出来ない。その間に才人はルイズよりデルフリンガーを
受け取り、騎士に突きつけた。
 勝負は決したが、騎士は才人に要求する。

75 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 22:17:21.53 ID:iLQEK4Vq
「殺せ……! 敵に情けを受けるくらいなら、死んだ方がマシだ……!」
「……断る」
 だが才人は、切っ先を下ろした。それに騎士は憤りを見せた。
「僕が怪我をしてるからか? これくらい、怪我の内に入らん……!」
 騎士は無理に立ち上がろうとするが、すぐに崩れ落ちた。才人は彼の胸倉を掴むと、怒鳴りつける。
「俺は人殺しなんてしたくねぇ! ただ、ルイズを守り、無事に帰りたいだけだ! どうしても
暴れたいのなら、ふもとに着いてから、別の奴を相手にしろ!」
 そう言って突き飛ばすと、騎士は毒気を抜かれて、大人しくなった。才人はデルフリンガーを
ルイズに返し、騎士を再び背負う。
 と、その時、山の向こうからアイスロンの咆哮が聞こえた。
「キョォォオオオオオオ!」
「! 昨日の奴の鳴き声だ……。俺たちを探してやがるのか?」
 どうやら、アイスロンの気配はこちらに近づきつつあるようだった。危険を感じた才人は、
すぐにその場から離れようとする。
「森に紛れて、身を隠しながら逃げよう。お前も、もう暴れるんじゃないぞ。お前だって、
超獣の餌になって死ぬのは嫌だろ?」
「あ、ああ……」
 騎士を背負った才人とルイズは、逃げる寸前に騎士に覆い被さっていた火竜を見やった。
「あの竜は、お前を助けてくれたのか?」
「ああ……かけがえのない相棒だった。僕が凍死しなかったのは、あいつが温めてくれていたお陰だ。
……だが、もう……」
 騎士の言葉で、才人たちは火竜の息が既にないことを知った。
「……行こう」
 今の自分たちでは、火竜の遺体までは連れていけない。罪悪感は覚えるが、超獣が闊歩する
雪山の中に置き去りにすることを選択する。
「ウィンザー……ありがとう」
 騎士は才人に背負われながら、最後に火竜にそう告げた。才人とルイズも黙祷してから、
森の中へ逃げ込む。

 ふもとの連合軍の陣地までは、まだ大分距離がある。雪山の逃走劇は、まだ先が流そうだった。

76 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/03/31(火) 22:18:24.85 ID:iLQEK4Vq
以上です。
久々の本筋なのに、ゼロがしゃべってない。

77 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:03:20.45 ID:pMEgxigP
ウルトラマンゼロの方、乙です。
お久しぶりです。
宜しければ22時5分から投下のほうさせていただきます。

78 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:05:18.82 ID:pMEgxigP
深い深い森の中を、双月の明かりが薄っすらと照らす。
月明かり以外に照らす物は存在せず、漆黒の闇が辺りを支配していた。
時折、虫や梟の鳴き声が辺りに響くも、静寂そのもの。
そんな、学園からそう遠くない森の中であった。
森の奥にかまえたボロボロの廃屋内で、置かれた小さな椅子に腰掛けながら笑みを浮かべる人物が一人。
室内を、杖の先から出る明かりが灯し、ぼんやりとその姿が浮かび上がる。
やや青みがかった髪が、目深く被ったフードから覗く。年の程は20代前半程だろうか。
黒いローブに身を包んだ、細身の若い女性がそこに居た。
「フフ、全く運がいいね。こうも容易く『破壊の杖』を手に出来るなんて」
そう、彼女が手にしているのは、学院の宝物庫に眠っていた筈の秘宝『破壊の杖』。
彼女こそ、あの巨大なゴーレムを操り、堅牢な宝物庫から秘法を盗み出した張本人。盗賊、土くれのフーケであった。
土くれのフーケといえば、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れている大盗賊。
神出鬼没で、ありとあらゆる手段を用いて、貴族達の持つお宝の数々を盗み出す。
そして、その実力も折り紙つきであり、王宮の衛士隊ですら捕まえるのに手を焼く、手だれのメイジであった。
 
そんな彼女だが、現在一つの問題に直面していた。
「破壊の杖ねぇ……。名前は大層だけど、どうすれば使えるんだいこいつは」
そう。フーケは早速力を試そうと、その破壊の杖を振るった。しかし、一向に効果が現れないのだ。
魔法をかけてもうんともすんとも言わない。効果を発動するための条件が全く見えなかった。
「困ったね、これじゃあ盗み出した意味が無いじゃないか」
これから学院に戻って、使い方の情報を得ようかとも考えた。
しかしこの状況では不自然であるし、なによりリスクが大きすぎる。
「どうしたものかねぇ……」
フーケが顎に手をやり考える。と、そのときであった。
「ッ!誰だい!?」
フーケは、自分以外の気配がこの小屋の中にあることに気がついた。急ぎ明かりを消し、奇襲に備える。
「おや、お気づきでしたか。流石は土くれ」
暗闇の中から、丁寧な口調で男の声が聞こえた。部屋の隅から聞こえる声に、フーケが警戒を強めた。
「こんな夜中にレディを覗き見なんて、いい趣味してるじゃない。」
「これは失礼。お楽しみであったようで、つい声を掛けそびれてしまいましたよ」
変わらぬ口調で、暗闇の中の男は返す。フーケの顔に一筋の汗が流れた。一体どうやってこの小屋に忍び込んだのだろう。
長年盗賊家業をやってるフーケだったが、知らず知らずの内にここまで近寄られたのは初めてであった。
フーケは短くルーンを唱えると、杖を振るった。すると、黒一色だった視界が急に良好になった。
『暗視』。暗い視界で目をきかせる魔法である。
本来は水系統の魔法だが、トライアングルのフーケに使えない呪文ではなかった。
視界が良好になると、フーケは辺りを見回す。部屋の隅に、一人の黒いローブを纏った男の姿を見つけた。
フードを深く被り顔は分からない。長身の男だった。
再び即座に詠唱し、杖を振るう。すると、男の足元の床を破り、無数の土の腕が現れた。そのまま男の両足を拘束する。
「折角こんな夜に出会えたっていうのに悪いね。この私を土くれと知ったからには消えてもらうよ」
「それは困りましたね」
男は口調を崩さずに言った。その間に、男の身の回りに岩で出来た槍のようなものが練成されていく。
フーケが杖を振り下ろすと、岩の槍が一直線に男を貫く――筈であった。
「何!?」
ドスドスと、木の壁に槍が突き刺さる音が虚しく響いた。

79 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:06:59.65 ID:pMEgxigP
見れば男はその場から消え、土の手もボロボロに崩れ落ちている。
「馬鹿なっ!どこへ?」
一体どうやってアース・ハンドの拘束から逃れたのだろうか。いつの間に消えたのか。
部屋の中に男の影は見当たらない。彼女は焦りを隠さず辺りを見回す。
と、ついとフーケの首筋に冷たい金属の感触が触れた。
「お静かに。杖を捨てなさい」
どっと汗が吹き出る。背後より、先程とは打って変わって低い声が聞こえた。首筋の皮が僅かに切れ、血が滴る。
フーケは言われたとおりに杖を放り投げた。
「くっ……どうするつもりだい」
「ご安心を。貴方をどうこうするつもりはありません。私はただ取引がしたいのです」
「はんっ!随分と強引な取引だこと」
男がクックックと背後で笑うのを、フーケは苦虫を噛み潰したような表情で聞いていた。
「貴方は、そこの『破壊の杖』とやらが扱えないのが不満なご様子」
「それがどうしたんだい」
「しかし私は、その杖の力を引き出す方法を知っています」
「何?」
フーケは耳を疑った。この男は何を言っているのだろう。
魔法学院の宝物庫に眠っていた破壊の杖は、学院にいる教師達くらいしか情報を持っていない筈。
それを、あろうことか扱う方法を知っていると言ってきたのだ。フーケは平静を装いながら続けた。
「へぇ、それで?」
「その方法を教えて差し上げましょう、ただし条件があります」
「条件?」
「はい、それは貴方にこれから言う場所を襲って欲しいのです」
「ある場所を襲え?それだけかい」
思っていた以上に簡単そうな話であった。襲うだけであれば、自慢のゴーレムを使えばすぐカタがつく。
一体こいつにどういった意図があるかは知らないが、渡りに船だ。と、フーケはそう思った。
「そうです、私の言う手順に従えさえすれば」
男が付け加える。
フーケはしばしの間考えると。
「いいよ。その条件飲もうじゃないか」
唇の端を吊り上げながら、そういった。首筋から刃の感触が消える。
男が背後からゆっくりとフーケの前にまわった。
「で、どこを襲えばいいんだい?」
フーケはやれやれと肩をまわしながら、男に尋ねた。男はややあって、ゆっくりと口を開いた。
「王宮勅使の館。ジュール・ド・モット伯邸」

80 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:08:18.29 ID:pMEgxigP
所変わり、トリステイン魔法学院。
翌朝の学院内は、蜂の巣をつついたような大変な騒ぎになっており、学院の教師達は一人残らず宝物庫に集められていた。
「一体どういうことですかな、これは!」
教師の一人が怒鳴り散らすと、ミセス・シュヴルーズがビクリと肩を震わせた。
「も、もうしわけありません」
「申し訳ないで済みますか!ミセス・シュブルーズ!あなたが当直をサボっていたからこうなったのですぞ!
一体どう責任をとるおつもりですかな?」
教師が尚のこと追求を始めると、シュヴルーズは顔を青くして床に崩れ落ちた。
「わ、私家を建て始めたばかりでして」
そのままめそめそと泣き出してしまう。と、そこへようやくオールド・オスマンが現れた。
「これこれ。女性を苛めるものではない。ミスタ……えーっと、誰だっけ」
「ギトーです!お忘れですか!」
「そうそんな名前じゃったか。ギトー君、君は怒りっぽくていかん。」
オスマンがまあまあとギトーを宥めた。そして長くたくわえた髭を弄りながら、ゆっくりと辺りを見回した。
「諸君、これはわれわれ全員の責任じゃ。無論わしも含めてのな。考えてもみよ。
一体誰がこの学院に賊が入り込むなどと予想しておった?この多数のメイジが集いし学院に。」
集まった教師一同が顔を伏せた。確かにそうである。この中の誰もが、賊などものの敵ではない、と油断していたのだ。
当直をまともにしていなかったのはミセス・シュヴルーズだけではない。
「しかし賊はこの通り、大胆にも忍び込み『破壊の杖』を奪っていきおった。つまり、我々は油断していたのじゃ。
繰り返すようじゃが、これは我々全員の責任じゃ。大事な事なので二回言うぞい」
「おお、オールド・オスマン!貴方様の慈悲のお心に感謝いたします!」
シュヴルーズが感激しながらオスマンに抱きついた。いいのじゃいいのじゃ、とオスマンがシュヴルーズの尻を撫でる。
「わたくしのお尻でよかったら!そりゃもういくらでも!はい!」
辺りを非常に微妙な空気が包んだ。この空気を誤魔化すようにオスマンがコホンと咳をする。
「で、現場を見ていたのはこの三人かね?」
「はい」
コルベールが自分の後ろに控えていた三人を、前へと促した。
ルイズ、キュルケ、タバサそして官兵衛の四人が前へ進み出た。ちなみに官兵衛は使い魔であるので数には入っていない。
「ふむ、君達か……」
オスマンは興味深げに官兵衛をじろじろと見た。
「(なんだ一体?)」
官兵衛はオスマンの視線に違和感を感じた。自分のこの成りを怪しんでいるのかと思えばまた違う。
なにか値踏みをされているような、そんな感覚だった。
オスマンはうむ、と頷くと早速彼女らにフーケ目撃時の状況の説明を求めた。
ルイズらが詳しい状況を代わる代わる説明していく。
説明を一通り聞き終えたオールド・オスマンは、再び頷くと、考えるようにゆっくりと目を瞑った。
「成程、後を追おうにも手がかり無し、というわけじゃな……」
辺りを気まずい沈黙が支配した。教師一同も落胆したようにため息が漏れる。
そんな沈黙を打ち払うかのように、オスマンが口にする。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「そういえば今朝から姿が見えませんな」
「この非常時にどこに行ったのじゃ」
そんな風にざわざわと噂していると、突如宝物庫の扉がバンと開かれた。急いだ様子で、ミス・ロングビルが駆け込んできた。
「ミス・ロングビル!何処に行っていたんですか!大事件ですぞ!」

81 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:10:50.95 ID:pMEgxigP
「申し訳ありません、朝から急いで調査をしておりましたの」
「調査?」
「そうですわ。今朝方起きてみれば大騒ぎじゃありませんか。そして宝物庫はこの通り。
すぐに壁のサインを見つけたので、あの大怪盗フーケの仕業だと判明し、すぐに調査をいたしました」
ロングビルは落ち着き払った様子で、オスマンに告げた。
「仕事が早いの。ミス・ロングビル。それで、どうじゃった?」
オスマンが落ち着いた様子で促す。
「はい、フーケと思われる足取りが掴めました」
「な、なんですと!?」
コルベールが素っ頓狂な声を上げた。
「誰に聞いたんじゃね?」
「はい、ここから徒歩で一時間程の距離にあるモット伯爵の館で、衛士がそれらしい人影を見ています。
明け方、黒ずくめのローブの怪しい人物を見かけ、声を掛けたところ逃げられたとのことです」
「黒ずくめのローブ?それはフーケです!間違いありません!」
ロングビルの報告を聞いたルイズが叫ぶ。ロングビルが続ける。
「さらには、予告状がモット伯爵の元に届いています」
「なんじゃと?」
オスマンは髭を弄るのを止め、目を鋭くした。
「はい、それによれば明日の夕方。モット伯爵の元に参り、物品を洗いざらい頂戴いたします、と書かれているそうです」
「う〜む……」
オスマンが何やら考え込む。そしてしばらくすると口を開いた。
「急遽ジュール・ド・モット伯爵の元へ使いを出すのじゃ」
すると、コルベールが驚いたようにオスマンを見やった。
「オールド・オスマン、王室への連絡はよろしいのですか?王室衛士隊に兵隊を差し向けてもらわなくば……」
それに対してオスマンが目を瞑り、ややあってコルベールに告げる。
「まずは使いを出すのが先じゃ。王宮への報告はすでにモット伯がしているかもしれん。」
オスマンが重々しく呟いた。そして立ち上がり、宝物庫に集まった面々を見回すと。
「一先ずはこれにて解散とする。今は我々だけで動くべきではない。この後の判断については追って報告する、以上じゃ」
そう声高々に言い放った。
 
宝物庫で解散したあと、ルイズと官兵衛はひとまず自室に帰された。本日の授業はこの騒ぎにより、全て休講となっていた。
ルイズは自室のベッドに退屈そうに腰掛けながら、ぼんやりとしていた。
「どうした?浮かない顔して」
官兵衛がルイズに問いかけた。
「私のせいだわ。私達があの時フーケを取り逃がさなければこんな事にはならなかったのに」
「おいおい。あんなでかいヤツ捕まえろって方が無茶だ。気に病む事じゃない」
官兵衛が落ち込むルイズを見かねて、そう声を掛ける。しかし当のルイズは上の空であった。
はぁ、とため息をつくとルイズは俯いたままになった。やれやれ、と官兵衛が手をすくめる。
「お前さん、何でそこまで色々気負う?今回の件だって、前の失敗爆発だって、そこまで引き摺ることでもないだろう。」
官兵衛は思った。この娘っ子はプライドが高いばかりにいろいろな失敗事が許せないのだろう、と。
しかし、それは官兵衛からしてみれば非常に馬鹿らしい。
何があっても泥臭く生きてきた官兵衛にとって、理解しがたいものであった。
そんな官兵衛の心情を察してか、ルイズが反論する。
「なによ、あんたは悔しくないの?目の前でおめおめ秘宝を盗まれて。あざ笑われて。それでいて何一つ出来ない自分が!」
ルイズが勢い良く立ち上がる。

82 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:12:28.35 ID:pMEgxigP
「あんたにはわかんないでしょうね。貴族に生まれた人間の心の内なんて。
私達はただ闇雲に杖を振るっているわけじゃないのよ」
そういうと、ルイズは扉の方向へと歩き出す。
「おい、どこへ行くんだ?」
「オールド・オスマンの所よ。私、フーケ捜索の為に志願するわ」
その言葉に、官兵衛は驚き振り返った。
「何言ってる!無茶だ」
「無茶でも何でもいい!私やっぱり、このままでなんていられないわ。」
そう言うとルイズはバタンと勢い良く扉を閉めた。官兵衛は深くため息をついた。
「はぁ……全くあの娘っ子は」
 
「意気込みが良いのはいいが、小生の飯はどうするつもりだったんだかな。」
ルイズが出て行った後、官兵衛は腹の虫が鳴ったことに気がつき、厨房へと向かっていた。
シエスタに賄いを恵んでもらう為だ。
ルイズに、飯の事などすっかり忘れられている事に腹が立ったが、厨房にいけば全て丸く収まるのでそれ程気にしていない。
また薪割りでも手伝うか、と思いながら官兵衛は厨房の扉をくぐった。
「よう我らの鉄槌、良く来たな!」
相変わらずの調子でマルトーが官兵衛を迎えた。いつも済まないな、と官兵衛が笑いながら返す。
いつもどおりの光景である筈であった、しかし。
「どうしたマルトー殿。いつもより元気なさそうだぞ?」
「ん?ああ、そうか?そうかもな……」
おかしい。いつもは喧しいくらいのマルトーが、今日に限って覇気がないように感じた。
官兵衛が厨房を見回す。と、そこはいつもよりもどんよりとした空気が広がっていた。
「どうした一体?朝の宝物庫騒ぎの所為か?確かに物騒だが、そんなに落ち込むほどのことでも……ん?」
と、そこで官兵衛は、いつもイの一番に挨拶に来る、ある人物がいない事にようやく気がついた。
「おい、シエスタは今日は非番か?」
マルトーが何も言わず、深くため息をついた。嫌な予感が官兵衛の中に走る。
「シエスタならな」
マルトーが閉ざされた口をようやく開いた。
「朝一番に、馬車に乗っけられて行っちまったよ」
「何だって?何処にだ。この騒ぎの中、一体何で?」
官兵衛が次々と疑問をぶちまける。
「急遽モット伯って貴族に仕えることになったんだとさ。お偉いさんに気に入られたとあっちゃあ、断れる筈もねえ」
「モット伯だと?」
心底残念そうに言う。マルトーの顔には、怒りと諦めが織り交ざった表情が見て取れた。
「所詮、俺達平民は貴族には逆らえねぇのさ……」
マルトーは席に官兵衛を案内すると、寂しそうな背中を見せながら、厨房の奥へと消えていった。
その弱弱しい背中を、官兵衛は唖然とした様子で見ていた。

83 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:13:13.73 ID:pMEgxigP
身分の高い人物に見初められ、仕える。それが意味するところが、官兵衛に分からない訳が無い。
戦国の世でも、そうして見初められた侍女が、身分の高い武将の側室になる例は多々あった。
様はシエスタは、モット伯爵の妾として迎え入れられたのだ。
中庭で鉄球にぼんやりと腰掛けながら、官兵衛は空を仰いでいた。
「まあいい話なんじゃねぇか?そのメイドにとって。
身分の高いメイジに仕えるって事は、その分羽振りも良くなるってもんよ」
腰に差したデルフリンガーが官兵衛に語りかける。
「そうだろうな。よくある話だ」
それに対して官兵衛は、うわ言のようにそんな事を呟いた。
そう、よくある話である。官兵衛は先程から何度もそう思っていた。
この世界でも、やはり身分の低い者の意思が尊重されるような事は、稀なのだろう。
しかし、そんな事を気に病んでもキリが無い。何より自分には関わりの無い事なのだから、水に流そう。
そう、官兵衛は考えようとしていた。しかし。
『いつでも厨房にいらして下さいね、私待ってます』
その度に、シエスタが最後に言った言葉と、あの穢れの無い笑顔が彼の脳裏に思い出されたのだった。
ハッとして頭を振り、考えを打ち消す。
「何考えてるんだ」
自分らしくない、そう思った。やれやれと肩をすくめながら、官兵衛は立ち上がり、ルイズの部屋へ戻ろうとする。
と、その時だった。
「あの、もし」
唐突に後ろから声が掛けられた。見ると学院のメイドと思しき格好の女性が一人そこに立っている。
何度か厨房で見かけた、シエスタの同僚のメイドだ。メイドはおずおずと官兵衛に話しかける。
「カンベエさんですね。シエスタから伝言があって探してました」
「伝言だと?」
官兵衛は首を傾げた。
「はい、シエスタからの伝言はこうです。
『カンベエさんのお陰でこれから何があっても頑張っていけそうです。今までありがとうございました。』」
「そうか……」
シエスタの伝言を聞いて、官兵衛は短くため息をついた。律儀な娘だ。わざわざ自分なんぞに伝言を残していってくれるとは。
そんなメイドに礼を言うと官兵衛は歩き出そうとした、しかし。
「カンベエさん、言おうか迷っていたんですけど。一つだけ宜しいですか?」
その歩みはメイドの次の言葉で留められた。
「シエスタがモット伯爵のところへ仕えたのは知っていますよね?実はその話は前々からあったんです」
「前々から?どういうこった」
「はい、実はモット伯爵は度々学院に視察に来ていて。その度に気に入った平民のメイドに目をつけていました。
シエスタもそんな内の一人でした」
メイドが険しい表情で続ける。
「ですがシエスタは懸命にその誘いを断っていました。彼女は学院での生活を楽しんでいましたし、それに……」
「それに?」
「いえ、これは私の口からは。ですが昨晩のことです、モット伯が強引に彼女をメイドとして雇う事を決めたのは」
強引に、という言葉に力が篭っているのを官兵衛は聞き逃さなかった。メイドの手が難く握られ震える。
「あの子は無理やり連れて行かれたんです。そこに何か口約があったかは分かりません」
官兵衛は無表情で、しかし同じように拳を握り締めた。
「あの子、伝言を伝える時泣いていました。穏やかで明るいあの子が、普段は想像もつかないくらい。
それ程嫌だったんでしょうね。ここを離れモット伯に仕えるのが」
メイドがキッと官兵衛を見やった。
「別に貴方にどうこうしろとは言いません。相手は王宮の勅使で、学院の生徒とは全く違いますから。でも……」
そこまでいうと、メイドは一瞬辛そうな表情をしたが再び官兵衛を見据えて。
「あの子がどういう想いでここを出て行ったか、良く知っておいて下さい。他ならぬ貴方に知っておいて欲しいんです」
そういうとメイドは頭を下げ、耐え切れなくなったかのように駆けて行った。
そんなメイドの必死の姿を見て、官兵衛は鉄球にずしりと座り込んだ。額に手をやりしばし黙考する。
「やれやれ」
官兵衛はゆっくりと立ち上がると、デルフリンガーを鞘に収め、学院の本塔のほうへと消えていった。

84 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:14:22.66 ID:pMEgxigP
そのころルイズは、本塔最上階にある学院長室の前に来ていた。
緊張で喉が渇く。荘厳な造りの扉を前に、ルイズはゴクリと喉を鳴らした。
オールド・オスマンに会って話をするのだ、と意気込んだとはいえ、彼女は緊張していた。
自分の要望がそう簡単に呑まれるだろうか。状況が状況である。
扉に手を掛け、ノックしようとした瞬間。
「あらルイズ」
と、不意に彼女を声が引きとめた。見るとそこにはキュルケとタバサが仲良く立っていた。
「キュルケにタバサ。どうしたのよこんな所で」
「それはこっちのセリフ。貴方こそどうしたのかしら」
キュルケの言葉にルイズが言葉を詰まらせる。
「べ、べつにちょっとオールド・オスマンにご用があって来ただけよ。」
「ふーん……」
キュルケがそんなルイズの様子をじろじろ見た。
そしてふっと笑うと、再び口を開いた。
「どうせ貴方の事だし、フーケ探索にでも志願しに来たんでしょ?」
「な、なんでわかったのよ」
「あら、貴方の考えなんてお見通しよ。大方プライドが許さなかったんでしょう?」
「そんなんじゃないわ!私は――」
キュルケの言葉に反論しようとしたルイズであったが。そのとき、学院長室からミス・ロングビルが現れた。
「あら、みなさんどうされましたか?」
いきなりの登場にルイズはたじろいだ。ロングビルが、不思議そうに三人を見つめる。
「わ、私、オールド・オスマンに用があって参りました。是非とも私をフーケ探索隊に加えて頂きたく――」
しどろもどろになりながらルイズが言った。
続いてキュルケ達も同じ旨の発言をする。
それに対してルイズは振り返りながら、驚いた目でキュルケ達を見た。
「考えることは皆同じみたいよ?ルイズ」
キュルケが笑みを浮かべながら、ルイズをみやった。
タバサも静かに頷く。
二人のそんな様子に対してルイズもふっと笑った。
「わかりました。ではすぐにオールド・オスマンにお話を」
ミス・ロングビルが、話を聴き終えると、三人をスッと学院長室の中へと案内していった。
重厚な造りの扉が、静かに閉じていった。密かに浮かべていたミス・ロングビルの笑みを、そっと隠すかのように。

85 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/04/02(木) 22:37:11.60 ID:pMEgxigP
以上で投下完了になります。

86 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/04(土) 19:56:35.84 ID:ENdhx0SE
投下乙です。

皆様お久し振りです。
よろしければ、20:00頃から続きを投下させてください。

87 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/04(土) 20:00:05.70 ID:ENdhx0SE
 
ディーキンがハルケギニアに召喚されてから、数日後の深夜のこと。
トリステイン魔法学院の本塔最上階の一階下、宝物庫がある階で、息を潜めて周囲の様子を伺う人影があった。

学院長オールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルである。

今の彼女は、人前ではいつもかけている眼鏡を外していた。
その口元には妖艶な笑みが浮かび、目は獲物を狙う猛禽類のように鋭く吊り上っている。

それは、誰にも見せたことのない彼女のもう一つの素顔であった。

彼女の本名は、マチルダ・オブ・サウスゴータ。
元々は空中に浮かぶ大陸・アルビオンの王国のさる大公家に仕える、由緒正しい貴族家の一員であった。
しかしとある事情からその大公家は取り潰しの憂き目に遭い、彼女の家系も共に没落して、貴族の名を失ったのである。

その後はすっかり荒んだ生活を送るようになり、やがて盗賊稼業にまで手を染めるようになった。
元々優秀なメイジで機転も利く彼女は新しい生活にもすぐに慣れ、様々な偽名を名乗ってあちらこちらで活動し、巧みな手口で成功を重ねていた。
現在彼女が主に活動しているトリステインでは、『土くれ』のフーケと呼ばれる性別すらも分からぬ神出鬼没の大怪盗として、貴族を震えあがらせている。

さて、そんな彼女がここトリステインの魔法学院に秘書として入り込んだのは、もちろん宝物庫に収められているお宝が狙いであった。

彼女は宝石でも絵画でもヴィンテージワインでも、価値あるものならなんでも盗むが、高名で強力なマジックアイテムの類が特に好みなのだ。
そしてこの魔法学院の宝物庫には、数多くのマジックアイテムが収められている。

無論、ここはメイジの学院である以上、盗む上で厄介な障害となり得るメイジの数は多い。
だが、所詮は未熟な学生と世間知らずの教師が大半であり、実際のところ大して危険ではないと彼女は踏んでいた。
たとえそうでなくとも、ハルケギニア全体でも有数の歴史を持つこの学院のお宝には、危険を冒して狙うだけの魅力が十分にある。

「……さて、と。そろそろ、いいかしらね」

感覚を研ぎ澄まし、本塔の中で動く者がいなくなったのを確認したフーケは、そうひとりごちた。
優秀な土メイジである彼女には、接触している建物の床からの振動を注意深く感じ取ることで、近くに動いている者がいるかどうかを把握できるのだ。

今ならば、自分の行動を誰かに見咎められる心配はあるまい。
それでも、念には念を入れることにした。

ポケットから鉛筆ほどの長さの杖を取り出すと、無造作に軽く手首を振る。
杖はするすると伸びて、見る間に指揮棒ぐらいの長さになった。

彼女はその杖を振って、低い声で『サイレント』の呪文を唱え、周囲の空気の振動を止めて音が周囲に響くのを防いだ。
さらに、続けて『暗視』の呪文を唱える。水系統のこの呪文を使えば、唱えた者は一定の時間、闇の中でも視界を得ることができるようになるのだ。
屋内は暗いが、たまたま外を通りがかった使用人などに宝物庫のあたりで灯りが動くのを見られて不審がられる可能性もあるので、照明は使わない。

今回の彼女は、何もここまでしなくてもよかろうというくらい、過剰なまでに念入りに用心を重ねていた。
わざわざ秘書として学院内に潜り込んで事前の調査を行なったりして、ここに来るまでに随分な時間と労力とを使っているのだ。
ここまで来ておきながら些細な用心を怠ったばかりにすべて台無しになった、などということになってはつまらない。

秘書として働きながら情報を収集し、彼女が特にこれと目をつけたお宝は、学院長秘蔵の品として知られる2振りの杖であった。

今夜はついに、それを盗み出す予定なのだ。

88 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/04(土) 20:02:03.55 ID:ENdhx0SE
 
先に施したサイレントの呪文では、空気が音を伝えるのは防げても、建物の床の振動までは防げない。
ロングビルは念には念を入れてゆっくりと静かに歩を進め、宝物庫の巨大な鉄の扉の前にやってきた。

魔法学院成立以来の秘宝が収められている宝物庫の扉には太く頑丈な閂が掛かっており、その閂はこれまた巨大な錠前で守られている。

もちろん、この宝物庫の錠前や扉は、ただ物理的に頑丈なだけではない。
錠前はスクウェアクラスのメイジが設計した魔法の鍵で、普通の鍵なら簡単に開錠できるメイジの『アンロック』の呪文を受け付けない。
扉にもやはりスクウェアクラスのメイジによる『固定化』が施されており、自然の酸化や劣化、『錬金』などの各種の魔法の影響から守られている。
物理的に破壊するにしても、扉も周囲の壁も極めて分厚く頑丈なつくりで、たとえ巨大なゴーレムなどを用いても短時間のうちに壊すのはまず不可能だろう。
まずもって文句のつけようのない堅牢な宝物庫であり、並大抵の盗賊ではどうやってこれを破ったらよいものかと途方に暮れるところであろう。
彼女自身も、初めてこの宝物庫を検分した時にはどうしたものかと少なからず頭を悩ませたものだ。

だが、その問題は既に先日、解決済みだ。
にやりと唇の端を吊り上げると、錠前に向けて小さく杖を振り、アンロックの呪文を唱える。

たちまち、かちりと小さな音を立てて錠が外れた。

タネは簡単で、先日の決闘の折に『眠りの鐘』を取りに宝物庫に入った際、ちょっとした細工を施しておいたのだ。
本物の錠前を外した後に、自分で錬金して作った外見がそっくり同じ偽の錠前を掛けたのである。
腕利きのメイジである彼女の作った錠前は、優秀なメイジが疑って注意深く調べでもしない限り、まず偽物とは気付かれないであろう出来だった。
ちゃんと本物用の鍵を使えば開くようにも仕組んでおいたので、鍵が合わないなどで疑われる心配もまずない。

本物の錠前は錬金で作った粗悪な素材でくるんでただのガラクタ道具のように見せかけ、宝物庫の目立たない隅にある箱へ押し込んでおいた。
仕事が済んだら、元通り掛けなおしておけばよいだろう。

(立派な宝物庫もお宝も、持ち主があんな間抜けなエロジジイじゃあ気の毒ってもんだね。
 ここはひとつ、私がいただいて有効利用してやるさ……)

心の中でそんな嘲りの言葉をつぶやくと、真っ赤な舌でちろりと唇をなぞった。

最初はなかなか鍵を一人で預かることができず、かといって錬金やゴーレムによる力押しでの攻略も難しそうで、どうしたものかと悩んでいた。
宝物庫の弱点など聞き出せないかと自分に好意を寄せているらしいコルベール教員に付き合ってみたりもしたが、大した情報は得られなかった。
ところが先日の決闘の折に、何故か学院長が非常に興味を示していて上の空だったお陰で、何もかも首尾よく運んだのだ。

そういえばあの決闘をしたメイドは、最近平民の間では人気者らしく、よく噂を聞く。
決闘で貴族を負かすという、メイジの面子に泥を塗るようなことをしでかしたにもかかわらず、何故かメイジの間での評判も悪くはないようだ。
不思議なことに、決闘で平民に負けるという醜態をさらしたあのグラモン家の少年も何故か嗤いものなどにはなっておらず、評判はむしろいいらしい。
決闘の際の双方の潔い態度もさることながら、ヴァリエール家の少女の、あの奇妙な使い魔の披露した詩歌がとてもよかったという噂だが……。

(……まあ、私にゃあ関係ないね。
 あのガキどものお陰で万事上手くいったことには、感謝するけどねえ)

自分も機会があれば一度その詩歌とやらを聞いてみたいものではあるが、今はそんな事を考えている場合でもあるまい。

それよりも、苦労して手にしようとしてきたお宝が、ついに自分のものになるのだ。
フーケはとりとめのない思考を打ち切ると、いそいそと宝物庫の中へ入っていった。

89 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/04(土) 20:04:03.41 ID:ENdhx0SE
 
そこには、実に様々な宝物があった。
片っ端から盗んでやるのも気味がいいだろうが、それは自分の流儀ではない。
今回の狙いはただ2つ、『破壊の杖』と『守護の杖』だけだ。
所在は、前に宝物庫に入った際に既に調べてある。フーケは真っ直ぐにそこへ向かった。

宝物庫の奥まったところに様々な杖が壁にかかった一画があり、その中に一本、どう見ても魔法の杖には見えない品があった。

全長は一メイルほどの長さで、優秀な土メイジであるフーケでさえ、見たことのない金属でできている。
その下にかけられた鉄製のプレートには、『破壊の杖。持ち出し不可』と書いてあった。

用途もよく分からないし、『ディテクト・マジック』をかけてみても、魔力の反応は全く感じられない。
しかし、強力なマジックアイテムであれば、正体を探りにくいよう魔力を隠蔽してあるということも考えられる。
材質が自分でさえ知らない未知の金属であるというだけでも、確かに大したお宝に違いないことは確信していた。

その隣にもう一つ、こちらはいかにも魔法の杖という形の品があった。

木製の長杖で、石突きは鉄でできており、見たことのない奇妙な形の印形やルーンらしきものが無数に彫り込まれている。
その下にかけられた鉄製のプレートには、『守護の杖。持ち出し不可』と書いてあった。

一見すると高価そうには見えないし、これもまた使用法はよく分からない。
だが、こちらはディテクト・マジックをかけてみると、目が眩むほどの強烈な魔力の輝きが感知できた。
これほど凄まじい魔力を帯びた品は、様々な魔法のお宝を盗んできた自分でさえ、見たことがなかった。

(……まあ、使い道はあとで、何としてでも探り出してやるさ。
 とにかくこいつらは、王宮にさえないようなとんでもない値打ちものに間違いないからねえ……)

フーケはほくそ笑みながら、その2つを壁から取り外した。

さてこれらの杖は、どちらもさほど重くはない……むしろ破壊の杖などは、予想より遥かに軽くて驚いたくらいだ。
とはいえ、2つとも持ち運ぶには少々かさばる。
それよりなにより、宝物庫のお宝を持ち歩いているところを誰かに見られては厄介なことになるだろう。

そこで、杖を振ってゴーレムを一体出現させる。
ギーシュの使っているワルキューレと似たような青銅ゴーレムで、ただ身の丈はもう少し大きく2メイル半ほどあり、体格もがっしりしていた。
ここでは自分は平凡なラインメイジで通しているので、このくらいのサイズが妥当だろう。

フーケはこのゴーレムの体の中の空洞部分に、盗み出した2本の杖を収納させた。
さらに音がしないよう、周囲に錬金で詰め物をする。

もし帰り道で誰かに出会って聞かれたら、少し遅くまで仕事をしていて暗くなってしまったのだといえばよい。
このゴーレムは夜も遅いし、学院内とはいえ万一を考えて護衛用に連れ歩いているのだと説明すれば、まず疑われる心配もあるまい。
これで、帰り道でお宝が見つかる恐れはなくなったわけだ。

(さあて、あとは仕上げだね。
 仕込みはちゃんと上手くいってるかね?)

無論、お宝の入手という目的は、既に達成したわけだが……。

90 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/04(土) 20:06:06.19 ID:ENdhx0SE
 
しかしこのままでは、貴重な杖の盗難が露見したときに、先日鍵を預かった自分が真っ先に疑われる対象に入ってしまうだろう。
一旦疑いをもたれてこれまでの経歴などを調べられはじめれば、まず誤魔化し切れまい。
よしんばこの場では捕まらなかったとしても、顔が割れてしまっている以上、今後の仕事には確実に支障が出る。

もう一工夫、自分が容疑者から上手く外れられるような細工が必要だった。
そのための仕込みも先日、既にしてある。
フーケはその成果を確認するべく、宝物庫の別の一角へ向かった……。





仕込みが首尾よくいっていることを確認したフーケは、意気揚々と宝物庫を後にした。
これで後は、明日の『虚無の曜日』に仕上げを済ませれば完璧だ。

彼女は本塔から外に出る前に、抜け目なく眼鏡を掛けなおすと、気分を切り替えて生真面目そうな表情と態度を取り繕った。
人目があるかも知れない場所では、彼女は常に怪盗のフーケではなく、秘書のロングビルなのだ。
そうしてから、先程作ったゴーレムを伴って、自分の宿舎へ向かう。

それでも、内心の浮かれた気持ちが多少なりとも態度に現れて、足取りがいささか軽くなってはいたが。

「………あら?」

その途中、ふと妙な気配を感じて、空を見上げる。
明るい2つの月明かりの中、一頭の比較的小柄な青い竜が、女子生徒らの寮塔の方から学院の外へと向かって行くのが見えた。

あれはたしか、最近の使い魔召喚の儀で召喚された竜だったはずだ。
背中に、何人かの人影が見えたが……。

ロングビルは、内心で苦笑した。
いいところのお嬢様たちのくせに、明日が虚無の曜日だから、夜遊びに出ようというわけか。

まったく、普段はお行儀よくしていても最近の若い少女というものは。
自分があの子らくらいの年の頃は、貴族の娘としてもっとお行儀よくしていたものだ。

まあ、内心、もっと奔放に遊びたい気持ちも無かったと言えば嘘にはなるが。
故郷に残してきた大切な妹も、あの子らくらい元気に明るく、おおっぴらに遊び回れるようになれば、それは嬉しいだろうし……。

「……まあ、よいでしょう。私は教師ではありませんので」

彼女は肩を竦めてそんな言い訳じみたことを呟くと、特に呼び止めて注意をするでもなく、そのまま宿舎へ戻っていった。

91 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/04(土) 20:06:30.74 ID:8tC21FEf
支援

92 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/04(土) 20:07:17.11 ID:ENdhx0SE
短いですが、今回は以上になります。
またできるだけ早く続きを書いていきたいと思いますので、次回もまた、どうかよろしくお願いいたします。

それでは、失礼しました(御辞儀)

93 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/04(土) 20:07:46.28 ID:ENdhx0SE
ご支援、ありがとうございます。

94 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/10(金) 12:32:32.07 ID:7oH5PUfH
shien

95 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/11(土) 08:25:15.00 ID:IDlkvRER
原作のフーケは神出鬼没の大怪盗とかいう割には手口が雑すぎるんだよなあ
雑っていうかいきあたりばったりっていうか

96 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/11(土) 08:30:47.02 ID:IDlkvRER
物理攻撃に対する耐性は無いというなら目立たない片隅を夜な夜なドリルみたいなもので削るのはどうか
んでゴーレムで破れそうな状態になってから殴り壊すとか

……削ってる時の振動でばれるか

97 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/12(日) 08:52:09.60 ID:zXrOGGqg
ドリルがジャムる度に悪態つきながら修理するマチルダ姐さんか…

98 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/12(日) 10:05:20.69 ID:8SzPSsSR
懐かしのワギャンを召喚。戦闘シーンが全部ミニゲームになる

ギーシュ「数字探しで勝負だ!」
フーケ「神経衰弱で勝負よ!」
ワルド「しりとりで俺と勝負だ!」



ワルド「うみのみちしるべだとぉ!?」

99 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 20:44:50.82 ID:0jxZl+dt
こんばんは、焼き鮭です。今回も投下をします。
開始は20:48からで。

100 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 20:48:06.08 ID:0jxZl+dt
ウルトラマンゼロの使い魔
第六十一話「疑心の雪山(後編)」
氷超獣アイスロン
雪超獣スノーギラン
カプセル怪獣アギラ 登場

 アンリエッタの命により、シティオブサウスゴータに駐屯する敵兵を『虚無』で打破するために
ゼロ戦で飛んだルイズと才人。しかし猛吹雪の中から姿を現したのは、ヤプール人からの刺客、
超獣アイスロンであった。攻撃を受け、雪山の中に不時着する二人。下山の最中、自分たちを迎撃に出て
アイスロンの攻撃に巻き込まれた竜騎士を発見。彼も連れていくこととなった。
 アイスロンは未だ自分たちを探している。三人の逃走は成功するのだろうか?

「……では、あれは飛竜ではなく、新しい魔法兵器なのか?」
 雪山からの下山の途中、アルビオン空軍のヘンリー・スタッフォードと名乗った竜騎士は、
才人に背負われながらゼロ戦について尋ねた。それに曖昧な返答をする才人。
「まぁな……。軍事機密だから、これ以上は話せないけど」
「そうか……。ウィンザーより飛行速度が速かったのは、そのためか……」
「……ごめんなさい」
 ヘンリーの火竜の件について、ルイズが謝罪した。が、ヘンリーは呆れたように鼻を鳴らす。
「謝ってどうする。殺さなきゃ殺される、それだけだろう」
 そのひと言に、才人が顔をしかめた。
「俺は、たとえ戦争でも、人殺しに慣れたくない……」
「何だと?」
「恩師の先生が、そう願ったんだ。それに俺だって……祖国のためだろうと、何だろうと、
死ぬのはごめんだ。人殺しも嫌だ」
 その才人の言葉に、ヘンリーは思わず笑った。
「おかしな奴だな。妙な新兵器に乗って、敵地の真ん中まで来たくせに……。貴様は何のために戦う?」
「そんなこと……わかんねぇ」
 才人は今日までゼロとともに過酷な戦いをくぐり抜けてきたが……その動機を、自分自身で
よく把握していなかった。戦いの時は、知らず知らずの内に身体が動くのだ。
 戦う理由を、あえて言葉にするのなら……。
「ただ、好きな人、大事な人たちを守るため……それなら戦える」
 それだけであった。誰かの命が危険に見舞われる……その時に守りたいという強い想いが生じて、
才人の力の源となるのだ。
 ヘンリーはこう聞き返す。
「好きな人……ルイズか?」
 不意打ち気味なひと言に、ルイズも才人も一瞬動揺した。
「あッ、いや……! ルイズだけじゃなくて、学院のみんなとか……トリステインの姫さまだって、
危険な目に遭ったら、守ってあげたいっていうか……。でも、政治の都合で誰かを殺せって
命令されても、俺は断る」
「……」
 才人の語った思いを聞いて、ヘンリーは複雑そうに顔をしかめた。兵隊であるヘンリーは、
ある種才人の対極なのだ。
 それを察したルイズが告げる。
「気にしないで、ヘンリー。こいつは貴族じゃないから、名誉とか誇りとか、分からないのよ」
「ああ、分からねぇよ。分かりたくもない! そんなもんのために死んだり、誰かを殺したりしたって
しょうがねぇだろ!」
 語気を荒げて反発する才人。彼は、その貴族の価値観というものがどうしても受け入れられないのだ。
「しょうがないとは何よ! 名誉は貴族にとって、一番大事なものなのよ! ねぇ、ヘンリー!」
「あぁ……」
 ルイズはヘンリーに同意を求めたが、彼は妙に力のない返事をした。そしてつぶやく。
「しかし、好きな人のためなら戦える、か……。僕も、そんな風に言ってみたいものだな……」
「え……?」
「ただ、愛のためだけに生きられたら……と。ところが貴族って奴は、名誉のためなら好きな人との
別れも辞さないものなんだ……」
 それを聞いて、ルイズが尋ね返す。
「さっきの絵の人……?」

101 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 20:50:47.76 ID:0jxZl+dt
 ヘンリーが才人と揉め合った際に、彼が落としたロケットをルイズが拾って返したのだが、
その時に中の絵が見えたのだった。ヘンリーと同い年くらいの美少女の絵が収められていた。
「あの人と、お別れしちゃったの……?」
「……そうさ。僕は許嫁との婚約を解消してから軍に志願した」
 ヘンリーの告白に驚く才人。
「どうして……?」
 その理由を、ヘンリーは次のように語った。
「今回は生き延びたが、この戦争が続くならいずれは死ぬ。生きて帰れないなら、別れるしかないじゃないか」
「そんな……」
 ルイズは何と言っていいか分からずに目を伏せるが、才人はまっすぐに言い放った。
「お前、最低の男だな」
「何ぃ!?」
 憤るヘンリー。しかし、才人はひるまず続ける。
「男として最低だって言ったんだ!」
「き、貴族を愚弄するのか!?」
「貴族が何だ! 名誉のために死ぬなんて、ただのアホじゃねぇか!」
「貴様ぁぁぁッ!」
 怒りが頂点に達したヘンリーは才人を押し倒し、また取っ組み合いの喧嘩となった。
「侮辱は許さんッ!」
 才人の頬をしたたかに殴るヘンリー。すると才人もやり返す。
「テメェ、そんなに死にたいのかよッ!」
 ヘンリーに馬乗りになって拳を振り上げる。衝撃に備えて目をつむるヘンリー。
 だが、才人の拳はヘンリーの顔の横を叩いた。
「ヘンリー……お前だって、貴族である前に人間だろ! 男だろ! 何が何でも生き延びて、
彼女のところへ帰ろうとは思わないのか!? 格好ばっかつけてんじゃねぇッ!」
 才人に叱咤され、ヘンリーは目が覚めたような表情になる。
「しかし……」
 一方で、ルイズはこう告げた。
「貴族が戦争に行く以上、死のことは覚悟しなければならないわ」
「お前……!」
「でも」
 と、ルイズは区切った。
「初めから死ぬ気だなんて変よ。死ぬのは……最後の最後でしょ。その時が来るまでは、
生きるために頑張るのよ!」
「そうだよ……。その通りだよ、ルイズ!」
 そのルイズの言葉に、力いっぱいに同意する才人。
「ヘンリー、生きて帰って。そして彼女と結婚して!」
「結婚……」
「婚約を解消されたって、彼女はきっと待ってるわ! あなたが帰るのを……」
 ルイズの説得でも、ヘンリーは口の端に苦笑を浮かべた。
「そうだな……君たちの言う通りだ。死ぬために戦うなど、どうかしていたとしか言いようがない」
 ヘンリーが考えを改めたので、才人とルイズは顔を見合わせて微笑した。
「僕も、生きるために戦うとしよう。そもそも、昨今のアルビオン軍はおかしいことだらけだ。
このままつき合っていて本当にいいのか、ということはいつも心の片隅に抱えていた。
努めて考えないようにしてたのだが……」
「おかしいことだらけ?」
 才人が聞き返すと、ヘンリーはアルビオン軍の内情を話し出した。
「どこからともなく表れた「ウチュウ人」とかいう怪しい異形の連中と同盟を組むだけでも
本来なら受け入れがたいことなのに、クロムウェル皇帝陛下は国土防衛に消極的すぎるのだ。
軍のほとんどを首都ロンディニウムに留まらせたまま動かそうとせず、各拠点の守備にも
必要最低限の兵力しか裂いていない。そもそも空港の防衛にも、必要とされるだろう数の
半分程度しか軍艦を出されなかった……」
 連合軍側がアルビオン上陸作戦で大勝したのは、ルイズの『イリュージョン』の陽動が
成功したのもあるが、実はそれ以上に敵艦隊が異様に少なかったのが理由なのだ。これには
連合軍首脳部も逆に戸惑いを見せた。
「わざと敵軍を上陸させたとしか、僕には思えない。皇帝陛下が何を考えておられるか、
全くもってサッパリだ。今度も、シティオブサウスゴータを放棄せよとの前代未聞な命令が届いたし……」
「えぇ? そんな命令が出てたの?」

102 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 20:53:50.97 ID:0jxZl+dt
 目を丸くするルイズ。確かに空から見た時、守衛が妙に少なかったのだが、まさかそんな動きが
されていたとは。
「ただし、街中の食料を出来る限り持って退却せよとのことだった」
「食料を? そんなことしたら大変じゃないの!街中が餓えちゃうわ」
 シティオブサウスゴータは決して小さくない街。戦時中でも、民間人は多くいる。そこから食料を
根こそぎ持っていったら、たちまち人々は飢餓してしまうことだろう。そんなことになったら、
現政府が強く恨まれるのは必至。食べ物の恨みこそが最も大きいものなのだ。
 国土を敵に蹂躙されるのを放置した挙句に、自国民を虐げるような真似をして、何のつもりなのだ?
「いざという時は、オークなどの亜人の独断ということにするみたいだ。そのために駐屯兵は、
亜人が中心の構成になってる」
「それでも……奇妙を通り越して異常な作戦よ。何が狙いなのかしら?」
「恐らく、敵軍をシティオブサウスゴータで足止めすることだと思う。戦争に勝ってアルビオンを
占領した時のことを考えれば、市民を見捨てる訳にはいかないだろう?」
 ヘンリーの言うことはもっともだ。それに、カツカツの兵糧を市民に分け与えたら、大軍は本国からの
補給がない限りは行軍が出来なくなる。兵隊も人間だから、食べねば力が湧かないのだ。
「でもさ、そんなこと俺たちに話しちゃって大丈夫なのか?」
「どうせすぐに分かることだろう。それは皇帝陛下もご理解されているはずだ」
 才人の問いにぶっきらぼうに答えるヘンリー。確かにそこまであからさまだと、足止めだと
気づかない方が無理あるだろう。それに分かっていても、アンリエッタの性格を考えれば、
シティオブサウスゴータを見捨てるという選択がなされるはずがない。
 ここで才人は、嫌な予感を強く覚えた。ヤプール人は狡猾な奴らだ。ここまでの奇妙な作戦に、
何か裏がないはずがない。まるで道を譲るような行動をアルビオン軍にさせることで、連合軍に
快進撃をさせているが、見方を変えればそれは双方の軍に大きな損傷を出させていないということ。
当然、ヤプールが善意で被害を出さない訳がないのだ。絶対に、何かを狙っている。
「シティオブサウスゴータで足止めされたら、確実に始祖ブリミルの降臨祭に入るわね。
ハルケギニアの慣習で、降臨祭の間は行軍をやめて、夜通しのお祭りが開催されるわ」
 と、ルイズは説明した。『降臨祭』……ヤプールが何かを仕掛けてくるタイミングはやはりそこか。
何をしてくるのかは知らないが、用心せねばなるまい……。
 才人が考えていた時、
「キョォォオオオオオオ!」
「はッ!?」
 遠くから耳をつんざく雄叫びが聞こえ、次いでドスンドスンと大きな震動を感じた。森の向こうを
見れば、雪山の陰からアイスロンがぬっと顔を出したところだった。
「キョォォオオオオオオ!」
 アイスロンは足元をキョロキョロ見回しながら、徐々にこちらへと近づいてきている。
しかし歩幅が大き過ぎるので、一歩毎に長い距離を一気に詰められる。
「くそッ、追いついてきたか……!」
「サ、サイト、どうしよう!?」
 焦るルイズ。今の状況では、自分たちで太刀打ちすることなど土台無理だ。発見される訳にはいかない。
 そこで才人は指示する。
「あっちはまだ、俺たちの存在に気づいてない。なるべく木の陰に隠れるようにして、奴の視界から
逃れながら慎重に逃げよう」
 そうと決まったら、早速行動だ。才人たちはアイスロンの顔の向きに注意しながら、木の幹に
飛び込むように移動する。目がこっちに向いた時には、木の陰から動かずにじっとやり過ごす。
「キョォォオオオオオオ!」
 慎重に慎重を重ねた甲斐があり、アイスロンはこちらには気がつかずに山脈の奥へと通り過ぎて
いこうとしていた。ふぅ、と安堵の息を漏らす才人。ルイズとヘンリーを安全な場所まで連れていったら、
その時こそやっつけてやる。
 と考えた、その時、
「ガアアアアァァァァ!」
「えッ!?」

103 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 20:56:17.52 ID:0jxZl+dt
 アイスロンの反対方向から、別の鳴き声が耳に入った。才人たちがバッと振り返ると、
そちらからは青白い身体と真っ赤な顔面、ガスマスクのように長い口吻を生やした巨大怪物が
接近してくるところだった。
 あれは雪超獣スノーギランだ!
「な、何……!? 超獣は一体だけじゃなかったのか!」
 ショックを受ける才人。それだけではない。スノーギランの鳴き声により、アイスロンも
こちらの存在に気がついて振り返ったのだ。
「キョォォオオオオオオ!」
「ガアアアアァァァァ!」
 二方向から迫る大超獣。三人は逃げ場を失ってしまった!
「た、大変! どうしたら……!」
「くそッ、こうなったら!」
 事ここに至り、才人は決心した。ヘンリーを木の根元に降ろし、ウルトラゼロアイ・ガンモードを出す。
「俺が囮になる! ルイズとヘンリーは隠れてるんだ!」
「き、危険すぎるぞ! 待てッ!」
 ヘンリーの制止を振り切って飛び出した才人は、レーザー光線を二体の超獣に食らわせて
気を引きつけながら離れていく。
 そして十分距離を取ったところでゼロアイを開き、変身の構えを取った。
「よし、これで――!」
 しかしゼロアイを装着する寸前、ある考えが頭をよぎった。
(――ここで助けても、ルイズとヘンリーは戦争に戻るだけではないのか?)
 二人とも、戦争の途中で軍を抜けるような真似はしないだろう。となったら、今ここで助けても、
二人はまた死地に飛び込んでいくのではないか。生き抜くために戦うと言っても、そのために他者を
犠牲にするというのは、正しいことなのか……。
 が、才人は頭をブンブン振って一抹の考えを払った。
「今はこんなことを考えてる場合じゃないだろ! デュワッ!」
 自分に喝を入れて、ゼロアイを装着。みるみる内に巨大化して変身、ウルトラマンゼロへと変わる!
『よぉし、行くぜッ! とぁッ!』
「キョォォオオオオオオ!」
「ガアアアアァァァァ!」
 ゼロはすぐに、己を挟み撃ちにしている二体の超獣の内、アイスロンの方へ殴りかかっていく。
 だが、
「キョォォオオオオオオ!」
『ぐわッ!?』
 アイスロンのカウンターパンチを食らって、雪の上に倒れ込んでしまった。
『ぐッ……せぇぇぇいッ!』
 直ちに起き上がって、今度はスノーギランの方へハイキックを見舞ったが、易々と受け止められて
弾き飛ばされた。背中から雪山の岩肌に叩きつけられるゼロ。
『うわぁぁぁぁッ!』
「ゼ、ゼロ……どうしたのかしら……?」
 隠れて戦いを見守るルイズが、ゼロの苦戦に目を見張った。二対一という不利はあるのだが、
それ以上にゼロそのものに苦戦の理由があった。何せ、今の彼の動きは、格闘の素人も一目瞭然な
くらいに普段よりも鈍いのだ。技のキレも、身のこなしの速さもない。
『くぅッ……一体どうなってるんだ……? 身体が重すぎる……!』
 それは他ならぬゼロ自身が感じていた。彼は己の異常に戸惑う。力が、いつもの半分も出ていない。
「キョォォオオオオオオ!」
「ガアアアアァァァァ!」
 しかし超獣たちは容赦なく攻撃をしてくる。アイスロンは口から、スノーギランは口吻と両腕から
猛烈な冷凍ガスを噴射して、ゼロを凍らせようとしてきた。
『うおおおああああああああッ! ぐぅぅッ!』
 怒濤の吹雪を浴びて苦しめられるゼロだが、どうにか横に跳びすさって冷凍ガスを回避。
格闘が駄目ならば、と、光線技の構えを取った。
「シェアッ!」
 スノーギランへ向けて、額のビームランプからエメリウムスラッシュ!
 ……だが、緑色のレーザーは途中で途切れ、スノーギランまで届かなかった!

104 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 20:59:55.85 ID:0jxZl+dt
「えぇッ!?」
『んなッ……!?』
 愕然とするルイズとゼロ。光線が効かないということは何度かあったが、どんなに追い詰められていても、
光線が敵まで届かないというのはこれまでに一度だってなかったことだ。一体、ゼロはどうしてしまったのか?
 更には、カラータイマーがピコンピコンと鳴り出す。
『な、何!? もうエネルギー切れが近いのか!?』
 ウルトラマンゼロは、地上では三分間しか活動できない。限界時間が近づくと、胸のタイマーが赤に変わって
警告する。……だが今はまだ三十秒も経っていないぞ! どうしたゼロ! 気が早すぎるぞ! ウルトラマンゼロ!
「ガアアアアァァァァ!」
 だが超獣たちは攻勢の手を緩めない。スノーギランは頭部から視力を奪う失明閃光を発した。
『ぐぅぅぅぅぅッ!』
 腕を顔の前に回して何とかガードしたゼロだが、大きくひるむ。その隙を突いて、アイスロンが
ゼロを殴り倒す。
「キョォォオオオオオオ!」
「ガアアアアァァァァ!」
『うわぁぁぁぁ――――――――!!』
 二体の超獣はゼロをボコボコにタコ殴りにする。ゼロ、まさかの絶体絶命!
『くッ……こうなったら……!』
 するとゼロは、今出来る最後の手段に出た。
『出てこい、アギラ!』
 素早くカプセルを投げ飛ばし、雪原の上にアギラを実体化させたのだ。
「キギョ――――――ウ!」
 カプセルから飛び出したアギラはすぐさま、ゼロを袋叩きにする超獣たちに飛びかかっていく。
突進でアイスロンを張り倒し、角をスノーギランの脇に突き刺した。
「キョォォオオオオオオ!」
「ガアアアアァァァァ!」
 不意打ちを食らった二体は飛び跳ねて挑発するアギラを追いかけてゼロから離れた。ゼロはその間に
息を整え、体勢を立て直す。
「キョォォオオオオオオ!」
「キギョ――――――ウ!」
 アイスロンは冷凍ガスを吐いて攻撃するが、アギラは素早い動きでアイスロンを翻弄する。
そこをスノーギランが失明閃光を放とうと狙う。
「ガアアアアァァァァ!」
「キギョ――――――ウ!」
 スノーギランから発射される失明閃光! しかしアギラはその瞬間に飛びのき、閃光は背後の
アイスロンに命中した。
「キョォォオオオオオオ!?」
 目が見えなくなったアイスロンはパニックになってしっちゃかめっちゃかに冷凍ガスを撒き散らし、
それがスノーギランに当たる。
「ガアアアアァァァァ!」
「キョォォオオオオオオ!」
 憤慨したスノーギランがアイスロンを殴り、アイスロンも殴り返す。超獣たちは仲間割れを
起こして争い出した。
「シャッ! セアァァァァッ!」
 そこにゼロスラッガーを握り締めたゼロが突撃していった。振り向いたスノーギランの急所を
ふた振りの刃で的確に切り裂く。
「ガアアアアァァァァ……!」
 喉を断たれたスノーギランはたちまち絶命。バッタリと倒れ込む。
「ジュワアァァッ!」
 そしてゼロはL字に組んだ腕をアイスロンの身体に押しつけ、ゼロ距離からワイドゼロショットを
見舞った! 途中で消える光線も、こうすれば確実に命中する。
「キョォォオオオオオオ!!」
 その一撃でアイスロンはたちまち爆散。後には肩で息をするゼロだけが立つ。
『ふぅぅ……どうにかなったぜ……』
 どうにか危機を脱したゼロは、アギラに振り返って声を掛けた。
『すまなかったな、こんなことで呼び出して』
 カプセル怪獣は基本的に、変身できないような状況のための代理戦力。自分が助けてもらうために
出すのは、前代未聞のことであった。

105 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 21:04:18.73 ID:0jxZl+dt
「キギョ――――――ウ!」
 しかしアギラは特に気にしていないという風に跳びはねた。苦笑したゼロは、アギラをカプセルに戻す。
 自分もゼロアイを取り外し、才人の姿に戻った。すると一番に才人が尋ねかける。
「ゼロ、どうしたんだ? 今日はすこぶる不調だったじゃないか。具合でも悪いのか?」
 それにゼロは、このように答えた。
『いや、俺には何の異常もない。異常があるのは……才人、お前の方にだよ』
「え……?」
 予想だにしない返答に立ちすくむ才人。ゼロは彼に指摘する。
『今のお前は、ルイズたちを守ることに疑問を抱えてるだろ。その疑心が足枷となって、
力の発揮を妨げたんだ。一心同体である以上、俺はどうしてもお前の影響を受けるからな』
「そんな……」
 ウルトラマンと一体となった人間は、時としてウルトラマンに大きな力を与えてきた。
しかし、その逆もあり得る。かつてゼロと一体化したタイガという青年は、『ウルトラマン』として
戦うことに懐疑的だったので、その時のゼロは中途半端な大きさにしか巨大化できなかった。
今の才人は、似たような状態に陥ってしまっているのだ。
「ガンダールヴと同じさね」
 デルフリンガーが意見した。
「ガンダールヴの強さは心の震えで決まる。相棒の心は震えてねえのさ。今、おめえさんは
主人と背負ってる奴らに疑いを抱いてる。自分が守るに値するのかって、疑ってる。
それじゃ感情が震えるわけねえよ」
「……」
 確かに今、才人は戦いを仕掛ける人たちを守ることに、どうしても納得することが出来ないでいる。
ゼロはその辺を割り切っているのだが、年若く、青臭さが抜け切れていない才人に納得しろというのは酷なものだろう。
 しかし……もうすぐヤプールとの決戦が近そうなのに、こんな状態で大丈夫なのだろうか?
『……だがまぁ、心配するなよ! こっちにはウルティメイトフォースの仲間もいるんだし、
ちょっと調子悪くたって、ヤプールくらい異次元から引きずり出してパッパッと片づけてやるさ!』
 ゼロがそう言って慰めたが、それが虚勢であることは明白だった。
 ショックを受けた才人はおぼつかない足取りで、ルイズたちのところまで戻っていった。

 その後、騒ぎを聞きつけたのかアルビオン側の捜索隊が才人たちの近くまで迫り、ヘンリーは彼らの
元へ帰っていった。その際、借りを返すためかルイズたちが別方向へ逃げたと虚偽の報告をしたことで、
ルイズと才人は無事に連合軍に救出された。
 ヘンリーの言った通り、連合軍がシティオブサウスゴータに踏み込んだ時にはもうアルビオン軍は
食料を持ち去りながら撤収していて、連合軍はやはり市民に兵糧を分け与えたことで足止めを
余儀なくされることとなった。降誕祭の祭りは、シティオブサウスゴータで行うことになる。
 そして才人は……帰ってからもずっと塞ぎ込んでいた。それほどに、ゼロから言われたことが
衝撃的であったのだ。
 その事情をデルフリンガーから聞いたルイズは、どうにか才人を励まそうと、こう告げた。
「サイト……色々言ったけど、あんたの人殺しに荷担したくないって気持ち、分からない訳じゃないわ。
名誉や誇りと言っても戦争は、結局は人殺しだものね。これまで必死で守ってきた命を自分で奪うような
ことをするなんて、私もおかしいと思う。コルベール先生も、人殺しに慣れたら何かが壊れるって、
命に代えて教えてくれたし……。
 でも……貴族には名誉が命よりも大事なものだっていう価値観も、分かってちょうだい。
何も名誉は、戦いと殺しのためにあるものじゃないの。祖国を守る、領民を守る、家族を守る、
生活を守る、それが名誉……そのために戦うのよ。命の奪い合いが目的なんかじゃないの。
それに、侵略者を追い詰めるためには、この戦はどうしても必要なものじゃない。アルビオンの
陰に隠れる侵略者を追い出したら、戦いも終わるし、平和も戻ってくるわ。ね、そう考えて、
思い直してちょうだい。これは平和を勝ち取るための戦いなのよ」

106 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/15(水) 21:05:42.69 ID:0jxZl+dt
 と、熱心に説得したものの……。
「……ごめん。やっぱり俺には、納得がいかないよ。平和のために、犠牲が必要なんて……」
 才人は力なくつぶやき、ルイズから離れていった。
「……もう知らないッ! ご主人さまがここまでしてあげてるのに! もう勝手にしなさいよッ!」
 遂にはルイズもへそを曲げ、才人から顔を背けた。
「おいおい……こんなので本当に大丈夫なのかね」
 二人の様子を見守っていたデルフリンガーが大きなため息を吐いた。

 吹雪はやんだが、空には厚い雲が覆い被さったまま。それは、ルイズと才人の行く末を
暗示しているようでもあった……。





今回はここまでです。
文が半端に余ってしまった。

107 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/16(木) 19:52:32.01 ID:pNqegSzm


108 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/17(金) 22:31:08.71 ID:oakMcLbV

戦争の話は本編でもこっちでも重いな

109 :元作者:2015/04/18(土) 02:01:15.68 ID:dVMId2DC
原作者が逝去し、最早あの20巻の状態からどう2巻で収拾をつける予定だったのか、
構想や草稿が残されてなかったのが一番悔やまれるところではある。
続きをどうにかしなくては…。
http://www35.atwiki.jp/anozero/pages/3912.html

110 :もう何ヶ月も投稿できてない作者:2015/04/18(土) 12:36:36.15 ID:+eUGQIsh
アニメ版の終わり方を参考にしようにも、あのひどいやっつけENDじゃどうしても納得できん

111 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/21(火) 13:46:08.74 ID:99+vJdQN
>>109
残されてるって明言されてるだろ

112 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/21(火) 23:10:58.35 ID:Srivsyuz
>>110
あれはあれでネタとしてはよさそうに見えるな
エンシェントドラゴンとか
DOD3やったばっかの俺はにはむしろいい気がしてきた
それ以外でも人外系の召喚ならそれなりに使えそうな気がする

113 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/21(火) 23:46:58.38 ID:Mskpe8Rz
ボスキャラとして使うにはエンシェントドラゴンの弱さがなあ。たかが戦闘機一機に大ダメージ負うようじゃねえ
せめてワルプルギスの夜くらい絶望的な強さがあればクロスさせがいもあるんだが
悪いが、今時に「ピストルは最後の武器だ」なんて言ってるような悪い意味での次元の違いを感じる

114 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/23(木) 16:35:20.37 ID:k4YDLacu
>>109
>http://www35.atwiki.jp/anozero/pages/3912.html

ミーが何者なのか全然描写がない。
「ポケットモンスター」という、名前だけは知ってる作品の女キャラらしいことしかわからない。

だから、ルイズが童女をヒステリックにいじめてるようにしかみえない。
読むのがしんどいばかりで、ついに第8話で力つきた。

115 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/23(木) 20:02:34.58 ID:DX0TEkO+
>>113
強化しちゃえばいいじゃね
核でも無傷な最強生物に

116 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/23(木) 20:27:08.42 ID:GMMbbhzk
>>115
つまり殺せんせーか

117 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/23(木) 20:49:42.75 ID:RH+DB8r/
あかん、ゼロ魔のキャラたちがのきなみ”手入れ”されてしまうww

118 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/24(金) 18:44:50.91 ID:HK9gNjI8
ティファニア逃げてー

119 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/24(金) 19:40:15.92 ID:mfHZaL46
>>117
どう考えてもシリアスにはならんな
原作の方はあんなトンデモ生物メインに据えてよくシリアスな話作れるわと思う

120 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:17:19.01 ID:KjvwS+TG
どうも皆さんお久しぶりです。

早速ですが、予約が無いようでしたら13時20分頃から投下を始めたいと思います。

121 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:20:59.52 ID:KjvwS+TG
それでは、始めたいと思います。


 その日の夜、チェレンヌ伯の屋敷では、警護のための人員で大わらわだった。
 門の前に貴族が何人も立っており、一歩入ればそこには今回、急造で募集した腕利きぞろいのメイジや兵隊で溢れている。これだけでも既にネズミどころかアリ一匹忍び込めないような厳重さだったが、屋敷の中は更に凄かった。
 どこもかしこも軍人や兵隊で塗り固められ、入口という入口には必ず数人のメイジが配置についているのだ。
「全く、まるでお祭り騒ぎのようだな」
 その屋敷の中心部、自分の部屋に篭もり、数十人の部下に囲まれているチェレンヌは、この様子にやれやれと首を振った。
「所で、チェレンヌ殿は今までどちらに? 部下の者たちが探しておりましたぞ?」
「…貴様に話して何になるというのだ?」
 チェレンヌが苦々しげに呻く。アニエスも大体の察しはついた。
(…夜遊びか…呑気なものだ…)
 狙われている立場というものを、この男は全く自覚してないようだった。この事態にもまだ半分夢見心地な気分なのだろう。
「大体たかが賊一人に、ここまで騒ぐことないだろうに。王宮というのはどうも大げさでいかん」
 大層のんびりとした様子で、しかしどこかイライラした感じのチェレンヌはそう言った。ついさっき酒場で起こった出来事を、未だに引きずっているようだった。
 それを聞いたアニエスは、すかさず口を開く。
「お言葉ですが、相手はあの『黒笠』ですぞ。今まで一度も仕損じたことのない正体不明の兇賊。万全の準備をもってかからねば」
「フン、一端の平民風情が…騎士とはいえあまり舐めた口をきくな」
 侮蔑を込めた目で、チェレンヌはアニエスを睨みつけた。しかし、アニエスはどこ吹く風の様子でチェレンヌを睨み返す。
「此度の指揮権は、陛下から直々に私に賜われました。平民風情とお思いでしょうが、今はご容赦願いたい」
「チッ、全く陛下も何を考えておられるのか、こんな成り上がりに私の命を預けろとは」
 忌々しげにチェレンヌは呟いた。
(貴様こそ何も考えておらずに、何を偉そうに…)
 アニエスもまた、侮蔑の感情を内に隠してチェレンヌを批判した。正直アニエスにとって、この男などどうでもいい。
ただ今回をもって、この襲撃事件に幕を下ろしたいだけなのだ。
 トリステインは今、ゲルマニアと同盟を組んでアルビオンへ戦争を仕掛けようとしていた。そんなわけで本当に必要な軍隊は今、来るべき戦に備えて準備を整え始めている。
 そんな時に降って湧いたのがこの殺人事件だった。
 余り大きく人員を割きたくない王宮は、出来るだけ最小限の人員でこれを解決しようとしていたが、その悉くが返り討ちの憂き目にあっていた。こんなことのために編成中の軍を使うわけにもいかない。
 そんな訳で今はもう、各地で腕利きのメイジを募集しなければやっていけないほど、深刻な人不足に悩んでいるのだった。これを逃したら、もう自国にはこの事件を解決出来るような余力は残っていない。本当に崖っぷちに追い込まれている状態だったのだ。

 そして、アニエスにとって何よりも重要なことは、間違いなく犯人はアルビオンの手びきを受けているということだった。

 こんなに貴族を殺しておいて、未だ正体不明でいられるのは、その内に何者かが糸を引いているに他ならない。
 暗殺をしているこの裏で、まだネズミやキツネが潜んでいる。それを炙り出すためにも、この襲撃はなんとしても止めねばならなかった。

122 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:23:35.76 ID:KjvwS+TG
(まだ、時間はあるな)
 アニエスは、ひっそりと部屋を出た。時刻は既に一時間を切っている。
 大事ないか装備の点検でもしようと、すぐ隣の一室の扉を開ける。するとそこには、既に先客がいた。



           第四十三幕 『黒笠襲来 前編』



「何だ、お前か」
 ソファで本を読んでいるタバサに、アニエスは声をかけた。
「後一時間もない。余裕を保つのはいいが、準備は怠るなよ」
 そう言って、懐から銃を一式取り出し、どこか不備がないか調べる。
 その光景をタバサが不思議そうに見ているのに気付いたアニエスは、銃に落としていた視線をそちらの方を向いた。
「可笑しいか。メイジでもない私が、何故貴族の格好を許されているのかが」
 弾を込め直しながら、アニエスは言った。タバサは特段興味のなさそうな表情でアニエスを見る。
「別に」
「そうか」
 今度は弾の方に不備がないかチェックを入れる。
「あの長髪の女はどうした?」
「使いに出した」
「そうか」
そこで一旦会話が切れる。暫くして再びアニエスが口を開いた。
「『心の一方』か。聞いたことはないが…要は気迫で相手を怯ませるということか?」
 アニエスが、確認するようにタバサに尋ねる。
心の一方について、タバサは事前に一応、皆には話しておいた。他の兵隊たちは「何を馬鹿な」と聞き流す中、彼女だけはタバサの助言を聞き入れていくれたのだ。
「そんなところ」
「何故お前はそれを知っている?」
「私も直接見たわけじゃない。だけど確かな情報」
 タバサは本のページをめくりながら淡々と話した。しかし言っている事は怪しいことこの上ない。ともすれば混乱を招くような情報だからだ。
「……それは信じてもいいのか?」
 当然、アニエスは疑問を浮かべた目でタバサを睨む。急造で募集をかけたが故に、相手の確かな身元が判明しきれていないという点が、この策の欠点でもあった。
 纏う雰囲気からして強いのはアニエスでも分かるのだが、どこの出身かまでは分からない。タバサはそういった型だった。
 故に、彼女が敵と手びきしている可能性も無いとは言い切れない。いやむしろ、この発言から聞いていればあやふやな点が多過ぎる。今まで神出鬼没だったのに、まるで遭遇したかのように敵の能力を知っていれば、誰だって怪しいと思うだろう。
 そんな意味合いをも込めてアニエスは言ったのだが、タバサは本を閉じると、小さくも鋭い目をして、きっぱりとこう言った。
「信じて」
「……………」
 アニエスは、しばしタバサと睨みあうような形で顔を表に出した。それから少し時間が流れる。
 タバサの目には、何物も写さないような冷たいものとは裏腹に、その中には強い炎が燃えていた。
決して消えることのないような、大きな宿命。それをアニエスは感じ取った。
(同業者か…こんな年端もいかぬ子供がな…)
アニエスは自分と同じ雰囲気を持つタバサを見て、そう思った。

 恐らく彼女も…私と同様に、大切なものを奪われて…。返ってこないとは知りつつも、それを果たさずにはいられない…。
 
ただ、復讐に燃えていながらもその目は、どこまでも純粋そのものだった。奸計とか巡らすようなものじゃない。それは人間の醜い部分をたくさん見てきたアニエスにとって、はっきりと伝わるものだった。
「分かった。信じよう…ん?」
 その時、時刻を告げるような時計の音が屋敷内に響き渡る。アニエスは懐から簡素な時計を取り出す。予告時間は既に十分を切っていた。
 アニエスは、時計をしまうと銃の最後の点検をする。確認するように、幾度か狙いを定めるような動作を取ったあと、銃をしまって席を立った。
「時間だ。行くぞ」
 部屋から出るアニエスに続くように、タバサも本を閉じ、杖をとって立ち上がった。

123 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:26:04.08 ID:KjvwS+TG
 いよいよ予定の襲撃時刻の、十分前を切ろうとしていた。
 配置に不備がないか、アニエスは自身が率いる『銃士隊』の面々から、各自の状況報告を受けていた。
「屋敷内の異常、今のところ無し!」
「人員配置、滞りなく完了!」
「監視、偵察も特に問題点はありません!」
「ご苦労。引き続きこの状態を維持しろ」
 それぞれの隊からの報告を受けたあと、アニエスはチェレンヌのいる部屋へと入り込む。
 先程までチェレンヌは、余裕ぶった様子を見せようと取り巻きの部下たちに大言壮語を吐いていたのだが、時間がゆっくりと押し迫るごとに、口数は少なくなっていき、今となっては殆ど喋ろうとはしなかった。
(ここに来て、ようやく自分の置かれている立場というものに気づき始めたか)
 何とも鈍いことだ。アニエスはそう思いながらも、取り敢えず隊員たちから受けた報告を、チェレンヌにも話しておく。
「チェレンヌ殿、隊員の配置が終わりました。今のところは問題ないようです」
「あ、ああ……」
 亀のようにブルブルと四肢を蹲らせながら、チェレンヌは呟いた。恐怖しか写っていない瞳を、アニエスの方にゆっくりと向ける。
「も…問題ないんだよな…?」
「ええ」
「本当なんだな、わたしの命がかかっているのだぞ!!」
 チェレンヌは、張り叫ぶようにアニエスにくってかかった。極限の緊張状態で、余裕を保つ事が遂に出来なくなってしまったのだろう。
そこにいるのはただ怯えるだけの弱い人間だった。
「少なくとも、この問題を解決することには、私も陛下も尽力しております。安心してください」
「なら、どうしてわたしの警護にあんな子供までいる!!?」
 チェレンヌは部屋にいるタバサを指差し、そして叫ぶ。
「分かっているのか? 遊びではないのだぞ!! そもそも女神だか何だかしらんが、あんな女に何が出来―――」
 皆まで言わせず、アニエスは剣を抜いてチェレンヌの首元に突きつける。すかさず取り巻きの貴族たちが杖を抜いた。
 しかしアニエスはその中でも表情を変えず、鋭くつり上がった目でチェレンヌを睨んだ。
「殿はいささか疲れておいでですな。今のはやむなしと言う事で聞き流しますが、本当なら軍法会議ものですぞ。夢々発言には充分に注意してもらいたい」
 アニエスはそう言って、流暢な動作で剣をしまう。
シンと静まり返った空気が、辺りを覆う中、時間は遂に襲撃時刻を告げた。
「………っ!!!」
 今度はかつてない緊張感が、周辺を支配し始める。部屋にいる兵や貴族…タバサやアニエスも、油断なく武器を構えて様子を見る。物音一つ立たない静寂な世界。そんな状態が一分…いや二分くらいだろうか…過ぎていった。
 五分近く経つと、流石に周りの連中もソワソワし始めた。まだ少数だが、この警備に恐れをなしたのではないか? そう口々にする者も現れ始めた。
「へっ、敵さんもビビってここまで来れないようだな」
「そりゃそうだぜ。この厳重な警備をどうやってくぐり抜けてくるってんだ」
 緊張感がほぐれつつあったのか、人々は皆そう言い合う中…それは唐突に起こった。

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」

124 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:28:37.48 ID:KjvwS+TG
 悲鳴が一つ、屋敷の中まで轟いた。タバサは急いで、声のする窓を開け、外からの様子を見やる。
 そこには、暗くて遠巻きにしか見えないが、確かにさっきまで警護に当たっていた騎士『だった』モノが、惨殺され血を流して倒れていた。
(――――……来た…)
 タバサの中でトクン、と鼓動が脈打つ。アニエスは素早く指示を下した。
「周りを急いで固めろ!! チェレンヌ殿は狙われにくい中心へ!!」
 突然のことに呆気に取られていた兵士達も、アニエスのこの言葉で我に返る。そして言われた通りに配置についた。
 もう敵は侵入してきているのだ。いつどこから襲ってくるか分かったものじゃない。
 窓を開けたタバサは、そこで待機し外から動向を伺うことにした。
(…でも、変だ)
 ここでタバサの中では、妙な胸騒ぎを覚えたのだ。
 いくら虚を突いたからといって、まだ数はこちらに圧倒的な分があるし、標的のチェレンヌがこの場所にいることなど分かるはずもない。敵が強いと言っても、馬鹿正直に突っ込んでくるには余りにも無謀な筈だ。
 『土くれ』と違って、命を奪う深刻な事件の中でも、それでも今まで正体不明を通してきた理由…それがこのような虚を突くだけでは、とてもじゃないが無理な筈。
(一体どうやって…)
そうタバサが思考を張り巡らしていたとき、まるで答えを教えるかのように一つの出来事が起こった。
 急に、部屋という部屋の照明が消えたのだ。
「なっ…何だ!! 見えないぞ!!」
「ええい、早く明かりをつけないか!!」
 どうやら消えたのは、この屋敷全体の灯りらしい。いたるところでパニックを起こす兵の声が聞こえてきた。

125 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:30:03.97 ID:KjvwS+TG
 この部屋も同じで、暫く貴族たちが混乱を呈していたが、何人かは直ぐに冷静さを取り戻し、『ライト』の呪文を唱えた。










              「 う ふ ふ 」










「――――――――っ!!!?」
 その瞬間、タバサは体中が悪寒で包まれるような感覚を覚えた。
 そして慌ててまた窓を見る。だが、そこにはどこにも何もない。
 だがタバサは途中で気付いた。夜風が吹き抜ける音が、一つではないことに…。
(……まさか…)
 隣の窓を、タバサは見た。
 そこには、誰も開けた記憶がないのに、何故か窓は開いていた。

126 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:32:59.41 ID:KjvwS+TG
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 タバサが急いで振り向くと同時に、悲鳴が一つ響いた。
 灯りが一瞬、辺りを明るくしたかと思うと、悲鳴と共にまた暗くなる。
 最早パニックどころでは無い。恐怖と混乱が部屋の中を支配した。
「は、早く明かりをつけろぉ!!!」
「ひ…ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
 また一瞬だけ明かりが灯ったかと思うと、何かを斬るような音と共に、次の瞬間には闇が再び辺りを覆う。それの繰り返し。
 ただ、闇の中になっていても、悲鳴と血の飛ぶような音だけは、ひっきりなしに聞こえてきた。それがまた、周囲の恐怖を煽る。
「な、何がどうなって―――ぐぁ!!!」
「うわあああああああ!!」
 まるで光に群がる蛾のように、光をつけたメイジから次々と斬り殺されていく。
阿鼻叫喚に包まれた地獄絵図。そう錯覚するような世界がそこにはあった。
(早く止めないと…!!)
このままでは本当に全滅する。
そう危機感を覚えたタバサは、今度は自分が『ライト』の呪文を唱えようとした。その時だった。
「ええい、鎮まらんか!!」
 火を灯したカンテラを掲げながら、アニエスが叫んだ。強い光ではないので、部屋全体を見回すことは出来ないが、それでも彼女の顔はくっきりと見えた。
「恐れをなしてどうする!! それこそ相手の思う壺だぞ!!」
 アニエスの檄が部屋に響き渡る。一瞬だけ本当に静まり返る。
 時が止まる…動き出したのは闇に蠢く暗殺者。
 距離を詰めるかの如く走る足音が、アニエスに向かって襲ってくる。
 刹那煌く白刃の光を、アニエスは反射と経験から防いだ。
「ぐっ……」
 ガキン!! と剣と剣の衝突音が響く。カンテラを掲げた片手とは別の手で剣を抜いて弾いたが、体勢は大きくよろけてしまう。
 しかし、それでよかった。一瞬でも隙を作ることができれば…少なくともタバサにとってはそうだった。
(――見えた!)
 タバサはすかさず、『ウインディ・アイシクル』を放つ。アニエスの周りにある灯りのおかげで、今は暗殺者の姿がはっきりと見えた。
 敵は素早く氷の矢をかわす。その瞬間、部屋は明かりで一杯になった。
 生き残った多数のメイジが、一斉に『ライト』の呪文を唱えたのだ。おかげで部屋は完全に明るくなり、はっきりと周囲を見渡せるようになった。
「ほう、少しは骨がある奴がいたようだ」
 タバサは、素早く辺りを見渡す。
既に数人の死体があちらこちらで血だまりを作ってはいたが、まだチェレンヌは殺されていはいない。腰を抜かして隅っこでブルブルと震えていた。最早最初の余裕な面影は影も形も見当たらない。
 それより、今この部屋には、さっきまで居なかった異質な雰囲気を纏った人物が立っていた。

 その男は…一言で言うと『不気味』そのものだった。

 剣心と同じような異国の服を着け、頭にはこの事件の異名ともなっている黒笠を被っている。
 腰には二つの刀を差しており、その内のひと振りは、既に手に持ち血で赤く染めていた。
 だが、何よりも怖いと思わせるのが、その表情。
 白黒が反転した目に絶えず笑い続ける気味の悪い顔立ちは、見るものを一瞬で危険だと、そう判断させてしてしまうほどの恐ろしさと悍ましさを醸し出していた。
 アニエスも同じように、彼の不気味さを感じ取ったのだろう。一瞬怯みながらも、それをひた隠しにし、そして凛とした声で黒笠に告げた。
「貴様が黒笠か…ようやく捉えたぞ」
 カンテラを下げ、空いた手で銃を突きつける。黒笠はそれでも余裕そうな表情を微塵も変えない。
「貴様の凶行も、これで終わりだ。大人しく縄につけ

127 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 13:35:27.73 ID:KjvwS+TG
「う、ふ、ふ……」
 タバサは、男の表情に嫌なものを覚えた。…そして。剣心の言葉が脳裏をかすめる。
(いけない!)
タバサは心の中で叫んだ。しかしもう遅い。
「カッ!!」
「―――――!!?」
 ギンッ!! と光るような目で黒笠はアニエス達を睨みつけた。今度はその異変にアニエス達が驚愕する。
「な、なん…だ…これは…」
 身体が動かない。まるでそのままの状態で氷漬けでもされたかのように、腕や足が固まってしまったのだ。
 周りのメイジ達もそうなのだろう。呪文を唱えようとしては金魚のように口をただパクパクさせているだけだった。
「ぐっ…くっ…」
 アニエスは、動けないながらも何とか指に撃鉄をかける。そして黒笠に狙いを定めて発砲した。
だが、銃弾は相手にかすりもせず、ただ虚しく砲撃の音を響かせるのみ。
「ほう、『心の一方』にかかってもまだ引き金をひけるとは。さっきの攻撃を止めたことといい、中々やるじゃないか」
 目の前まで跳んできた黒笠は、アニエスの首先に刀を突きつけた。
「残念だ。少しはまともな相手と巡り合えたというのに…」
 黒笠は刀を振りかぶる。凶刃がアニエスに向かって振り下ろされる中―――。
 術から唯一逃れていたタバサが、黒笠目掛けて氷の槍を放った。
「うふ…?」
 黒笠は飛び退く。氷の槍は胸あたりを掠めた。
 アニエスとの距離を置いた黒笠は、そこで初めてタバサの方を見る。
 タバサは一瞬、背筋が凍るような感触を覚えるも、負けじと黒笠の前に出た。
(……―――目を見ちゃ駄目だ)
タバサはそう自分に言い聞かせながら、杖を前に掲げながら黒笠に向かって走り出した。
「…はあっ!!」
「うふぁははは!!」
 杖と刀が、激しい衝突音を奏でる。皆が金縛りのせいで棒立ち状態の中、二人の剣戟がそこで繰り広げられていた。
 といっても、それは時間にしたらせいぜい五秒足らずの出来事。決着は一瞬だった。
「うふ!!」
 再び黒笠が、タバサに向けて『心の一方』を放つ。タバサはそれを、目線の先に杖を被せることで防いだ。
剣気に押された、その反動で一瞬タバサに隙ができるが、黒笠の方も、『心の一方』を知っているかのような動きをするタバサに疑問を覚えたのだろうか、攻撃の手が緩んだ。
 この刹那の隙を制したのは、タバサの方だった。素早く懐に潜り込むと、黒笠と一緒に開いている窓めがけて自身の身体ごと突貫した。
「…ん?」
 追い風を吹かせるように『ウィンド・ブレイク』を相手に目掛けて放ち、そのままタバサは黒笠と共に屋敷の外へと放り出される形となった。

128 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/25(土) 13:52:12.42 ID:1J49FTgR
しえんー

129 :るろうに使い魔:2015/04/25(土) 14:17:24.98 ID:KjvwS+TG
 屋敷から落下する中、タバサは静かに『フライ』を唱える。
 身体がフワリと宙に浮く中、それでもその目は油断なく黒笠の方を見つめていた。
 対して黒笠は、落下中だというのに顔色一つ変えずに、近くにあった木の枝を掴むと、まるで軽業師のような動きで下へと降りていった。
「周りを巻き込ませないための配慮か? わざわざご苦労なことじゃないか。…どうせ皆殺しにすることに変わりはないというのに」
 優雅に降り立ちながら、二人は対峙する。タバサはなるべく、相手の視線を合わせないように出方を伺っていた。
 それを見た黒笠は、うふふと笑う。
「やっぱり…お前さん、『心の一方』について知っているねえ。でなければ戦いの最中にそんな視線をそらすような真似しないからねぇ」
 誰から聞いた? と黒笠は問うが、タバサは黙して語らず様子を見る。
 尋ねた黒笠の方も、大体検討はついているようだった。自然と唇が端までつり上がる。
「抜刀斎の知り合いか、とうとう見つけたぞ。お前さんの首を手土産に、奴に送り届けてやろう」
 同時に身の毛もよだつ悍ましい殺気が、タバサに向けて発せられる。ニヤリと薄ら笑う表情が、より恐ろしさを増長させた。
 タバサは、冷や汗を流しながらもそれに応じる様に杖を構える。
別に命を懸けた戦いはこれが初めてではない。
だが、今まで感じたものがお遊びだと思えるほどに、敵の放つ圧迫感は、過去に類を見ないほどに凄まじかった。
(だからこそ意味がある。もっと強くなるためにも…)
 タバサと黒笠、二人の衝突が今始まった。



以上です。
後編は明日辺りにでも投下しようと思います。
それでは、また。

130 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/25(土) 21:01:29.56 ID:GNox/Cq+


131 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/26(日) 11:03:13.19 ID:ify7yLtt
遅れたけどおつー

132 :ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2015/04/26(日) 11:05:14.74 ID:8OxlFLtX
ウルゼロの人にるろうにの人、乙です
私も避難所のほうに投下してきましたので、よろしければどうぞ

133 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/26(日) 16:26:28.78 ID:I9BNPH7r
投下乙です

しかしウルトラ世界のロボット怪獣は強いな

…ウィンダム?ああ、そんなのもいたね(震え声

134 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:04:42.75 ID:ojC1ok/R
ウルトラ五番目さん、どうもありがとうございます。そして投下乙です。

さて、早速ですが後編の投下を始めようと思います。
大丈夫でしたら9時10分頃からいきます。

135 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:11:24.79 ID:ojC1ok/R
それでは始めます。


 その昔、幕末の時代…まだ尊王攘夷を掲げ、日々殺し合いが続く渦中に、かつて一人の、凄腕の剣客がいた。
 曰く、金で雇われる人斬り。斬る事、それだけに愉悦を感じられる人斬り。
その男は現代に消えた武術『二階堂兵法』の達人でもあった。
 男は命じられるがまま……否、己の本能の赴くままに人を斬った。
幕末最強と謳われる剣客集団である壬生の狼『新撰組』に勤めながら、数々の維新志士を討ち取ってきた。
 だが、男は余りにも不要な殺人を繰り返してきた。
 その振る舞いに、とうとう身内にも危険だと判断された男は、新撰組から粛清という名の襲撃に会いながらも、それを逆に返り討ちにしながら新撰組を去っていった。
 そして今度は、敵側だった維新志士の下で、人を斬り続けたのだった。
男に主義思想というものは存在しなかった。あるのはただ、人を斬りたいという欲望、刀を振りたいという欲求。それ以上も以下でもない。
殺人欲だけで動く、極めて危険な人斬りは、この魔法の世界に来ても何も変わりはしなかった。



           第四十三幕 『黒笠襲撃 後編』



 夜の帳が空を覆う中、タバサと黒笠は静かに構えていた。
 暗かったこの場所も、月が照らす光のおかげで何とか目で見えている。
 だが、視線を合わせてはいけないというのは、タバサにとっては辛いハンデだった。
(心の一方…相手を動けなくする秘術…)
 タバサは、先程の部屋で起こった乱闘を思い返す。あの時、タバサは黒笠の視線をそらすことで回避できたが、もしくらっていれば今頃こうして立っていることも出来なかっただろう。
 あのアニエスですら、わずかに動くのが精一杯なのだから…。
 だからこそ、喰らってはいけない。それだけで勝敗が決してしまうかもしれないから。
 タバサは、油断なく杖を構える。その目は徐々に、深く鋭くなっていった。


「うふふ、いい目をする。そこいらの三下貴族共には無い心地よい殺気だ。…俺を殺してやるという気迫が伝わってくるよ」
 黒笠は笑ってタバサを賞賛した。今している目が余程気に入ったのだろうか、嬉しそうに言葉を紡がせる。
「お前さん、世界と時代が違えば良い人斬りになれたかもねぇ…うふふ」
 タバサは無意識に目を釣り上げた。安い挑発だ。その手には乗るか。
 そう考え、思考を張り巡らせる中、遂に黒笠は動いた。
 剣心程の速さはない。だがそれでも一足飛びでタバサの元まで駆け寄ると、不気味さを漂わせる剣閃を放った。
「……っ!!」
 タバサは反射的に、杖を掲げて防御する。ルーンを唱えようとする瞬間にも、黒笠は隙のない猛攻を繰り出してきた。
 様子見のつもりなのだろう。さっきと違い剣の速さに緩みがある。
 それでも幾度も刀を杖で防御してはよろけそうになる中、何とかタバサは呪文の詠唱を終えた。
 タバサはすかさず、黒笠の懐まで近寄ると、強烈な『エア・ハンマー』を横薙ぎの要領で打ちはなった。
「ラナ・デル・ウィンデ!!」

136 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:14:19.01 ID:ojC1ok/R
 だが黒笠にも読まれていたらしい。笑いながら空気の槌を跳んで避けると、素早く身を翻してタバサの背後を取り、首筋めがけて刀を振り上げた。
 危機感を感じたタバサは、転がるのを覚悟で一旦前へと飛び退いた。首を斬る筈だった剣閃は、青い髪数本を掠めるだけで何とか留まる。
「うふぁはは!!」
そして更に黒笠は地面に転がるタバサに向かって、黒笠は容赦なく接近し刀を彼女に向けて突き立てる。
タバサはそれを、自身に『フライ』を唱えることで、体を宙に浮かせ一気に立ち上がり追撃を躱した。
 今度はタバサの攻撃。一転して身を翻すと、そこから一気に黒笠に詰め寄った。
 笑いながら放つ黒笠の唐竹割りと拮抗させるかのように、杖を振り上げ呪文を唱える。
(『ウィンド・ブレイク』+―龍翔閃―!)
 自身の身体ごと吹きあがらせるように風を放ち、その膂力で出来た勢いをぶつけた一撃。
 それは確かに、黒笠の攻撃を押し返し、距離を置かせることができた。
 一瞬の攻防。少し押され気味ではあったが、何とかタバサは黒笠に食らいついていた。
「動きも中々、ますます気に入った。お前さんみたいのがいるなら存外この世界も捨てたもんじゃないな」
 だが…と、黒笠は一旦間を置いて、タバサにこう言った。
「それも俺の世界で言う『明治』という堕落した泰平の世での話だ。あの頃…血が飛び交い修羅が犇めきあった幕末の時代においては、その程度の体術は、全く、通用しない」
(……メイジ…?)
 ひそかにどうでもいい勘違いをしているタバサを置いて、黒笠は腰を落とし、深く構えた。
タバサもまた、何があってもいいように杖を前に置いて防御の姿勢を作る。
 刹那――――――。


             速い!!!


先程の剣戟とは全く別次元の、恐ろしくも凄まじい迫力を伴って、黒笠はタバサに向かって神速の突きを繰り出してきた。
「―――――っ!!!」
 タバサはギリギリの線で刺突を躱す。頬に血の筋を作るが、それを『痛い』と感じる余裕はなかった。
(やっぱり、今までのは手加減だったのか――――)
 トクン、という心音がはっきりと聞き取れる瞬間、それでもタバサは反撃の為無意識に体を捻っていた。
刺突は外したときの隙が大きい。これを狙えば…。
しかし、黒笠の笑いがそれを制止させる。
「なっ!!」
 見れば、黒笠は手首を横にひねり、切っ先を水平に変え、避けたタバサに向かって横薙ぎを繰り出してきたのだ。
慌ててタバサは杖で受け止める。しかし勢いに乗った一撃を、体重も腕力も無い身軽なタバサが受けきれるはずもなく、そのまま吹き飛ばされて横転した。
「突きを外されても間髪いれず横薙ぎに派生する。戦術の鬼才と呼ばれた新撰組副長。土方歳三の編み出した『平突き』の味はどうだ?」
 してやったり、と言わんばかりの表情で黒笠は転がったタバサを見て笑った。
「お前さん運がいいねえ。これが三番隊組長の『牙突』だったら、お前さんの身体は今頃木端微塵だっただろうよ」
 タバサはよろけながらも立ち上がる。まさか突きを変えて横斬りにしてくるとは思わなかった。
 距離をとって魔法で戦うか? タバサはそう逡巡したが、そうしたら『心の一方』で攻めてくるかもしれない。それだけは避けねばならない。
大体呪文詠唱の隙をこの男が与えてくれるかどうか、甚だ疑問だった。
 だが、このまま接近戦だけじゃ、いずれはボロが出るのは明白だ。

137 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:17:29.49 ID:ojC1ok/R
(何とか流れを変えなければ…)
そう思い、タバサは抜刀術の構えを取った。
「ホウ、抜刀術の真似事か…。奴に教わりでもしたか?」
 黒笠は凶悪な笑みを浮かべながら、タバサの動向を伺った。攻める機会を与えているようだ。
 タバサは小さく一息すると、目を一瞬だけ黒笠の方へ向け、そして駆け寄った。
 まず一太刀。『ブレイド』で鋭さを上げた杖による横薙ぎの一撃。それを黒笠はするりと回避する。
 斬撃が空振るのを見届けた黒笠は、そのまま笑ってタバサに向かって突き殺そうと迫る、その一瞬。
(ここだ…!!)
 今度は本命。氷でできた白刃を左手で握りしめ、黒笠目掛けて打ちはなった。

(『ジャベリン』+―双龍閃―!!!)

これは当たる。黒笠の体勢からタバサもそう確信した。
しかし結果は、タバサの予想を裏切る形で終わる。
「うふゎはははは!!!」
 何と、まるで予期したと言わんばかりに黒笠は、タバサを突き殺すはずだった刀は進行方向を変え、氷の刀に向かって振り上げた。
 それにより氷の刃は、いともたやすく簡単に、あっけなく粉々に砕け散った。
(な…?)
 この光景に、一瞬思考が停止したタバサにさらに止めを刺すかのように、黒笠は心の一方を放つ。
「ぐっ…!」
 しまった…!!
タバサがそう思ったときにはもう遅かった。
 体が重い…。動けない程ではないが、それでも全身に鉛でもつけられたかのような感触だった。
 必死で振りほどこうともがくタバサの姿を、黒笠は薄ら笑いで見つめていた。
「うふふ、残念だったな。虚をつくまでは合格点だ。斬撃そのものの速さも申し分ない。ただ、唯一残念なことは、その技は既に見せてもらっているということだ」
 黒笠は凄惨な笑みをたたえてそう言った。自分の魔法が…鍛えたこの技術が…まだこの男には通じない…。絶望と悔恨がタバサを苦痛の表情に変えた。
「うふふ、恨むなら俺との戦いの詳細を語らなかった抜刀斎を恨みな」
 黒笠はゆっくりと刀を振り上げる。二つの月が、刀を様々な色合いに仕上げていく。
 その様を、タバサは動けない体で見ていることしか出来なかった。
(死ぬ…の…ここで…?)
タバサは一瞬そう思いながら、黒笠の掲げる刀とその背景の月を見上げた、その時だった。
「………?」
 タバサは目を細めた。今月の影に、誰かいたような気がしたのだ。見間違いかと思ったが、そうではない。
 その影は徐々に、そして段々と大きくなっていき、こちらに向かってくるのだ。
 何かがこっちに近づいてきている。
「うん? 何だ…―――」
 黒笠も異変に気付いたのか、タバサと同じく上空の月を見上げる。影は今、刀のような光を輝かせこちらに殺到してくる。
 そして刹那、全てを悟った黒笠は素早く刀で防ぐように上へと掲げた。
「――――うおっ!!?」
 遅れて、黒笠の所で激しい落下音と衝突音が同時に鳴り響いた。
 タバサは、ゆっくりと目を開ける。そこにいたのは…。
「きゅい、お姉さま無事なのね?」
 人型の姿できゅいきゅい喚くシルフィードと。
「間一髪でござるな…」
 逆刃刀を振りかざし、油断なく周囲を見渡す剣心の姿があった。
 タバサはここに来てようやく、自分は紙一重で命を拾った事がわかった。どうやらシルフィードが無事剣心を連れてきてくれたようだったのだ。

138 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:19:57.61 ID:ojC1ok/R
「何とか間に合ったのね。ったくこのおちびどこ探してもいやしないから街中走り回ったのね!!」
 非難するようにシルフィードが剣心をジッと見つめる。剣心も特に傷がなさそうなタバサを見てほっと胸をなでおろした。
「イルククゥ殿から事の顛末は聞いたでござる。まさかもう接触があるなんて思いもしなかったでござるよ」
 タバサは何か言おうとして、まだ心の一方で体が動かないことに気付いた。
「きゅい、お姉さまどうしたのね? ぼーっとしちゃって。さては腰でも抜かしたのね?」
 シルフィードはそうからかうが、剣心は深刻な表情を作った。
「心の一方にかかったでござるか…」
 えっ…とシルフィードは言葉を失う。タバサは何とか振りほどこうとするも、どうにもならないようだった。
 そうこうする内に、落下の衝撃で吹き荒れてた煙は、やがて晴れて黒笠の姿が現わになっていった。

「その十字傷、その技…間違いない。久々だな…会いたかったぞ!! 抜刀斎!!!」

 黒笠の象徴である帽子が、亀裂を呼んで音を立てる。そして次の瞬間ボロボロに崩れ落ちていった。
 素顔を晒した黒笠は、抜刀斎……剣心の姿を見て、これ以上ない喜色の笑みを浮かべて叫んだ。
 あまりの凄惨な表情に、タバサとシルフィードは背筋が凍りつくのを覚える。
 唯一動じず黒笠を睨む剣心は、彼と同じくらい鋭い眼光を放ちながら正面から向き直った。
「なぜお前がここに居るのか、それは問うまい。だがこれ以上の人斬りは拙者が許さぬ」
「同じ人斬りのお前が何を言う。まさかまだ『不殺』なんて甘ったるい考えを貫いているんじゃあないだろうな?」
 剣心は黒笠の顔を真正面から睨みつける。二人の間から、凄まじい剣気がぶつかり合うのをタバサは肌で感じた。
「人斬りは所詮、死ぬまで人斬りでしかない。そう教えただろうに、なあ、『幕末最強の人斬り』緋村抜刀斎よ」
「…何にせよ、年貢の納め時だ。黒笠…否、『逸れ人斬り』鵜堂刃衛」
 二人は、しばらく睨み合っていた。それだけで周囲の木の葉は弾け、草木はざわついて揺らめく。
 ここにいては危ない。動物の直感からそう感じたシルフィードは、タバサは抱き起こしてその場を去ろうとした。
「お、お姉さま、ホントに動けないのね?」
「………」
 しかしタバサは固まったまま、シルフィードにずるずる引きずられていく。タバサは何の抵抗もしないまま。シルフィードのされるがままだった。
(お姉さまが、ここまでやり込められるなんて…)
 信頼する主人の惨状に、シルフィードは身震いする。
そして思わず刃衛の方に視線を移した。
 瞬間、刃衛の冷たい眼から強烈な『圧』がシルフィード目掛けて飛んできた。
(あ…!!)
シルフィードは一瞬後悔しながら目を瞑ろうとした。
 その目の前を、覆いかぶさるように剣心が躍り出た。
「おちび!!」
 シルフィードは叫んだ。心の一方をまともに食らった剣心は、大きく体を仰け反らせて固まってしまった。
(ああ、シルフィのせいでおちびまで…)
そう後悔するシルフィードをよそに、剣心は大きく叫ぶ。
「はぁっ!!!」
 バァンと、弾かれるような音を立て、剣心は再び動き出す。まるで何事もなかったかのように。
「言ったでござろう、心の一方は気合と気合のぶつかり合い。同等の剣気を持ってすればかからぬと…」
 安心させるように剣心が説明する隙を狙って、刃衛は刀を向けて斬りかかって来た。
 剣心もまた、逆刃刀を振りかざし襲い来る斬撃を防ぐ。
 刹那始まるのは、刀と刀による壮絶な剣戟。刃衛の光の如く繰り出す剣閃と、それを余すことなく弾き返す剣心の剣撃。

139 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:24:40.96 ID:ojC1ok/R
 二人の剣の応酬に、タバサとシルフィードは唖然として見ていた。
「や、やっぱあのおちび…もの凄く強いのね…」
 自分も何度か、竜の姿で彼が戦うようなところを見てきたが、正直ここまでとは思ってなかった。
タバサと比べたら、そりゃあご主人様の方が少しくらいは上かなぁ…とか、そう思っていたからだ。
 だが、今目の前で繰り広げている戦いは、二人の考えていた範疇を容易に越えていた。
 タバサもまた、二人の戦いを目に焼き付けるように見ていた。
上には上がいる。この戦いでまさにそれを思い知らされた。しかし…。
(あそこまで、あそこまで辿りつければ……)
タバサはそう夢想する。あの地点まで上り詰めれば、本当に自分の悲願も夢ではないはずなのだ。 
叶えられる現実とその可能性が目の前にある。その想いが、タバサを更に修羅道へと踏み込ませることとなった。

 外野がそんな目で見ているのを知らず、剣心と刃衛は戦い続ける。
 剣心は紙一重で刺突を避ける。次いで放つ横薙ぎの『平突き』を、剣心は跳躍して回避した。
 月光で煌く逆刃刀を掲げながら、剣心は思い切りそれを振り下ろす。
「飛天御剣流 ―龍槌閃―!!!」
 落下の力も合わせた強力な唐竹割りを、刃衛目掛けて打ちはなった。
 ドゴン!! と衝撃音が鳴り響き、辺り一面に土埃が舞う。
 しかし、刃衛はこの攻撃を既の所で回避していた。
「そこだ抜刀斎!!」
 直ぐ隣で刀を腰に貯めていた刃衛が、素早く剣心の首を狙って横薙ぎを放つ。
 剣心は、冷静にその軌道を捉えると、鞘を腰から抜いてそれを受け止め、距離を取りながら素早く刀を鞘へ戻した。
 そしてその場で屈んで柄に手を触れる。タバサが何度も頭の中で思い描いてきたその構え、抜刀術の動作だった。
 それを見た刃衛は、ふと昔でも思い出したのだろう。ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「久々に見たな、その構え…。だがまるで怖くない。まだあの時の方が良い目をしていたぞ」
 二人の間に、追憶という名の別の時間が流れ始める。
場所は東京での小さな祠。時刻は同じくこの夜。丁度、こんな風に一つの大きな満月が夜空に浮かんでいた時だった。
 それを思い出し、少し剣心は目を細める。夢のことを思い出し、思わず柄を握る手に力がこもった。

「思い出せ抜刀斎!! あの時のお前は、俺を『殺す』と告げた時のお前は、もっと良い目をしていたぞ!!!」

 刃衛の叫びに、何故かふと夢で感じた…自分が自分じゃなくなるような感覚に襲われた。
見れば、左手のルーンの光が、『ガンダールヴ』の力が、今までより大きく出ているように感じたのだった。光の色も、いつも爛々と輝くそれではなく、どこか鮮血のように紅く暗い色を放っている。
 それでも、必死に理性で力を押さえ込み、剣心は叫ぶ。
「拙者はあの時とは違う。もう人斬りには絶対に戻らん!!」
 そして一気に刃衛に向かって駆け出した。刃衛もまた、愉悦の笑みを持ってこれに応える。

(―――ヒトキリニモドレ)

 二つの刀が、同時に光り輝き、そして交差するように閃いていた。

140 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:26:46.50 ID:ojC1ok/R
 劇によくあるような、すれ違うように刀を振り抜いた動作のまま、剣心と刃衛はしばし佇んでいた。
 この静の空間を動かしたのは、刃衛だった。
 着物の袖にゆっくりと切れ目を作りながら、刃衛は言った。
「駄目だな。確かにお前はずっと強くなった。だがあの時のような怖さがない。あの圧倒的で、見るもの全てを恐怖に陥れる、そんな目をしたお前の方が余程凄かったぞ!!!」
 その叫びと共に、剣心の腕の袖もまた、ハラリと切れ目を作る。しかし剣心はそっちを気にせず、改めて光り輝く左手のルーンを見つめていた。
 やはり…これの所為で…。
 刃衛との一太刀を制せなかった元凶であるこの光を見つめながら、剣心は遣る瀬無さそうに刃衛の方へと振り向いた。

刹那の攻防をその目で見ていたタバサは、ここでハッとした。動く…急に体が動くようになったのだ。どうやら今の一戦で心の一方が解けたらしい。
上を見れば、さっきまで護衛していた部屋からは明かりが灯り始める。メイジが『ライト』の呪文を唱えたからだ。
その次に聞こえるのは、無数の足音。騒ぎを聞きつけて残りの兵隊達が集まってきているのだ。
 いかな黒笠といえども、剣心のいる状態でこの数相手は辛い筈。ようやく事件が、解決の兆しを見せ始めた瞬間だった。
 しかし刃衛は、状況は分かっているはずなのに、少しも臆した風もなく変わらぬ笑みを湛えている。
「これで終わりだ、鵜堂刃衛。大人しく捕まるでござるよ」
「うふふ、どうやら頭の回転までも鈍ったようだな抜刀斎。何故俺が文字も読めぬ分からぬこの世界で、今まで正体を隠し暗殺できたのか、お前なら直ぐにわかると思っていたんだがな」
 刹那、二人の間に何者かがドスンと音を立てて舞い降りた。
 剣心は驚きながら刀を構える。先程の音の正体は人間だった。
 筋骨隆々な体格をした男は、暫く冷静な表情で刃衛と剣心達を見渡していたが、やがて刃衛の方を向くと単刀直入にこう言った。
「退くぞ。標的は殺ったか?」
「イヤ、久々に愉しめてもう、標的などどうでも良くなってな」
「なっ…なんだと…?」
 刃衛はうふふと笑うと、男は呆れたように軽くうなだれた。
「……お前ともあろうものが仕留めそこねるとはな。まあいい、後で訳を聞かせてもらうぞ。それより撤退する。このままでは面倒だ」
 男はそう言うと、素早く呪文を詠唱。周りの地面を霧散させ即席の煙幕を作り出した。
 剣心は慌てて辺りを見渡すが、そこにもう刃衛も男の姿もなかった。
「また会おう抜刀斎。それまでにあの頃に戻っておけ。あの時、味わえなかった兇刃を今度こそ味わわせてくれよ…うふふ…」
 刃衛はそう言って、その場を離れた。去り際の最後に、タバサにこう言い残して。
「それから…お前さんも楽しみにしているからな」
「――――っ!!!?」
 刃衛は、タバサの肩を掴んで耳元でそう囁く。タバサは一瞬、恐怖と驚愕で腰を抜かしそうになった。
 慌てて振り向いた時には、そこには誰も何もいなかった。
 煙幕が晴れ、夜空が現れてもタバサは、その方向をずっと見ていた。
(黒笠…ウドウ・ジンエ……)
 避けられない戦い…。タバサは今、強くそう感じていた。
 やっぱり、もっと強くならねば…。そうでなきゃ、自分の身も守れない。
「もっと…強く…もっと…」
 タバサは、シルフィードに話しかけられるまで、無意識にそう繰り返し呟いていた。

141 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 21:49:01.98 ID:ojC1ok/R
(消えた…か…)
 刃衛達の気配が完全に消えたのを確認した剣心は、ゆっくりと逆刃刀を納めた。
 同時に、駆けつけてきた護衛たちが続々とこの場所に集まってきた。
 そこから一人の女性…アニエスが前にでると、剣心とタバサを見て言った。
「敵はどうなった?」
「取り逃がした」
 タバサはきっぱりとそう告げた。アニエスはそうか…と軽く呟く。そして今度は剣心の方へと視線を移す。
 この二人の話しぶりから見て、知り合いだと判断した剣心は、アニエスの方を向いて軽く挨拶した。
「緋村剣心でござる。よろしくでござるよ」
「わたしはアニエス。そうか…話は聞いている」
 感慨深げに呟きながら、アニエスは剣心を見る。剣心からすれば、何が何やら分からないのではあるが。
 アニエスはそれを気にせず、剣心の顔をまじまじと見つめた。
「小柄な体格に緋色の髪、そして左頬に十字の傷跡。異国の服に腰についた『斬れない剣』。……成程、お前が陛下が言っておられた『伝説の使い魔』か」
「おろ?」
「丁度いい、陛下はお前に会いたがっておられる。礼も兼ねてこの任が済んだら、一緒に来てもらおう。出来ればお前達にもな」
 そう言って、アニエスはタバサ達の方を向いた。
タバサは一瞬迷う。正直に言えば、あんまりこの国の王族に関わりたくなかったのであるが、この際そうも言ってられない。乗りかかった船だ。
 タバサもコクリと頷く。それを肯定と見たアニエスは、少し満足そうな表情をした。


 その夜、すっかり月も真上に上り詰めた深夜の刻。
 月夜に照らされて、民衆の屋根の上を走り抜ける二つの影があった。
 先程暗殺に失敗した、鵜堂刃衛とその脱出の手引きをした男だった。
 二人は、追っ手がこないのを確認したあとひっそりと、更に人気ない街路樹へと一度降り立った。
 男は、壁にもたれ掛かると刃衛の方を見て言った。
「話してもらおうか、何故失敗した?」
 毅然とした態度で、男は尋ねる。対する刃衛もどこ吹く風の様子で、ニヤリと笑った顔で煙草を取り出し、それに火をつけた。
 紫煙で辺りを燻らせながら、刃衛は愉しそうな声で言った。
「なあに、ちと遊びすぎただけさ。それ以上も以下でもない。そんな咎めることでも無いだろう?」
「そんな態度では困るな。今回は標的を殺れなかっただけじゃなく、多くの衆目にその姿を晒したのだ。これが何を意味するか、分からんお前ではないだろう」
 男は予断を許さぬ口調で問い詰める。
「俺達が暗殺に最適な環境を作り上げ、その隙にお前が影で仕留める。俺達『兄弟』が後方支援なのは納得いかないが…それでも現状『黒笠』という異名はこの国の脅威の象徴となったはずだ。その一から作り上げた異名を、お前はこの一夜で不意にしたんだぞ」

 そう、今まで刃衛の素性を掴めなかったのは、この『元素の兄弟』による活躍が大きかった。
 受けた依頼は必ずこなす。この手の裏事で彼等を知らない人間はいないだろう、と言えるほどの屈強な兄弟達。
 今でこそガリアの『北花壇騎士』にその名を連ねているが、正直金を積まれれば何事でも請け負う彼等もまた、今は一時だけアルビオンに雇われていたのだ。
 その男、上から二番目の兄ジャックは苦い顔で、刃衛に言った。
「今回の照明だって、俺達がダミアン兄さんに掛け合って貰った魔法具のおかげだ。あれでいつも通り仕留めてくるかと思えば………そんなに気になる奴がいたか?」
「ああ……いたさ」

142 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 22:00:28.81 ID:ojC1ok/R
 刃衛が凶悪な笑みを浮かべた。その表情は裏事を生業としてきたジャックでさえ、まともに直視することは出来なかった。
「やっと巡り合えた。それに面白い卵も見つけてきた。今の俺は最高に気分がいいんだ。またあの男と、ギリギリの一線で殺しあえるのだからな」
「……理解できんな」
 言い分は分かっても感性で相容れないジャックは。思わずそう呟いた。まだ戦いをゲーム感覚で見る弟の方がまともに感じる。
 この男は狂気そのものだ。欲求のままに殺人を犯す狂った人間は今までも見てきたが、この男の場合、狂気がそのまま実力へと繋がっている。だから余計手に負えない。
 依頼で仕方ないとはいえ、出来ればジャックもこんな男と余り関わり合いになりたくなかった。
 しかしそれも漸く終わる。奴の話しぶりから、ジャックはこの任務が終わりが近づいてきている様子を感じたのだった。
「だがその言い方だと、どうやら『本命』が見つかったようだな」
「ああ、そうだ…うふふ」
 同じ『北花壇騎士』の任につく縁もあってか、今回に限ってアルビオンであの男…志々雄真実に、この刃衛と兄弟共々『刺客』として雇われたジャックは、依頼の完了条件を思い出す。


 すなわち、『緋村抜刀斎』及び、その主人である『虚無の小娘』の抹殺。


 貴族の暗殺は、来るべき侵略での進行を簡略化するのが目的であったが、それ以上に抜刀斎を呼び寄せる餌としてでも効果があった。
 そして、これが本当の目的、その『虚無の担い手といわれる小娘』と、そいつが呼び出した使い魔『人斬り抜刀斎』を殺すことが、この任務の最終目標でもあった。
 そう言った意味で考えれば、別に『黒笠』であることに特にこだわりは無い。情報源を与えてしまったのは痛いといえば痛いが…そうも言ってられなさそうだった。
「ならば我々も少し大胆に動くとしよう。元々場を整える仕事など性に合わん」
 ジャックがそう言うと、上の方から人影が現れた。その人影は、一気に刃衛達の前に飛び降り、その姿を見せた。
「やあジャック兄さん。やっと標的が見つかったって?」
「…ドゥドゥー、来てたのか。ガリアでの依頼は終わったのか?」
「うん、やっと目処がついたとこさ」
 ドゥドゥーと呼ばれた少年は、やれやれとどこか呆れた様子で口を開いた。
「ダミアン兄さんもがめついよね。『北花壇騎士の仕事と今回の依頼を両方こなせ』だって!? 金が必要なのはわかるけどさ…」
「仕方なかろう、計画のためだ。それにそもそもお前がその二人の標的のリストを無くさなければ、こんな面倒なことにはならなかったはずだが…」
 ジャックはジト目でドゥドゥーを睨んだ。ドゥドゥーも、うっ、と声を詰まらせる。
「全く、そんな調子だからいつまでもジャネットに舐められるんだ」
「だ、だからさ、謝ったじゃん。僕だって反省してるよ!」
 しどろもどろになりながらドゥドゥーが反論した。その様子から反省の色は余り見られない。
 それよりも、と急かすようにドゥドゥーは尋ねる。
「強いの、そいつら。やり甲斐がありそう?」
「さあな。俺が直接手合わせしたわけじゃないからな。奴に聞け」
 そう言って、ジャックは刃衛を顎でしゃくった。
 ドゥドゥーも一瞬、えぇ…とたじろきながらも、結局好奇心が勝ったのか刃衛に尋ねた。
「ねえ、そのバットウサイって奴、強い?」
「うふふ、手合わせすればすぐにわかるさ…」
 刃衛は煙草の煙を吹きながら、簡潔にそう返した。
「ふうん、バットウサイかあ…どんな奴なんだろ…?」
 少し凶悪そうに顔を歪ませながら、ドゥドゥーは一人考え込む。すると…。

143 :るろうに使い魔:2015/04/26(日) 22:12:57.82 ID:ojC1ok/R
「全く、ドゥドゥー兄様はそればっかりですわね」
 今度は背後から、全く気配を悟らせずにドゥドゥーにそう言う人影があった。
 それは、ルイズと共にチェレンヌを追い払った少女…ジャネットであった。
「ジャネット。お前こんな時間まで何してたんだ?」
「兄様たちが仕事だとか言うから、テキトーに遊んでましたわ」
 不貞腐れた口調だったが、それにしてはどこか上機嫌な様子でジャネットは言った。
「…嬉しそうだな、何かあったのか?」
「ええ、ちょっとね。兄様達が聞いたらひっくり返るような情報を手に入れてきましたわ」
「おいおい、隠さないで説明してくれよ。気になるじゃないか!」
 ジャネットが楽しそうに笑うのを見て、好奇心を隠せなくなったのかドゥドゥーは歩み寄る。
 すると今度は、何か頼むような目線で次男のジャックに言うのだった。
「話してもいいですけど、その代わり私もこの任務に参加してもいいかしら? ちょっと気になる子を見つけましてね」
「…やれやれ、お前も相変わらずだな」
 ジャックは肩をすくめるような仕草をしながらも、結局は折れてジャネットに話を聞かせてもらうことにした。
 ジャネットは「やった!」と無邪気な笑顔で喜んだ後、ルイズに会った経緯…それが今回の標的であることをジャックに話したのだった。
「なぁんだ!! じゃあこれで抜刀斎と虚無の小娘の両方を見つけちゃったわけじゃん!!」
 拍子抜けするような態度のドゥドゥーに対し、ジャックはそんな妹の態度に嫌な予感を覚える。
「…もしかして、その気に入った小娘というのが、そいつか?」
「そうですわ! ねえ、あの子だけ捕獲でもいいじゃありません?」
「…ダミアン兄さんに聞け。詳しい依頼内容は兄さんが知っているわけだからな」
 ジャックははぁ…とため息をつく。全く標的に入れ込むとはどういうつもりなのだろうか。
 そんな、呑気なことを考えていた内―――。

「ほう、抜刀斎を召喚した小娘か…」

「―――っ!!」
 ジャックは、ふと後ろを振り向いた。
 そこには先程まで、あの男が一人煙草を吸っていた筈だったのだが…。
「それは俺も興味があるなあ…。抜刀斎を呼び出した小娘か…」
 反響する声と、煙草の紫煙が空に停滞する意外に、そこには何もなかった。
「…やっぱり僕、あいつは苦手だ」
 ドゥドゥーはぽつりとそう呟く。
 しばし呆然としていたジャックは、乾いた笑いをしながらジャネットにこう言った。
「…先に奴に聞いたほうが良かったな」
「…渡しませんわよ」
 微笑んで敵愾心を燃やすジャネットだったが、その頬には、一筋の冷や汗が光っていた。


以上です。
終わる前に一つここで報告があります。
前から考えていたのですが、近々ハーメルンの方にも掲載を開始しようかと思っております。
勿論こちらにも引き続き投下を行っていきますので、これからもよろしくお願いします。

144 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/26(日) 22:34:10.62 ID:8Es6KtHP
るろうにの方、投下乙です。
さて、よろしければ、私も22:40頃から続きを投下させてください。

145 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/26(日) 22:40:42.99 ID:8Es6KtHP
 
ミス・ロングビルこと『土くれ』のフーケが、密かに宝物庫へ侵入してお宝を盗み出していた、ちょうどその頃。
ディーキンはキュルケの部屋で、日中の務めや勉学を終えて集まった少女たちに詩歌を披露していた。

内容は、理不尽なまでに強い、ある神話級の英雄の活躍を題材としたものだった。
ディーキンが昔どこかの本で読んだ物語であって、ハルケギニアに元々存在する話ではない。
だが熱いものやコミカルなものなどいろいろなエピソードがあって、元々この物語が知られている場所では広く歌われており、根強い人気があるらしい。




 勇敢なる『ノーザンの拳』リューケは、たちまち賊の大群に取り囲まれた!

 彼と共にある仲間は、強い絆で結ばれた強敵(とも)が2人だけ
 敵はざっと1000人くらいさ
 さあ、ひとりあたり、最低300人ちょっとは倒さなくちゃならないね!

 ………

 ああ、悪党とはいえなんて気の毒なんだろうか?
 たったそれだけしかいないのに、3人もの英雄相手に挑まなくちゃならないなんて!




参加者はルイズ、キュルケ、シエスタ、タバサの4人の少女たち。
あとはエンセリックとデルフリンガーも、一応いる。

彼女らは最初、あまり女の子向けの話ではなさそうだと、若干苦笑しながら聞いていたのだが。
いつの間にかみなストーリーに引き込まれ、今や目を輝かせながら熱心に耳を傾けだしていた。
そのあたりは他の世界からもたらされた話の新鮮さや、話自体の出来の高い面白さ、そしてディーキン自身の技量によるものであろう。

最近のディーキンは、夜に少し時間を取ってキュルケの部屋に行き、彼女に演奏の助言を行ったり、彼女と合奏を楽しんだりしていた。
キュルケの趣味はハープの演奏であり、ディーキンの腕前を知った彼女がぜひ一緒にと自分から頼んだのである。

ディーキンからその件で許可を求められたルイズは当然非常に不満であったが、パートナーの前でまた狭量な態度を取るのも嫌で強く反対できなかった。
結局は渋々許すことにしたのだが、代わりに自分も立ち会わせてもらうといい出したのは驚くにあたるまい。

シエスタもまた、その事を知ると自分も参加させてくださいと熱心に頼み、同席を認められた。
普通なら平民が貴族の部屋へ上がり込んで演奏会に同席したいなどという願いが認められるものでもあるまいが、無論ディーキンがいれば話は別である。

そんなわけで参加人数がずいぶんと増えてしまい、キュルケは最初、少々不服であった。

本当なら自分の親友であるタバサも……いや彼女をこそ同席させたかったのである。
だが、その肝心のタバサはいつの間にかまたどこかへ出かけたらしく学院内に姿が見えなかったので、どうしようもなかった。

とはいえキュルケも、じきにこういうのも賑やかでいいかも、と思うようになった。

彼女は男子にはちやほやされているが、その奔放な振る舞いから、女子にはあまり人気がないのである。
同性の親しい友人と言えばこれまでタバサくらいしかおらず、そのタバサも社交的な性質ではないため、こういう集まりにはこれまで縁がなかったのだ。

そのタバサはといえば、ここ数日ばかり『任務』のために出かけていたが、つい先程学院に戻ってきていた。
それを見つけたキュルケから、早速誘いをかけられて同席したのである。

なお、キュルケはタバサが何日も学校をサボってまで出かけていた理由については無理に問い質そうとはしなかった。
タバサは自分の境遇についてキュルケに話したことはないが、彼女は友人が学院からいなくなるのを不審には思っても、無理に詮索したりはしない。
そのあたりが、まったく性格の違うこの2人がよい友人であり続けられる理由のひとつだった。

今夜はいくらか演奏の助言などを済ませた後で、せっかく大勢集まっているのだからと、自分の演奏を皆に聞いてもらっているというわけだ。

146 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/26(日) 22:42:19.43 ID:8Es6KtHP
 
演奏は続き、主人公たちが幾度もの死闘を潜り抜けた後、物語はいよいよクライマックスを迎える。
ついに英雄は2人の古くからの友人たちとも別れることになるのだ。




 共に心が通い合い、幸せを掴んだ2人の仲間を置いて、英雄リューケはまた旅立った

 自分の墓標に、名は要らない
 看取る人も、なくていい

 自分が死ぬ時は、ただ荒野の果てに消えて、二度と姿を見せなくなるだけだ
 その日まで、旅は終わらない

 そう、死すならば戦いの荒野で!

 ………

 かくして、英雄は伝説となり、
 伝説は神話となる―――




そうして荘厳な演奏と共に長い物語を歌い終えて御辞儀をすると、少女たちから大きな拍手が贈られた。

「いいじゃないの、ディーキン! 私の実家で雇ってる音楽家だって、そんなに上手じゃないわ!」
「よかったです、先生! その……、今のもボスという人の話と同じで、本当にあったことなんですか?」
「本当に上手ね、ディー君。うっとりするわあ……。ああ、私も、そんな素敵な英雄と恋がしてみたいものね……」
「……イーヴァルディよりすごい、……かも」

ディーキンはそんな賛辞の数々に照れたように目を細めて顔を綻ばせると、もう一度御辞儀を返して回った。

「えへへ、ありがとうなの。ディーキンはご清聴に感謝するよ。
 この英雄のお話は他にもあるから、気にいってもらえたなら、また今度お聞かせするね?」

しかし、そういうと、気持ちが高揚してすっかり話にのめり込んでいた彼女らからは今すぐ続きをとせがむ声が上がる。

ディーキンはそれを聞くと、少し目をしばたたかせて、さてどうしたものだろうかと考え込んだ。
今披露したのはこの長い物語の大筋の流れであり、ごく一部のエピソードに過ぎない。
外伝なども含めた全部は、一夜ではとても語り尽くせないほどの量だ。
だからまだ、いくらでも歌える話はあるし、いい加減に夜遅いとはいえ歌う時間もまだ少しはあるだろう。

しかし……、切りもよいし、やはりこのあたりで今回は終えておくほうがよさそうだと、結局は判断した。

「オホン……。ディーキンの歌はね、つまり、ええと……、一夜の夢、なの。
 だからね、もう一度時間を取ってもらえるのなら、また別の夜に。
 ってことで、どうかな……?」

ディーキンはそんな事を言って断ろうとしたが、気持ちが高揚している少女たちは、なかなか承諾しなかった。
明日は『虚無の曜日』で休日だから、少しくらい遅くなってもいいからもっと聞きたいと、再三せがんで来る。

「ウ、ウーン……、」

ディーキンは嬉しさ半分、困惑半分で曖昧な笑みを浮かべて言葉を濁した。
なにせ、歌わせてくれと頼むことには慣れていても、歌ってほしいという頼みを断るのにはまったく慣れていなかったから。

147 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/26(日) 22:45:15.91 ID:8Es6KtHP
 
それに本当のところは、自分もまだ歌いたくてうずうずしているくらいなのだ。
もっとみんなに楽しんでもらいたい、自分ももっともっと注目を浴びたい、という気持ちは大いにある。
もう今日はこれ以上歌いたくないなんてことは、ぜんぜん思っていない。

だが、引き際を弁えるのも芸人の嗜みだということは、ちゃんと心得ている。

歌にせよ、呪文にせよ、自分の芸を一度にあまりたくさん見せすぎてはいけない。
人気の出たシリーズは、一回で終わらせるよりも幾度かに分けて少しずつ披露した方がよい。
もう十分に好評を博したことだし、この熱狂が冷めぬうちに話を終えれば、続きを歌った時にもまた熱心に聞いてもらえることだろう。
続きを歌うその日までに自分の芸をまたひとつ増やしておけば、ずっとずっと新鮮な芸を披露し続けて、永く楽しみ続けてもらえるはずだ。
それが客のためであり、自分のためでもあるだろう。

それに今夜は、この後ちょっと出かけたい用事もある。
トリスタニアの『魅惑の妖精』亭で、先日約束した仕事をさせてもらおうと思っているのだ。
うっかりしてあまり長く延長し過ぎて、それに差し障りが出ても困る。
少し短いくらいで止めにしておいた方がいい。

ディーキンはそう自分に言い聞かせて、二つ返事で少女たちのリクエストに答えてしまいそうになるのをぐっと我慢した。

とはいえ……、どうやったら首尾よく断れるものだろうか?
仕事があるからと言えば納得はしてもらえるだろうが、せっかく夢見心地の良い気分に浸れている客を、こちらの都合でがっかりさせるのは好ましくない。
ましてや下手な断り方をして不機嫌にさせてしまうようではいけない。
となると、今の話の続きの代わりに、何か短い即興の話か音楽でもこしらえて、アンコールの演目として披露しようか?
それで満足してもらえるといいのだが……。

ディーキンがそんなふうにいろいろ考えていると。
最初は他の3人と同様に続きを聞きたそうにしていたタバサが、じっとその顔を見つめて、ぽつりと呟いた。

「やめた方がいい」
「………え?」

虚を突かれた他の3人が、一斉にタバサの方を振り向いた。

「彼が話したくないのなら、今夜は無理に聞かない方がいい」

それを聞いて、ルイズとシエスタは少し戸惑ったように顔を見合わせたが、やがて。

「そ、そうね……。貴族ともあろうものが無闇に続きを急かすなんて行儀が悪いし、また今度でいいわ。
 それにあんた、そういえば今夜はこれから仕事だかに出かける予定があるんだっけ?
 遅れないうちに行かなきゃね、引き留めて悪かったわ」
「す、すみません。私、無理を言って同席させてもらっていますのに、出過ぎた要求を……」

そういって、要求を取り下げた。

キュルケはと言えば、少し驚いたようにタバサの方を見つめ、やがてその表情が優しげなものに変化した。
当のタバサはキュルケのそんな様子になど気付きもせず、じっとディーキンの方を見て。

「ありがとう。いい歌だった。
 あなたの気が向いた時に、また続きを聞かせて」

そういってもう一度会釈をすると、それきり周囲の事など忘れたように、本を開いて黙々と読み始めた。
そんなタバサの態度を見て、キュルケの笑みがますます深くなった事はいうまでもない。

(やっぱり恋をすると違うわね〜、この子がディー君のことをそんなに気遣ってるなんて……)

実際のところはというと、タバサは自分たちに続きをせがまれて嬉しいような、困ったような、そんな様子でいるディーキンを見ているうちに……。
ふと、ある人物のことを思い出したのだった。

148 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/26(日) 22:47:40.12 ID:8Es6KtHP
 
その人物とは、自分が公女だったころに親しくしてくれていた、トーマスという名の平民である。

彼は自分の住んでいた屋敷のコック長を務めていたドナルドという男の息子で、自分より五つか六つほど年長だった。
手品が得意で、小さかった自分の遊び相手によくなってくれたものだ。
執事のペルスランには、高貴な身分の令嬢は平民と必要以上に交わるべきではない、としかられたものの、タバサはよく彼の目を盗んで厨房へと足を運んだ。
トーマスが教えてくれた遊びは、当時夢中であった読書と同じぐらい面白いものだったから。

彼は魔法も使わずに、ポケットから何個もボールや鳩を取り出してみたり、カードの模様を当ててみたり……。
果てはマントをかぶって、さっと姿を消してみせたものだ。
当時の自分は、一度も彼の手品のタネを見破ることができなかった。
あの頃の自分にとっては、不世出の天才と謳われた父を別にすれば、彼こそが周囲のどんなメイジにもまして、本当にすごい“魔法使い”だと思えたものだ。
兄のように感じてさえいたかもしれない。そんな彼の姿を、技を見て、当時の自分はいつも朗らかに笑えていた……。

それだけ彼の技に夢中だったから、自分は彼が今日はもう終わりだといっても、もっと見せて欲しいとしょっちゅうせがんだものだった。
そんな時に彼は決まって、嬉しいような困ったような、そんな顔をして、自分を宥めた。

『お嬢様、私の技はつまらぬ平民の手品、一時の慰みでございます。
 あまり一度に御覧になれば、すぐに飽きてしまいましょう。
 ……そうでございますな、3日後の八つ時にまたお越しくだされば、もう一度楽しんでいただくこともできましょう』

けれど幼い頃の自分には、3日という時間はとても長く思えて、不満たらたら、彼を困らせたものだった。
結局彼に予定の時間を延長してつき合わせてしまって、こっそり抜け出したのがばれて、後で怒られたりもした。
だが今思えば、ただでさえ貴族の令嬢と身分を弁えずに遊び、その上勉学の時間にまで遅刻させた彼は、もっと叱られていたのではないだろうか……。

そんなことを思い出したから、タバサはディーキンにあまり強くせがんで引き留めては悪いと感じたのだ。

さてディーキンは、演奏会の後始末を終えると、早速みんなに挨拶をして出かけようとしたが……。
せっかくだからルイズらにも一緒に来てもらえばいいのではないか、とふと思いついた。

仕事は夜遅くにすることになるので、翌日が休みでなければ勉学や仕事で忙しい彼女らを誘うことはなかなかできない。
それに、翌日には以前に頼んでおいた貴金属等の換金が済む予定になっているので、そのお金も受け取らねばならなかった。
まとまったお金が入ったら、彼女らに何か奢るなり贈るなりして、これまでお世話になったお礼もしたい。

「ンー……、ねえルイズ。明日は『虚無の曜日』で、みんなお休みなんでしょ?
 ディーキンはお金の受け取りもあるし、例のお仕事もしたいから、今夜のうちに出かけて街でお泊りしようかと思ってるんだけど……。
 もし、今日の話の続きじゃなくて、ええと、恋のお話とかでもよかったら……、みんなで聞きに来ない?」

キュルケとシエスタは喜んで、タバサは無言で頷いて、ディーキンの誘いに応じた。
優等生なルイズは、「こんな時間に夜遊びなんて……」と少し渋ってはいたが、結局は同行する事に合意した。
自分を差し置いてキュルケやシエスタやタバサらがディーキンと出かけるのは嫌だ、という思いもあったのだろう。

そんなわけで、一行はしばしの後、簡単に支度を整えてシルフィードに跨ると、夜の闇の中を王都へと向かったのであった。

149 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/04/26(日) 22:49:43.13 ID:8Es6KtHP
今回は、以上になります。
最近は一話の長さが大分短めになりましたが、その分早めに続きを書いていければ、と思います。

それでは、失礼します。
またの機会にも、どうぞよろしくお願いいたします(御辞儀)

150 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/04/27(月) 13:05:12.98 ID:AHms+qqh


151 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:32:57.95 ID:b47qSgsj
こんばんは、焼き鮭です。アルビオン編もそろそろクライマックス。投下します。
開始は22:36から。

152 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:36:44.18 ID:b47qSgsj
ウルトラマンゼロの使い魔
第六十二話「悪鬼ヤプール」
異次元人ヤプール人 登場

 ヤプール人は恐ろしい奴だ。残忍な奴だ。ハルケギニアを征服するためには手段を選ばない。
何だってやるのだ! それがまさに、ヤプール人なのだ。
 ハルケギニアに数々の侵略宇宙人を引き入れた後、ヤプール人は『レコン・キスタ』の
クロムウェルを抹消。己の手駒とすり替えて、アルビオン大陸を裏から支配することに成功した。
そしてトリステインに戦いを仕掛け、その結果トリステインとゲルマニアの連合軍がアルビオンに
攻めてくることとなった。しかし、侵攻の際にはあの手この手を駆使してトリステインを
苦しめたにも関わらず、防衛に回ったら一転、いやに消極的な態度を見せた。連合軍に大きな
打撃を与えようともせず、遂にはロンディニウムの手前のサウスゴータを明け渡した。わざわざ敵に
勝利の美酒を振る舞って、ヤプール人は何をたくらんでいるのか? 何をするつもりなのか?
『誰にも分からない……分かるはずがないんだよ! ハルケギニアの馬鹿どもめッ! 
フハハハハハハハハ!!』

 トリステイン・ゲルマニア連合軍が放棄されたシティオブサウスゴータを占領した直後、
タイミングを図ったかのようにアルビオン側から一時的な休戦の申し出があった。ヘンリーの
予想した通り、見捨てられた市民に兵糧を分け与えた連合軍はどの道動けず、これを受諾。
戦線は硬直状態のまま、始祖の降臨祭が行われようとしていた。
 始祖ブリミルの降臨祭。それは地球で言うところの、クリスマスと元旦が一緒になったような
祝日である。この日を境に年が変わり、十日近くのめや歌えのお祭りが連日開催される。
戦闘行為も、その期間は一切行われないのが通例だ。
 アルビオン大陸に上陸した連合軍も、その祭りをサウスゴータで迎えようとしていた。

「……そういう訳で、サイトを元気づける方法の知恵を出してほしいのよ」
 今年の終わり、始祖の降臨祭の前夜のサウスゴータの宿の一室で、ルイズがデルフリンガーと
姿見の中のミラーナイト相手に相談を持ちかけていた。
 雪山での二大超獣との戦闘後、ゼロの足を引っ張った才人は未だに塞ぎ込みがちであった。
初めは見放していたルイズも、だんだんと心配するようになって、こうして二人に相談をしているのである。
「何でえ。娘っ子、何だかんだで相棒のことがすげえ気がかりなんじゃねえか。初めっから
素直になっときゃ、こんなお祭りの目前まで険悪のまま過ごさなくてよかったってのによ」
 デルフリンガーが呆れたように言うと、ルイズは真っ赤になって否定した。
「ち、違うわよ! あんな分からず屋のことなんて、本当はどうだっていいのよ! でも、いざ決戦って時に
ゼロが本領を出せなかったら大変じゃない! だから仕方なく、ご主人さまが励ましてあげるってだけ! 
そ、それだけなんだからね! 誤解しないでよ!?」
「へいへい」
 デルフリンガーもミラーナイトも呆れ返って流した。ルイズはあまりにも分かりやすすぎるが、
天性の意地っ張りなので付き合っていたら夜が明けてしまう。
「コホン……話を戻すけれど、私はやっぱり、貴族の価値観というものをサイトに受け入れさせるのが
一番だと思うのよね。デルフ、あんたはサイトを説得できないの? 相棒でしょ?」
 まずデルフリンガーに言いつけるルイズだが、彼はあっさりと答えた。
「そりゃ無理だね。俺っちは坊さんじゃねえんだ。説教を説くなんて無理な話よ。第一、時間も
なさすぎるさね」
「そう……じゃあ、ミラーナイトはどうかしら? お願い出来ない?」
 今度はミラーナイトに頼む。理知的な彼ならば何か良い意見をもらえるかも、と思って
この場に呼んだのだ。
 しかし、彼もまた首を横に振った。

153 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:38:34.69 ID:b47qSgsj
『私でも、それは難しいですね。全く異なる価値観を理解させるというのは大変困難なこと。
ましてや言葉だけでは如何ともしがたいものです』
「そうなの……残念ね」
『そもそも、その貴族の価値観というものが本当に根づいているものなのか……』
 ミラーナイトのぼやきに振り返るルイズ。
「何? あなたまでそんなことを言うの?」
『いえ……この話をここで論じても仕方ないことです。それより今はサイトのこと。そちらに注視しましょう』
 とミラーナイトが言うので、本題に戻る。すると、デルフリンガーがこんな提案を出した。
「いっそのこと、別方向から相棒を攻略してみるってのはどうだ?」
「べ、別方向?」
「相棒はお前さんを好いてる。お前さんの実家で告白されたの、忘れた訳じゃあるめえ」
 その時のことを思い出し、ルイズは耳まで真っ赤になった。
「それなのにお前さん、相棒の気持ちになーんも応えてねえじゃねえか。好きな相手から袖にされ続けて、
それなのに嫌なことに駆り出されてこき使われて。それじゃ嫌になっちまうのもしょうがねえな」
「だ、だってそれは、あれからずっと忙しかったからだし……何よりシエスタとか、他の子に
デレデレするじゃない!」
 ルイズの言い分に、はあ、とため息を吐くデルフリンガー。
「相棒がギーシュとかって坊主みてえに自分から誰かとベタベタしたってのなら話は別だが、そんなんねえよ。
俺が保証する。それなのにお前さんは、ちょっと他の女が近づいただけであーだこーだ、わがままが過ぎるよ」
「う……」
「いい女ってのは、もっと心が広いもんだぜ? そこで、だ。そろそろ相棒の気持ちに応えて
やったらどうだ。相棒も好きな女に頷いてもらえたら、頑張れるだろうよ」
 と勧められるのだが、ルイズはもじもじしてはっきりとしない。
「そ、そんなこと言えないわよ……」
「嫌いなの?」
「そ、そうじゃないけど……」
「じゃあ好きなんじゃねえか」
「そ、そうじゃないの! とにかくそんなこと言えないわ!」
 意固地なルイズは、ミラーナイトにも意見を求める。
「ミラーナイトはどう思う……?」
『あなたの気持ちの是非はともかく、サイトの心の糧を作るのはいいことだと思いますよ』
 ミラーナイトもデルフリンガーの味方なので、孤立無援のルイズは散々悩んだ挙句、こう聞いた。
「……も、もっと別の言い方ないの?」
 と言うので、デルフリンガーは代案を出した。
「そばにいて」
「なにそれ?」
「いい言葉じゃねえか。微妙に気持ちを伝え、それでいてどうとでも取れる。これならお前さんも
言いやすいだろ?」
 ルイズはふむ、と考え込んだあと、頷いた。
「……言われてみればもっともかもしれないわね。あんた、剣のくせに妙に人間の機敏に通じてるわね」
「何年生きてると思ってんだよ。さて、あとはあれだ、言い方と状況だな……」

 しばらく後、ルイズはデルフリンガーの指導により、宿屋の召使に買ってこさせた品々を前に並べていた。
「ちょっとぉ! ふざけないでよ!」
 が、ルイズはデルフリンガーを怒鳴りつけていた。
「なんで黒ネコの格好しなきゃいけないのよ! しかもこんないやらしい! わたし貴族よ貴族! 
わかってんの?」
 ルイズの前にあるのは、黒ネコの仮装。しかも際どい。
 そのことについて、デルフリンガーはこう弁解する。

154 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:41:18.69 ID:b47qSgsj
「その高飛車がなあ、いけねえんだ。甘えた感じで、下手に出るのが一番効果的ってもんよ」
「そんでわたしが使い魔のフリするっていうの?」
「そうだよ。いい作戦じゃねえか。祭りの席で『サイト、今まで意地悪言ってごめんね。
今日は一日わたしが使い魔になってあげる』それから『そばにおいてください』なんて言ってみ? 
たぶん相棒は単純だから、舞い上がってお前さんにメロメロになっちまうだろうなあ」
 と囁かれて、単純なルイズはすっかり舞い上がってしまった。
 そしてデルフリンガーに焚きつけられるまま、ポーズと台詞の練習をする。
「き、今日はわたしが使い魔になってあげるッ!」
「うーん、もちっとネコっぽく言ってみた方が愛嬌があるな。後、思い切ってご主人さまって
言ってみたらどうだ?」
『あ、あの……』
 そこにミラーナイトが何かを言おうとするのだが、熱中しているルイズたちには聞こえていなかった。
「そ、そこまで言わないとダメなの!?」
「せっかくのお祭りなんだからよ、一日だけバカになってみ。女にはな、そういう愛嬌が大事だよ。うん」
『ルイズ、そこまでサイトと……』
 才人の名前を出して、やっとルイズの耳に入った。
「サイトが戻ってきてるの!? よ、よぉーし……思い切ってやってやるわよッ!」
『そ、そうではなく、サイトとシエ……』
 だが才人以外の言葉は耳に入っていなかった。ドアががちゃりと開くと同時に、ルイズは
思い切って言い放った。
「きょきょきょ、きょ、今日はあなたがご主人さまにゃんッ!」
 そして……返ってきたのは、
「な、なにやってんだ? お前……」
 才人の驚き顔と……シエスタとスカロン、ジェシカの面々。唖然としている。ジェシカなんか
笑いをこらえている。
「……え? な、何でシエスタたちがここに……」
「慰問隊とか何とかってので、ここに来たそうで……ついでにルイズに挨拶しに……」
 才人が説明した。
 恥ずかしい姿を思い切り他人に見られたルイズは、絶叫した。
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 街の一等地に位置した、シティオブサウスゴータの最高級の宿屋のいわゆるスイートルームで、
アンリエッタが窓の外を眺めた。
「今、遠くから悲鳴が聞こえたような……。まさか、敵の攻撃でしょうか? すぐに銃士隊を向かわせましょう」
 神経質そうにつぶやくと、同じ部屋にいるグレンが肩をすくめた。
「いや、今のは敵とは関係ねぇよ」
「そうでしたか? それならいいのですが……」
 視線をグレンの方に戻したアンリエッタが、今話していた内容に意識を戻す。
「それで、わたくしたちを何度も苛ませた侵略者たちの元締め……ヤプール人というものたちは、
それほどに恐ろしい敵ということでしたね」
「ああ、そうだ。奴らはこれまでの連中とは訳が違うんだ。あんまり恐怖したら逆効果だから今までは
話してなかったけど、決戦の手前、どういう連中かアンリエッタ姫さんは知っておくべきってことになってな」
 ヤプール人は表舞台に出てきたのが一度きりなので、ハルケギニア人にはその存在が知られていない。
しかし今、遂にグレンがその存在をアンリエッタに明かしたのだった。
「ヤプール人はとにかく卑怯な連中だ。手段という手段を選ばねぇ。生誕祭の人間が一番油断する期間を
狙わないはずがないぜ。たとえば、飲み水に毒を投げ込むくらいのことは平気でやる。だから祭りの最中でも、
絶対に警戒を緩めないでほしいってお願いしに来たんだ」
 グレンたちが最も危惧していることは、ヤプールもしくはその手の者が連合軍の間に入り込み、
内部から崩壊させられることであった。ヤプール人は超獣を使った大規模な攻撃以外にも、
そういう卑劣な破壊工作を得意とするのだ。

155 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:44:27.84 ID:b47qSgsj
 しかし、アンリエッタに恐れの色はなかった。
「ご忠告感謝いたします。しかし、ご心配には及びませんわ。わたくしもその危険性を考慮し、
厳重に対策しております」
 と語って、内容を説明する。
「停戦の期間中は、わたくしの信頼する銃士隊を中核とした警備網をこのシティオブサウスゴータ全土に
隙間なく張り巡らせ、怪しい動きを見せる者は逐一捕縛して正体を確かめるよう徹底して指示しています。
ネズミ一匹の謀とて見逃しません。また、いつ何時に怪獣の攻撃があっても対抗できるように、魔法衛士隊他の
対怪獣部隊を常時待機させています。わたくしたちの出来得る最善の対策を取っておりますわ」
 一分の隙もない防備態勢。何度も怪獣、宇宙人の脅威を目の当たりにしたアンリエッタは
既にそれを敷いていた。さしものヤプール人も、突破は容易ではないレベルだ。
 その力の入れようには、絶対に侵略者に勝利して平和を取り戻すのだという決意が表れていた。
「そっか、ならいいんだ。安心したぜ」
 グレンはそう言ったが、それでも相手が相手なだけに、安堵とまではいかなかった。人間がどれほど頑張ろうと、
敵は力に物を言わせて強引に押し潰そうとしてくるだろう。そしてヤプール人はそれが可能な相手なのだ。
 しかし、そんな時にこそ自分たちがいる。人間の努力を無為にしてはならない。ヤプールめ、来るなら来い! 
俺たちウルティメイトフォースゼロは絶対に負けねぇぜ! グレンは胸の内に、そんな熱い思いを抱いていた。

 あのあと、ルイズがものすごい勢いでへこんで閉じこもってしまったので、才人とシエスタは
彼女が落ち着くまでわざわざ別の部屋を借りて、そこで時間を過ごしていた。そしてゼロ、
ジャンボット、ミラーも交えて話をする。
『なるほど、ルイズのあの珍妙な振る舞いは、そういう理由だったのか』
 ミラーから説明を受けたジャンボットがつぶやくと、ミラーが取り成す。
「珍妙とか言わないであげて下さい。ルイズも、サイトのためを思って必死だったんですよ。
サイト、ルイズのその想いだけは分かってあげて下さい」
 ミラーに続いて、ゼロも才人を説得する。
『才人、お前もあれこれ複雑な気持ちだと思うけどさ、何もルイズも悪気があって厳しいこと
言うんじゃないんだぜ。この戦が終われば、いつものルイズさ。だからそう思い悩むなって』
「うん……」
 それは分かっているけど……と才人が思った時、シエスタが口を開いた。
「わたしは……ルイズさんや貴族の言い分の方が、納得できません」
「シエスタ?」
 シエスタは才人の目をじっと見つめながら語った。
「サイトさんの言う通りです。どんなに言葉を飾っても、結局貴族は自分たちの欲のために
人を殺すんです。そんな殺し合いに、サイトさんを巻き込むなんて……。本来サイトさんは、
この世界に何の関係もない人なのに……ひどすぎますッ! サイトさんが、死んでしまうかもしれないのに!」
 あまりにシエスタに熱が入っているので、才人はむしろ戸惑ってしまった。おどおどとした様子で
彼女をなだめる。
「し、シエスタ、気持ちは嬉しいけどさ……俺にはゼロがついてくれてるんだし、滅多なことには
ならないよ。ヤプールだって、ウルティメイトのみんながいればきっと勝てるから」
 シエスタは少々落ち着いたが、小刻みに震えていた。
「すみません……。でもわたし、心配なんです。すぐ下の弟も参戦してるから、他人事じゃないですし……
何より、嫌な予感がするんです」
「嫌な予感?」
「はい……。サイトさんに、なにかよくないことが起こるんじゃないかって。そんな嫌な思いが
してならないんです……。今連合軍が勝ってるのも、何か悪いことが起こる前触れとも思えて……」

156 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:47:54.18 ID:b47qSgsj
 それは、ゼロたちも考えていることだ。むしろ、確信を持っていると言ってもいい。ヤプールは絶対に
何か謀略の用意をしている。今の快進撃は、その嵐の前兆でしかないと。
 しかし彼らは、シエスタのためにこう呼びかける。
『シエスタ、安心するのだ。サイトの言った通り、我々がいる。こんな勇敢な少年を、ヤプールの餌食に
させたりはしない。我々が何としてでも助け、守り抜く! 鋼鉄武人の名に懸けて誓おう』
「その通りです。私たちが命の盾となります。そのためのウルティメイトフォースゼロです」
『俺たちは何があろうと、絶対に負けねぇ! シエスタ、俺たちを信じてくれ!』
「皆さん……」
 ジャンボット、ミラー、ゼロに続いて、才人もシエスタを軽く抱きしめて、彼女に囁きかけた。
「シエスタ、ありがとう。君を守るためだけでも、俺は存分に戦える気がしてきた」
「サイトさん……」
「どんな敵が相手でも、俺は必ず帰ってくるよ。そして学院に帰ろう。絶対に」
「……はい……!」
 いつしか、窓の外には雪がはらはらと降り始めていた。銀の降臨祭といったところか。
 幻想的な背景の中、サイトとシエスタは約束を交わした。

 様々な人たちの、様々な想いが行き交う中、新年の始まり、始祖の降臨祭は幕を開けようとしていた。
 しかし……異次元の悪鬼ヤプールは、そんな人々の想いを嘲笑うかのように、彼らの想像を絶する
おぞましき奸計を張り巡らしているのだった!

 夜空に満開の花火が打ちあがる。シティオブサウスゴータに並ぶ人々は、連合軍、町民関係なしに
一様に歓声をあげた。
 遂に一年の始まりを告げるヤラの月、第一週の初日である、降臨祭の初日が始まったのである。
 しかしそれとほぼ同時に、連合軍首脳部には凶報が飛び込んできた。ロンディニウムにいるはずの
アルビオン軍主力が、突如としてサウスゴータのすぐ側に出現したと。
 ヤプールの手引きである。異次元人の力をもってすれば、その程度の奇襲は容易いことなのだ。
 だがしかし、通常なら恐るべきことであるこの事態も、アンリエッタたちにはさほど驚くべき
ことではなかった。何故なら、相手は神出鬼没の侵略者。十分予想できたことであり、実際そのための
厳重な防備態勢である。迎撃態勢はすぐに完了した。
 これ以上何も起こらなければ、問題なく迎撃できる計算であった。そのため、連合軍には余裕すらあった。
「侵略者の犬どもめ、その程度で聡明なる女王陛下を出し抜いたつもりか。貴様らを一人残らず
返り討ちにして、我々の大々的な勝利で降臨祭の最初の夜明けを飾ってやろうではないか」
 連合軍総司令官のド・ポワチエは冷笑を浮かべながら、黒檀にトリステイン王家の紋章を金色で
彫り込んだ元帥杖を振るった。彼はつい先程、元帥昇進が決定したばかりなのであった。最後の決戦を、
元帥杖で指揮させてやろうという財務卿の計らいであった。
 そして今にも両軍の激突が始まろうとしたその時、それは起こったのだ!

 シティオブサウスゴータの夜空の一画が、バリィィンッ! とガラスのように割れた。
そして真っ赤な空間の中から、大怪獣が空の縁をまたいで出てくるところを大勢の人間が目撃した。
「キィ―――キキキッ!」
 緑の怪しく輝く眼球を持った虫型の超獣、アリブンタだ。ヤプールの刺客である。さすがに方々から
悲鳴の叫びが起こる。
「超獣が現れやがったか!」
「ええ。私たちの出番ですね!」
 そこに駆けつけたのがグレン、ミラー、そしてシエスタと才人だ。ウルティメイトフォースゼロは、
これより超獣撃退のために出撃する。
 それと同時に、ヤプールとの決着をつけるつもりであった。その手段は、ヤプールの潜む異次元に
直接乗り込むこと。通る道は、超獣を送り込むためにヤプール自身がつなげるあの空の穴だ! 危険はあるが、
強引にでも入り込んでヤプール自体を叩く。虎穴に入らずんば虎児を得ず。その覚悟で挑まなければ倒せない相手である。

157 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:51:19.26 ID:b47qSgsj
『超獣を撃破したら、俺たちの力を合わせて空の穴を固定する。そして一挙に乗り込むぞ!』
「はい!」『了解した!』「おうッ!」
 ゼロの呼びかけに三人が応答し、一斉に出撃しようとする。
 しかしそれを制するかのように、別の方角で空がバリィィンッ! とまた音を立てて割れた。
「ギ―――!」
 今度は腹に丸鋸を、背に翼を生やした直立するトカゲのような超獣、カメレキングである。
「二体目ですか!」
 ミラーが叫んだが、そうではなかった。更にバリィィンッ! と別方角の空が割れ、また別の超獣が出現する。
「カァァァァァコッ!」
 緑色の鱗で全身を覆った魚に似た超獣、ガランである。
 更に別方向からバリィィン! と音が響いた。
「パオ――――――――!」
 ワニの顔面を持った特に巨体の超獣、ブロッケンだ。
「四体出てきたか……! けど俺たちは負けねぇぜ!」
 一気に現れた四体の超獣。だが予想できなかった訳ではない。元より一体二体だけが出てくるとは
思っていない。複数の超獣を相手にする気概は既に出来上がっている。
 だが――。
 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ!
『えッ!?』
 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ!
「なぁッ……!?」『ま、まさか……!』
 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ!
「お、おいおい……! これって……!」
 空の割れる音が止まらない。
 ゼロが、ミラーが、ジャンボットが、グレンが、大勢の人間が……その光景に絶句した。
 たちまちの内に、シティオブサウスゴータを超獣が取り囲んだのだ!
「ガガガガガガ!」「バ―――オバ―――オ!」「ガアオオオオオオ!」「ギュウウゥゥゥゥゥ!」
「キィィ――――――!」「ギョロオオオオオオ!」「キャ――――――オォウ!」「ホォ―――!」
「キュウウウウッ!」「キョーキョキョキョキョキョ!」「グオオオオッ!」「グゴオオオオオオオオ!」
「ゴオオオオォォォォ!」「ギャア――――――――!」「カアァァァァァァ!」「キャオォ――――――!」
「ブウルゥッ!」「キャアァ――――――!」「キョキョキョパキョパキョ!」「ギギギギギギ!」
「ギギャ――――――アアア!」「キュルウ―――!」「グオオオォォォ!」「ゲエエゴオオオ!」
「キャア――――オウ!」「キョキョキョキョキョキョ!」「グロオオオオオオオオ!」「キャアアアアア!」
「アオ――――――!」「キュルウウウウ!」
 ガマス、ザイゴン、ユニタング、サボテンダー、バラバ、キングクラブ、ホタルンガ、
ブラックピジョン、キングカッパー、ゼミストラー、ブラックサタン、スフィンクス、
ルナチクス、ギタギタンガ、レッドジャック、コオクス、バッドバアロン、カイテイガガン、
ドリームギラス、サウンドギラー、マッハレス、カイマンダ、フブギララ、オニデビル、
ガスゲゴン、ダイダラホーシ、ベロクロン二世、アクエリウス、シグナリオン、ギーゴン……!
「ギギャアァァァ――――――!」
 そしてジャンボキング! 総勢三十五体もの超獣にシティオブサウスゴータを囲まれる状態と
なってしまった!

 ウルティメイトフォースゼロは……一つの思い違いをしてしまっていた……。それは、ヤプールの
軍勢の規模である。
 今日までに多くの侵略宇宙人を撃破したことで、無意識の内に敵を追い詰めているという考えを
持ってしまっていた。また、魔法学院襲撃の際、刺客として差し向けられた超獣が四体だったので、
控えの超獣もそう多い数ではないと思い込んでしまった。あの場面で出し惜しみするはずがない、と……。

158 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/04/30(木) 22:54:00.32 ID:b47qSgsj
 だが事実は全くの逆だった! ヤプールは軍団の規模を隠すために、あえて少ない数を出してきたのだ! 
宇宙人やベロクロンらは犠牲を前提として送り出されたのだった!

 そしてアルビオン軍出現を知る者たちは、恐ろしい考えに行き当たっていた!
 これだけの数の超獣がいるのだったら、アルビオン軍は必要ない。むしろ戦いの邪魔となる存在のはず……。
それをわざわざ送り込んできたということは……。
 ああ、何ということだ! 彼らは戦いのためではなく……超獣の贄にされるためにここへ来たのだ!

『フハハハハハハハハハハ! 人間どもめぇ、絶望したかぁ!!』
 ヤプールは、異次元の虚空の中でけたたましい哄笑を上げていた……。
『これから始まるのは戦ではない……。貴様らの処刑なのだぁッ! 貴様らは殺されるために、
浮遊大陸まで来たのだよぉッ! ハハハハハハハハハハハハハァ―――――――――――!!』

 これから、ハルケギニア史上最悪の降臨祭が始まる……!





ここまでです。
春の超獣祭り、はっじまーるよー。

159 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/06(水) 08:50:17.08 ID:mT+kU6PD


160 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/06(水) 09:39:21.34 ID:L0LeTJ60
おつ

161 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/09(土) 22:59:46.68 ID:EoItDfFR
遅れてすまないがとにかく乙
この絶望的な状況をどう切り抜けるのか

162 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/17(日) 00:35:43.17 ID:zznYKXJX
反省の色がないから少年院にぶち込んだほうがいいと思う
それでも繰り返すようなら少年刑務所や

163 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/17(日) 00:36:07.77 ID:zznYKXJX
間違えた

164 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:06:23.49 ID:Dh/aEWLs
こんにちは。今回は昼に投下します、焼き鮭です。
開始は14:10からで。

165 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:10:12.68 ID:Dh/aEWLs
ウルトラマンゼロの使い魔
第六十三話「超獣総進撃」
異次元人ヤプール人
異次元人マザロン人
恐怖の超獣軍団 登場

 遂にトリステイン・ゲルマニア連合軍はアルビオンの重要都市、シティオブサウスゴータまで歩を進めた。
連合軍はそこで新年の降臨祭を迎えることとなる。様々な想いが古都に行き交う中、降臨祭の始まりを知らせる
花火が上がる。同時にアルビオン軍主力がサウスゴータに迫り、新年早々激戦の気配が漂った。
 だがそれは大きすぎる誤りだった! シティオブサウスゴータごと、連合軍及びアルビオン軍は
ヤプールの大超獣軍団に取り囲まれてしまったのだ! 人々は、超獣に皆殺しにされるために
浮遊大陸に集められていたのである!
 これからトリステイン、ゲルマニア、アルビオンの民たちは、ハルケギニア史上類を見ない
地獄の降臨祭を経験することとなる……!

「キィ―――キキキッ!」
 異次元空間から街の一等地に直接踏み込んだ大蟻超獣アリブンタは、口から吐く霧状の蟻酸を
高級宿に降りかける。蟻酸といっても超獣アリブンタのそれは、鋼鉄をもドロドロに溶かす強力な殺人液だ。
 そしてその宿は、連合軍首脳部が司令部として使っている場所であった。
「うッ、うわぁぁぁぁ――――――――!!」
 蟻酸が宿を中の人間もろとも溶かしていく。一部の者はどうにか逃れたが、突然の襲撃であったため、
そうでない者の方が断然多数であった。
 そしてド・ポワチエとゲルマニア将軍のハルデンベルグ侯爵もその内に入っていた。
「あああぁぁぁぁぁ……!」
 つい先ほどまで意気揚々と戦の指揮を執るつもりであったド・ポワチエが最後に見たものは、
形が崩れ溶かされていく元帥杖であった。
 倒れたド・ポワチエたちは肉が全て溶けて落ち、白骨化。その骨もたちまちの内に消えて
染みだけになった。
「ギュウウゥゥゥゥゥ!」
 別の場所では、さぼてん超獣サボテンダーが口から赤い舌を伸ばし、連合軍兵士を纏めて数人巻き取った。
「た、助けてくれぇぇぇ―――――!」
 兵士たちの命乞いも虚しく、彼らはサボテンダーの口の中へ引きずり込まれてしまった。
「アオ――――――!」
 また別の場所では、信号超獣シグナリオンが頭部の球体の一つから赤い光線を放ち、アルビオン軍兵士に浴びせた。
「ぎゃああああああああ! 熱いぃぃぃぃぃッ……!」
 赤い光線は強力熱線。兵士たちは一挙に焼き殺される。
 また、シグナリオンは青い光線を連合軍兵士に放った。青い光線は血液蒸発光線。食らった者は
あっという間に全身の血液を失ってミイラと化した。
 更に黄色い光線が両軍の兵士に当てられた。
「うッ、うがあああああ――――――!」
 黄色い光線は発狂光線。兵士たちは同士討ち、もしくは平常者に銃撃をして、一層の混乱を引き起こした。
「カァァァァァコッ!」
「ガアオオオオオオ!」
「ギョロオオオオオオ!」
 これらは被害のごく一部に過ぎない。怪魚超獣ガランは殺人ガスで人間を跡形もなく分解し、
くの一超獣ユニタングは蜘蛛のような糸で絞め殺し、大蟹超獣キングクラブは眉間からの火炎で
街を焼き払う。シティオブサウスゴータのあちこちで超獣たちが大暴れし、陣営、兵士、民間人に
関係なく人間を虐殺していく。
 まさに目を覆わんばかりの地獄絵図。誰がこんな降臨祭がやってくることを想像しただろうか? 
古い街には断末魔と怨嗟、嘆きの声が充満する。
『そうだぁ! 苦しめぇ! もっと苦しめ、人間どもぉ! 嘆きのマイナスエネルギーを
我が主に捧げるのだぁーッ!』
 大量虐殺を行う超獣たちを指揮しているのは、炎の海の中にそびえ立った地獄の鬼そのものの容姿の
巨大怪人。ギロン人と同じくヤプール人に直接仕える異次元人マザロン人である。この者がナックル星人に代わり、
クロムウェルのふりをしてアルビオン軍を今まで動かし、そして用済みになった彼らもろとも人間を
苦しめながら抹殺しようとしているのだ。

166 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:13:53.13 ID:Dh/aEWLs
 その目的は、ヤプール人の糧となるマイナスエネルギーを人間たちから搾り取ること。
そのために心を操るが同時に恐怖心も失わせる『アンドバリの指輪』は使用せずに、
人々を生きたまま奈落に叩き込んでいるのだ。その容貌に違わぬ、悪鬼羅刹の所業である。
『その調子だマザロン人、超獣軍団よ。機は熟した、最早人間どもを図に乗らせておく必要もなくなった。
一人残らず息の根を止めるのだぁーッ!』
 そして大ボスのヤプールが、虚空から手下たちに命令を飛ばす。
 なぶり殺しにされる人々の恐怖から生じるマイナスエネルギーで、ヤプールは更に強力になっていく! 
この生き地獄を止められる者はいないのか!?

「ギギャ――――――アアア!」
「陛下、こちらへ! 立ち止まっていては危険です!」
 家屋を次々踏み倒しながら人々を蹴散らす鈍足超獣マッハレスが迫り、アニエスがアンリエッタの手を
引いてどこか安全なところへと逃がそうとしている。だが、今のサウスゴータのどこに安全な場所があろうものか?
 アンリエッタは逃げながら今の惨状を目の当たりにして、美しい顔を真っ青に染め上げていた。
「ああ、ああ……! わたくしは、何ということをしてしまったのでしょうか……! よもや、
このようなおぞましい事態に民を巻き込んでしまうとは……!」
 アルビオン上陸を決定した己の判断を後悔し、絶望するアンリエッタ。それを必死に励ますアニエス。
「陛下、まだ希望は残っております。既に待機させていた空軍がフネを飛ばし、敵の足止めと
人命の救出のために動いているとのこと。まだ全滅と決まった訳ではありません!」
 だが、ヤプールはそれを当然の如く許さないのだ。
「グロオオオオオオオオ!」
 ミサイル超獣ベロクロン二世が胸を開き、全身の突起を逆立てる。全ての突起からは、
大量のミサイルが一斉発射された!
 ドゴォォォォ――――――――ンッ! と各地から凄絶な爆音が鳴り渡り、ミサイルの雨あられは港を発った
軍艦を一隻残らず爆破、撃墜する。それどころか飛んでいないフネまでも、アルビオン軍のものも含めて全て爆砕した。
 それを目の当たりにした者たちはそろって絶望した。ここは浮遊大陸。フネがなくては、人間は脱出不可能。
つまりアルビオン大陸は、超獣軍団の狩り場と化してしまったのである!

 それを断固として許さない者たちもいた。ウルティメイトフォースゼロである。
「何ということに……。これ以上の暴挙は許しません!」
「行くぜ! 変身だぁッ!」
 ミラーとグレンは超獣軍団が暴れ出してすぐに変身し、大軍勢にも恐れず立ち向かおうとしていたのだった。が……。
「パオ――――――――!」
 二人がミラーナイトとグレンファイヤーに変身して飛び出した瞬間、それを待ち受けていたかのように
変身超獣ブロッケンが二本の触手から怪光線を発射し、不意打ちを食らわせたのだった。
『くおおぉぉッ!?』
『ぐわあああああ――――――!』
 さしもの二人も、変身直後の無防備な瞬間を狙われてはただでは済まなかった。二人そろって
地面に激しく転倒する。すぐに体勢を立て直そうとしたのだが、
「キャオォ――――――!」
 超獣人間コオクスが指先から赤い光を発する。これは生き物の動きを止めてしまう麻痺光線だ! 
ミラーナイトたちも金縛りに遭ってしまった。
『うぐぅぅぅッ! し、しまった……!』
 身動きが取れなくなったミラーナイトとグレンファイヤーに、満月超獣ルナチクスと犀超獣ザイゴンが
容赦なく襲い掛かる!
「ゴオオオオォォォォ!」
「バ―――オバ―――オ!」
 ルナチクスは何と眼球を発射して爆弾とし、ミラーナイトを爆発で吹き飛ばす。ザイゴンは自慢の
角による突進でグレンファイヤーをはね飛ばした。
『うわぁぁぁぁぁぁ――――――――――!』
「キャアァ――――――!」
「キョキョキョパキョパキョ!」
「ギギギギギギ!」

167 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:16:53.86 ID:Dh/aEWLs
 倒れ伏す二人を更に、虹超獣カイテイガガン、夢幻超獣ドリームギラス、騒音超獣サウンドギラーが袋叩きにする!
 何ということだ! いつもは人々を救うヒーローが、今は逆に悪にねじ伏せられている!
『ミラーナイト、グレンファイヤー、今行くぞッ!』
 そこへ天の彼方から、ジャンバードが遅ればせながら駆けつけてくる。追い詰められる
ミラーナイトたちを救出する勢いだ。
 しかし、そこに大鳩超獣ブラックピジョンと古代超獣カメレキングが差し迫る!
 ヤプールが命令する。
『ブラックピジョン! 光線を吐けぇー! 吐くんだぁー!』
「ホォ―――!」
 ブラックピジョンは口から高熱火炎を吐き出し、ジャンバードに食らわせた!
『ぬおぉッ!?』
「ギ―――!」
 バランスを崩したジャンバードを、カメレキングが腹の丸鋸で切りつける!
『ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 ジャンバードは機体から火花を散らし、山の中腹へと落下していってしまった。
 ジャンバードまでもが返り討ちにされてしまった! これで残るヒーローはウルトラマンゼロだけだ。だが……!

「……」
 才人は超獣たちに追われ、ひたすら逃げ惑う軍隊の姿を、冷めた目でながめるだけであった。
「どこが名誉の戦だよ」
 口について出た言葉は、たった一言だけだった。ルイズは、歯を食いしばってうつむいている。
「どいつもこいつも、自分が生き残ることしか考えてない。昨日まで、王軍の勝利万歳だの、
我らの正義は絶対に勝つだの、名誉の戦死を遂げてやる! とか息巻いてた連中がだぜ?」
 軍隊は、最早その体を成していなかった。誰も彼もが武器を捨て、なりふり構わず、己が生き残るという
生存本能のままに逃げるばかりだった。その誰もが、市民や慰問隊などの非戦闘員を助けようともしていない。
名誉など、どこにも見られなかった。
 そして才人は、その彼らに失望し切っていた。あまりに醜い、人間の姿。自分がこれまで守ってきた
人間たちとは、こんなものだったのか? 自分は何をやってきたのだ? 今の才人には、彼らを助けるために
立ち上がる気力がひとかけらもなかった。
 ああ……才人はもう二度とウルトラマンゼロとなって立ち上がることがないのか?
 そんな時だった……。
「助けてー!」
 超感覚による聴力が、聞き覚えのある声を聞き止めた。それは、スカロンの店『魅惑の妖精』亭の
女の子の悲鳴であった。
「!」
 才人はようやく顔を上げた。『魅惑の妖精』亭の子が悲鳴を出しているということは、スカロンやジェシカ、
そしてシエスタの身も危ないに違いない。彼女たちは本来戦争には関わりのない者たちであり、大変世話になった、
もしくはなっている人たちだ。
 シエスタたちだけは、助けたい。その思いが沸き上がった才人は声の聞こえた方向へ走ろうとしたが、
残念ながら焼け落ちた瓦礫が道をふさいでいて、それは出来なかった。
「……!」
 しばし考えた才人は、急にルイズに小箱を押しつけた。カプセル怪獣の箱だ。
「えッ!? サイト!?」
「少し離れる! もしもの時は、そいつらに守ってもらってくれ!」
 才人はそれだけ言い残し、街の外れへ向けて駆け出した。
 果たして才人は、何をしようとしているのだろうか?

「キョキョキョキョキョキョ!」
 『魅惑の妖精』亭の天幕には、タイム超獣ダイダラホーシがその巨体による地響きを轟かせながら
迫りつつあった。しかしシエスタたちの周りは火の手で包まれていて、とても全員そろって逃げられる状況ではなかった。
 そのためスカロンは、シエスタは女の子たちへ向けて指示する。
「みんな、怪獣はどうにかわたしが注意を引きつけて時間稼ぎをするわ。その間に逃げてちょうだい」
「そんな!? 伯父さんを犠牲にして逃げるなんて、出来ません!」
 この状況で囮になどなったら、助かる見込みなどない。シエスタは反対するが、スカロンは皆を諭す。

168 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:20:01.64 ID:Dh/aEWLs
「わたしは店長として、伯父として、父として、あなたたちの命を守らなければいけないのよ」
 そしてそれ以上の反論を許さずに飛び出していく。
「怪獣! こっちよこっち! 捕まえられるものなら捕まえてごらんなさーい!」
「キョキョキョキョキョキョ!」
 だが……ダイダラホーシはスカロンを無視して、シエスタたちの方へ向かっていくではないか!
「ち、ちょっと!? こっちって言ってるじゃない! そんなでかい図体して、ちっぽけなわたし一人
捕まえる自信がないっていうの!? こっち向きなさいッ!」
 いくらスカロンが喚こうが、ダイダラホーシは見向きもしない。
 恐ろしいことに、ダイダラホーシはスカロンの思惑を見抜き、その上でシエスタたちから先に
殺そうとしているのだ! これほど残酷なことがあるだろうか! これぞヤプールという悪魔の
おぞましい所業である!
 そしてとうとう、シエスタたちが踏み潰される……!
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 その時である。ダイダラホーシの顔面に、マジックミサイルが炸裂した!
「キョキョキョキョキョキョ!?」
 目に爆発を食らったダイダラホーシはさすがにひるみ、よろめいた。そのお陰でシエスタたちは助かる。
しかし、ミサイルは誰が撃ったのか?
 シエスタが見上げると……ゼロ戦が炎のサウスゴータの空を飛んでいた!
「あれは『竜の羽衣』……!? サイトさん!?」

「シエスタ、みんな……早く逃げてくれ!」
 シエスタの叫んだ通り、ゼロ戦を駆るのは才人だ。アイスロンの攻撃で不時着したゼロ戦は
修理を受けたのだが、場所がシティオブサウスゴータに近かったので、軍艦ではなくそちらの倉庫に
運ばれていたのだ。そのお陰で、ゼロ戦は難を逃れていた。そして今、超獣たちを足止めするために
引っ張り出してきたのである。
 才人はガンダールヴの能力を駆使し、ゼロ戦のスピードを活かした巧みな操縦で、マッハレスを始めとした
超獣たちを翻弄する。しかし、そんなものがいつまで持つか……飛び出したはいいものの、才人の心の中は
恐れでいっぱいであった。
 しかし、ふと地上に目をやって……彼は驚くべき光景を目の当たりにした。

 才人に助けられても、周りが火の海でなかなか身動きを取れないでいたシエスタたちだが、いきなり炎が
かき分けられて道が切り開かれた。その道を作ったのは、青銅のワルキューレ……ギーシュであった!
「ギーシュさま!?」
「そこな君たち、あっちへ行けばひとまずこの街から脱出できる! 早く、走るんだ!」
 ギーシュは己の危険も顧みず、シエスタたちの救出のために駆けつけたのだ。それというのも、
ゼロ戦を駆って単身超獣に立ち向かう才人の姿を目の当たりにしたからである。
 彼もまた先ほどまでは、この事態に恐怖し切って我を忘れた哀れな者の一人であった。
しかし才人の勇姿に一番に勇気をもらい、貴族としてすべき本当のことに気がついたのである。
「サイト……きみの頑張りは、ぼくが無駄にはしない。ぼくたちは……友なのだからね!」
 シエスタたちを救いながら、大空を飛び交う才人へ向けて、ギーシュはそう告げた。その眼差しには、
確かな輝きが宿っていた。
「諸君! 街の外へは我々第二竜騎士中隊が誘導する! 焦らず、しかし迅速に避難してくれ!」
 市民救出に動き出したのはギーシュだけではなかった。風竜に跨って空から逃げ惑う人々の誘導を
始めたのは、ルネ・フォンク率いる少年竜騎士隊。彼らは上陸作戦の際に才人とルイズを守り、
奇跡の生還を果たして才人らと親交を深めた一団である。
 そして彼らも、才人の戦う姿に感化されたのだ。
「平民のサイトが頑張っているんだ。貴族のぼくたちが逃げてばかりでいられるものか!」
 更にギーシュやルネたちの勇気と希望は、他の貴族や兵士にも伝播していった。

169 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:23:23.07 ID:Dh/aEWLs
「見ろ! あの若者たちの姿を!」
「私たちを、皆を救おうとしているのか……」
「それなのに、我々は何をしているのか! 少年を働かせながら尻尾を巻いて逃げたとあっては、
末代までの恥だ!」
「ウルトラマンゼロたちは、いつも我らの命を助けるために戦ってくれた。その想いを無碍にすることは、
恥知らずもいいところだ!」
「皆の者、隊を整えよ! 力を合わせ、一人でも多くの命を救うのだ!」
 初めは超獣の恐るべき暴力の前に恐怖し切るばかりだったが、一人、また一人と人命救助のために立ち上がる。
空を飛ぶ竜騎士は超獣の気を引きつけ、地上の兵は手分けして女子供から町の外へ逃がし、負傷者を担いでいく。
才人の行動は、図らずも彼らの心に光を灯したのであった。
 そしてそれは、連合軍だけではなかった。
「あの飛行機械を中心に、連合軍は救助活動を始めているのか。この地獄のような状況で……!」
 アルビオン軍指揮官のホーキンス将軍は、連合軍が勇気を取り戻していく様子を、呆然とながめていた。
 彼は歴戦の将軍であり、実際有能な指揮官であった。しかし、全軍が丸ごと国から切り捨てられるという
異常にも程がある事態を前にしては、どうしたらいいのか全く見当がつかず、混乱する哀れな人間の一人に過ぎなかった。
 だが……今の光景を目の当たりにして、軍人としての、いや人間としてのあるべき姿を、徐々に思い出してきていた。
 そこに、彼に近づいて敬礼する少年が。雪山で才人たちが助けた騎士、ヘンリーであった。
指揮系統が滅茶苦茶になったので、最高指揮官の元に直接来たのだ。
「ホーキンス将軍! 恐れながら、単独行動の許可をお願い致します!」
「単独行動? 何をするつもりだ」
「連合軍に混ざって、救助活動を行いたい所存です!」
 ホーキンスは目を見開いた。ヘンリーは続けて話す。
「あの飛行機械を駆るのは、ぼくの命の恩人です。ぼくは貴族として……いえ、一人の人間として、
その恩に報いたいのです。将軍、どうかお願いします」
 それを聞いたホーキンスは――。
「いや、救助活動に当たるのは貴官だけではない」
「は……?」
「これより我が軍は、連合軍と協力し、怪獣に襲われている人間全てを救出する! 直ちに伝令を
飛ばして、全軍に伝えよ!」
 ホーキンスの下した命令に、周りはギョッと驚く。
「し、将軍、相手は敵ですぞ!?」
 問い返した誰かに、ホーキンスははっきりと説いた。
「この惨状を見よ。これが戦と呼べるか? それに皇帝陛下は我々を捨てた。最早敵も味方もないのだ。
その時に軍人がすべきことは……一人でも多くの命を救うことだ」
 更に唖然としている部下たちに、毅然とした態度で呼びかける。
「逃げたい者は構わず逃げるとよい。責めることはせん。しかし、真に誇りある軍人であらんと
する者は、この私に続けッ!」
「――イエス・サー!」
 ほぼ全ての兵士が敬礼を見せ、迅速な行動を開始した。最早混乱はなくなり、秩序が取り戻されていた。
 そしてホーキンスは、ヘンリーに告げた。
「礼を言うぞ、若いの。お陰で大切なものを思い出すことが出来た」
「……き、恐縮ですッ!」
 指揮官から直々に礼を言われたヘンリーは、緊張でガチガチの敬礼を返した。

「怪獣め! これ以上好きにはさせないぞ!」
「こっちだ! 足元が崩れているから気をつけて進め!」
「しっかりしろ! もう大丈夫だからな!」
 才人の視界の下では、救助活動の輪がもう大分広がり、大勢の兵士たちが老若男女、立場関係なく
命を無慈悲な強奪者から救いつつあった。そしてそれを目の当たりにした才人の心にも……明かりが灯ってきていた。
「みんなが……手に手を取って、助け合っている……!」
 才人からは、戦争に来てからの陰鬱とした気持ちが吹き飛んでいた。
 そうだ。今まで何をうじうじと悩んでいたのだ。人間は誰しも、一つの顔だけで生きている訳ではない。
醜い攻撃的な一面もあるが、その心から輝きが失われている訳ではない。嫌なものを、受け入れがたいものを
見たからと、それだけで人間を見限るなど浅はかなことだ。

170 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:26:21.28 ID:Dh/aEWLs
 ルイズも、シエスタも、ギーシュも、アンリエッタも、他の大勢の人たちだって……自分の大切な人たち。
初めから、全く変わりのないことだ。自分が忘れていただけのことだ。助けなければ……大切な人たちを守らなければ!
 才人の左手のルーンが強く輝き、ゼロ戦の飛行が一層軽やかになった。

 恐怖をはねのけ、希望を見出し始めた人間たち。しかしそれを歓迎しない者がいた。
 当然、ヤプールだ。
『おのれ! 人間どもが恐怖しなくなった! 忌々しい!』
 ヤプールは異次元から、その発端となった才人を見下ろす。
『あのウルトラマンゼロの変身者が原因か! 人間のまま我らの邪魔をしようというのか? 我々への侮辱かッ!』
 激しく逆恨みするヤプールは、配下の軍勢に指令を下す。
『超獣ども! あのガキを殺してしまえッ!』

「キャ――――――オォウ!」
「キュウウウウッ!」
「グゴオオオオオオオオ!」
 超獣たちが命令通り、才人に狙いをつけ始めた。大蛍超獣ホタルンガ、河童超獣キングカッパー、
古代超獣スフィンクスが溶解液、ロケット弾、火炎放射をゼロ戦に浴びせようとする。
ゼロ戦は波打つように飛行し、集中攻撃からどうにか逃れる。
「くッ、俺を狙ってるのか……!」
 必死に攻撃を避けるゼロ戦だが……その主翼にフックが引っ掛かって、動きを止められた!
「うわッ!?」
「キィィ――――――!」
 殺し屋超獣バラバの飛ばしたフックロープだ。その周りには吹雪超獣フブギララ、鬼超獣オニデビル、
水瓶超獣アクエリウスが集まってゼロ戦を叩き落とそうとしている。
「くそッ、負けるもんか……!」
 どうにかフックを振り払おうとあがく才人なのだが……最強超獣ジャンボキングが両眼から
光線を放つ構えを取っている!
「ギギャアァァァ――――――!」
 回避は間に合わない! ゼロ戦はすぐにも木端微塵となるだろう!
 しかし……! 才人はそれでも諦めないのだ!
「負けるもんかぁぁぁ―――――――!」
 最後の瞬間まで抗う覚悟を見せる才人の左腕のブレスレットから……ウルトラゼロアイが飛び出した! 
今まで見たことがないくらいに、強く輝いている!
 才人はすぐに、ゼロアイを装着した!
「デュワッ!」

 ジャンボキングが撃った光線が、ゼロ戦を跡形もなく吹っ飛ばした!
「サイト!」「サイト!?」「サイトぉー!!」
 ルイズが、ギーシュが、ルネが、ヘンリーが、アンリエッタが……息を呑んだ!
 しかし、その時……ゼロ戦の爆破跡から、青と赤の光が飛び立っていた。その光は空を飛び交いながら、
戦士の勇姿となっていく。
 ウルトラマンゼロだ!
「ゼロだ! ゼロが来てくれたぞぉー!!」
 途端に地上では、大歓声が悲鳴を塗り替えた。絶望の暗黒地獄に、まばゆい希望が遂に駆けつけたのだ!
「ジュワッ!」
 ゼロは彼らの声に応えるように、空からエメリウムスラッシュを発射して超獣軍団に先制攻撃を仕掛けた!
「ギャア――――――――!」
 エメリウムスラッシュは地底超獣ギタギタンガに命中。たったの一撃で爆散した!
「ホォ―――!」
「ギ―――!」
 ブラックピジョンとカメレキングがゼロに迫るが、ゼロは急降下で敵の真ん中に突撃しながら、
熱く燃え上がるウルトラゼロキックの姿勢を取った。
「デェェェヤァァァァァァァァァァァッ!!」
「カアァァァァァァ!」
 キックは黒雲超獣レッドジャックを穿ち、爆発四散させる!
『ルナミラクルゼロ!』
 着地したゼロは瞬時にルナミラクルゼロに変身、超能力でゼロスラッガーを増やし、ミラーナイトと
グレンファイヤーを追い詰めているブロッケンらに向けて飛ばす!

171 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/17(日) 14:28:29.36 ID:Dh/aEWLs
『ミラクルゼロスラッガー!』
「パオ――――――――!」
「キャオォ――――――!」
「キャアァ――――――!」
 六枚のスラッガーがブロッケン、コオクス、カイテイガガンを滅多切りにして消滅させた!
「キャア――――オウ!」
 獅子奮迅の活躍を見せるゼロに、背後からガス超獣ガスゲゴンが腕のムチを振り回しながら迫っていた。
更に上空からはブラックピジョンとカメレキングが。逃げ場はない!
『ストロングコロナゼロ!』
 しかしゼロは高くバク宙しながらストロングコロナゼロに変身し、ガスゲゴンの背後を取り返すと
羽交い絞めに。そのまま天高く投げ飛ばす!
『ウルトラハリケェーンッ!!』
「キャア――――オウ!」
「ホォ―――!」
「ギ―――!」
 大竜巻はガスゲゴンのみならずブラックピジョン、カメレキングも巻き込んで、三体を成層圏の
更に上まで飛ばしていく。そこへ向けて、ゼロの破壊光線がうなる!
『ガルネイトォ、バスタァァァ―――――!!』
 追撃の灼熱光線がガスゲゴンに突き刺さり、宇宙空間で大爆発。ブラックピジョン、カメレキング
もろとも宇宙の塵となった。
 今のゼロは、雪山の時とは正反対であった。才人のたぎる闘志と勇気を受けて、これまでとは
比較にならないほどの超パワーで溢れているのだ!
『ヤプールッ! この星をテメェらの好き勝手にしようなんて、二万年早いんだよッ!!』
 ビシィッ! と啖呵を切るゼロ! その迫力に、無情な殺戮マシーンであるはずの超獣軍団も
たじろいでいるように見えた!
 しかしボスのヤプールはさすがなもの、今のゼロにもひるみを見せない!
『とうとう現れたなぁ、ウルトラマンゼロッ! 貴様の相手は強化改造を施し、より強力となった
バキシマムだぁーッ!』
「ギギャアアアアアアアア!!」
 空間を割り、新たな超獣がゼロの正面に出現。それは以前の戦いで逃亡したバキシムが、
より赤く、より強く、より鋭く、そしてより禍々しくなった一角紅蓮超獣バキシマムである!
「ギギャアァァァ――――――!」
『ウルトラマンゼロめぇ、調子に乗るなよ! この大軍団の中心に、お前の墓を立ててくれるわぁッ!』
 バキシマムの反対側からは、ジャンボキングとマザロン人が回り込んだ。ゼロは挟み撃ちの状態になる。
それに怒濤の攻撃で八体もの超獣を一気に破ったとはいえ、敵はまだまだ大勢。ゼロは劣勢なのだ。
 しかし、今のゼロの勢いはそれすら吹き飛ばしそうだ!
『誰が来ようと俺は、俺たちは負けねぇぜ! 本当の戦いはここからだぁぁぁッ!!』
 勇者ゼロが、仲間たちとともに、アルビオン大陸を覆う絶望を打ち壊すために立ち向かう!



今回は以上です。
テンション高けぇ……。

172 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/05/18(月) 00:47:04.12 ID:xM+dmt9y
ウルトラマンゼロの方、投下乙です。

夜分遅くに失礼いたします。
よろしければ、0:50頃から続きを投下させてください。
今回も短く、話はほとんど進んでいませんが……。

173 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/05/18(月) 00:50:16.81 ID:xM+dmt9y
 
しばらくの後、一行は『魅惑の妖精』亭についた。

この店は一見ただの宿屋兼居酒屋だが、実は可愛い女の子が際どい格好で飲み物を運んでくれるという、少々いかがわしい趣のサービスで人気を博している。
背中の大きく開いたドレスや胸元の開いたワンピース、丈の短いスカートなどといった、色とりどりの派手な衣装に身を包んだ給仕の女の子たち。
彼女らはあちこちのテーブルへ料理を運んで忙しく働きながらも、疲れた様子ひとつ見せずに微笑みながら、男たちに酌をして回っていた。
とはいえ、この店はそれらの給仕にこっそりと金貨の数枚も握らせれば寝床を暖める仕事もしてくれるとかいった類の場所ともまた違う。
普段は健全な世界に生きている者が少しばかり羽目を外して、夢見心地で楽しみたい時に訪れる店、とでもいったところだろうか。

当然、客の中には給仕の少女たちに向かって下品な野次を飛ばすものや、体を触ろうとするもの、無法ないやらしい要求をしてくるものなどもいる。
彼女たちはそんな時でも笑顔を崩さず、何をいわれても、されても怒らずにいる。
それでいて何もかも言いなりになるわけでもなく、お触りやサービスの枠を超えた要求には応じないのだ。

触ろうとする手を露骨に叩いたり払いのけたりはせず、優しく握って触らせない。
嫌な要求をされても顔をしかめたりはせず、そのまますいすいと会話を進めて相手を誉めそやし、いい気分にさせつつ話をそらす。
そのため客は拒まれても気分を害する事もなく、むしろそんな娘たちの気をひこうとして、さらにチップを奮発するのだ。
彼女らはみな、かなり巧みな接客術を身に付けているらしい。

このくらいの場所の方が一般人にはウケがいいのか、それとも店主であるスカロンのやり方が上手なのか、店は連日繁盛しているようだった。
羽振りのいい客も多く来ており、そういった客から少女たちは毎日結構な額のチップをもらっている。
特に人気のある子などは、もらったチップの合計額が一日にエキュー金貨数枚分にもなることもあるようだ。

マジックアイテムの類を使用した美しい照明や音楽で、店内には華やいで落ち着いた雰囲気が作り出されており、食事もなかなかに美味い。
女の子が美人でサービスがよいという以外にも、こういった設備面でも充実し、あらゆる面から見て居心地の良い店であることが人気の秘訣らしい。
平民が店主を務める店でこれだけの設備を用意できるところを見ると、やはり相当稼げているのだろう。
稼げているからこそたくさんの女の子を雇え、設備も充実させることができる。
そうすれば、それによってさらに稼ぎが増える、というわけだ。よいサイクルである。

「……か、仮にもヴァリエール家の使い魔ともあろうものが、こんないかがわしいしい場所で……」

これまでディーキンがどんな場所で働くのか詳しく知らなかったルイズは、テーブルで周囲の様子を見まわすと、目を吊り上げて顔を赤くしていた。
由緒正しき貴族家の令嬢で世間知らずなルイズにとっては、この程度の店でも不埒極まりない場所に感じられるようだ。

シエスタがそんなルイズに反論しつつ、店や自分の身内の良さについて弁明し、宥めている。

「そ、それは、あまり品のいい所じゃないかもしれないですけど……。
 でも、いかがわしくなんてないです!
 ここは、私の親戚が働いているお店なんですから!」

「あ、あんたの親戚って……、あの、入り口で私たちに声を掛けたおかしな革の胴着の男……?」

キュルケはそんな2人をむしろ楽しそうな様子で眺めながら、さっそく店員にお勧めを聞いて料理や酒を注文した。

「あら、私は楽しそうなお店だと思うわよ。
 それに、人の身内に対してヘンだなんて、失礼じゃありませんこと?
 トリステインの貴族は礼儀がなってないのねえ。
 向こうはあんたみたいなお子様にも、店の子が霞むくらい綺麗だなんてお世辞をいってくれてたじゃないの」

そんなことを言ってルイズをからかったりしつつ。
仕事の準備に向かったディーキンが姿を現すのを、寛いで待っている。

「大勢楽しんでいる。それに食事もおいしい。それで十分」

そう短くコメントしたタバサはというと、キュルケの横で静かに本を読みながらも、料理が届くたびにひょいひょいとつまんで口に運んでいる。
こんななりで、なかなかに大食いらしい。

もちろんシルフィードも一行に同行したがっていたのだが、ルイズらには正体は秘密だからとタバサが却下したのである。
しばらくきゅいきゅいとごねていたが、ディーキンからお土産に何か御馳走を用意すると約束されてどうにか落ち着いた。

174 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/05/18(月) 00:52:11.50 ID:xM+dmt9y
 
そのうちに、それまで店内に流れていた、店の備品である魔法人形たちの奏でる音楽が止まる。

この店でのディーキンの仕事は、言うまでもなくバードとして店の客に音楽や詩吟などの娯楽を提供することだった。
いよいよ酒場に設けられた舞台の上にディーキンが姿を現し、一礼すると、周囲から喝采が巻き起こる。

ディーキンは先日既にこの店で一度演奏を披露しており、大好評を博したのだ。
喝采を送っているのはその時に居合わせた客と、従業員の少女たちである。
もちろんその時のことを知らない客たちは、いきなり奇妙な亜人が舞台に現れて戸惑った様子であった。
だが彼らも、周囲の客が大勢喝采を送っているのを見ると、疑問や文句の言葉を一旦引っ込めて、成り行きを見守ることにしたようだ。

ディーキンは誇らしげに胸を張って周囲の騒ぎが収まるのを待つと、もう一度、目を細めて御辞儀をした。

「こんばんは。ディーキンは、みんなに歓迎してもらえてすごくうれしいの。
 ……今夜は、どんなお話を歌おうかな?」

リュートの弦を軽く調整しながらそう問うと、先日居合わせた人々から、次々にリクエストの声が上がる。

「よーし坊主、こないだの英雄の話の続きをしてくれ!
 あれだけすごい冒険をしたって英雄ならよ、他にも武勲があるんだろ?」

「いや、英雄の話も聞きたいが……。
 演奏の後で言ってた、恐ろしい白い竜の話を聞かせてくれないか」

「それより、おめえがこれまでしてきたっていう、旅の話を聞かせてくれよ!」

つい先程まで給仕の少女たちに鼻の下を伸ばしていた中年、壮年の男たちが、まるで少年のように期待に目を輝かせて壮大な物語を求めてくる。
給仕の少女たちも、立場上自分たちでリクエストをしてくることはなかったものの、表情を見る限りでは同じ気持ちのようだ。
もちろん、先程部屋で冒険譚の続きをねだっていたルイズたちも、おおむね同じような気持ちである。

「ンー……、どうしようかな……」

ディーキンはそれらの要望を聞くと、少し困ったような笑みを浮かべて、首を傾げた。

もちろん、自分が得意なのはそういった種類の物語である。
先日ここで歌ったのもそうだったし、リクエストに答えてまた披露したい気持ちも大いにある。

しかし、ディーキンの演奏について何も知らない初見の客たちは、見るからに困惑した様子であった。
こんな奇妙な子どものような亜人の演奏に、なぜ周囲が異様な盛り上がりを見せているのか。
どうしてこういう店で、そんな店の雰囲気に明らかに合わない少年向けのような物語をリクエストするのか、と不審がっているのだ。

そうした初見の客たちの不審そうな様子を見て、ディーキンはいつものように歌いたい気持ちをぐっと押さえ込んだ。
今日は、違う種類の物語を……、もっとこの店の雰囲気に合いそうな物語を、披露するつもりで来たのだから。

「ええと……、この間は、そう、英雄の物語を聞いてもらったね。
 でも、ディーキンはみんなに、他にもいろいろな話を聞いてもらいたいからね。
 みんなのリクエストも考えて今日はね、英雄の冒険だけじゃなくて……、ロマンスの物語もしようと思うの」

別に恋の要素などを入れなくても、リクエストされたような英雄譚や冒険物語などを歌って、観客を惹き付ける自信がないわけではない。
実際、この間は大好評を博したのだから。

フェイルーンにおいて、バードは冒険者としての力ではやや頼りないと思われがちな反面、一般大衆にとっては大変な人気者だ。
民衆は突然見知らぬ魔道師が町に姿を現すと往々にして恐れおののくが、バードが町にやってくるとしばしばお祭り騒ぎの大歓迎をするのである。

175 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/05/18(月) 00:54:04.90 ID:xM+dmt9y
 
バードには魔道師のように、疫病をもたらしたり悪魔の群れを呼び出したりといった、大破壊をもたらす危険はまずない。
そして何よりも、力ある魔法に満ちた新しい歌と物語、音楽に舞踊といった、素晴らしい娯楽の数々。
それらをもたらすバードの技は、聴衆にしばしの間、人生の悩みや苦しみを忘れさせる。
優れたバードが寂れた村の安酒場で歌えば、その場にいる者たちはみな、最下層の労働者でさえも、一時ながら王者の娯楽を味わえる。
短い間ではあるが、安酒に酔いつぶれた時などとは比べ物にならない、豪奢な夢心地の気分に酔いしれることができるのだ。

貴族や王族といった権力者にとっても、魅力的で機知に富み、多芸多才なバードは歓迎すべき存在だ。
そこそこの腕前でしかないバードであってさえ、王宮の門を叩けば数曲の歌と引き換えに宴会の末席に加わり、一夜の宿を得ることができる。
中には有力な貴族の信頼を勝ち得てお抱えの芸人として、あるいは顧問や密偵、子女の家庭教師などとして、長期的に召し抱えられる者もいるほどだ。
そういった者たちは彼らから家族同然の待遇を受け、多大な権力と名誉を勝ち得ているという。

そしてディーキンのバードとしての技量は、間違いなくフェイルーンでも屈指だ。
おそらくどんな大国の宮廷にも、彼に匹敵するだけの腕を持つ宮廷詩人はいないであろう。
コボルドであるというフィルターを外して見てもらえさえすれば、観衆が彼の芸に熱狂するのは至極当然。
たとえ場の雰囲気に合わない歌でも、それを覆して観客の気持ちをそちらに惹き付けられるだけの技量は十二分にある。

それに、英雄譚や冒険物語にも往々にしてロマンスはつきものだとはいえ、ディーキンにとっては人間の恋の話などは専門外なのだ。

コボルドは爬虫類であり、卵生であり、部族の単位で生活する。
人間は哺乳類であり、胎生であり、家族の単位で生活する。
ゆえに両者の間には、恋愛観や性生活や貞操観念などに、あまりにも大きな開きがあるのだ。

例えば、人間にとっては恋愛沙汰と性交渉を持つことの間には通常、強い結び付きがあるらしい。
だがコボルドにとっては、基本的に両者はほとんど無関係である。

コボルドにとって繁殖行為は種の生存と繁栄に直結する種族的な義務であり、部族の全ての個体が参加して、複数の相手と関係を持つのが普通だ。
そこには恋愛がどうのこうのといった感覚が入る余地など、全くないといってよい。
食べたり寝たりするのと同じで、それは単に、必要なことなのだ。

したがって、人間でいう結婚のような男女間の結びつきも、種が存続する上では不必要である。
実際、生涯そのような相手を持たないコボルドの方が多い。

逆に言えば、必要というわけでもないのにあえてそのような結び付きを求めるということは、それだけ互いの情愛が深いことの証でもある。
それは人間でいう恋愛感情のようなものの場合もあるし、強い信頼で結ばれた親友同士のような間柄である場合もある。
いずれにせよ、そういった結び付きはほとんど常に、相互の間に何らかの種類の強い愛情がある場合にのみ求められる。
人間のような種族にそれを話すと、コボルドのような野蛮な種族の間にそんな純粋な愛情があるのは意外だといって、よく驚かれるのだが。

ディーキンは典型的なコボルドの生活には馴染めなかった異端児であり、どちらかと言えばむしろ人間の生活の方に惹かれている。
とはいえ、やはり生まれ育った環境の違いから身に染みついた、常識や観念の違いというものはある。
人間の恋愛物語などを読むと、たびたび登場人物の心理がさっぱり理解できない部分があって頭をひねったものだ。

176 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/05/18(月) 00:56:09.99 ID:xM+dmt9y
 
『ウーン……、ねえボス。ちょっと聞いてもいい?
 この話に出てくる男の人はなんで、好きな女の子が他の男と寝ただとか、そんなことですごーく怒ってるの?』

『ナシーラ、あんたたちドロウは、ええと……、一緒に寝たり、結婚したりするときにも陰謀を企んだりするんでしょ?
 じゃあちょっと教えてほしいんだけど、この本に書いてある“政略結婚”とかってのは何なの?
 愛し合う2人以外で結婚することで、お互いに何か得があるの?』

そんなような質問を、事ある毎によく仲間たちにした。
そのたびにボスやデイランやヴァレンには困ったような顔をされたり、苦笑されたり、居心地の悪そうなしかめ面をされたり……。
トミやシャルウィンやナシーラには笑われたり、からかわれたり、艶話や陰謀飛び交う愛憎劇(すべて実話らしい)を聞かされたり、したものである。

まあその甲斐あって、今ではおおむね理屈は把握しているつもりではある。
だが、感情的には未だに共感できない部分も多いし、ちょっと自信がない。
ゆえにこれまでは、あまりそういった、恋愛がらみの題材は詳しく取り扱ってこなかったのだ。

しかし、何を歌っても観客を熱狂させられるだけの技量があるとしても、やはり場に合った歌というものはあるだろう。
ディーキンは先日のここでの演奏で、その事に思い至ったのである。

大好評を博して演奏を終えた、その時にはただ満足していた。
だが、自分の演奏によって客の気分をすっかり変えてしまったらしいことに、後になって気が付いた。
客たちはみな、演奏が終わると瞳を輝かせ、上気した満足そうな顔でそのまま店を出ていった。
歌によってすっかり気分が変わり、それ以上酒を飲んだり、女の子といちゃついたりという気持ちではなくなってしまったらしいのだ。

別に給仕の少女たちや、店のオーナーであるスカロンやジェシカが、迷惑だったと言ってきたわけではない。
それどころか、自分たちもまた聴きたいと、口々に演奏を褒めてくれた。
それでも、その日のそれ以降の店の売り上げや、少女たちがもらうはずだったチップの額を、自分が減らしてしまったのは確かだろう。

自分だけの演奏会なら、それでもいい。
だが、せっかく雇ってもらったというのに、店の売り上げや従業員仲間の稼ぎに悪影響を及ぼすようではいけない。
長い目で見れば自分の演奏を目当てに来てくれる客なども増えるのかもしれないが、そんな先のことより、当面の改善をする努力をしなくては。
だから、今日はもっとこの店の雰囲気に合っていそうな、恋の話とかそういうのにも挑戦してみよう、と決めていたのだ。

このハルケギニアへ来てから、自分はずいぶんあっさりと一般の人間にも受け容れてもらえるようになった。
そのためか、受け容れてもらうことがまず大事でその後のことは二の次だった以前には気付かなかったことにも、色々と気付くようになった気がする。

そして、新しくいろいろなことにも挑戦できる。
これまでは数少ない人前で歌う機会に、わざわざ専門外の題材を披露しようと考えることは決してなく、挑戦してみる機会もなかった。
けれど、バードとして芸の幅や深みを増すことは、大切なことだろう。

本当にここへ来てよかったと、ディーキンは改めて、ルイズをはじめとするいろいろな人々や、運命の導きというものに感謝していた。
しばらくそんな感慨にふけった後、咳払いをすると、ちょっと気取った感じで胸を張る。

「オホン……、それでは。
 今宵は、ディーキンが竜退治の英雄のお話をいたしましょう。
 偉大な英雄、宿敵たる龍、英雄の帰りを待つ姫君、姫君を守る血塗れの騎士、そして知恵深き魔女の織り成す物語を――――」

彼なりに、壮大な叙事詩に似合いそうなおごそかな調子を装ってそう語った。
そうしてから、いよいよリュートを手に取ると、物語形式の詩歌を演奏し始める……。

177 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/05/18(月) 00:58:37.60 ID:xM+dmt9y
今回は、以上になります。
話の展開はなかなか先へ進んでいませんが……、ディーキンはバードなので、こういったところにはこだわりたいなあと思っています。
街での演奏が済めば、翌日の夜にはフーケの襲撃があるはずです。

それでは、短いですが失礼いたします。
出来るだけ早く続きを書いていきたいと思いますので、よろしければ、またの機会にもどうぞよろしくお願いいたします……(御辞儀)。

178 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:10:39.08 ID:WL5Upfyb
ディーキンさん、投下乙です。
皆さんお久しぶりです。
よろしければ7時15分頃から投下させていただきます。

179 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:15:03.46 ID:WL5Upfyb
太陽は西に沈みかけ、空が茜色に美しく染まる。煌く星々がその空に顔を覗かせようとしていた。
そんな刻限、モット伯の屋敷へと続く道を、一つの奇妙な物体が疾走していた。
薄茶色に汚れた球体が、土埃を舞い上げながら高速回転する。この奇妙な物体こそ、黒田官兵衛の変じた姿。
その速度たるや、並みの馬では追いつけぬ程であった。
『災い転じて』。黒田官兵衛が得意とする奥義の一つである。
繋がれた鉄球にしがみ付き、共に転がる事で馬以上の速度と突進力を得る技である。
その猛牛のような突撃を止める手立ては無いが。
「ありゃあっ!」
木や壁に激突すると、即座に身動きが取れなくなってしまう欠点があった。
どしいん、と官兵衛がカーブを曲がりきれず木に激突する。鉄球から投げ出された身体が、激突した木に逆さに貼り付く。
バンザイした状態の、なんとも間抜けな格好のまま、官兵衛はへなへなと地面に崩れ落ちた。
「……時間が無い」
官兵衛は即座に起き上がり、鉄球にしがみ付く。そして再び鉄球と共に高速回転し疾走した。
官兵衛は今、一直線にモット伯の館を目指していた。
  
「全く、あの使い魔ったら、一体何処に行ったのかしら。」
一方学院では、自室から忽然と姿を消した官兵衛をルイズが探していた。
あの後、ルイズたちはその熱意をくまれ、見事探索隊への志願を認められたのだった。
最初は教師一同学生を送り出す事に難色を示していたが、彼女らが敵を見ている事。
彼女ら自身(ルイズを除く)が、折り紙つきの実力者であることを理由に、渋々承諾された。
また、コルベールなどは、官兵衛の事に対してしきりに何かを訴えようと興奮していたが、
オールド・オスマンに口止めされていた。
二人の様子が妙に引っかかったルイズであったが、ひとまずこれでよしと、官兵衛を連れに部屋へと戻った訳である。
しかし戻ってみれば、部屋はもぬけの空であり、置手紙の一つも無い。
もっとも官兵衛はまだこちらの文字を習得していないので、仕方の無いことであったが。
そのためルイズは憤慨し、今に至る訳である。
「この時間だし食堂にでもいるかしら?」
ルイズは急ぎアルヴィーズの食堂へと向かった。
 
「ああモンモランシー、いつ見ても君は美しい!例えるならラグドリアンの湖面に浮かぶ精霊の輝きのように!」
「ふーん、そのセリフはもう何回目かしら?」
「ええと、そうだなそれじゃあ――」
ギーシュ・ド・グラモンは、食堂で恋人のモンモランシーと優雅に夕食を楽しんでいた。
歯の浮くようなセリフをだらだらと並べ立てるギーシュ。
その言葉に対してツンと澄ましたまま、あれこれ文句をつけるモンモランシー。
「(はぁ。彼女の機嫌を取るのも楽じゃないよ……)」
心の中でごちるギーシュ。
そんな彼の元に、一人の男が現れたのは、ルイズが部屋に戻る30分程前の事だった。

180 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:16:08.46 ID:WL5Upfyb
「お、丁度いい。おい金髪の!」
食堂で食事をしているギーシュを見つけるやいなや、突如官兵衛はギーシュに詰め寄った。
「なっ、君は!ルイズの使い魔の……えーっと」
「官兵衛だ」
「カンベエ、そんな名前だったね。一体何の用かね?僕らは見ての通り忙しいんだ。」
ギーシュは困った顔をしながら、官兵衛を見やった。だが官兵衛は意にも介さず続ける。
「悪いが小生も急ぎでね。ちょいとお前さんに尋ねたいことがある。モット伯ってのの館にはどうやって行けばいい?」
「モット伯だって?」
ギーシュが突如出た人物の名に首を傾げた。
「別に教えてもいいが、一体モット伯爵に何の用だい?」
「答える必要は無いが、まあヤボ用だ」
あっけらかんとした様子で答える官兵衛。
ギーシュは怪しんだが、このままここに居座られても困る。
そう思うと、官兵衛に大まかな方角と道順を教えた。
「成程な、助かる」
「いや、いいとも。これでいいかい?」
自分の役目は終わっただろうとばかりに言うギーシュ、しかし。
「すまん、最後に一つ」
「まだ何かあるのかい?」
やれやれといった様子で、ギーシュは官兵衛に聞いた。
「ああ、確認しておきたい事があってな。そのモット伯爵ってのは――」
  
「それがさっきなのね?」
今度はルイズに官兵衛の事を問いたざされたギーシュ。
「そうだよ、まだそんなに時間は経っていない筈だ」
目の前のテーブルで不機嫌そうにこちらを睨みつけるモンモランシーに、
ギーシュは冷や汗を垂らしながらルイズに受け応えしていた。
「あのバカ使い魔!」
ルイズはそういうと、官兵衛と同じように急いで後を追っていった。
一体何の騒ぎなんだろうか。気にかかるギーシュであったが、今は目の前の彼女の機嫌を取り戻す事が先決である。
「すまないモンモランシー、二度も邪魔が入ったね。それで、どこまで話したかな。
そうそう!火竜山脈に住まう極楽鳥の話だ――」
彼女に向き直ると、ギーシュは再び歯の浮くようなセリフを交えた無駄話を披露し始めた。
 
「全くあのバカ犬ったらなに考えてるのよ!」
ルイズはモット伯邸へと続く道を馬で疾走していた。
ルイズは、官兵衛が一足先にモット伯の館に出向いてフーケを迎え撃とうとしている。そうに違いないと考えていた。
官兵衛がギーシュの元に来てから30分が経過している。まだ館には到着していないとルイズは踏んだ。
「間に合ってよ」
ルイズはギリと歯を噛み締めながら、勢い良く馬を駆けさせた。

181 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:18:05.40 ID:WL5Upfyb
モット伯爵の館の前にて、官兵衛は泥汚れを最低限手で叩き落としながら、館を見据えていた。
「ふぅ、やっと着いたか。全身泥まみれだ」
モット伯爵の館は、王宮勅使の館だけあって、見渡す限りの豪邸であった。
門から館までは、300メイルから400メイル程もある。広々とした庭園を物々しい柵が囲っている。
甲冑を着込み槍を携えた衛士達が辺りを見回り、そして庭園には、背中に悪魔のような羽を生やした猟犬が無数に放たれている。
フーケ騒ぎの為か、警備はかなり厳重にされているようだった。
「で、着いたはいいが……どうしよう」
館に近い位置にある林の陰に隠れながら、官兵衛はシエスタ奪還の為の策を講じた。
まず、自分のこの成りである。この枷と鉄球では、シエスタを取り戻す交渉は難しいだろう。
ただでさえフーケ騒ぎで物々しい警備の中、あからさまに怪しい自分など門前払いだ。
交渉材料が無い訳ではなかったが、モット伯爵に会う事は現実的ではない。
「いっそのこと強行突破してシエスタを掻っ攫うか?」
「いやいやいや、それじゃあ尚更ダメだろうぜ、相棒」
突如、官兵衛の背後からカチャカチャと唾鳴り音とともに声がした。
官兵衛の背中に背負われたデルフリンガーが、独りでに鞘から抜け出て喋り始めたのだ。
「相手は貴族のお偉いさんだ。強引なマネしたらすぐに手が回るって。
そうなったら相棒はおろかあのメイドの娘っ子だってどこでも暮らしちゃあいけねぇよ。
今回の目的はあの娘っ子を連れ戻す事だろう?もっと慎重にいかにゃあ」
「ぐっ、小生だってそれくらい考えてるわっ」
やかましく喋るデルフリンガーをキッと睨みつける官兵衛。が、やがて官兵衛は肩を落とすと。
「やれやれ、仕方無い」
静かに木陰から身を表し、のしのしとモット伯爵邸の正門へと歩き出した。
「お、どうしたい相棒?とうとう万策尽きて投降でもすんのかい?」
「誰がするかっ。そもそも小生は投降する理由も覚えもないわっ。」
デルフの戯言に、官兵衛はニヤリと唇の端を歪ませ静かに答える。
「まあ丁度いい。小生の培ってきたこの頭の冴えってやつを、お前さんにみせてやる。」
クックックと不敵に笑む官兵衛。
「ほほう、なにか考えがあるんだな?相棒」
「おうとも!」
その瞳に満々の自信をたたえ、彼は再び歩き出す。重厚に構えられた門扉に向かって。
と、その時であった。
「ぐぎゃあああああああっ!!」
突如、モット伯爵邸の敷地内に、異様な叫び声が響き渡った。
「なっ、なんだ!?」
「何の騒ぎだ一体!?」
辺りを警備していた衛士に緊張が走る。悪魔の猟犬が次々に吼えたてあたりは騒然となった。
何があった、悲鳴の元はどこだだの、数のみで集められた衛士達は口々に騒ぎ立てる。
そして次の瞬間。
「敵襲ーーッ!!敷地内に侵入者だーーッ!!」
怒号が発せられ、衛士達は一斉に駆け出した。目指すは声の方角、屋敷の左手方向であった。
「侵入者は何人だ?メイジか?」
「わからない!とにかく現場に急行してくれ!」
一人また一人と衛士達がいずこへと走り去る。そんな様子を、官兵衛は鉄柵の向こう側からひっそりと窺っていた。
デルフがこそこそと唾を鳴らして喋る。

182 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:19:46.81 ID:WL5Upfyb
「なにやら、穏やかじゃないね相棒」
「ああ」
官兵衛がキョロキョロと辺りを確認する。
「この厳戒態勢の中、進入しようなんて輩が居るとすれば……」
「ああ、よっぽどの自信家か大馬鹿か、あるいは『本人』か、だねぇ。相棒はどれだい?」
「とりあえず大馬鹿はご遠慮願いたいねぇ」
デルフの問いかけに、官兵衛は薄く笑いながら頷いた。
「まあ相棒、なんにせよコレは」
「ああ、そうだな」
じゃらりと鎖が持ち上がる。ぎしりと木枷を軋ませながら、官兵衛は上体を後方に捻った。
そして鉄球を手短に構えると。
「機が巡ってきた!」
そう叫びながら、黒金の塊を鉄柵に叩きつけた。
次の瞬間、ガシインと金属音を響かせ、高さ数メイルはあろう鉄柵の一部が吹き飛んだ。
「……なあ相棒」
「あん?どうした?」
崩れた柵を飛び越え、敷地内に降り立った官兵衛にデルフが言う。
「混乱に乗じようってのはわかるんだがなぁ」
やれやれと口を開く。
「こんだけド派手にやっちゃあ、すぐに衛士は戻ってくるぜ?」
「ああ、そうだな」
それがどうした、とばかりに官兵衛は首を捻る。
騒ぎを聞きつけ、衛士の一団らしき輩が掛けてくるのが見えた。
「まあ心配するな……」
官兵衛は鉄球を手繰り寄せ、目前にひょいと浮かせると。
「少なからず敵さんは薙ぎ倒す予定だからな!」
鉄球にむかって強烈なドロップキックを放った。鉄塊が、まるで砲弾のごとく一直線に一団に向かって飛んだ。
衛士の一団は、予想だにしない攻撃に対応できず、真正面から鉄球を喰らい吹き飛んだ。
その様は、ボウリングのピンを散らすかのごとく、敵を四散させた。
「まあ、気絶で済むようには努力するさ」
地面に倒れ伏した衛士達を眺めながら呟くと、官兵衛は即座に館へと駆け出した。

官兵衛が館への突入を敢行する頃、モット伯は、執務室でペンを片手に書類をしたためていた。
「どうだ、仕事には慣れたか?」
自室の机に肘をつきながら、モット伯は目の前に立つメイド、シエスタに語りかけた。
彼女は、小刻みにその肩を震わせ小さく、はいと呟く。
モット伯は満足そうに頷くと、立ち上がりシエスタの傍に寄る。
「そうか、それは何よりだ。だがあまり無理はせぬように、な」
シエスタの背後に立ちながら、モット伯は彼女の耳元で静かに囁く。
「私はお前をただの雑用の為に雇ったわけではない。わかるだろう?」
彼女の肩に手を置き、身体を密着させる。そのまま彼女の匂いを愉しむかのごとく、鼻先をうなじへと近づける。
シエスタの背筋に悪寒が走った。ぞわぞわと生理的嫌悪を催す、モット伯の行動。
「あ、あの……」
嫌とも言えず、離れる事も適わず。シエスタは恐怖と悲しみに包まれながらも、じっとその場に佇んでいた。
なぜ、平民は貴族に逆らえないのだろう。なぜ、こうも嫌な思いを重ねなければならないのだろう。
「(わたしに、あの人のような勇気が一片でもあれば、こんな思いをしなくてもすんだのかな?)」
シエスタは、ここに来る前に出会った男性の事を思い出していた。
力強く優しく、何があってもめげずに逞しい。彼のように生きられたらどんなに素敵だろうか。
泣きたくなる気持ちを抑え、シエスタはぐっと拳を握り締めた。
「(会いたい。私、またカンベエさんに会いたい……)」
それはもう適わないと知りつつも、彼女は思いを馳せる。とめどなく感情があふれ出てくる。
そんなシエスタの心情を知ってか知らずか、次にモット伯はその身体に手を廻し、抱きすくめようとしてきた。
「(嫌ッ!カンベエさんっ!!)」
感情が昂ぶる。脳裏に彼の姿が浮かんだとき、彼女は咄嗟にその体を動かした。

183 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:21:04.79 ID:WL5Upfyb
「や!おやめ下さい……ッ!」
力任せにモット伯の腕を振りほどくシエスタ。
そのまま一歩二歩と伯爵と距離をとり、向き合う。自らの腕で守るように、彼女は自分の身体を抱きすくめていた。
動悸がし、呼吸が乱れる。
「(わ、私一体……!)」
ハッとして目の前の状況を見やる。
そこには彼女同様、呆気にとられ立ちすくむモット伯の姿があった。
即座に状況を理解し、青ざめるシエスタ。それとは対照的に、見る見る顔を赤らめ、怒りを露にするモット伯。
「貴様……なにを嫌がる?」
「あ……」
青ざめた表情のまま、シエスタは唇を震わせていた。自分は何て事をしてしまったのか、と。
「貴様の、主は誰だ?」
怒りに顔を歪ませながらも、静かな口調で語りかけるモット伯。彼は、カツンカツンと一歩ずつ詰め寄る。
それにあわせ、怯えたように、一歩一歩と後ろへと下がるシエスタ。そんな彼女の様子に、彼は益々表情を歪ませた。
「貴様の、雇い主は、誰だと聞いている」
ゆっくりと、噛み締めるかのように言葉を口にするモット伯。その手は固く握り締められ、微かに震えている。
「何だ、その態度は。何だ、その表情は。この私を拒絶するのか?平民の、ちっぽけな小娘が」
「い、いえ私は……」
彼女の言葉は、モット伯の机を叩く拳に遮られた。ドンと乾いた木の音が響き、シエスタは肩を震わせた。
モット伯から逃げるように後ずさる彼女の背中に、固い壁の感触が触れた。
シエスタは狭い執務室の中、逃げ場も無く壁際に追い詰められのだ。
モット伯は静かに机の上の杖を取り、傍にあったマントを羽織った。
貴族の威厳を示すようなその一連の行動の後、彼は、スッとシエスタにその杖先を向けた。
「貴様には『教育』が必要そうだな」
口調も表情も変えず、モット伯は威圧的に呟いた。恐怖で、シエスタの瞳が大きく開かれる。
「お……お、許し、を……」
シエスタの口から、絞り出るように言葉が紡がれる。体を大きく震わせ、彼女は精一杯の許しをこうた。
しかしそれに答えず、モット伯は杖を向け続ける。睨みを利かせ、今にでも魔法を放てるとばかりに。
もはやこれまで、とシエスタが観念した、その時であった。
「伯爵様!大変でございます!」
激しく扉が叩かれ、執事風の男が部屋に駆け込んできた。モット伯が声を荒げる。
「何事だ!」
モット伯は、苛立ちを隠そうともせずに男を睨みつけた。
「侵入者でございます!黒いローブに身を包んだ妙な男が館内に!」
「なんだと?」
シエスタがハッと顔を上げた。
「土くれめ、とうとう現れたか!ええい!外の衛兵はなにをやっておる!」
「はっそれが未だ呼びかけに応じず……」
「これだから平民は当てにならん!」
モットは執事の男に怒鳴り散らしながら廊下を歩く。
「旦那様、王宮衛士隊への連絡は本当によろしいので?」
「くどい!たかが盗賊など、私一人で十分だ!」
そういうと、モットは執事の男を置いて、侵入者の現れた方角へと進んでいった。

184 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:22:09.73 ID:WL5Upfyb
「どういう事だ、こりゃ一体」
官兵衛は、館に入るやいなや、目の前の惨状に、開いた口が塞がらなかった。
彼の計画では、ドサクサに紛れてモット伯爵に謁見する予定であった。
そしてその上で、自分の持つ交渉材料でシエスタを開放する。そんな腹積もりであった。
しかし館に入ってみればどうであろう。
館の壁一面にベットリとこびりついた血痕。
エントランス中には、斬り殺された多数の衛士の死体が転がっているではないか。
あるものは首をはねられ。あるものは肩から胴に掛けて斜めにバッサリと切り裂かれ、見るも無残な光景であった。
「こいつは……」
「尋常じゃねえ奴が入り込んだみてぇだな、相棒」
デルフの言葉に、官兵衛は再び駆け出した。兎に角このままではモット伯もおろか、シエスタも危ない。
「くそっ。急かせてくれる!全く!」
官兵衛は、死体から続く血痕の足跡を辿った。
広い館内を駆けずり回る。ゼイゼイと息を切らしながら、官兵衛は足跡の主を追った。
『災い転じて』を使えば、手早く追いつけそうであったが、狭い廊下内で扱うにはコントロールが難しく扱いづらい。
こういった室内では向かなかった。
いくつもの廊下と曲がり角を通り過ぎた頃、足跡がある部屋の前で途切れているのが見えた。
「相棒!その部屋だ!」
「おうよ」
重厚な作りの扉であり、何かしら特別な部屋であることが見て取れる。
そして耳を澄ませば、中から物の壊れる音と、人の怒鳴り声が響くのが聞こえた。
すでに何かしらの戦闘が繰り広げられてるようであった。
即座に鉄球で扉をぶち破り、中へと転がり込む。
するとそこでは、黒ずくめのローブに身を包んだ男と、刺繍の入ったマントに杖を構えた貴族が机を挟んで対峙していた。
恐らくは、この貴族の男がモット伯であろう。そして黒ずくめの男が、館内を荒らした張本人。
黒ずくめの男は、何やら筒状のものを抱えており、逃げ出す隙を窺っているようであった。
官兵衛に気がついた貴族の男が、杖を官兵衛へと向ける。
「なんだ貴様は!」
すると一瞬の隙をついて、黒ずくめの男が手にした物を置き、近くの窓へと駆け出した。
「おのれ!逃げるか!」
杖先から水の鞭が男へと伸びる。しかし、寸でのところで狙いがそれ、男のローブを掠っただけであった。
男は身を屈めると、窓をぶち破り、外へと躍り出る。そして、そのまま夜の闇の中へと消えていった。
後に残ったのは、官兵衛とモット伯の二人であった。
「くそっ。土くれめ」
モット伯が忌々しげに、破られた窓から外を見やった。それからゆっくりと官兵衛に向き直り、再び杖を向けた。
「貴様は一体何だ!ヤツの仲間か!」
「ちょっと待て、小生は今の奴とは関係ない。そうだな……」
官兵衛はやや思考の後、思いついたようにデタラメを口にした。
「お前さん達を助けに来たんだよ」
「何?」
モット伯が顔をしかめる。何のことだ、といった風に官兵衛の言葉を待った。
「そうさ、用があって館を訪れたんだが、怪しい人影が入っていくのを見た。
こりゃまずい、と思い駆け込んでみればこの惨状。とっさにお前さんの元に駆けつけたわけだ。」
それを聞いて、モット伯は眉を吊り上げた。妙な事を言う男だ、といった顔である。
「そうか、それはご苦労だったな。で、お前自身は何者だ?」
警戒を解く様子も無く、彼は杖を構えたままであった。呪文の詠唱を済ませ、いつでも魔法は放てるとばかりだ。
しかし、官兵衛は平然とした様子である。静かにモット伯を見据え、官兵衛は驚愕の台詞を口にした。
「小生は、ミス・ヴァリエールが使い魔、黒田官兵衛。魔法学院より使者として参った」
「ヴァリエール?魔法学院だと!」
モット伯が驚き目を見開いた。

185 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/19(火) 19:27:12.70 ID:WL5Upfyb
長くなってしまったので今回はここまでです。
ようやくモット伯の館への突入に入れました。
この後、官兵衛はモット伯との交渉に移るわけですが、正直交渉シーンが上手く書けているか不安でもあります。
続きはまた明日にでも投下できればと思います。それでは失礼します。

186 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/20(水) 21:58:07.25 ID:CvA0Qj57
食戟のソーマから幸平創真を召喚したら
異世界版の「信長のシェフ」みたいな内容になるのかな

187 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/20(水) 23:37:17.95 ID:oHz0DjYF
こんばんわ。差し支えなければ40分頃から続きのほう投下させていただきます。

188 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/20(水) 23:40:05.82 ID:oHz0DjYF
「(この男が使者だと?)」
モット伯は疑いの眼差しを強めた。
どうみても囚人然とした男ではないか。服は薄汚れ、醜き手枷をはめられ、身なりも整っていない。
彼は信じられないといった顔で、官兵衛を問い詰めた。
「貴様のような使者がいるか!どうみてもただの囚人ではないか!」
モット伯の当然の指摘である。官兵衛は仕方なさげに口にする。
「すまんね、あいにく主人の酔狂でこんな格好をさせられている。なんたって小生の主はヴァリエール家の三女だからなぁ」
「ぬぅ?」
それを聞いてモット伯は眉をひそめた。ヴァリエール家の三女といえば良くも悪くも有名である。
曰く、魔法の仕えない落ちこぼれ。曰く、貴族の例に漏れずプライドが高く、気性も荒い。
そんな娘であれば自分の従者への扱いなど目に見えているだろう。そう言われれば納得できないでもない。しかし――
「使者だというなら、身分を明かす物がある筈だ。それを差し出せ」
果たして、こんなぞんざいな扱いをされる男が使者として立てられるだろうか?
少なくとももう少しマシな者を使者として選ぶはずだ。モット伯はそう考え、官兵衛に使者としての証を求めた。
しかし勿論、官兵衛はそんなものは持ち合わせていない。
彼が此方に来てから、身分を示すような持ち物は何一つ持たされていなかった。しかしそれでも官兵衛は、臆する事は無い。
「残念だが小生はただの使い魔だ。身分を証明するものは持ち合わせていない。まあ、このルーンくらいだな」
官兵衛が左腕のルーンを掲げて見せるが、モット伯はそれを鼻で笑って返した。
「それ見た事か!このみすぼらしい囚人め。ええい!衛兵は何をしておる!早くこの男を取り押さえろ!」
「だが!」
それでも官兵衛が力強く言い放つ。
「小生は今宵特別な品を持って此方にやって来た。これは我が主人から託された物」
そういうと、官兵衛は懐から、ある物を取り出した。それは……
「『召喚されし書物』ゲルマニアの名家からヴァリエール嬢へ譲り受けし品」
「なっ!」
モット伯が驚きのあまり杖を落とした。
官兵衛が取り出したそれは、昨晩キュルケから受け取った、家宝の本であった。
震える手で杖を拾いながら、モット伯は官兵衛が手にした本に釘付けになった。
「『召喚されし書物』だと?あのゲルマニアのフォン・ツェルプストーの家宝がなぜここにある!騙されんぞ!」
「疑うんなら、見てみるといい。」
官兵衛は、書物をすっと目前に差し出した。
モット伯はよれよれと官兵衛に近づき、広げられた書に目を通す。
「ふ、ふん!どうせ偽物に決まっておる。偽物に、ニ、ニセ……こ、これは!」
それは実に奇怪な書物であった。本の形式はハルケギニアにあるような形ではない。
それは、遥か東方の地の書物。いわゆる巻物の形式を取っており、そこには見たことも無い文字列がずらりと並んでいた。
フォンツェルプストー家の家宝として名高い異国の書物。
その実物に関する情報を、書物コレクターであるモット伯が、知らない筈は無かった。
そして書の端には、丁寧にもツェルプストー所有の証である魔法の印が押されていた。
モット伯は書を眺める内に、それが本物である事に確信を得ていった。
官兵衛の唇がニヤリと持ち上がる。
官兵衛はパタンと書物を閉じると、モット伯に向き直った。
「こ、これを私に託すというのか!何を企んでおる!何が目的だ!」
声を震わせ、官兵衛に食って掛かるモット伯。奪い取ろうとするモット伯からひょいと書物を遠ざける。
官兵衛は、モット伯をまあまあと宥めた
「まあ落ち着くんだな。確かにこれを唯で差し上げるわけにはいかない。その交渉のために小生はやってきたんだからな」
官兵衛はもったいぶってモット伯に向き合う。

189 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/20(水) 23:41:13.83 ID:oHz0DjYF
「ふん、一体どんな条件だと言うのだ」
モット伯が興味深々に官兵衛に尋ねた、しかし官兵衛は。
「といっても小生、この成りだ。先程も言ったがとても使者として信じてもらえる訳が無い。
身分を証明するのはこの書物くらいだからな」
「ええい!何を言っている」
官兵衛の言葉に、モット伯は苛立った。そして口をついてある言葉を口走った。
「はやく条件を言え!お前が何者だろうと知ったことか!それは私のものだ!」
「それは小生を使者として認める。ということでいいんだな?」
それを聞き、モット伯はうっ、と言葉に詰まった。この男と交渉をする、即ちそういうことに繋がる。
もっとも使者として認めず、強引に侵入者としてここで書物を奪い取ってしまう事も出来た。しかし。
「言っておくが小生をここで捕まえれば小生の主人が黙っていないぞ?近いうちに主人もこちらにやってくるだろうしな」
官兵衛が自信満々にそういった。
モット伯はむぅと口ひげを弄りながら考える。モット伯はこの男の自信満々な態度が妙に気になった。
もし本当にこの男がヴァリエール公爵家と繋がりがあるのなら、たしかにここで捕まえてしまうのは危険である。
「……わかった。お前を使者と認めよう」
モット伯は渋々頷いた。官兵衛は表情を変えずすっと頭を下げた。
「それを証明する証として一筆頂戴したい」
それを聞き、モット伯は短く舌打ちをすると、すっと杖を軽く振るった。と、部屋の片隅からペンと羊皮紙が飛んできた。
するするとしたため、それを官兵衛に渡すモット伯。
「これで満足か?」
「ああ、これでようやく交渉に移れる」
官兵衛はニンマリと笑みを浮かべた。
「では本題に移ろう。小生らは、この屋敷に使えるある人物の解雇を望んでいる」
「解雇だと?」
モット伯は首を傾げた。一体どういう了見だ、といった表情である。
「学院からの要望、それは……」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。モット伯が二の句を今か今かと待つ。
「シエスタを、あのメイドを学院に戻すこと。
その親族への手出しをしないこと。そして、今後一切あのメイドに関与しない事、だ」
へっ?と拍子抜けした様子でモット伯が言う。
「それだけか?」
「ああ、確実にそれらが約束されるならば、な」
しばしの沈黙。やがてモット伯は我に帰ると。
「ははっ!ははは!よかろう!あの小娘と引き換えなら!いくらでものもうではないか!その条件を!」
そう言って高らかに笑った。

190 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/20(水) 23:42:13.24 ID:oHz0DjYF
官兵衛は、モット伯が本のコレクションに目が無いという情報を、あらかじめ学院のメイド達から仕入れていた。
そして、ギーシュにもその事を確認する事で、官兵衛は自分の交渉が上手くいく事を確信した。
あとは、キュルケからプレゼントされた書物を携え、モット伯と直接対峙するのみ。
彼の目論みは、まんまと成功したのであった。
しばらくすると、遅れてやってきた衛士の生き残りが部屋に入ってきた。
到着するなり、お怪我はありませんか、とモット伯を気に掛ける。そして、部屋に残った官兵衛を見るや否や、武器を構えた。
しかし、そんな衛士にすぐさまモット伯が命令を下す。
「シエスタをここに連れて参れ」
面食らった様子で、衛士はモット伯の命令を聞いていた。この非常時に一体メイドに何用か、と。
しかしモット伯が怒号を飛ばすと、衛士は駆け足で部屋から出て行った。
 
「カンベエさんっ!」
衛士に連れられ、モット伯爵の元へ連れられたシエスタ。彼女は部屋に着くやいな官兵衛の姿を目にし、驚きの声を上げた。
「さて、学院の使い。これで良いな?この書は渡してもらう」
シエスタを渡してやれ、と衛士に命令を下す。すると、訳も分からないまま解放されたシエスタは、官兵衛に駆け寄った。
一体どういう事なのだろうと、目を白黒させる。襲撃があったと聞き、そのまま執務室で待機していたシエスタだった。
しかし、騒ぎが収まったと思いきや、突如衛士があらわれ自分をモット伯の元へ連れて行くではないか。
そして、モット伯の元に来れば、そこには会いたいと願っていた官兵衛が。
賊はどうなったのだろう。一体なぜここに官兵衛がいるのだろう。なぜ自分は解放されたのだろう。
様々な疑問が彼女の頭の中をグルグルと回った。
そんな風にシエスタが混乱している最中、モット伯は踵を返すと、残った衛士に、館内の処理と賊の追撃を命じた。
「もう用は済んだか?済んだならその娘を連れてとっとと出て行け。今は忙しい」
官兵衛とシエスタを残して、モット伯は衛士の後を追った。しばしの間、静寂が辺りを支配した。
やがて落ち着いたのか、シエスタが口を開く。
「あの、私。まだ良く状況が分からなくて。一体どういうことでしょう?
侵入者が出たって聞きましたけどどうなったんですか?官兵衛さんは何故ここに?」
恐る恐る様子を聞く。そんな彼女を落ち着かせようと、ポンと肩に手をやる。
「落ち着け、落ち着け。侵入者らしいやつは逃げて行った、ひとまずな。
それと、小生がここにいるのは話せば長くなる。だが一番大事なのは――」
官兵衛がゆっくりと落ち着いて言葉を発する。
「お前さんは、ここに仕えなくて良くなった。学院に帰れるってこった」
官兵衛が唇の端を持ち上げながら、シエスタに言った。彼女は呆然として、その言葉を聞いていたが暫くすると。
「本当に?学院に、みんなの所に帰れるんですか?」
そう口にして、こらえきれなくなった様に涙を流した。
顔を伏せて、真っ赤になりながら、シエスタは号泣した。
「おいおい、泣くほどか?」

191 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/20(水) 23:43:14.35 ID:oHz0DjYF
官兵衛が頭を掻きながら、彼女のそんな様子を暫くの間眺めていた。
粗方泣き止んだシエスタが、官兵衛を見つめる。
「もしかして、官兵衛さんが助けてくれたんですか?」
「まあそうなるか。小生が持っていた書物と引き換えにお前さんを解放してもらった」
「そんな、私の為に?」
シエスタは驚いた様子で口元を押さえた。
そんな二人の様子を見て、デルフが口を開く。
「相棒、積もる話もあるが一先ず引き上げようぜ。ここは危険だ」
「ん、そうだな」
賊は逃げたとはいえ、危険人物が辺りに潜んでいる事は明白だ。官兵衛はエントランスの死体が転がる光景を思い出した。
シエスタを伴って部屋から出ようとする官兵衛。
「と。その前にだな」
官兵衛は思い出したかのように、部屋の片隅を見やった。
見るとそこには、黒ずくめの男が置いていった、謎の筒のようなもの。
「こいつは一体何だ」
その物体を持ち上げながら、官兵衛は中を拝借しようとして蓋を開けた。
その時、官兵衛は信じられない物を見た顔で、筒の中の物体を凝視した。
「ば、馬鹿な!こいつは……!」
「どうした相棒?」
「どうしたんですか?カンベエさん」
シエスタが官兵衛の持つそれを覗き込もうとした、その時であった。
どおん!と大地を揺らすような地響きが、館全体に響き渡った。
「きゃあっ!」
倒れそうになるシエスタを官兵衛が支えながら、彼は彼方此方を見回す。
「こいつは……」
官兵衛は、この振動には身に覚えがあった。あの時ルイズ達と一緒にその現場を目撃していたのだから。
「シエスタ、こいつを持ってくれ。一旦外に出るぞ!」
「は、はいっ」
官兵衛が筒のような容器をシエスタに持たせる。
そして、彼女の手を引きながらエントランスを目指した。
長い長い廊下を駆け抜ける二人。
幸い、途中にある衛士の死体はすでに残った衛士達によって片付けられていた為、シエスタがそれを目撃する事は無かった。
階段を降り、エントランスの広間を抜る。巨大な玄関の扉を破り、そのまま庭に飛び出た。するとそこで、彼らが見たものは。
「っ!?」
シエスタが驚きのあまり声を詰まらせる。やはり、と官兵衛は苦々しくその光景を見やった。
「こいつは、あの時の!」
そう、それは天を覆いつくさんばかりに巨大なゴーレム。巨大な土のゴーレムが、館の傍に屹立している光景だった。
巨大な土の塊が、ゆっくりとモット伯爵の館に迫って来ていた。

192 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/20(水) 23:49:14.55 ID:oHz0DjYF
短いですが、後編はこれにて終了です。
次回からフーケゴーレムとの戦いを経て、一巻分のクライマックスに入っていきます。
次回はなるべく早めに投下できればと思います。
それでは失礼します。

193 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/23(土) 19:07:15.39 ID:vGWbEtel


194 :るろうに使い魔:2015/05/24(日) 00:17:03.77 ID:yQ7C9WvG
暗の使い魔さん。お疲れ様です。

さて、遅くなりましたが新作の方をこれから投下したいと思います。
大丈夫なようであれば、0時20分頃より開始します。

195 :るろうに使い魔:2015/05/24(日) 00:21:18.98 ID:yQ7C9WvG
それでは始めます。


 チェレンヌ邸襲撃からその後、さらに時間が経過した。
 刃衛達による強襲が再度やってこないか剣心達は警戒していたが、結果的にはそういうこともなく無事に事なきを得る運びとなった。
 朝日が昇る頃になって、もう厳重警護を解いても良さそうだと判断したアニエスは、そのまま剣心とタバサ、そしてシルフィードを連れ、一度王宮へと戻る事となった。
「ここで待機してくれ」
 王宮の応接室の一部屋へ案内された剣心達は、アニエスにそう言われ、そこで待つことになった。剣心は目を閉じて座して待ち、タバサは本を読んで暇を潰す中、それを見かねたシルフィードはきゅいきゅい喚いた。
「ねえ、折角お近づきになれたんだし、もっと話に花を咲かせてもいいんじゃないのね?」
 どうやら、全然会話しない二人を見て業を煮やしたらしい。前々から剣心の事は気にかけていたシルフィードにとって、これは二人を近づける絶好の機会だと思ったのだ。
(あんなミイラ男なんかより、こっちのおちびの方がずっとお姉さまを任せられるのね)
 それなら、と剣心はタバサではなくシルフィードを見て言った。
「そう言えばイルククゥ殿。お主とはどうにも最初に会った気がしないのでござるが、どこかでお会いしなかったでござるか?」
 ギクッ、とシルフィードは体を仰け反らせる。
「べ、べべつにそそそんな事はははないのねね。気のせいなのね」
「それにシルフィードはどうしたでござる? てっきりイルククゥ殿と一緒に来るものだと思ったでござるが…」
 またまたギクッ、とシルフィードは仰け反らせた。ふと無意識にタバサの方を見るが、彼女は我関せずといった風で本を読んでいる。
 そんなわけで、この回答にはシルフィード本人が答えるしかない。
「えっと、シルフィードは今忙しいのね。重大な使命を思い出したって、この前言ってたのね」
「見苦しくねえか、その言い訳」
 今度はデルフが口を挟む。暫く奇妙な空気が流れた。
 どう言い繕うか、う〜〜ん…と頭を悩ませるシルフィードに、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。そしてその次には、扉が開かれた。
 扉を開けたのはアニエスだった。そしてアニエスを従えるように、アンリエッタが部屋に入ってきた。



            第四十四幕 『都合と理由』



「お久しぶりですわ。ルイズの使い魔さん」
 アンリエッタはまず初めにそう言って、優雅に会釈した。
「此度の活躍の報、アニエスから聞いております。貴方には本当にお世話になりっぱなしですわね」
 優しい笑みを浮かべて、アンリエッタは今度はタバサ達の方を向いた。
「貴方は…確かあの時の、ルイズのお友達の方ですわね。貴方にも重ね重ね、お礼の方を申し上げます」
 一国の女王陛下が、わざわざお礼を言いに来る。それはこの国の貴族から見ればなんとも羨ましい光景であろう。
「あの…所で、貴方は何者なのでしょうか? その制服から留学生とお見受けいたしますが、この国の人ではありませんよね? ガリアから来た人ですか?」
 アンリエッタが不思議そうに尋ねてきたが、タバサは本を閉じ、そしてアニエスの方を向いて言った。
「…事情は聞かないはず」
「そうですが…せめて充分なお礼をしたいのです。ご家族の方にも、大変名誉なことをしたのだとわたくしから申し上げたいのですが…」
「そんな人はいない」
 タバサは冷淡にそう告げる。その目には一切の色が消え失せていた。

196 :るろうに使い魔:2015/05/24(日) 00:23:09.73 ID:yQ7C9WvG
 尋常じゃない雰囲気に一瞬呑まれかけたアンリエッタは、何か事情があるのだろうと思い、追求をやめた。
「分かりました。では貴方には約束通り報酬の方を支払いましょう」
 目を伏せてアンリエッタはそう言った。本当はもっと色々とお礼をしたかったのではあるが、
この国の人間ではない上に明確な家柄も分からぬ以上、ここまでがしてあげられる限界でもあった。
 悲しそうな顔をしたアンリエッタは、今度は剣心の方へと向き直った。
「貴方にも、出来れば充分なお礼を差し上げたいのですが…やはり受け取っては下さらないのですか?」
「拙者も、特に必要ないでござる」
 剣心はニッコリ微笑んでそう言った。アンリエッタは小さくため息をついた。
「本当ならば、貴方にはこの国の貴族になる資格だってあるのですよ。昨今の上流階級の人達に比べれば、貴方の成し遂げた成果には、それだけの価値があるのです」
 しかし、それでも剣心は首を横に振った。
「拙者は只の流浪人で使い魔。それ以上のものなど望まぬ。望むとすれば、早くこの国にも本当の平和が訪れて欲しい、それだけでござるよ」
「……耳が痛いお言葉ですわ」
 アンリエッタは、剣心のその顔に眩しさを覚えた。今、剣心のように本当にこの国のことを考えている人はどのくらいいるのだろう。そう思うとやり切れなくなるのだ。
 そういった感情から振り切るように、アンリエッタは話題を変えた。
「分かりました…そう言えばルイズはどうしています? 無茶な頼みだとは分かってはいますが、今はあの子や貴方達位しか頼れる人がいないから…」
 剣心はそれを聞いて少し言葉を詰まらせた。まさか全財産すって働いているなんてとても言えない。
「あの子から報告の手紙など受け取るのですが、何分せっかちなところがあるから心配で…」
「ま、まあ大丈夫でござるよ」
 取り敢えず、剣心はそう言うしか無かった。それでも少しは安心したのか、アンリエッタは胸を撫で下ろした。
「貴方がそう仰るのなら、きっと大丈夫なのでしょうね」
 するとここでアニエスが、そろそろ本題の方を…とアンリエッタに促した。
「そうね」と、それに頷いたアンリエッタは、今度は厳粛な表情で、剣心達に向き直った。
「それでは、貴方達をお呼びした理由に移りましょう。此度の件で起こったこと、その敵の正体のこと、詳しくお聞かせくださいまし」



 剣心は話した。黒笠の正体、心の一方について。そしてこれまでの経緯、そのあらましを。
 心の一方の能力を聞いたアンリエッタは、俄かには信じがたいような表情をした。
「目だけで相手の動きを止める? でもそんな魔法が…」
「確かにそのお気持ちは分かりますが、私も一度喰らいその身に体験いたしました。ですのでこの話は本当です」
 アニエスが剣心の話を、体験談を交えてそう補足する。アンリエッタはため息をついた。
「それでは、いくらメイジを投入しても勝てないはずですわ」
「けど、見た感じ刃衛の他にも協力者はいる。それだけは確かでござる」
 剣心はさらにそう付け加える。よくよく考えれば幾ら強いとは言え、全くの異国の地で、正体不明を隠し通す事は刃衛にだって不可能に近い。
 恐らく、暗殺を補助する協力者や、事前に情報を与える内通者がいて、それで初めて成り立つはずなのだ。
 協力者は、最後にやって来たあの男…がそれにあたるだろう。あの男が内通者も兼ねているのか、それと他にも別の人間がいるのか…。そこまでが剣心の推理だった。
 内通者…と聞いて、アンリエッタは少し心当たりがありそうな表情をした。
「分かりました。貴重な情報どうもありがとうございます。今の今までこういった話すら出てこなかったものですから」
 アンリエッタは再度会釈すると、今度は自分たち以外誰も見てないか辺りを見回し、確認すると、改めて剣心とタバサの顔を見合わせた。
「つきましてはお願いが…。厚かましいことは分かってはおりますが、出来れば引き続き依頼の続行をお願いしてもよろしいでしょうか? 今は身内でさえ頼れる人が余りいないもので…」

197 :るろうに使い魔:2015/05/24(日) 00:25:47.03 ID:yQ7C9WvG
 そう言って、タバサの目を見て尋ねた。タバサはアンリエッタの懇願の目を前にしても、相変わらずの無表情で通していたが、やがてポツリとこう呟いた。
「…この事件に関することであれば、わたしは別に」
 それを聞いたアンリエッタは、嬉しそうに頬を緩ませた。
「ありがとう。わたくしにはもう、貴方達以外に魔法を使う者が信用できませんの…」
 寂しそうな表情をして、アンリエッタはそう呟いた。
 それをまた振り切るかのように、アンリエッタは表を上げると、今度はタバサ達にこう言った。
「お疲れでしょう? 今夜は忙しかったですから、もうお休みになって下さいな。聞きたいことがあれば、アニエスが相手を致しますので」
「きゅい、わたしも疲れたのね。早く帰って一眠りしたいのね…」
 シルフィードが、眠そうに目をゴシゴシとこすってそう言った。タバサも小さく欠伸をすると、フラフラと立ち上がって部屋を出た。
無理もない。幾ら強いとは言えまだ子供だ。丸一日起きているのは精神的にもかなり辛かったはずだろう。
 タバサとシルフィードが、アニエスに連れられて退室するのを見届けると、剣心は改めてアンリエッタの方を向いた。
「姫殿…じゃなくて陛下殿でござるか。実はここで話しておきたいことがあるでござるが…」
「アンリエッタで大丈夫ですわ。何なら縮めて『アン』とお呼びしてもよろしいですわ」
 努めてニッコリと微笑みながら、アンリエッタはそう言った。彼女もこの時間まで起きているのは、心身ともに辛いのはわかる。
本当はこんな時間に話すことではないのかもしれない。
 けど、話さなくてはいけない。これを逃したら、また何時話せる機会があるか…少なくとも、この国の上に立つアンリエッタには、ちゃんと話しておかなければならない。
 そうこうする内、タバサ達を見送ってきたアニエスが帰ってきた。アンリエッタは剣心の表情を見て、小さくため息をこぼしながらソファに腰掛けた。
「まだ何か、お話することが?」
「あの時は、色々あって話せなかったでござるが…この国の未来に関わる重要な事ゆえ、話しておきたいでござるよ」
 アンリエッタは、それを聞いて小さく目を瞑った。
「分かりました。詳しくお聞かせください…」
「それと、この話をするにあたって、少し信じられないような話も含まれているでござるが、それでも信じて聞いてくれるでござるか?」
「異世界とかのことですか? でしたらオールド・オスマンに少しお聞き致しましたし、それにもう、ここまで来て滅多なことでは驚いたりしませんわ。どうぞ、お話ください」
 それを聞いて、剣心はゆっくりと口を開いた。



「シシオ・マコト……」
 数十分後、話を聞いたアンリエッタはそう呟いた。
「その人が、此度の戦いの元凶だと……?」
 剣心は、コクリと頷いた。その目には昔の情景の炎が宿っていた。
 志々雄真実。
 かつて幕末の頃、剣心がまだ人斬り抜刀斎であった頃…。影の人斬りを受け継いだもう一人の暗殺者。
 そして最終的に、己の剣と信念を死の淵ギリギリまで交え合った男だった。
 何故奴が生きてこの世界にいるのかは分からないが、あの時見せつけられた野望と信念は今でも変わってはいなかった。恐らく奴はまだ自分との決着を望んでいるのだろう。
そして、これがアンリエッタにとって重要なことであるが…奴はいずれこの国を乗っ取りに来ること、それだけの力があることをアンリエッタに伝えた。
「しかし、今のアルビオンの皇帝はオリヴァー・クロムウェルでは?」
「恐らく奴の配下の一人でござろう。今のアルビオンを本当に指揮っているのは、まず間違いなく志々雄真実でござる」
 あの男が、大人しくこのままでいるとは思えない。恐らくカモフラージュのつもりなのだろう。

198 :るろうに使い魔:2015/05/24(日) 00:28:17.92 ID:yQ7C9WvG
 決起する時まで姿を見せず、名を隠し、のらりくらりとしながらも力を貯め、一斉蜂起した時に一気にその名を世界に轟かす。あの男ならそれくらいはやりかねない。
 だからこそ、今の内に手は打たなければならない。そう思って、剣心はアンリエッタに話したのだった。
「……そうですか」
 話を聞き終えたアンリエッタは、一旦顔を伏せた。その声は少し震えている。
 それは間違いなく、怒りからくる震えであった。
(その人が…彼を…アルビオンを…あまつさえあんな事まで…)
「…陛下殿?」
 何かを感じた剣心が、アンリエッタの表情を伺う。しかしその前にアンリエッタは席を立った。
「どうも貴重なお話ありがとう。貴方もお疲れでしょう? 今日はゆっくり休んでくださいな」
「…済まないでござる」
 暗に一人にして欲しい、そう取った剣心は、何も言わずに部屋を出ることにした。
 アニエスと二人になったアンリエッタは、朝日が昇る窓を見つめながら尋ねた。
「例の案件、どうなりました?」
「ここに、全て記しております」
 そう言ってアニエスは懐から数枚の紙を取り出し、アンリエッタに渡した。
 あの夜…死体になったウェールズを操り、アンリエッタを拐かそうとした事件の時、誰が手引きをしていたのかその詳細が書かれていた。
 暫くその調査表と睨めっこしていたアンリエッタだったが、やがてそれらから目を離すと、少し項垂れた様子で椅子に座った。
「おおよそ七万エキュー…これは彼一人の手で賄える金額ではありませんね」
「他にも、このようなものがあります」
 そう言ってアニエスは、別の紙をアンリエッタに手渡す。それを見て疑問符を浮かべる。
「…これは?」
「アカデミーの被害届です。何でも幾つかの貯蔵品を盗まれたとか…。時期が丁度、事件が頻発に起こり始めたのと重なりましたので、関連性は高いかと」
『アカデミー』の名前を聞いて、アンリエッタは尚更首をかしげた。魔法を別のベクトルで見、独自の実験を進めることで有名な機関であるが、
そこでの発明品は正直一般大衆から見たらガラクタ同然で見向きもされないものばかりだ。
 リストの一番下、ヴァレリーという水のスクウェアメイジが作ったという『魔力を強化する秘薬』にこそ目がいったが、そこに書かれているリスク…
『魔力と同時に精神に異常を来す』を見て、結局は使えない失敗作だとわかると、アンリエッタは見るのを止めた。
「レコン・キスタは国境を越えた貴族の連盟と聞き及びます…が」
「随分と泥棒染みたことを、今の雲の上の人たちはするのね。まあ、上に立つのがそもそも貴族ではないらしいですから、何とも皮肉な連盟ですね」
 取り敢えず、これで剣心の言っていた内通者の尻尾が掴めたのだ。
「金でしょう。彼は黄金が好きな男…そのお金で祖国を…わたくしを売ろうとしているのです」
未だに信じたくないという思いがあるが、もうそれを言っている状況でも無かった。
 モット伯を始め、数多の貴族を殺してきた『人斬り』。その幇助をしていたのなら、法的にも裁かなければいけない。
例え親しかった身内といえども…。
「計画の方はどうなさいます? 未だ向こうが人斬りというカードを抱えている状況では、少し…いや、かなり危険だと思われますが…」
「時間がもうありませんの。このまま泳がせておいたら逃げられる可能性が高い。当初の予定通り、明日計画に移しましょう」
「御意」
 それを聞いたアニエスは、深く一礼をして退室した。一人残されたアンリエッタは、顔を俯かせながら震える声で呟いた。
「わたくしは、あの夜起こったこと全てを許しませぬ。国も、人も、全てです。ええ、決して」
 アンリエッタは思い返していた。最愛の人の事を…更に無理矢理に蘇らせて、自分の恋心を弄ばれたことを…。
アンリエッタは、剣心から聞いた男の名…一生忘れぬだろう怨敵の名を呟いた。
「……シシオ・マコト…ッ!!」

199 :るろうに使い魔:2015/05/24(日) 00:30:27.06 ID:yQ7C9WvG
 朝日が完全に顔を出す、その光を受けながら剣心は王宮を出た。
「あっ、おちび。こっちなのね〜〜!」
 見ると、もうとっくに帰ったと思ったタバサとシルフィードが、手を振って待っていた。
「あれ、帰ったのではなかったでござるか?」
「場所が分からない」
「……学院の?」
 えっ…? と聞き返す剣心に、シルフィードが「違う!」と補足する。
「ほら、『魅力の酒場』だっけ? あそこにきゅるきゅる置いてきたからって、お姉さまそこに泊まるつもりなのね!!」
 成程、だから待っていたのか…。剣心は、そんな律儀なタバサを見て少し微笑んだ。
「こっちでござるよ」
 人混みが溢れ始める中、剣心とタバサ、そしてシルフィードは歩き始めた。



 さて、『魅惑の妖精』亭では…。
 客もぼちぼちと店を出る中、一人机に突っ伏して飲んでいる客がいた。キュルケである。
「タバサぁ〜〜あんた今何処にいるのよぉ…」
 普段魅力的な彼女とは程遠い姿がそこにはあった。すっかりへべれけになってしまったのか、身体はぐったりしていて悪酔いの表情が出ていた。
 これはこれでそそられるものがあったが、人も少なくなった今の状態では、彼女に絡んでくる輩も出てこなかった。
「あんたさぁ…一体いつまで泊まるわけ?」
 呆れ顔で顔を出したのは、給仕をしているルイズだった。
 あれからいつもそうだ。タバサがいなくなったあの晩から、何かにつけてキュルケはタバサを探しに行った。そして見つからないとなるとこうやって夜遅くまでやけ酒をするのだ。
 普段のキュルケなら、信頼しているタバサにそこまでしないだろう。けど軍が動き出すかもしれない緊迫した状況に、事の発端が自分とあれば、流石に放ってはおけないようであった。
「全部ツケとか言わないでよ。ていうかあんたに奢る金なんてこれっぽっちも…」
「タバサぁ〜〜〜」
 はぁ…とルイズはため息をつく。それと同時に少し感心もした。キュルケでもこんな一面があるんだなーと。余程タバサを大事にしているのだろう。
 そんな彼女を見ていると、どうしても自分まで悲しくなってしまう。
(ケンシン…)
 今何処にいるんだろう? このまま帰ってこないなんてないよね?
 今やそんな想いがグルグルと渦巻いていた。
 確かに…剣心は強い。そして優しいし、困った事があれば全力で相談に乗ってくれる。
 でも、彼は輪を作りながらも、そこに決して踏み込んではこない。まるでいつ自分が消えてもいいように…。
「でも…どうしてこんな気持ちになるんだろ…?」
 最近、彼を見るとすごい胸がドキドキするようになった。最初はそんなことはなかったのに、アルビオンで旅を経てからはその想いは芽生え、一緒に暮らすことで徐々に大きくなっていった。
 だからこそ、彼が何も言わず、そして何も告げずにいなくなることが、ルイズにとってこれ以上ない不安にもなった。
 もし自分がキュルケの立場だったら、恐らく自分もこうやってやけ酒を煽っていたかもしれない。そう思うと今のキュルケを笑えなかった。
「けど、毎日これは止めてほしいわね。もうそろそろ上がりたいのに…」
 そう言って一旦背伸びして、ルイズは改めて辺りを見回した…その時だった。
 コンコン、と裏口を叩く音が聞こえてくる。その音にハッとルイズは振り向いた。
慌ててパタパタと走り去るルイズの音に、キュルケも虚ろな目を開けた。
「何、どうしたの?」
 キュルケもまた、ルイズの後を追っていった。それを気にすることなく、ルイズは裏口のドアを開ける。

200 :るろうに使い魔:2015/05/24(日) 00:33:06.71 ID:yQ7C9WvG
 ガチャリ。という音と共に扉は開かれて、そこにいたのは…。
「……ケンシン」
「おお、ルイズ殿!」
 若干懐かしむような声で、剣心は言った。考えてみれば剣心と働く時間帯が変わってから、こうやってまともに会話をするのは久しぶりだった。
 何だか、急に学院で暮らしていたあの頃に戻ったようで、ルイズは思わず俯いてしまう。
「あ、ダーリン! 帰ってきたの……――」
 その後ろから現れたキュルケが、剣心を見てそう言いかけたが、その隣からひょっこり現れた少女の姿に、思わず目を見開いた。
「タバサ!! もう探したのよ!!」
 そう言うなや否や、いきなりキュルケはタバサに抱きついた。タバサもまた、特に抵抗せずにそれを受け入れる。
「ずーっと色んなとこ回ってさ…何かあったんじゃないかと思うとさ…本当にもう、心配したんだから…」
「…御免なさい」
 抱きつきながらキュルケはポロポロと涙を零す。いつも快活な彼女がこんな風に泣きじゃくる姿を見ると、急に愛おしさがタバサの中にこみ上げてきた。
 そんな二人を微笑ましげに見つめていた剣心は、ふと俯いたままのルイズを見て、困ったように頬をかいた。
(やっぱり、怒ってるんでござろうなあ…)
 こうやって会話するのも久方ぶりなのだ。余り危険なことに巻き込みたくなかったから遠ざけてしまったが、ルイズの性分からすれば怒り狂っていてもおかしくなかった。
「あの…ルイズ…殿…?」
「……………」
 しかしルイズは俯いたまま、何も答えようとはしなかった。怒っているのか、そんなに怒っているのか?
 何とも気まずそうな空気が場に流れた後、不意にルイズは剣心の顔を上げた。
「……おかえり」
「―――おろ!!?」
 この言葉を聞いて誰よりも驚いたのは剣心だった。あんなに放っていたのに…最悪『爆発』の一つでも喰らう覚悟でいたからこそ、この対応に凄く疑問を覚えた。
「お、怒ってないでござるか…」
「そりゃあ、怒ってるわよ。何で私を放ってどっか行っちゃうのとかさ、何でタバサをそんな気にするのとかさ…色々言いたいことはあるわよ……でもさ…」
 ここでルイズが…今まで見せたことのないような汐らしい表情をして剣心に言った。
「あんたの顔見たら…なんか…そんなことが凄くどうでも良く感じちゃったのよ。何ていうか…帰ってきてくれたんだな…って」
 ルイズも、最初は剣心に会った時には出会い頭に『爆発』の一発でも入れてやろうかと考えていたのだが、結局剣心の笑顔を見た瞬間、怒りとかの前に嬉しさがこみ上げてきたのだ。
 こうやって、また自分に向かって笑ってくれる剣心を見ると、他のことが凄くどうでも良くなる。我ながら甘いとは思うけど…でもそれは理屈じゃないのかもしれない。
「どうせ今回のことも話したくないんでしょ? 百歩…いや二百歩譲ってそこは妥協するわよ。でもね…」
 ここでルイズが、いつもの調子を見せながら剣心に向かって指を突き立てた。
「私の許可無しに、勝手にいなくなるのだけは許さないんだからね! 分かった?」
 それを受けて、剣心はやれやれといった表情をした。でも少し、朗らかな顔も見せていた。
「了解でござるよ」
「……よし」
 今日は、久々に剣心とルイズは一緒の時間に寝た。当たり前のことだったのに、別に隣で寝ているわけでもないのに、それがとてつもなく嬉しくて、ルイズは幸せそうな表情で眠りについていた。



今回はここまでとなります。
ここまで見て頂き、ありがとうございました。
それでは、また。

201 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/24(日) 14:37:04.13 ID:zIUPdJeN


202 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/27(水) 08:46:38.21 ID:UoIuKL64
ここは安定してるなあ
他のSSスレとかはみんな廃れてるのに作者さんが頑張っているからかな?
名作良作いつも楽しみにしてます

203 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/29(金) 08:25:15.41 ID:7DrM+8zB
安定してるのは今居るss作者の性格だろうな
真面目というか几帳面なんだろうな
これらの作品が終わったらこのスレも流石に終わりじゃないかな

204 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/29(金) 23:07:40.55 ID:mdnZEzbp
アクマとスレは違うけど仮面の人
何時までも待ってますよ

205 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/31(日) 18:57:47.97 ID:gNnXRU77
こんばんは、暗の使い魔です。
もしよろしければ、19時ちょうどから新作のほうを投下させてください。
今回はフーケゴーレムとのバトルにくわえて、終盤に戦国BASARAよりある人物が登場します。
それではよろしくお願いします。

206 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/31(日) 19:00:15.32 ID:gNnXRU77
ずしりと大地が地震のように揺れる。そこら中に倒れ伏していた衛士達が起き上がり、逃げ惑う。
30メイルはあろうかという圧倒的質量の土塊が、館の入り口にいる官兵衛達の元へ迫ってきた。
「ゴーレム!」
シエスタが怯えた様子で叫んだ。土のメイジの力で作られたその怪物は、平民にとって正に恐怖の象徴。
何人たりとも逆らえない絶対的力の表れであった。そんな物が今自分たちの元へと迫ってくるのだ。
「トライアングルクラスのゴーレム。間違いねぇ」
デルフがボソリと呟く。シエスタは官兵衛の手を握る。
「やっぱり出やがったか!」
官兵衛が静かに舌打ちをする。
「カ、カンベエさん!」
「とりあえず逃げるぞ!」
官兵衛がシエスタの手を引いて駆け出した。
幸いな事に、ゴーレムは館を一直線に目指しており、二人には無関心なようだった。
館の入り口から門までは約400メイル。その距離を二人は一気に駆け抜ける。
が、その時。
「きゃっ!」
シエスタが足を取られその場に転倒した。
二人の手が離れる。彼女が抱えていた筒が地面に転がった。
あろうことか、二人はゴーレムと館の対角線上に止まってしまったのだ。
「シエスタ!」
官兵衛が叫び駆け寄る。どうやらシエスタは足を挫いたらしく、その場で辛そうに足首を押さえた。
そうしている間にも、ゴーレムは段々と迫ってくる。
やがてゴーレムの起こす振動で、立つのが難しいほどに近くにゴーレムが迫った。
「官兵衛さん。に、逃げて……!」
震える声でシエスタが言う。
官兵衛は、迫り来る土塊と動けないシエスタを交互に見比べた。
「(逃げるだと……?)」
シエスタを置いて一目散に逃げ去る。そうすれば少なくとも自分だけは巨人の下敷きにならずとも済む。
十分に逃げ切ることができるだろう。
逆にここで少しでも動けないシエスタを気にかけでもすれば、間に合わず、たちまち二人とも土塊の下敷きだ。
背負って逃げようとしたところで、この手枷では間に合わない。この状況では、一人逃げる以外に選択肢は無かった。
「畜生め!」
官兵衛はシエスタを置いて駆け出す。そう彼の選択はそれしか無い。官兵衛はわき目も触れず一直線に。
「えっ!?」
ゴーレムに向かって駆け出したのだ。
「一体何を?カンベエさん!」
大木程はあろう巨大な足が、ずしんと大地を鳴らして官兵衛に迫る。
巨大な像にアリが挑むが如き力の差。それに、官兵衛は鎖を構えながら突進していった。
「相棒!どうする気だ?」
デルフの言葉に、官兵衛は鉄球を短く持ち、それをゴーレムの軸足に向かって振りかぶりながら答えた。
「ぶちのめす!」
次の瞬間、官兵衛はそのまま目前の土塊を豪快に打ちのめした。左右斜めからの鉄球の強烈な一撃が、嵐のように襲い掛かる。
そう、彼の頭にはそれしか無かった。か弱いメイド一人を置き去りにして逃げ去るなど、彼の思考には元より無い。
そんな後味の悪い選択肢を選ぶくらいなら、彼は足掻いて足掻いて足掻き通す。目の前の障害などぶち破る。
それが戦国武将、黒田官兵衛であった。

207 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/31(日) 19:02:01.55 ID:gNnXRU77
ゴーレムの足が、ボコンボコン!と削れて粉々に弾け飛ぶ。
信じ難いことに、ゴーレムの全体重を支える足の、膝から下が一瞬で消し飛んだ。
支えきれなくなった片足がぐしゃりと潰れる。
グラリと巨像の体がよろめき、ゴーレムは、ずどおん!と、背後に倒れこんだ。
土埃が空高く舞い上がる。
ゲホゲホと埃にむせながら、シエスタは目の前の光景を信じられないといった顔で見ていた。
「ヒュー!やるね相棒!」
「まあな、こんなもんだ!シエスタ!無事か?」
官兵衛が再びシエスタに駆け寄る。
シエスタが唖然としながらコクリと頷く。よし、と官兵衛は言うと、そのまま動けないシエスタの傍にしゃがみ込み。
「ひゃあ!」
そして軽々とその体を抱え、肩に担いだ。ずり落ちないよう脚をしっかりと両腕で押さえ、官兵衛は門に向かって疾走する。
「か、カンベエさん!あのっ!」
シエスタがあたふたしながら顔を赤らめた。
「ああ?後だ後!今はあいつから少しでも離れる!」
そんな彼女の様子に少しも気付かず、官兵衛は走り続ける。
そして、ようやく門までたどり着くと、二人は館の方角を見やった。
ゴーレムは、官兵衛にやられた脚を修復し、再び立ち上がろうとしていた。
庭の土が盛り上がり、そのままゴーレムの脚として再生する。
そして何事も無かったかのように立ち上がると、再び館に向かって歩き出した。
荒く息をつく官兵衛。ここまでくれば安心だ、とシエスタに伝える。シエスタが半ば放心したように呟く。
「一体あれは何なんでしょう?あんなにおおきなゴーレム初めて見ました」
「土くれのフーケの仕業だ」
「土くれのフーケってあの、最近辺りを騒がしている大盗賊ですか?」
とんでもない人物の名前に驚愕するシエスタ。
「兎に角学院に帰るぞ。後のことは何とでもなる」
自分は目的を果たしたのだ。伯爵には悪いが、これ以上あんなバカでかいものと一戦交える気にはならない。
何よりシエスタを無事送り届けなければならない。
然るべき人間に現場を任せて自分達はとっととトンズラだ、そう思っていた。
しかし、その時であった。
蹄の音を激しく鳴らしながら、街道の奥から一頭の馬がこちらに駆けてきたのは。
「カンベエ!」
自分を呼ぶ聞きなれた声に、官兵衛は首を傾げた。
馬がひずめの音を立てて二人の傍に停止する。そして馬上から、馬を操っていた人間がひょっこりと顔を出した。
その人物に、官兵衛は思わず声を上げる。
「ルイズ!」
魔法学園から馬を駆けさせ、官兵衛を追ってきたのだ。
桃色の髪をなびかせながら、ルイズが馬から降りて駆け寄ってきた。
そして官兵衛の近くにくるやいなや怒鳴り散らした。
「このバカ使い魔!なんで一人でこんな所まで来てるのよ!」
ポカポカと拳で叩きながら、ルイズは言う。
「だぁっ!叩くな!仕方無いだろう、急ぎの用があったんだ」
「急ぎって何よ、フーケを捕まえるなら私が来るのを待ってれば、って――」
そこまで喋って、ルイズは異変に気付いた。モット伯邸の敷地内を堂々と踏み荒らすその巨躯に。
「あれは!フーケのゴーレム!」
ゴーレムを見上げながら、ルイズは叫んだ。
「どうして?襲撃は明日のはずじゃ」
唖然としながら、ルイズが言う。
「目くらましだろう。よくよく考えりゃあ向こうさんが律儀に約束を守る必要は無いんだからな」
それに対して、きわめて冷静に、官兵衛が答える。

208 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/31(日) 19:03:11.93 ID:gNnXRU77
だが官兵衛は、この襲撃に引っかかる点があった。自分がこの館にやってきて立て続けに襲撃が起こった事である。
一回目は、館に侵入しようとした所で殺人者が一足先に現れ。
次に、自分が館から出ようとしたところでゴーレムが現れた。まるで示し合わせたかのように。
今回の一連の襲撃。一体どの様な意図があるのだろうか。
「(或いは小生の不運が移ったか?)」
官兵衛がそんな事を考えている、その時であった。
「おいお前さん!」
不意にルイズが馬で門をくぐり館の敷地内へと駆け出した。官兵衛が咄嗟に声を掛けるが、彼女は見向きもしない。
ゆっくりと歩みを進めるゴーレム。その後ろでルイズが杖を構えた。
「待て!何する気だ!」
馬から降り、ルイズが落ち着いたように杖を構えた姿勢で、詠唱を開始する。そしてゴーレムの背中目掛けて杖を振り下ろす。
その瞬間、ぼこんとゴーレムの肩が小さく弾けた。魔法は命中したが、その効果は巨像の表面を小さく削ったに過ぎなかった。
そんな魔法を気にも留めず、ゴーレムは悠々と歩く。そして、とうとう館の目前にたどり着いた。
ゴーレムがゆっくりと建物に向けて拳を振りかぶる。ゴーレムの拳が鉄に変化した。
「危ないぞ!クソッタレ!」
官兵衛は全速力で駆けつけるが間に合わない。
ルイズまでの距離は約100メイル以上、遠すぎる。仕方なしにと官兵衛は空中へ飛び上がった。そして官兵衛は鉄球に空中でしがみ付くと、
そのまま球体となって地面を転がった。全速力でルイズの元へ疾走する。
それと同時に、ゴーレムが振りかぶった腕を館の壁に全力で叩き付けた。
「うっ!」
凄まじい衝撃に、ルイズは顔を腕で覆う。
壁が鉄の拳を受けて粉々に粉砕される。攻撃を受けた壁面の窓ガラス全てが、外へと飛び散った。
そしてなんと、窓ガラスの雨が、ゴーレムの傍で杖を振るっていたルイズ目掛けて振りそそごうとしていた。
「ルイズ!」
官兵衛は、球体のままルイズ目掛けて突進した。
咄嗟に頭を庇っていたルイズは、突然の横からの衝撃に吹き飛ばされた。
「あうっ!」
ルイズの華奢な体が投げ出され、地面を転がる。官兵衛はそのままルイズがいた地点を通り過ぎて壁に激突した。
「いたた……って、カンベエ!?」
「大丈夫かゴシュジンサマ」
ビタリと壁に逆さ貼り付けになった体勢の官兵衛が、ルイズに言った。
そしてよたよたと立ち上がり、ルイズに詰め寄る。
「危ないだろう、何考えてやがるっ。ほれ、さっさと逃げるぞっ」
両手で乱暴にルイズの手を引いて、走り出そうとする。しかしその手をルイズは振り払った。
「離して!ゴーレムを止めなきゃ!」
「無茶言うな。少なくともお前さん一人じゃどうにもならん!」
官兵衛が声を荒げる。彼自身、ルイズの魔法の威力は認めている。
しかしそれでも、あれほど巨大なゴーレム相手に渡り合えるほどの物とは到底思えなかった。
「一先ずここは退いて応援を待って――」
官兵衛は冷静に撤退を勧めた。だがルイズは激しく横に首を振る。まるで駄々をこねる子供の様に。
「いやよ!ここでまた退いたら、ゼロだから逃げたって言われるわ!今度こそ私が捕まえてみせる!」
「そんなもん!幾らでも言わしておけばいい!挽回ならいくらでも出来る!」
官兵衛がとうとうルイズの肩を掴んで揺すった。しかしルイズはそれすらも跳ね除けると。
「私は貴族よ!魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ――」
そういってルイズはルーンを唱えて杖を振る。
「敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」

209 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/31(日) 19:04:35.75 ID:gNnXRU77
その魔法に、激しくゴーレムの頭が爆ぜた。
一瞬ゴーレムの動きが鈍る。
「やったわ!」
しかしすぐに頭を再生させると、ゴーレムはゆっくりと此方を見た。
流石にうっとおしいと思ったのか、至近距離で此方に向き合う。
ゴーレムの拳が持ち上がり、空から降り注がんとする。土塊が鉄に変化するのを見て、官兵衛はルイズを突き飛ばした。
ルイズが悲鳴を上げて、ゴーレムの拳の外へ転がる。
そして、目前数メイルに銀一色の壁が迫る。
ここまでくれば、する事は一つである。
再び官兵衛は鉄球を構えると、先程脚に喰らわせたように鉄球の乱舞を、落ちてくる拳に見舞った。
「オラオラオラオラオラァ!」
眩いほどの火花が散る。ガツンガツン!と鉄同士がぶつかり合う。
そのぶつかる振動は辺りに衝撃を生み出し、周りの物全てを吹き飛ばす。激しい『剣劇』へと変化した。
「きゃああああっ!」
衝撃にルイズがひっくり返る。乱れるスカートを抑えながら、彼女は衝撃の中心地点を見守った。
「負けるか!」
なんと官兵衛は、巨大な拳を前に一歩も引かないでいた。それ所か、徐々に勢いを増し、拳を押し戻し始めたではないか。
ビリビリとゴーレムの体に振動が走り、ぱらぱらと表面の土が崩れる。
官兵衛の足元の地面にミシリとヒビ割れが走った。そして。
「勝ちだ!」
思い切り振り抜いた鉄球が、ゴーレムの手首を彼方へ吹き飛ばした。
鈍い衝撃音が響き渡り、3メイル四方の鉄の塊が、放物線を描いて飛んだ。
そして、ボコオン!と鉄の腕が柵にぶち当たり音を響かせた。
「ゼェ……ゼェ……ど、どうだ?」
肩で息をしながら、官兵衛は吹き飛ばした腕を見る。
しかし、一瞬止まったゴーレムだったが、すぐに先の無い腕を地面に擦りつける。
するとどうであろう。吹き飛ばした腕は綺麗さっぱり元通りになったではないか。
「相棒!無駄だ!こいつは魔力で操られた土の塊。いくらぶっ壊そうがすぐ元に戻っちまう!」
「くそう!とにかく逃げるぞ!」
デルフの言葉に歯噛みしながら、呆然と地面に座り込むルイズに、官兵衛が叫ぶ。
「え……あっ?」
「あ、じゃない!分かったろう!今のお前さんは足手まといだ!ほれ!」
ルイズを無理やり抱え上げると、そのまま一目散に駆け出す。
そんな逃げる二人を、ゴーレムが追いかけてくる。動作はゆっくりで、走る官兵衛とそれ程変わらなかった。
「足手まとい……」
官兵衛の言った言葉がルイズに重くのしかかった。やっぱり自分はダメなのか。
皆が言うとおり、ゼロのままなのだろうか。
努力しても報われず、行動しても上手くいかず、結果は一切ついてこない。
そして、何をやっても上手くいかない所か、邪魔だとすら言われる。
何が貴族だ、メイジだ。情けないにも程がある。
ルイズはこれまでの行動を走馬灯のように思い出していた。
思い出の中の惨めな自分。そんな自分の姿が脳裏に浮かんだ。そしてとうとうルイズは。
「うっ……ぐすっ……!」
「ルイズ?」
官兵衛の肩に担がれたまま、ルイズは堪えきれず涙を流した。
「ど、どうした?」
官兵衛が走りながら尋ねる。しかしルイズは子供のように泣きじゃくる。もう我慢の限界であった。
「うっ!うぅぅぅ……うあぁぁっ……!うわあぁぁぁぁぁっ……!」
顔を歪め、真っ赤になりながら悔し涙を流すルイズ。
走り去る官兵衛の肩で、頬に流れる涙を風で感じながら、彼女は泣き続けたのだった。
そんな彼女の様を、官兵衛は一言も喋らずに黙って聴いていた。
ゴーレムから逃走する最中、ルイズの心からの悔しさを込めた様な泣き声。
それをすぐ耳元で受け止めながら、官兵衛は表情を変えず走り続けた。

210 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/31(日) 19:06:57.41 ID:gNnXRU77
と、その時、猛烈な突風が吹きすさんだ。咄嗟に顔を背ける。見ると、竜巻が背後のゴーレムにむかって延びている。
それに続くように、30サント大の炎の弾がいくつもゴーレムの上半身に着弾した。
ふと上空を見上げると、見覚えのある風竜が旋回している。タバサの使い魔、シルフィードであった。
シルフィードの上から、影が手を振る。その影をみてルイズが叫んだ。
「キュルケ!タバサ!」
「ルイズ!ダーリン!無事?」
勢い良く着地したシルフィードの上から、キュルケがひょっこりと顔を出して言った。
タバサは油断無くゴーレムの方向を見据えている。
「な、なんでここに?」
ルイズが戸惑いながら尋ねた。
「私達もギーシュから聞いたのよ、貴方達がモット伯の館に向かったって。
それで急いでタバサのシルフィードで追いかけてきたってわけ。それよりも、これ一体どういうこと?」
「どういう事も何も、フーケの襲撃だ!やっこさんにちょっかいかけたんで、追っかけられてる所だよ!」
官兵衛がゴーレムを顎でしゃくりながら言った。そして彼は、肩に担いだルイズをキュルケに預けると。
「こいつを頼む!小生はちょいと用事を思い出した」
庭園内の、ある場所へと駆け出した。
「ちょっとダーリン!」
咄嗟に追いかけようとしたが、迫ってくるゴーレムを見て、仕方なしに飛び上がるシルフィード。
「カンベエ!」
球体となり、走り去る官兵衛を見てルイズが叫んだ。 

「相棒、何を探してるんだい?」
「いや、アレさえあればと思ってな。ゼェ……確かこの辺りだったか?」
館の入り口近くを、官兵衛は息を切らしながら、探していた。あのとき、この辺りに落とした筈だ、と。
ゴーレムは再び興味を館の方角へと向けている。探すなら今のうちである。そして、官兵衛はようやく目的の物を見つけた。
「やった!あったぞ!しかし探し物が見つかるなんて、不運の前触れじゃないだろうな?」
そうごちりながら、官兵衛は再びゴーレム目掛けて疾走した。
「上手くいけばこれであのデカ物を……」
手には、先程シエスタが転んだ際に落とした筒があった。
「しかし……」
『敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!』
官兵衛は先程のルイズの言葉を反芻した。彼にとって、貴族のあり方というのは分からない。
正直彼は、これまで貴族というのは力や権力に物をいい威張り散らすような連中ばかりだと思っていた。
魔法という玩具を手に入れた子供のように。しかし、ルイズは違った。
彼女は彼女なりに、貴族としての誇りを持って戦っているのだ。
そして、ルイズにとってその誇りが重く、決して折れてはならない物だという事が、先程の言葉と涙から垣間見れた。
「闇雲に杖を振るってるわけじゃない、か」
そんな言葉がひとりでに口から漏れた。
「(まったく……馬鹿馬鹿しいが――)」
羨ましい、と官兵衛は柄にも無くそう思った。かつて豊臣の精鋭として采配を振るった己。
九州・石垣原の穴倉に追いやられてからは、泥臭く生きるしかなかった官兵衛だが、そんな豊臣での日々を懐かしく思う時もある。
ルイズの誇りは、官兵衛にそんなかつての自分を思い起こさせるのに十分だった。
「(懐かしがることはない、そうだろう小生よ……)」
心の内でひっそりと思いながら、官兵衛はゴーレムに向かって歩みを進めた。

211 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/05/31(日) 19:08:25.51 ID:gNnXRU77
長いので今回はここまでになります。
後半部分はまた後日投下させてください。それではまた。

212 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/31(日) 19:26:25.66 ID:gLUhcY7R
投下お疲れ様です。とりあえずテストしておきます。

213 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/05/31(日) 20:12:42.57 ID:4uUoRADv


214 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:33:46.61 ID:naXKfZR/
暗の使い魔の方、お疲れさまです。後半部分はまだのようですが、投下させてもらいます。
開始は23:37からで。

215 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:37:05.86 ID:naXKfZR/
ウルトラマンゼロの使い魔
第六十四話「死刑!ウルティメイトフォースゼロ」
異次元人ヤプール人
異次元人マザロン人
恐怖の超獣軍団
異次元超人巨大ヤプール 登場

 『始祖の降臨祭』の幕開けとともに開始された、ヤプール人の超獣軍団の大攻勢! ヤプールの仕掛けた罠に
まんまと落ちた人類はなす術なく、逃げることも出来ずに、ただ超獣に蹂躙されるばかり……。ミラーナイト、
グレンファイヤー、ジャンバードもやられてしまい、最早全滅を待つばかりか……。
 しかし、そうではなかった。それまで意気消沈していた才人は、今にも踏み潰されそうなシエスタたちを
助けようとゼロ戦で出動。その勇気に感化された人々が徐々に正しい心を取り戻し、才人はその姿に
見失っていた光を見出した! そして登場した、我らがウルトラマンゼロ!
 しかし敵もさるもの。恐るべきバキシマムを始めとして、大超獣軍団でゼロを迎え撃とうとする。
負けるな、ゼロ! アルビオンに夜明けを訪れさせるのだ!

『行くぜッ! せぁぁぁぁぁッ!』
 ゼロは気合いの雄叫びとともに、正面のバキシマムへとゼロスラッガーを投擲した。先制攻撃だ。
「ギギャアアアアアアアア!!」
 対してバキシマムは頭頂部の湾曲した角を、ゼロの動きを真似するかのように発射。高速回転する角は
スラッガーを弾き返すと、バキシマムの頭へと収まる。
「ギギャアアアアアアアア!!」
 バキシマムは戻ってきた角を再度発射。角は炎を纏い、ゼロに襲いかかる!
『くッ!』
 すんでのところで角を避けるゼロ。角はグルリと旋回してまたもバキシマムまで戻っていった。
 これがバキシマムの一番の武器。改造を施されたことで自由な軌道を描き、何度でも使用することが
可能な紅蓮ブーメランだ。
「ギギャアァァァ――――――!」
『死ねゼロッ!』
 相手にしている敵はバキシマムだけではない。後方からジャンボキングが口から火炎放射を、
マザロン人が両手の指先からマグマ光線を撃ってくる。
『ちぃッ!』
 ゼロはウルトラディフェンサーゼロで防御、それから即座にビームゼロスパイクでジャンボキングに反撃した。
「ギギャアァァァ――――――!」
 しかしジャンボキングは全身にエネルギーバリアを纏い、ビームゼロスパイクを無効化。
そして気を取られているゼロにバキシマムが迫り来る。
「ギギャアアアアアアアア!!」
『うおぉぉぉッ!』
 大型化したバキシマムの腕の爪が振るわれる。受け止めようとしたゼロだが、相手のあまりの怪力に
弾き飛ばされてしまった。
「ギギャアァァァ――――――!」
 更に転がったところにジャンボキングのミサイル攻撃が集中する!
『ぐあぁぁぁぁぁッ!』
 爆発をまともに食らうゼロ! だがどうにかくぐり抜け、起き上がって体勢を立て直した。
『バァカめぇ! 主さまの最強超獣を二体とこの私を相手にして、たとえ貴様でも勝てるものかぁッ!』
 豪語するマザロン人。実際に、ジャンボキングとバキシマムは超獣の中でも群を抜いた力を持っている。
そこにマザロン人も加わった三対一に、ゼロも苦戦を強いられずにはいられなかった。
 しかしゼロは決して諦めない!
『そんなもんは、やってみなけりゃわからねぇぜッ! でりゃあぁぁぁぁぁッ!』
 ゼロは闘志を爆発させて、恐るべき敵たちに切り込んでいく!
 一方で、他の超獣たちは復活したミラーナイトとグレンファイヤーが相手取っていた。
しかしあまりの数の多さに押されて、完全に苦境に立たされている。
「キィ―――キキキッ!」
「カァァァァァコッ!」
「キュウウウウッ!」

216 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:39:11.18 ID:naXKfZR/
 アリブンタの火炎放射が、ガランの分解ガスが、キングカッパーのロケット弾が、様々な超獣の猛攻が
八方から飛んでくる! ミラーナイトとグレンファイヤーは防戦一方だ。
『くそぉッ! これじゃ反撃に出られねぇぜ!』
『この攻撃の雨が一瞬でもやめば……!』
 そう願うミラーナイトだが、現実は甘くない。
「ガガガガガガ!」
 忍者超獣ガマスが二人の足元にまきびし爆弾を撒き、二人は足を止められてしまう。
『うわぁぁッ!』
「キョーキョキョキョキョキョ!」
 その隙に大蝉超獣ゼミストラーが念力を発動。ミラーナイトたちは金縛りを食らって動けなくなった。
『し、しまった……!』
『こいつはまずいぜ、おい……!』
 身動きが取れない二人に、超獣軍団の猛攻が押し寄せようとする。大ピンチだ!
 すると、そのとき、
『ジャンファイト!』
 山からジャンバードが飛び上がり、ジャンボットへと変形。戦場へと舞い込んでくる。彼もまた復活したのだ!
『ジャンナックル! ジャンミサイル!』
 ジャンボットはロケットパンチとミサイルのコンボ攻撃でゼミストラーを一気に叩く。
「キョーキョキョキョキョキョ!」
 自分が猛攻を食らったゼミストラーは瞬時に爆散した。それによりミラーナイトとグレンファイヤーは
解放され、ぎりぎり集中攻撃を回避できた。
『サンキュー焼き鳥ぃ!』
『ジャンボットだ! それより戦いに集中しろ! 敵はまだまだ多いぞ!』
『ええ……! どこから切り崩すべきか……!』
 ジャンボットが戦列に加わったが、それでも焼け石に水だ。目の前の超獣はまだ二十五体もの数がいるのだ!
「ギギャ――――――アアア!」
 まずマッハレスがジャンボットに突進してくる。ジャンボットが迎え撃とうと身構えた、その時、
「怪獣め! こっちだ!」
 一騎の竜騎士がマッハレスの面前を横切った。それはルネ・フォンクであった。
「ギギャ――――――アアア!」
 速く動くものを追いかける習性を持つマッハレスはそちらに気を取られ、ジャンボットの真正面で大きな隙を晒した。
『! バトルアックス!』
 その機を逃すジャンボットではない。即座に戦斧を横一文字に振るい、マッハレスを真っ二つにして粉砕した。
 見れば、超獣の注意を引きつけているのはルネだけではない。彼の隊の仲間や他の竜騎士、更にヘンリーを
始めとしたアルビオンの騎士もまた、超獣の周りを飛び交って足止めをしていた。
「目を狙え! 目玉は生物共通の泣き所だ!」
「隊長! 目玉がない奴もいるんですが!?」
「えぇいッ! とにかく顔面を撃ち続けるのだ!」
 彼らは魔法を超獣たちの目元に集中していた。たとえ相手にとっては蚊の刺すような威力でも、
視界をふさがれてはまともに動くことが出来ない。
「グロオオオオオオオオ!」
 憤ったベロクロン二世が破れかぶれにミサイルを放ったが、竜騎士たちは即座に退散。
ろくに狙いをつけずに発射されたミサイルは、ドリームギラスが被弾した。
「キョキョキョパキョパキョ!」
 大きくひるんだドリームギラスの背後をグレンファイヤーが取り、逆さに抱え上げる。
『うおりゃあぁッ! グレンドライバーだぁぁぁーッ!』
 一気に脳天を叩きつけ! ドリームギラスは粉々に吹き飛ぶ。
『みんなのお陰で反撃に出られるぜ! ハルケギニアのみんな、ありがとうなッ!』
 竜騎士たちの活躍で攻勢に転じることが可能となったグレンファイヤーたちは、一気呵成に超獣を叩く!
 また地上では、アンリエッタやホーキンスの指揮の下で兵隊たちが、火の手に呑まれそうな人々を救出していく。

217 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:41:08.96 ID:naXKfZR/
「さぁ、街の外へと走るのです! 必ず命を拾いなさい! 死んでは負けです、生き残ることがわたくしたちの勝利です!」
 アンリエッタ自身も水の魔法で鎮火をしながら、人々を鼓舞していく。
 彼女らの活躍で続々と人々が戦場のサウスゴータから脱出していく。それによりミラーナイトたちが
動きやすくなっていくのだ。
 ルイズもまた、皆を助けるために才人から預けられた三つのカプセルを手に取った。
「ウインダム、ミクラス、アギラ。みんなを救って! それッ!」
 投擲したカプセルから三体の怪獣が解き放たれ、避難する民を襲おうとしていた超獣たちに激突していった。
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
「キギョ――――――ウ!」
 フブギララ、スフィンクス、オニデビルの三体はカプセル怪獣の突進で突き飛ばされた。
 盛り返しつつある正義の軍勢。だが悪の軍勢はそれをはねのけようと抵抗を強める。
「ブウルゥッ!」
「キュルウウウウ!」
 気球船超獣バッドバアロンが口吻から発する突風で竜騎士たちを吹き飛ばし、バイオリン超獣ギーゴンが
自身の弦をかき鳴らしての怪音波で落とそうとする。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
 竜騎士たちのピンチ! しかしそれに黙っているミラーナイトたちではない。
『シルバークロス!』
『ビームエメラルド!』
 十字の光刃がバッドバアロンを瞬時に四等分にして、レーザーが弦を切断。間を置かない二発目が
狼狽するギーゴンを爆発させた。
「キャ――――――オォウ!」
 だがその二人にホタルンガが、先端が発光する尻尾を突きつける。尻尾からは破壊閃光が放たれる!
『うわぁぁぁッ!』
 ダメージを食らって苦しむミラーナイト、ジャンボット。ホタルンガは尻尾を前にしながらの後ろ向きで二人を追い詰める。
 その時、空の彼方から複数の竜騎士が飛来してきた。彼らはキング砲を吊るしている。
 先にベロクロン二世に撃墜された軍艦だが、乗員の生き残りが搭載されていたキング砲を運んできたのだ。
「狙いはあの虫型の怪獣だ! 撃てぇッ!」
 キング砲の一撃がホタルンガの額を貫く!
「キャ――――――オォウ……!」
 その一撃は見事にホタルンガを仕留め、横倒れになったホタルンガは粉々に消し飛んだ。
 救われたミラーナイトとジャンボットだが、すぐに別の敵が襲いかかる。
「キィィ――――――!」
『うッ!』
 バラバがフックロープを伸ばし、ミラーナイトの首に巻きつけたのだ。剣呑な鎌がミラーナイトの命を狙っている……!
『ミラーナイト!』
 しかしジャンボットのジャンブレードがロープを切断し、ミラーナイトを解放した。ミラーナイトは自分の首から
ロープを投げ捨てる。
「キィィ――――――!」
 バラバは代わりに、頭部の剣を切り離して飛ばした! ミラーナイト、危ない!
『はッ!』
 しかし、ミラーナイトは飛んできた剣を白刃取り!
『とうッ!』
 そして投げ返した! バラバは自分が胸を串刺しにされる。
「キィィ――――――!?」
『せやぁッ!』
 更にミラーナイトはその背後に回り込み、背面に手刀を入れる!
 その衝撃でバラバは目玉が飛び出て、滅茶苦茶に跳びはねながら鎌を振るい出した。
「キキキキキキキキキキッ!!」
 その鎌の刃は、超獣たちの身体に当たって斬りつける。
「キュウウウウッ!」
「グオオオォォォ!」
「ギギギギギギ!」
「キョキョキョキョキョキョ!」
「ゴオオオオォォォォ!」
「キャアアアアアア!」
「アオ――――――!」

218 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:44:06.95 ID:naXKfZR/
 キングカッパー、フブギララ、騒音超獣サウンドギラー、ダイダラホーシ、ルナチクス、アクエリウス、
シグナリオンが身体を切り裂かれて硬直した。
「グオオオオッ!」
 暗黒超獣ブラックサタンがバラバを殴りつけたことで、バラバは転倒してようやく停止する。しかしもう遅かった。
『シルバークロスッ!』
『ジャンミサイル!』
『ファイヤースティィックッ!』
 シルバークロスがキングカッパー、フブギララを十字に切断し、ミサイルの飽和攻撃がサウンドギラーと
ダイダラホーシを木端微塵にして、ファイヤースティックがルナチクスとアクエリウスとシグナリオンを消し飛ばした。
「バ―――オバ―――オ!」
「ギュウウゥゥゥゥゥ!」
 ザイゴンが攻撃した直後のミラーナイトに突撃していき、サボテンダーも転がりながら迫る。
ミラーナイトはかわす暇もない!
 だが……激突の瞬間、ミラーナイトの全身は鏡となって砕け散った! 既に鏡の分身と
すり替わっていたのだ。何という早業!
『はぁぁッ!』
 本物のミラーナイトがカウンターのチョップでザイゴンの首を切り落とす。そしてサボテンダーを抱え上げて
天高く投げ飛ばし、シルバークロス! サボテンダーはくすだまのように破裂した。
「ガアオオオオオオ!」
 そこに今度はユニタングが糸を噴射してくる。素早く回避したミラーナイトはそちらにもシルバークロスを放った。
『シルバー……クロスッ!』
 しかし切断されたユニタングは倒れず、腕が空を飛んでミラーナイトの首を絞めてきた!
『何ッ!? ぐぅッ……!』
 ユニタングは切断技が効かないのだ。ミラーナイトが危険だ!
『うりゃあー! グレンスパークッ!』
 だがグレンファイヤーが鮮やかに援護攻撃を放ってくれた。火炎弾がユニタングの胴体を瞬く間に
焼き尽くし、ミラーナイトの首から腕が落ちた。
「カァァァァァコッ!」
『うおわぁッ!』
 そのグレンファイヤーにガランが分解ガスを噴きつける。このままではグレンファイヤーがバラバラにされてしまう!
『そうは行くかよぉー! ファイヤァーッ!』
 しかしグレンファイヤーはあえてガランの方に飛び込んでいった! ガスを突き抜けて炎の連続パンチを
浴びせ、ガランは爆散!
「ギョロオオオオオオ!」
『ぐわッ!』
 キングクラブは自慢の長い尾をジャンボットの首に巻きつけて締め上げていた。が、それくらいで参るジャンボットではない!
『はぁぁぁぁぁッ!』
 ジャンブレードを走らせて逆に尾を細切れに切り落とし、キングクラブ本体の甲殻の隙間に刃先を突き立てる!
「ギョロオオオオオオ!!」
 それが致命傷となり、キングクラブは爆裂した。
「ゲエエゴオオオ!」
「グアアアアアアアア!」
「キギョ――――――ウ!」
 カプセル怪獣たちも超獣相手に奮戦していた。ミクラスがオニデビルの片腕をひねり上げ、
アギラが角で脇を突き刺してダメージを与える。
「グワアアアアアアア!」
 そしてウインダムのレーザーが命中! それがとどめとなってオニデビルは爆発四散した。
「キィィ――――――!」
 ここでブラックサタンに殴り倒されていたバラバがようやく起き上がる。しかしそれを事前に察知した
ミラーナイトが飛びかかり、左腕の鎌を蹴り上げた。
『はぁッ!』
 折れた鎌が宙を舞い、ミラーナイトの手中に。そしてミラーナイトはその刃でバラバの首を切り落とす!
『せやぁッ!』
 バラバは結局絶命。首なしの胴体もバッタリと横倒れになった。
「ガガガガガガ!」
 バラバにとどめを刺したミラーナイトに、ガマスが頭上から襲い掛かる。その手には鋭い槍が
握り締められている! ミラーナイトが串刺しにされそうだ!

219 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:47:05.53 ID:naXKfZR/
『むッ! とぁッ!』
 だがミラーナイトは素早く反応。槍をはっしと受け止めるとガマスの手首を叩き、槍を奪い取った!
「ガガガガガガ!?」
『とぉあッ!』
 ミラーナイトはすぐさま奪った槍でガマスの腹部を貫通! ガマスもまた絶命して倒れ伏した。
「グゴオオオオオオオオ!」
『せぇいッ!』
 炎を噴き出すスフィンクスと戦っていたジャンボットは、一瞬の隙を突いてジャンブレードで相手の首を切断した。が、
「グゴオオオオオオオオ!」
 スフィンクスもまた切断されても平気な超獣で、胴体だけでジャンボットをひねり潰そうと
掴みかかってきた! 不意を突かれて一瞬押されるジャンボットだったが、
『むんッ! ビームエメラルドぉッ!』
 零距離からのビームエメラルドで、スフィンクスの胴体を玉砕した!
「グオオオオッ!」
『ぐッ!』
 ブラックサタンは目からの怪光線でグレンファイヤーを攻め立てる。グレンファイヤーは防御を固めて
猛攻を耐えしのいでいる。
「キュルウ―――!」
 そこに背後から忍び寄る邪神超獣カイマンダ! 卑怯にも、グレンファイヤーを後ろから攻撃しようというつもりだ。
『おっとぉ! うりゃあぁぁぁ―――――!』
 しかしグレンファイヤーはそれに気がついていた。ガバッと振り返ると同時にカイマンダの身体を掴み、
何とブラックサタンへと豪快に投げつける!
「グオオオオッ!」
「キュルウ―――!」
 ぶつかってもつれ合うブラックサタンとカイマンダ。そこにグレンファイヤーが胸のコアを燃えたぎらせながら突撃した!
『ファイヤァァァ―――――――ッ!!』
 グレンファイヤーの燃える体当たりにより、ブラックサタンとカイマンダは纏めて吹っ飛んだ!
 勇気ある戦士たちの奮闘により、あれだけいた超獣軍団は最早アリブンタとベロクロン二世だけになった。
が、ベロクロン二世は切り札を切ってくる。
「グロオオオオオオオオ!」
 ベロクロン二世の口から泡が飛ばされる。しかしこれは単なる泡ではない。脅威の毒液、ベロクロ液なのだ!
『ぐううぅぅぅぅぅぅぅッ!』
 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーはそろって毒液に苦しめられる。毒性の高さに加え、
ここまでの激闘で体力を消耗し切っているのだ。既に毒液をしのぐのが困難なほどに。
『くッ……えぇぇいッ!』
 しかしミラーナイトが力を振り絞って、前転しながらベロクロン二世の懐に飛び込んだ。
そしてベロクロン二世の鼻先の角をもぎ取り、相手の胸部に突き刺す!
「グロオオオオオオオオ!!」
 その衝撃がベロクロン二世の体内のミサイルを誘爆させ、ベロクロン二世を内側から木端微塵にした!
 これで残ったのは、アリブンタだけだ!
「キィ―――キキキッ!」
 アリブンタは最後まで抗おうと、蟻酸と火炎を滅茶苦茶に乱射する。だがミラーナイトたちは
それに動じず、最後の一押しを加える!
『行きますよ! 一斉攻撃ですッ!』
『うむ!』
『おうよッ!』
 シルバークロス、ビームエメラルド、グレンスパークの三位一体攻撃がアリブンタに決まった! 
アリブンタは耐え切れず、跡形もなく爆散した。
 ミラーナイトたちが相手にしていた超獣軍団が全滅したことに、マザロン人が怒り狂う。
『何たることだぁッ! しかし、バキシマムとジャンボキングさえいれば奴らを皆殺しに出来る! 
そのために、ウルトラマンゼロ、さっさと死ねぃッ!』
『テメェの思い通りになんかなるかよぉッ!』
 マザロン人の指示でバキシマムとジャンボキングが同時にゼロに襲いかかったが、ゼロは気合いを
爆発させて二体を押し返した。

220 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:49:37.59 ID:naXKfZR/
 そうしてゼロスラッガーを手に取り、ゼロツインソード・デルフリンガースペシャルを作り上げる!
『行くぜぇデルフ! お前でフィニッシュを飾るぜッ!』
『おうよ! やっちまいなぁ、相棒ッ!』
 ゼロツインソードDSを構えたゼロは一直線にバキシマムへと切り込んでいく!
「ギギャアアアアアアアア!!」
 バキシマムは紅蓮ブーメランを飛ばし、更に両腕より火炎弾を連射して迎え撃とうとするも、
『ぜやぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!』
 ゼロツインソードDSはそれら全てを切り落とし、バキシマム自身も一刀両断した!
『せぃやぁぁぁッ!』
 そしてゼロは剣をスラッガーのように投擲。ブーメランの軌道を描いたゼロツインソードDSは、
ジャンボキングも一撃で粉砕した!
「ギギャアァァァ――――――!」
 ジャンボキングの起こした大爆発から、もうもうと黒煙が立ち上る。
『何ぃぃぃぃぃッ!? おのれ、ウルティメイトフォースゼロめぇ! 人間どもめぇぇぇぇぇぇッ!』
『お前らの負けだ! この星から出ていきなッ!』
 超獣を全て失って動揺するマザロン人に、ゼロが堂々と宣告した。彼と肩を並べて並ぶのは、
ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーの仲間。そして人間たちに、カプセル怪獣と、
勇敢さに溢れた戦士たちだ。彼らの輝きを前に、マザロン人はすっかりたじろいでいる。
『ふざけおってぇ! たとえ我だけになろうと、最後まで戦ってみせ――!』
 それでもマザロン人は抗い続ける姿勢を見せた。が……!
 頭上の空がいきなり割れたかと思うと、莫大なエネルギーが放射され、何とマザロン人に降りかかった!
『えッ!?』
『ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』
 異次元エネルギーはマザロン人をたちまちに焼き尽くし、消滅させてしまう。この事態に誰もが目を見張った。
『何故仲間を……!?』
 ゼロが疑問を発すると、割れた空よりヤプールの声がした。嘲笑の色を含んでいる。
『仲間だと? 笑わせるな。そいつら全員、捨て駒だぁッ!』
 空が更に砕け、歪んだ世界の中にうごめく怪人たちの姿が地上の者たちの目に露わとなった。アンリエッタがつぶやく。
「あれが、ヤプール人……!」
『そうだ! 我々が……俺がヤプールだ! ふはははははははッ!』
 怪人たちの姿が溶け、混ざり合い……トゲで覆われた真っ赤な一人の怪人の姿へと変化した! 
それは全身に纏う禍々しさも相まって、正真正銘地獄の悪魔の容貌であった……!
 全てのヤプール人の意識が合体した集合体であり『ヤプール人』という種族そのもの、巨大ヤプールである!
 そして巨大ヤプールが現れた直後に、サウスゴータの土地に赤い雨がごうごうと降り出した!
「うわぁぁぁぁ!? 何だこれは!?」
「気味悪い……!」
 突然の赤い雨に怖気づく大勢の人間たち。雨は街の火災を消すが、それは次に起こる全く別の
災厄の前触れにしか思えなかった。
 実際に、赤い雨はヤプール復活の前兆なのだ。
 そして見よ! いつの間にか、赤い雨に紛れて、空に大量の霊体が渦巻いていた! それを目の当たりにしたゼロが驚く。
『あれは……宇宙人連合の奴らの亡霊か!?』
 その言葉の通り、空に渦巻く霊はザラブ、テンペラー、ガッツ、ナックル、ギロン人、
マグマ、イカルス、ヒッポリト、他いくつもの宇宙人たちの亡霊で……超獣たちの霊も混ざっていた。
それら全て、ゼロたちがこれまでハルケギニアの地で倒してきた者たちであった。
 霊の渦の中心の巨大ヤプールが、高々と叫ぶ。
『ハルケギニアの空を漂う宇宙人の亡霊たちよ。ウルティメイトフォースゼロの手で空の塵となった
幾多の超獣の怨霊よ! ここに集まれ! 今一度生き返るのだぁッ! 生まれ出でよ、究極超獣ッ!!』

221 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/05/31(日) 23:51:44.92 ID:naXKfZR/
 赤い雨に打たれながら、数え切れない数の亡霊が、ジャンボキングの亡骸へと吸い寄せられて一つになっていく! 
そうすることで、粉砕された亡骸は膨れ上がっていき……全く別の姿へと変貌していく!
 ここに至り、ゼロ、ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーはヤプールの真の目的に気がついた。
『ヤプールがけしかけてきた奴ら全て……俺たちに倒させることが本当の目的だったのかッ!』
『戦いの苦しみ、私たちへの恨みを募らせて、そのマイナスエネルギーを利用するために……!』
『最初から死なせることが狙いとは、信じられぬほどおぞましい所業ッ!』
『ヤプールぅッ! テメェは本物の悪魔だぁッ!』
 グレンファイヤーの言葉を、ヤプールはむしろ嬉々として肯定する。
『そうとも! 我らは暗黒から生まれ、全てを暗黒へと染める! ウルティメイトフォースゼロ……
貴様らの光、今度こそ消し去ってくれるッ!!』
 巨大ヤプールの精神体が異次元から飛び出て、新しく生まれ出でようとしている肉体に憑依した!
 赤い雨が降り……究極超獣が完成した! その威容が身を起こし、ドズゥンッ! と太い足が大地を震撼させる。
 歪んだ黄金色の体色。生きとし生きるものを拒絶するようにビッシリと並んだトゲ。触手の先に
生えた刃はゼロスラッガーに似ていながら、輝きは邪悪に染まっている。顔面に妖しく光る単眼は、
ゼロたちを射殺そうとするかのように鋭い……!
「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」
 鼓膜を破かんばかりの金切り声のような咆哮が大気を震わせ……究極超獣ゼロキラーザウルスが降臨した!





ここまでです。
次回、決着。

222 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/01(月) 19:16:52.83 ID:YTnB+AZE
ウルトラマンゼロの方、投下お疲れ様です。
よろしければ19時20分より、後半部分を投下させてください。
それでは、よろしくお願いします。

223 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/01(月) 19:20:02.74 ID:YTnB+AZE
「ダーリン、一体何をしているのかしら?」
上空から、官兵衛があちこちを探しているのを見て、キュルケは疑問符を浮かべた。
「探し物?こんな所でなにを……あっ!なにか見つけたわ!」
官兵衛が地面に転がっていた何かを拾い上げたのが、空からでもはっきりと見えた。
そのまま、館を襲撃しているゴーレムの元へ走る官兵衛を見て、ルイズが身を乗り出した。
「ちょっと!危ないルイズ!」
「カンベエ!なんで逃げないのよ!」
一体何を考えてるのだろう、とルイズは奥歯を噛み締めた。
さっきは散々逃げろとか言っていたくせに、自分は逃げないではないか。あの危険なゴーレムに立ち向かうではないか。
一体どうして、とそこまで考えてルイズはふと、以前官兵衛から言われたある言葉を思い出した。
『小生を呼んだお前さんは、無能なんかじゃあないってこった。今から、そいつを証明してやる』
そうだ、ド・ロレーヌとの決闘の時、官兵衛は自分にそう言った。
思えば、あの時官兵衛は自分のために戦ってくれたのかもしれない。
自分が無能と呼ばれ、俯いたその時、官兵衛は体を張って戦ってくれた。
そして今回もきっと。
「タバサ!レビテーションをお願い!」
「ルイズ!」
突如、ルイズが身を乗り出し、風竜から飛び降りる。
キュルケが引き止めようとするも間に合わず、ルイズは急降下していった。
咄嗟に、タバサが着地の手前でレビテーションを唱える。ルイズはすとんと軽やかに着地すると、官兵衛の元に駆けて行った。
「あの子!一体何する気!?」
「大丈夫」
キュルケの言葉に、タバサが静かに頷く。二人は上空から、そんなルイズの様子をじっと見守っていた。
 
その頃、館の入り口にて、一人の貴族がゴーレムと対峙していた。
「くそっ!化け物め!よくも私の館を!」
杖先から、水の鞭を操りながら、モット伯は忌々しげにゴーレムを見上げていた。
ゴーレムが再び館を攻撃し始めてから数分。モット伯はようやく現場に駆けつけた。
ゴーレムの暴挙をみるやいなや、憤慨して攻撃を加えるモット伯。
しかし、得意の水魔法を浴びせかけても、その巨体はびくともしない。表面が湿り、少し崩れただけであった。
ゴーレムは魔法を意にも介さず、拳を叩きつける。
そのたび舞い散るガラスの破片や瓦礫に怯みながらも、懸命に魔法を打ち込むモット伯。
しかし、どのメイジにも魔法力に限界は来る。モット伯は、自分の魔力が残り少ないとみるや、館の中へと逃げていった。
「くっ!よもやこの波濤のモットが手も足も出ないとは」
長い廊下を歩きながら、苦々しげにつぶやく。かくなる上はと、彼はある部屋の扉をバンと開け放った。
その部屋は、先程自分と黒ローブの男が対峙していた彼の書斎であった。
息を切らしながら、モット伯は書斎の、ある一角の本棚に駆け寄った。
そしておもむろに本棚の、ある段の、背表紙の書かれていない本に手を沿えた。親指でグイと強くその本を押す。
するとどうであろう。ゴゴゴと重い音を立てながら、本棚が金庫扉の様に手前に開いたではないか。
本棚の奥には漆黒の暗闇と、地下へ下っていく階段が見えた。モット伯はそれを見て、ニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「くくくっ。土くれめ、貴様如きに私の宝は渡さんわ……!」
誰にも知られる事なく、彼は静かにそう呟いた。

224 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/01(月) 19:21:05.60 ID:YTnB+AZE
モット伯がゴーレム相手に手も足も出ず、逃げ去ってからすぐ後である。
官兵衛が探し物を抱え、ゴーレムの元へと戻ってきたのは。
「相棒は今日は走ってばかりだねぇ」
「いつもこんなもんだよ!」
官兵衛はルイズ達が乗っている筈のシルフィードを探した。
見ると、庭園の中ごろの上空に、ヒラヒラと舞っている青い影が見える。
館入り口にいるゴーレムとの距離は十分である。
「よし、これならこいつをぶっ放しても問題ないな」
そう言うと官兵衛は、筒の蓋を開き、中身を取り出そうとした。しかし。
「だぁ畜生め、やっぱりこの手じゃあ上手く取り出せん!」
きぃと歯噛みしながら、官兵衛はアタフタと筒を上下させた。すると、中身がぽろりと地面に落ちて転がった。
「ああっ!待て待て!」
転がる中身を、必死で追いかける官兵衛。と、そのとき。
「全く、なにやってるのよ」
ひょいと、その中身を拾い上げる者がいた。官兵衛がその人物を確認するなり、声を上げた。
「ルイズ!お前さん何で。」
「主人が使い魔を放って逃げるわけにはいかないでしょ!」
フンと鼻を鳴らしながらルイズが言った。
「私は、主人として、あんたを一人にはさせない!」
ルイズはそう高々に言うと、官兵衛の瞳をぐっと強く見据えた。
「そうかい」
官兵衛は短く、ただ一言そういうと、同じようにルイズを見据えた。
「よし、取り合えずそいつを小生に。」
「うん!でもこれって……」
「説明は後だ!」
官兵衛が急いでルイズから『それ』を受け取る。その瞬間であった。官兵衛の左腕のルーンが力強く輝いたのは。
「何だと!?」
膨大な情報量が自然と頭に流れ込んでくる。官兵衛が手にした『それ』の名前、扱い方、構造、全てが分かる。
官兵衛はしばし、食い入るようにその代物を眺めていた。
「カンベエ!」
ルイズの声にハッと我に返る。見ると、ゴーレムが再びこちらに向かい合っているのが見えた。
「ルイズ!いいか良く聞け!」
「何?」
官兵衛の言葉に、ルイズは答えた。
「前にも言ったが、お前さんは胸を張っていい!失敗や周囲の評価なんて気にするな!だがな!」
強い語調で続ける。
「お前さんがそれでどうしても納得いかないっていうのなら!これから小生が言うとおりに動け!
お前さんの名誉を守ってやる!」
「カンベエ……」
官兵衛がゴーレムに向かって、『それ』を構えた。

225 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/01(月) 19:22:21.34 ID:YTnB+AZE
動きが制限された手で、器用にその物体を構えながら、官兵衛はゴーレムを見据えた。
その、鉄で出来た鈍色の四角い筒に、取っ手のようなものがついたその物体。それには、彼が良く知る紋が描かれていた。
三つの脚を持つ高貴な神の使いを象った紋。戦国最強の傭兵集団、雑賀衆のヤタガラスの紋であった。
そしてその武器、いや兵器の名は『狙弾 カワセミ』。広範囲の敵を追跡し一掃する、高性能ロケットランチャー。
「ルイズ!ゴーレムの脚に『錬金』をかけろ!」
「え、ええ!」
官兵衛の言葉に、ルイズは即座に杖を構えた。
ゴーレムの足がずしんと地面にめり込む。その勢いに臆する事無く、ルイズは冷静に呪文を唱える。
再びゴーレムが一歩近づく。彼らとゴーレムの距離は100メイルに満たない。
地響きの中、ルイズが短く詠唱を終える。
そしてゴーレムの足が持ち上がった瞬間、支えになっている脚めがけて杖を振り下ろした。
ぼこおん!とゴーレムの脚の一部が抉れて弾けとんだ。
半分ほどの太さになった脚は体重を支えきれず、ゴーレムは前のめりに転倒し、膝をついた。
ゴーレムの上半身が無防備にさらされる。
「今だっ」
照準をゴーレムの胸に合わせる。ピピピッと標準が赤く変わり、全ての弾がロックオンされる。
「伏せていろ!」
官兵衛が叫ぶと、ルイズはその場にうずくまる。
巨大な土塊を見据え、引き金を引いた。
すると、轟音とともに、火のついた無数の弾頭が飛びあがった。木から一斉に飛び立つ鳥の群れのように。
一発一発が強力な爆発を巻き起こす代物である。その群れが、全てが、吸い込まれるようにゴーレムへ着弾した。
瞬間、ずどどどどおん!と巨大な爆発が土の巨像を飲み込んだ。
一発の弾丸がゴーレムを荒く砕き、その破片一つ残らずを、無数の弾丸が追いかけ、破砕する。
モット伯邸の目前に、見るも巨大な火柱が立ち上った。
「きゃあああっ!」
あまりの爆音にルイズは悲鳴を上げた。それは、これまで見た事も聞いたことも無いような光景。
30メイルのゴーレムが一瞬で溶ける、信じ難い光景だった。
「……すごい」
うずくまった体勢のまま、顔を上げると、そこには何も無かった。
ゴーレムの残骸すらなく、あるのはごうごうと燃える炎と、立ち上る煙のみであった。
「……孫市め、こんな危ないもん小生らに向けてるのか」
官兵衛はその威力に身震いしながら、かつての戦場での戦いを思い出していた。

226 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/01(月) 19:23:45.06 ID:YTnB+AZE
「ダーリンッ!ルイズ!」
上空から、ゴーレムが跡形も無く吹っ飛ぶ様子を見ていたキュルケ達が降りてきた。
シルフィードから降りるやいなや官兵衛に抱きついてくる。
「すごいわダーリン!あのゴーレムをこんな簡単にやっつけちゃうなんて!」
ボリューム満点の胸を押し付けながら、キュルケは官兵衛の首に手を回した。
「ふふん、小生が本気をだせば、お茶の子歳々だ」
「ああん!そんな自信満々なダーリンが大好き!」
そういうとキュルケは官兵衛の頬に熱烈な口付けを始めた。
によによしながらそんな熱い抱擁を受け入れていると、ルイズが声を荒げた。
「ちょっと!今はそれどころじゃないでしょ!官兵衛から離れなさいよツェルプストー!」
仕方無しにと官兵衛から離れると、キュルケは不思議そうな顔をして尋ねた。
「でもダーリン、貴方が使っていたこれって一体何なの?見た事も無い形だけど、ものすごい威力なのね」
官兵衛が持つ『カワセミ』をまじまじとキュルケが見つめた。すると、タバサが唐突に口を開いた。
「破壊の杖」
「え?」
タバサが無表情で『カワセミ』を杖で指しながら言った。
「宝物庫で見た」
「なんだと!?」
官兵衛が声を荒げた。ルイズもキュルケも驚きの声を上げ、それを見やる。
「じゃあこれが盗まれた破壊の杖なの?どうしてフーケに盗まれたのにここに?」
「マズイぞ!」
官兵衛が冷や汗を垂らしながら、そう呟いた。
「マズイって、どうして?」
ルイズが不思議そうに尋ねる。
「小生らはハメられたってことだよ!まんまとこいつを使わせられたってことだ!」
ええっ、とルイズとキュルケが要領を得ない感じで答えた。
そのとき、タバサの視線が鋭く動き、モット伯邸を見据えた。
官兵衛もその様子に気がつき、同じ方向を見やった。と、そこには。
「クッククク……。どうもありがとう御座いました。これでようやくその『杖』を有効活用出来そうですね」
「お前さんは!」
見ると、ゴーレムが殴り壊した壁の二階部分に、男がこちらを見下ろすように立っていた。
先程、館を荒らしていた、黒ローブの男だ。深くフードを被り、そこから銀髪の長い髪が覗く。
その腕には、長く鋭い二本の大鎌を持っている。
一本をだらんと下げた左腕に持ち、そしてもう一本は。
「ひ、ひぃ!助けて……」
縛られ、床に寝かせられたモット伯の喉元に突きつけられていた。
濡れた布で手入れされたかのように、妖しく光る鎌が、伯爵の首の皮を薄く裂いていた。
「その声、聞き覚えがあるぞ……!」
官兵衛が低い声で凄んだ。
「おやおや、これは奇遇ですね。私も貴方の事は良くご存知です。暗の官兵衛殿」
男が穏やかな声で、突如官兵衛の名前を呼んだ。
「えっ!?」
その場の全員が、官兵衛を振り返って見た。そんな様子を気にも留めず、官兵衛は男に向き合った。
「お前さんまでこっちに来ていたとはな!」
男がフードを取った。その中から現れた顔。
それは、鼻と口を異様な黒マスクで覆った、長い銀髪の青年。
官兵衛は息を吸うと、その男の名を叫んだ。
「なぁ、慈眼大師 天海様よ!」
 
慈眼傍観
     天海
        祈祷

227 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/01(月) 19:27:09.67 ID:YTnB+AZE
以上で投下完了になります。
ようやく奴が出てきました。天海は暗の使い魔の、根幹に関わる重要キャラクターです。
次回はとうとうフーケ編のクライマックスです。
度々失礼しました。それでは失礼します。

228 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 22:53:59.21 ID:pbAfa2Zz
皆様、お久し振りです。
遅くなりましたが、よろしければ23:00頃から続きを投下させてください。

今回はディーキンの歌う物語だけで、話は殆ど進みませんが……。

229 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 23:00:06.57 ID:pbAfa2Zz
 
〜〜♪


深夜の魅惑の妖精亭に、耳に心地の良い歌声と、美しいリュートの音色とが静かに響いている。

ディーキンが今披露している詩歌は、竜退治の英雄行に出かける勇者とその周囲の人々にまつわる異世界の物語だ。
だが事前に宣言していた通り、恋愛物語的な要素も強いものだった。

物語の主人公はエロルという名で、とある辺境の地の若き領主。
婚約者である良家の姫君レツィアとの結婚を間近に控えたエロルは、突如領地に現れた緑竜から己が民を救うべく、自ら立ち上がる事を決意するのだ。

彼はまず、いかなる攻撃も通じぬ竜を打ち倒し得る武具を求めて、親友でもある近衛兵ベルガーひとりを連れて探索行に出る。

途中で、2人は領地の民が事あればみな頼りにするという森に棲む善き魔女に出会い、彼女から助力を受ける。
最初は彼女の若さと魔女という肩書きに疑いの目を向けるエロルも、やがて彼女の深い叡智や善良さを知り、敬意を抱くようになっていく。
そして苦しくも温かさのある旅の末に、ついにエロルは竜の厚い鱗をも貫けるという黄金の槍を手にした。

次に来るのは、魔女とエロルとの別れの場面。

魔女もまた旅を通してエロルに惹かれており、別れる前に自分の気持ちを彼に告げるのだ。
孤独な暮らしで人との深い交わりに慣れていない若い魔女の、不器用ながらも真摯で情熱的な求愛。
エロルはそれを聞いて辛そうな顔をするが、故郷に残してきた婚約者に対する自分の気持ちを説明する。
自分は故郷と領民だけではなく、彼女を助けたいからこそ自ら命を懸けようと決めたのだと。

初めての恋が破れた魔女は深く悲しむが、最後には笑顔でそれを受け入れる。
そして、これからはあなたのことを兄と思って慕おうと言い、エロルのために夜も寝ずに作った護符を渡して彼を静かに見送る……。



「んん〜〜……、トレビアン」

先程までの喧騒もぴたりと止み、客も店の少女たちも、みなうっとりした様子で物語に耳を傾けている……。
店の奥の方からそれを見て、スカロン店長は組んだ掌を頬に寄せて目を輝かせながら、腰をカクカク振って嬉しそうにしていた。

スカロンは、その女性的な口調に反して筋骨逞しい男性的な体格をしていた。
シエスタと同じ艶のある金属光沢の黒髪にオイルを塗って撫でつけ、さらにぴかぴかに輝かせている。
大きく胸元の開いた紫のサテン地のシャツからは同じく艶のある黒い胸毛をのぞかせ、鼻の下と見事に割れた顎には小粋な黒ひげを生やしている。

彼もまたアアシマールらしく印象的な容貌の持ち主だが、美しいと思うかどうかは人によってかなり好みが分かれそうだ。
そんな姿の男が腰を振る様子は人によってはかなり異様に感じられただろうが、今はみな歌に夢中で気に留めるものもいないようだった。

「ディーキンちゃん、本当に素敵ねえ。
 店の女の子がかすんじゃうくらい、お客さんのハートを掴むのがじょうずだわん」

横の方で、スカロンの娘のジェシカが同じようにディーキンの方を見ながら、父の言葉に満足そうに頷いた。

「そうね、シエスタが初めてあの子を連れてきたときには、いろいろな意味で心配したけど……。
 あの子が毎日うちで働いてくれたら、これまで自慢にしてきた魔法人形の演奏も、お払い箱になっちゃうわね」

ジェシカの容貌は、父親と同じく艶のある金属光沢の長いストレートの黒髪に、太い眉。
シエスタとは大体同じくらいの年だろうか、飛び抜けて美人というほどではないが、愛らしく、全身から華やいだ活発そうな雰囲気を漂わせていた。
豊かな胸の谷間を強調するような胸元の開いた緑のワンピースを着ていて、奔放というほどではないが、解放的な印象を受ける。

彼女もまたアアシマールのようだが、高貴さよりも親しみやすさが前面に出ていて、すっかり街娘に溶け込んでいる。
その雰囲気や装いなどから見ても、少なくともシエスタほど秩序寄りな性格ではなさそうだった。

230 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 23:02:05.86 ID:pbAfa2Zz
 
(いえ、それどころか、私たちのサービスもなくてもいいくらいになるかもね……)

ジェシカはそう、心の中で呟いた。

なにせ普段は下心丸出しで来ている客たちが、酒や料理はおろか、目当てだったはずの給仕の少女たちにまで目もくれずに聞き入っているのだ。
曲の雰囲気に当てられたのか、普段はガードが固い少女たちの幾人かがうっとりして客に寄り掛かったり、腕を組んだりしてくれているのにもかかわらず。
一旦演奏が終われば曲の雰囲気の余韻も手伝って、店の少女たちとの『束の間の恋』に、また一層熱心に精を出しはじめるのだろうが……。

ジェシカは同じように静かに曲に聞き入りながらも、内心僅かに苦笑して肩を竦めた。

(……まあ、あの子がすごく上手なのは確かだけどさ)

ジェシカが他の少女たちほど歌の世界にのめり込めなかったのは、ここまでの話の筋書きに納得がいかず、あまり感情移入できなかったからだった。
何もせずに故郷で待っているだけの婚約者よりも、命懸けで彼を助けた魔女の方にこそ見返りを求める権利があろうというものだ。

(そんなにそのエロルだかが好きなら、身を引くとか妹としてだとか綺麗事言ってないで押し倒しなさいよ、まったく……)

本当に無我夢中で好きなら押し倒せるはずだ、というのがジェシカの見解である。
彼女は小さく溜息を吐くと、ディーキンの主人だという貴族の少女と一緒に夢中になって歌に聞き入っているシエスタの方を見て、肩を竦めた。

あんたも、好きな相手にはいつまでも遠慮してないでさっさと積極的に行かないと、取り逃がしちゃうんだから。



―――そんなスカロンやジェシカの思惑をよそに、物語は続く。




 勇ましきエロル、緑深き森の地の大公

 今こそ、愛する人に別れを告げて旅立たん
 己の民を脅かす、おぞましき緑竜を討たんがため

『我は、今こそ槍とならん。
 戦うために放たれて、飛び往くことが槍の定め。
 槍は折れる事など恐れはせぬ。
 さらば、ふるさと。
 さらば、愛する人よ』

 憂いるレツィア、エロルの婚約者たる美しき姫君

 今、愛しき人の旅立ちを見送らん
 与えられるものもなく、ただ力になれぬ己の身を嘆く

『そうして、あなたは行ってしまう。
 私にはそれを、止めることもできない。
 あなたの、力となることも』

 ……




魔女とエロルの別れの場面も終わり、ディーキンが今歌っているのは、今度は決戦を間近に控えて故郷に戻ったエロルとレツィアとの別れの場面である。

231 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 23:04:08.63 ID:pbAfa2Zz
 
レツィアには魔女とは違い、彼を助ける力もなければ、与えられるものもない。
これまでも毎日、胸の締め付けられるような思いをしながら、ただ愛する人の無事を祈ることしかできなかった。

これ以上、そんな日々には耐えられない。
けれど、彼を引き留めることもできない。

だから彼女は、戦いに赴くエロルに、誓いの言葉と明日に残る契りとを求める。




『ああ、どうか、必ず戻るといってください。
 槍として死なず、私の下へ戻ると約束してください』

 エロルは力強く恋人を抱き締めると、その額に口付けた
 彼女を、なんとか安心させたかった
 いよいよ別れるという時になって、彼女の悲しむ顔を見たくはなかった

『愛しき人よ、ならば、我は誓おう。
 再び戻りし日には、永久の契りを果たさんことを』

 エロルには、絶対に戻るとは誓えなかった
 内心では既に半ば、覚悟を決めていたのだ
 二度と戻れぬかもしれぬと

 だから、戻った時のことを誓った
 そんな日が、果たして来るかどうかもわからないままに

 そんな空々しい誓いの言葉には、レツィアも騙されない
 彼女はなおも悲しげな顔で、婚約者を問い詰めた

『ならばなぜ、今ここで抱こうと、言ってくれないのですか?』

 ……




レツィアは、空約束に終わるかも知れぬ婚約者の言葉だけでは満足できない。

私には、あなたに与えられるものがなにもない。あなたの力になることもできない。
だから、せめて私自身を与えたい。少しでも、あなたの慰めになれると思いたい。
そうして自分の中に、確かに愛し合った印を残していってほしい。
だから、来ないかもしれない明日ではなく、今ここで愛してほしい―――。

エロルも愛する人からの熱意を込めた誘いに、一度は振り向いて彼女に手を伸ばしかける。
だが彼は葛藤の末、結局は婚約者を抱き締めることなく、再び背を向けてしまう。



(……どうして?)

演奏にじっと聞き入っていたタバサは、そんな疑問を抱いた。

先程からずっと本も開かずに、食い入るようにディーキンの演奏する姿を見つめている。
彼女を知るものがその姿を見れば、歌にひどく夢中になっているのは明らかだった。

(なぜ、好きな人に背を向けるの?)

232 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 23:06:08.55 ID:pbAfa2Zz
 
魔女に対して、あれほど切なげに婚約者に対する想いを語っていたというのに。
ましてや、これが最後かもしれないというのに。
なぜ? どうして、それほど好きな相手を腕に抱かない?

余程に感情移入しているのか、無表情ながらも瞳がやや切なそうに潤んでいる。
そんなタバサの疑問に答えるかのように、ディーキンが切々としたエロルの返答を歌い出した。





『愛しい人よ、許してくれ。

 あなたをこの腕に抱いたなら、私の勇気は萎えてしまうだろう。
 あなたを二度と、離したくなくなってしまう。
 あなたの下から離れては、生きていけなくなる。
 
 だから、どうか背を向けることができた今のうちに、このまま行かせておくれ。
 民に対する、私の義務を果たすために』

 ……




「…………」

タバサは、その答えに完全に満足したわけではなかった。
だが、この英雄の気持ちを、少しは理解できたような気がした。

レツィアは自分の気持ちに従い、自分のために愛を求めた。
だがエロルは自分の気持ちを抑え、民のために愛に背を向けて勇気を取ったのか。

(……私は……、どっちなんだろう?)

タバサはふと、そんな事を考えた。
自分の心は、レツィアとエロルのどちらの方により近いのだろうか?

何年か前の、まだ戦いとは無縁だった頃の自分ならば、間違いなく姫君の方だったろう。
その頃の自分は、勇者に憧れるよりも勇者に助けられる囚われの少女に憧れるような少女だったから。
愛する英雄の無事をただ祈って、彼が戻って自分を迎えに来てくれるのを待つ姫君に自分を重ね合わせたはずだ。

けれど、今の自分なら、そんなことはしない。
無事に戻って来てくれるかもわからない英雄をただ待って何もしないでいるなんて、そんな自分は許せない。
たとえ竜を相手では敵わなくとも、自分も間違いなく戦いに行くだろう。

(でも、私には、彼のような選択はできない……)

自分には姫君のようにただ待っているような選択はできないが、不特定多数の民のために命を捨てて戦う道も選べそうにない。
今、母国からの命令に従って命がけの任務に務めているのも、ひとつには身内である母の命を守るため、そしてもうひとつには自分の復讐のため。
たまに請われて人助けをするくらいのことはあっても、普段からそのために戦っているわけではない。
決して、任務をこなすことで多くの人々を守りたいからとか、そんな立派な気持ちから命を懸けているわけではないのだ。

ましてや、愛する人に背を向けてまで義務に生きるなんて。
貴族として、タバサにもそのような生き様が誇り高いものだという思想はあったが、どうしても納得しきれない。
姫君のようにただ祈って待つ道は選べないけれど、この場面では、むしろ彼女の方に感情移入してしまう。

233 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 23:08:07.69 ID:pbAfa2Zz
 
そうだ、今の自分は姫君ではない。
けれど、英雄でもない。
じゃあ、一体今の自分は……、なんなのだろう?

所詮は物語のこと、そんなことを真剣に考えても埒もないとはタバサにもわかっている。
だというのに、なぜかその考えは、なかなか頭を離れてくれなかった。



さておき、歌の世界と自分の思索とに深くのめり込んでいるタバサをよそに、物語はさらに続く。




『愛しき人よ、君にひとつ、頼みがある。
 戻りしその時には、どうかすぐに、暖かい食事で迎えてはくれまいか。
 竜退治で骨を折った後には、君の手料理が恋しくなっているであろうから』

 姫君は、成すべきことを得て歓喜した

『愛する方よ、ならば約束します。
 あなたが戻られるその日まで、私は待ちましょう。
 その日まで、毎日あなたのために、手料理を用意しておきましょう。
 あなたのお好きな豚のあばらの煮込み、柔らかい鳥の足、ローズマリーのスープ、それに……』

 ……愛し合う恋人は、そうして未来に夢を託した
 大事を前にして、未だその行方も分からぬままに―――――

 ……




結局レツィアがエロルのためにできることは、彼のために毎日、料理を作ること。

そんなものは所詮、おまじないに過ぎない。
だが、実際に神が声を掛けてくれなくても、神々への信仰が人々の心の支えとなるように。
毎日料理を作り続けて待つ限り、彼はいつか戻ると彼女は信じる事ができるはずだ。

だが、彼がもし、永遠に戻らなかったら?
その行為はまじないから、彼女を縛る呪いへと変わってしまうのではないだろうか?

だとしても、永遠の愛などが都合のいい幻想に過ぎないのと同じように、永遠に解けない呪いもない。
いつか、彼女は新しい相手と幸せを見つけられるはずだ。
まじないは、ただその日まで彼女の心を支え続ける、儀式でさえあればよいのだ……。
エロルはそう、考えたのであろう。

それを裏付けるように、この後、親友である近衛兵と別れたはずの魔女が姿を現し、自分たちも共に戦おうと申し出てくる。

だがエロルは、近衛兵には自分がいない間婚約者の身を守ってくれるようにと命じ、同行を断った。
自分が戻らなかったときにはこの友人と、という気持ちがあったのに違いない。
魔女には、あなたは領民にとってなくてはならない人だから、これからも人々の願いを聞き届けてやってほしい、と頼んでやはり後に残す。

そうしてエロルはついに旅立ち、ただ一人で竜の棲む森の奥深くへと分け入っていく……。



(ディー君ってば、無邪気な子供みたいな顔をして、こんな歌も上手に歌えるのね)

234 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 23:10:08.57 ID:pbAfa2Zz
 
キュルケもまた、感心してうっとりと歌に聞き入っていた。

ただ、彼女はジェシカと同じでそこまで深く歌の世界に入り込んではいないらしく。
時折周囲の客たちや自分の連れの様子を横目で眺めては、僅かに苦笑したりもしていた。

いい年をして子供のように熱中している客の男たちや、しばし仕事も忘れてうっとりと聞き入っている給仕たち。
頬を紅潮させ、目をきらめかせて真面目に聞き入っているルイズやシエスタ。
それに、意外なほどに夢中になっているらしい自分の親友……。

(まったく……、みんな素直なものよねえ。
 男ってものは大体、こういう話が大好きなのかしら)

男たちは英雄の覚悟に憧れや共感を抱くのか。
あるいは単に、帰りを待ってくれる姫君がいるというシチュエーションが男の夢なのか。
給仕たちも、いつか白馬の王子ならぬ英雄が迎えに来てくれるのを待つということにロマンを感じたりしているのだろうか。
ルイズは、大方貴族として自分の義務のために愛も命も顧みないエロルの姿に憧れているのだろう。
シエスタのことはまださほどよく知らないが、性格的にはかなり規律を重んじる性質らしいからルイズと似たようなものなのだろう。
タバサは、切なそうな様子からすると姫君に惹かれているのだろうか。そんなロマンチックなところがあるとは知らなかった。

キュルケ自身はといえば、この物語の登場人物たちの行動にはいささか不満であった。

特にレツィアだ。
キュルケはああいう、トリステインの貴族によくあるお行儀だけ良くて行動力の足りない女は好かないのだ。

自分なら、誘いを拒んで出ていこうとする恋人はしがみ付いてでも引き留めて、愛を受け容れさせるだろう。
いやそもそも、家で待つなんてしないで自分も一緒に戦いに行く。ツェルプストーは軍人の家系なのだ。女だって戦える。

毎日料理を作って待つ? そんないじくらしいことなんてしていられるものか。
自分には恋人がもし帰らなかったら、何年も待てる自信はない。
一年は待てるだろう。三年でも待てるかもしれない。でも、五年待てるとは思えない。
そんな自分など想像もつかない。きっと、そのうちに昔の約束にはきっぱりとけじめをつけて、新しい恋を探しに行く。

エロルは確かにいい男(キュルケにとっては英雄かどうかよりも大事なことだ)なのだろうが、女を見る目がない。
魔女や近衛兵のように、聞き分けのよすぎる態度も好きじゃない。
自分なら友人の命が危ないかもしれないという時に、断られようと力にならずにはいられない。

まあ、これは物語なのだから、と言ってしまえばそれまでだが。

(だけど、微熱じゃなくて、いつか体が焼き尽くされるような激しい恋に身を焦がしたら……。
 私もそんな気持ちになったりするのかしら? ……まさかねえ)



「――――うん、今日はここまでにするよ。
 竜退治の行方と、その後のみんながどうなったかについては、また別の夜にね」

ディーキンはそういって丁寧にお辞儀をすると、長い演奏をひとまず終えた。

あちこちから、今すぐに続きをとせがむ声が上がるが、時間を考えるとどの道、どこかで一旦演奏を区切らねばならなかった。
それに、自分の演奏だけで店じまいまで引っ張って、また店の売り上げに悪影響を与えるようなことはしたくない。

ディーキンは観衆を上手く宥め、物語を伴わない短く軽快な楽しい音楽などをアンコール代わりに2、3曲披露することで演奏を切り上げた。

その後はもらったたくさんのおひねりの半分以上を、観客へのお礼と店への還元を兼ねて皆に酒と食事を振る舞うのに費やし。
あちこちの席を回って大勢のお客や給仕らと知り合い、仲良くなって、楽しい一夜を明かしたのであった……。

235 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/04(木) 23:12:41.54 ID:pbAfa2Zz
今回は以上です。

現在が虚無の曜日前日の深夜ですので、原作では翌日の夜にはフーケの襲撃がありますね。
それでは、またできるだけ早く続きを書いていきたいと思っております。
またの機会にも、どうぞよろしくお願いいたします……(御辞儀)。

236 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/07(日) 11:24:23.72 ID:8fGJEC1C


237 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 19:50:06.85 ID:XUTKI3ir
ディーキンさん、投下お疲れ様です。
新作が予想より速く書き上がったので、よければ55分から投下させてください。

238 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 19:55:08.02 ID:XUTKI3ir
少々時間は遡り、モット伯邸内の書斎。
官兵衛とルイズ達が、ゴーレム相手に再び挑もうとしていた時。
モット伯は、地下の隠し金庫から音を立てないよう『サイレント』の呪文を唱えながら現れた。
その手には、なにやら妖しげな二種類の木箱を抱えている。
「フゥッ!これだけは渡すものか……!」
余程高価なものなのか、それを大事そうに抱えるモット伯。30サント四方の箱からは、なにやら芳しい香りが漂ってくる。
どうやら中身は香の類の様であった。
しかし、これだけ重厚な隠し金庫に入れている所を見ると、よほど高価な物か、或いは違法なものなのであろう。
黒い高価な布にそれらを包み込むと、モット伯はそれを魔法で浮かして運ぼうとした。その時であった。
「ククク……そこにあったのですね」
部屋の片隅から聞こえる不気味な声に、モット伯はビクリと肩を震わせた。
声の方向に、即座に杖を構える。そこには、黒いローブにフードを目深く被った男の姿があった。
ゆらりと、幽鬼のように佇むその長身の男は、不気味な笑みをこぼしながらじっとモット伯の抱えた包みを見つめていた。
包みを机の上に置くと、モット伯が油断なく構え、男から距離をとる。
「貴様!また現れおったか!」
「先程は挨拶もなしに大変失礼しました。わたくしは――」
「土くれのフーケ!一度ならず二度も私の前に現れるとは命知らずめっ」
男の声を遮り、伯爵が言う。杖の先に水が集まり、それが蛇のようにうねりながら男に伸びた。
男は、いつの間にか手にしていた大鎌で、水の鞭を弾く。
すると、ばしゃりと弾け飛んだ水が即座に凍り、無数の刃となって男に一直線に飛んできた。
咄嗟にもう片方の腕に持った大鎌で氷の刃を叩き落すが、全てを払いきれない。
ドスドスとローブの上から男の腹を刃が貫いた。
「おおぅ!」
がしゃんと鎌を落とし、男がその場に膝をつく。そんな様を見て、モット伯はにやりと口元を歪めた。
「フハハッ!この波濤のモットを舐めるでないわ!貴様のような盗賊に私が遅れを取るはずがないのだ!」
モットは伯は油断なく男に近づくと、うずくまる男の目前目掛けて杖をひょいと掲げた。
すると、男の目前に雲のようなもやが現れた。
『眠りの雲(スリープクラウド)』。水系統のスペルであり、対象を包み込んで眠らせる魔法である。
術者のレベルが低ければ、眠らせられる対象は限られる。しかしモット伯は水のトライアングルメイジである。
その魔法は強力に作用し、余程の術者でもない限り持ちこたえる手段は無い。
「よくも私の館を散々にしてくれたな。これからどうしてくれようか」
男を冷ややかに見下ろしながら、モット伯は呟いた。忌々しげに吐き捨てるような口調で続ける。
「殺すのは一瞬だ。まずは貴様を生け捕りにして拷問にかけてくれるわ!」
邪悪な笑みを浮かべ、得意げに男の処遇を語るモット伯。
「肉体的にも精神的にも散々貴様をいたぶった後、貴様は縛り首だ。この世のありとあらゆる苦痛の末に殺してやる」
まるで格好の獲物を前にはしゃぐ残酷な子供のように。モット伯は高らかに笑った。
そろそろ魔法で眠りに落ちたであろう男。その男の頭を足蹴にしようと彼が近づいた、その時であった。

239 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 19:56:28.71 ID:XUTKI3ir
「それは、御免こうむりたいですね」
突如、気絶した筈の男の手が大鎌を掴み、それを無造作に振るった。
「ぬあっ!」
咄嗟に距離をとるモット伯。その胸が薄く服ごと切り裂かれ、鮮血が滲んだ。即座に杖を持ち直し、詠唱を始めるモット伯。
スリープクラウドの量が足りなかったのであろうか?いや、この時間なら効き目は十分であったはず。
ゆらりと立ち上がる男を見て、モット伯は苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。
男がフードの隙間から、モット伯を見据えた。その瞬間、モット伯の背筋に得体の知れない寒気が走った。
背中を走る感覚に臆し、一歩また一歩と後ろへと後ずさる。
ええいならば、と彼は詠唱を完成させ、男へ向けて放つ。
『ウィンディ・アイシクル』。モット伯の周りの水蒸気が固まり、無数の鋭いつららが形成される。
人の腕程もあろう太さの氷の槍が、一斉に男に向かって飛ぶ。
どすどすどすと、鈍い音を立てて、槍が男の胸を、腕を、腹部を貫き絶命させる。
「クックックック」
しかし、男は倒れない。体から巨大なツララを生やし、不気味な含み笑いをしながら、後じさるモット伯に近づく。
馬鹿なと、彼は再び詠唱を開始する。またも巨大な氷が男を貫くが、その歩みは止まらない。
魚のように口をパクパクさせながら、モット伯は冷や汗をかいた。
どういうことだろう、これほどの魔法を浴びせても男はびくともしない。そして彼は気がついた。
男の体からは、先程から血の一滴も滴り落ちていない事に。
「ククク!クハァーッハッハッハッ!」
「ば、化け物――――っ!」
突如高笑いを始めた男に、壁際に追い詰められたモット伯は絶叫した。
肩を震わせながら尚のこと笑い続ける男。そんな男は、しばらくの後ようやく言葉を発した。
「クククッ!遊びは終わりにしましょう!」
そう言うと、男は目深く被ったフードをゆっくりと取り払った。瞬間。
男の体から、濃緑色の光が発せられた。禍々しく発せられる恐慌的な邪気がモット伯を包み込んだ。
ゾクゾクゾクと、先程とは比べ物にならないほどの悪寒がモット伯を襲う。
深く暗い深海に飲まれるかのような恐怖が、体中から体温が奪われるような感覚が、彼を襲った。
死ぬ、自分は確実に。そう彼の脳髄が本能的に理解した途端。
「――――――ッ!!」
モット伯は声にならない叫び声を上げ、意識を手放した。
男の体に刺さった氷が溶け落ちる。
体中に空けられたローブの穴からは、傷一つ無い肌と甲冑、それと得体の知れない緑色に輝く物体が覗いていた。
「さてと……」
男は鎌を片腕にまとめると、なにやらガサゴソとモット伯の懐を物色した。
そして、目的の物を見つけると取り出し、目を細めいとおしげにそれを撫でた。
それは、官兵衛がモット伯に送ったゲルマニアの家宝『召喚されし書物』であった。
そして、男は机の上に置かれた黒い包みを手に取ると、満足げに笑い、こう言った。
「『禁断の書』並びに『禁忌の香』。確かに領収致しました。クククッアーッハッハッハ!」
体を激しく仰け反らせながら、男はその不気味な笑い声を館中に響き渡らせた。
 

 暗の使い魔 第11話『盗賊追討戦』
 

そして時間は今に至る。モット伯は歯をガチガチ鳴らしながら、首に突きつけられた鎌を見つめていた。
「金吾に取り憑いていた謎の高僧様が、こんな所にお出ましとはな。」
官兵衛が、凄みながら言う。ちなみに金吾とは、備前岡山を治める戦国武将・小早川秀秋の通称である。
天海はかつて、小早川の元に家臣として身を寄せていたのだ。
「こんな所で何をコソコソしてるんだ?」
「いえなに、少しこの方に用がありましてね。このような物を頂きました」
そういうと天海は、床に置かれた黒い包みと、手にした本を掲げて見せた。
「ちょっとアレ!私がダーリンにあげた本じゃない!」
キュルケが目をまん丸にして声を上げた。

240 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 19:57:25.01 ID:XUTKI3ir
「ああすまん。ちょいと訳あってモット伯に渡しちまったんだ。お前さんには悪いと思ったんだが、時間が無くてな」
官兵衛がなにやら申し訳無さそうにキュルケに言った。だがそれに対してキュルケは官兵衛に笑いかけた。
「いいのよ、元々私がダーリンにあげたものだし、ダーリンが気にすることじゃないわ。それよりもあの本……」
「ああ、何なんだアレが」
急に真顔になったキュルケの様子に、官兵衛も真剣になる。
「アレは別名『禁断の書』って言われてるのよ。持ち主は絶大な力を得るけど、その倍以上の災いをその身に受ける。
そう伝えられてるわ」
「お、お前さん!そんな危なっかしい物を小生に渡したのか……」
よりにもよって不運な小生に、と官兵衛はよろめいた。
それを聞くと、天海は満足げに笑った。
「ククク!そうですか、やはり!」
不気味に身を捩じらせ、天海は高笑いを浮かべた。
「これはなんとも幸運ですね、私はこちらの包みの中身を頂ければそれで良かったのですが。
まさかこの書がここにあるとは」
「何だと?そいつが何だって」
ルイズ達も一様に首を傾げた。
「褒美に教えて差し上げましょう。これは『愚者の法』という名の書物。
そう!貴方や私と同じように戦国の日本より流れ着いた品!」
「ニホン?カンベエと、同じように?」
ルイズが呆気に取られたように呟いた。キュルケも何が何だか判らない、といった顔をしている。
「お前さん!そいつを手に入れてどうするつもりだ?」
「ククク、それはここでは口にできかねます」
そのときタバサが進み出て、無表情で天海に尋ねた。
「あなたに質問がある。破壊の杖を盗んだのはあなた?」
「いいえ。破壊の杖を盗んだ方は、あなた方のすぐ後ろに、ほら」
その時、四人は後ろから迫る気配に初めて気がついた。即座に後ろを振り向くとそこには。
「ミス・ロングビル!」
長い青みがかった髪をフードから覗かせ、その女性はそこに立っていた。そしてその腕には。
「シエスタ!」
「カ、カンベエさん……」
学院のメイド、シエスタが後ろ手に押さえられて、ミス・ロングビル、いやフーケに杖を突きつけられていた。
官兵衛が、フーケを睨みつけながら、声を荒げる。
「やはりお前さんだったか!」
「おや?気付いていたのかい」
フーケが意外そうに答えた。
「ああ、情報を持ってくるタイミングが良すぎたからな。なにかしらあると踏んでたよ」
「そうかい、あんたなりに泳がせていたって訳かい。だがそれは間違えだったようだねえ。」
フーケは薄く笑うと、シエスタの腕を締め上げた。
あうっ!と苦しそうな声を上げながら、シエスタは表情を歪める。
「やめろ。その娘っ子は関係ないだろう」
「そうかい、じゃあここからが本題だ」
そういうとフーケは天海を見やる。天海がゆっくりと官兵衛達に向かって喋り出した。
「この二人を解放して欲しくば、その破壊の杖を彼女に渡しなさい」
「ああ勿論渡さない場合は、二人とも命は無いよ」
「なんですって?」
ルイズが思わず食って掛かる。しかし、官兵衛がそれを制した。
「人命が優先」
タバサも短く呟く。それを聞いて、ルイズは悔しそうに唇を噛んだ。

241 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 19:58:39.11 ID:XUTKI3ir
官兵衛が、手にした破壊の杖をゆっくりと地面に置いた。そして脚でフーケの元へと蹴りやる。
ガランガランと音を立て、地面を転がる破壊の杖。フーケは唇の端を持ち上げ、足元に転がってきたそれを手に取った。
途端、シエスタが解放される。腕を放され、ドンと官兵衛達の元へ突き飛ばされる。
「カンベエさんっ!」
シエスタが官兵衛に抱きついた。恐ろしげに肩を震わせ、目には怯えの表情が見て取れた。
「もう大丈夫だ」
官兵衛が落ち着かせようと、肩を叩く。
それを見てルイズは、なにやらモヤモヤした気分になったが状況を見て黙りこくってしまった。
「すべて計算どおりって訳か?天海様」
官兵衛の言葉に天海が笑いながら口を開く。
「ククク、策とは予想外の事態で躓くもの。正直、あなた方がうまく『それ』を使ってくれてホッとしました。」
「成程な。しかし随分と行き当たりばったりじゃないか。小生らが破壊の杖を持ち帰りでもしたらどうするつもりだったんだ?」
「その時は、そうならないよう、この私が冥府へと送って差し上げるつもりでした。」
天海が鎌を光らせ、低い声で不気味に呟く。
それを聞いていたシエスタは、自分が杖を持っていた事を思い出し、震え上がった。
「わざわざ小生に使わせたのは何でだ?こんな回りくどい方法を取らんでも、お前さんなら使い方を知ってる筈だ。」
官兵衛が尚の事問いかける。彼の問いに、天海はやや考える素振りをした後、ゆっくりと喋りだした。
「それは、今は語る気にはなりませんね。ただ一つ言うのなら、貴方がどう足掻くか見物にしたかった。それだけです」
天海の思わせぶりな発言に、官兵衛は疑いの眼差しを強めた。
しかし、これ以上天海から有益な情報は得られそうにない事を考え、官兵衛は天海に促す。
「満足しただろう?そいつを放せ」
官兵衛がモット伯を顎でしゃくりながら、ぶっきらぼうにそう言う。
しかし、天海は答えない。相も変わらず鎌をモット伯の首筋に押し付けたまま微動だにしなかった。
「ヒッ!助けて!はやく離してくれっ!」
「おい!約束が違うんじゃあないか?そいつを解放しろ」
「ええ、ですが解放はもう少し先です。私とそこの方が逃げ切るまで、人質とさせてもらいますよ」
天海はニコリと目を妖しく細めると、地面に倒れ伏したモット伯を立ち上がらせた。
そしてその体を持ち上げると、なんと館の二階からさっと飛び降りた。そのままストンと着地し、目前のフーケと合流する。
「じゃあね。短い間だったけど楽しかったわ。」
そういうとフーケは、破壊の杖を抱えたまま天海と共に門の方角へ駆け出す。
俊足で駆け抜け、門を潜ると、二人は森の奥へと姿を消した。
後に残ったのは、官兵衛ら5人と、見るも無残に壊されたモット伯の館だけであった。
しばし唖然と森の方向を見ていたルイズであったが、ハッと我に帰る。
「モット伯を!あの二人を追わないと!」
焦った様子でルイズが声を上げる。急ぎ追いかけようとシルフィードを指して言う。
タバサが頷いた。キュルケがやれやれと手を振ってそれに同意した。だが官兵衛は。
「大丈夫だ、問題ない」
平然とそう言い放った。どういう事?とルイズらが官兵衛に尋ねる。
「何、ちょっとした細工をあの杖にしておいた。あちらさんからすぐに居場所を教えてくれるさ」
そういうと官兵衛はニンマリと四人に笑いかけた。

所変わり、ここはモット伯邸近くの森の中。そこでは、ある二つの人影が対峙していた。
「ハンッ!どうせそんな事だろうと思ったわよ!」
「申し訳ありませんが、貴方にはここで消えていただきます」
天海が破壊の杖をフーケ目掛けて構える。一方のフーケは地面に膝をつき息を切らしていた。
手首はパックリと鋭利な刃物で切り裂かれ、鮮血がとめどなく流れ落ちている。
数分もすれば、失血で倒れるであろう出血の量であった。
フーケは数メイルはなれた地面を見やる。そこには真っ二つにされた自分の杖が転がっている。
天海に不意をつかれ、杖と手を切り裂かれたフーケは、破壊の杖を奪われたのだ。
「どのような気分ですか?自分が求め続けた秘宝でトドメを刺される気分というのは?」
「さあねぇ……!」
フーケは荒い息をつきながらも、キッと天海を睨んだ。

242 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 19:59:40.38 ID:XUTKI3ir
「さて、残念ですが貴方とのおしゃべりに興じる暇はありません」
天海は破壊の杖を構えた。フーケは観念して目を瞑った。
彼女の脳裏に浮かぶのは、遠く離れた空の大陸。そのある村に住まう一人の少女の事。
「(すまないねテファ……)」
心の中で、侘びを入れながら彼女は死の瞬間を待った。破壊の杖の引き金が引かれる。
ボシュウッ!と何かが発射される音が聞こえた。その時であった。
「何?」
パァン!と発射された弾がフーケの目前で弾け飛んだ。中から紅い粉塵が、周囲に膨大に広がったではないか。
その粉塵は風に流され、空へと舞い上がる。その赤い目印を、タバサの操る風竜が見逃すはずは無かった。
「これは……煙幕弾?」
天海が目を覆いながら、その粉塵の正体を口にした。そう、それは雑賀衆が支援連絡の際に使用する紅い煙幕弾。
『援弾ヤタガラス』の弾であった。
官兵衛は破壊の杖を渡す寸前、こっそり弾を、付属していた煙幕弾にすり代えておいたのだ。
知らず知らずの内に発砲すれば、位置が把握できるように、と。
「どうやら、あの方の仕業のようですね」
天海は表情を変えずにそう呟いた。まんまと出し抜かれた、と。見るとフーケは、意識を失いその場に倒れていた。
彼は空を仰いだ。そこには、上空を旋回する一匹の風竜の姿。
そして、青い髪の少女が魔法を詠唱すると、一人の男がゆっくりと降下してくるのが見えた。
ズドン!と地面に着地したのは、官兵衛であった。
「観念しろ!天海様よ!」
官兵衛が、鉄球を振りかぶり、天海に向かって駆け出した。
天海は視線を戻すと、官兵衛の鉄球をその細い鎌で受け止める。
ガキン!と金属同士の火花が散り、破壊の杖が地面に転がり落ちた。
どこにそんな力があるのか、鉄球をその細腕で受け止めながら、天海は呟く。
「仕方ありません、目的の物は手に入れました。今回はこれで退きましょう」
「逃げるのか!」
官兵衛が凄むが、それを意に介した様子も無く、天海は後ずさった。
天海は『愚者の法』と『禁忌の香』が入った包みを持つと、背を向けた。
「待て!」
天海は森の奥へと駆けて行く。と、その行く先を遮る三人の影が空から現れた。
「おおっと」
天海が驚きの声を上げる。
見ると、ルイズ、キュルケ、タバサの三人が一斉に杖を天海へと向けた。
「もう逃げ場はなくてよ?」
キュルケが、詠唱を終えた杖を突きつけながら、冷静に言い放った。
三人とも、もういつでも魔法を放てるとばかりである。
「弱りましたね」
天海が包みをドサリと床に置いた。そして、周りの全員に向かってゆっくりと口を開いた。
「見逃してはいただけませんか?私はあまり無益な殺生は好みません」
まるで子供に言い聞かせるかのように、丁寧で穏やかな口調であった。
「何言ってるのよ!この状況で!」
それを聞き、ルイズは思わず声を荒げた。
「あんたはフーケの片棒を担いだはおろか、王宮勅使の館を襲撃して宝を奪い取った。だれが見逃すものですか!」
「そうですか、では仕方ありませんね」
やれやれ、と肩をすくめる天海。その瞳が、諦めを宿したものから一変し、好戦的な光を宿す。
と、突如天海は手にした鎌を振りかぶった。
「ッ!危ない!」
すかさず、三人の杖から魔法が弾けた。
風の刃、炎の弾、そして爆発。その全てが天海に叩きつけられる。
一応の手加減はあるとはいえ、くらった人間は無事では済まないだろう。そう思える怒涛の猛攻。
あたりに爆風で粉塵が舞い上がり、四人の視界を覆った。

243 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 20:00:49.78 ID:XUTKI3ir
ルイズは呆然と土埃をみやった。なぜ抵抗したのか?なぜ自分に魔法など撃たせたのか?と。
彼女が自分の意志で人に危害を加えたのは、これが初めてである。
これまで授業で失敗し、迷惑をかける事はあれども、無闇に人を傷つけることのないよう努力はしてきた。
貴族として、道を誤ることがないように。そんな自分が今初めて、魔法で人を攻撃したのだ。
杖を固く握り締め、彼女は後悔の念にかられた。
人を魔法で攻撃した。それも、杖を持たない人間を。
「わ、わたし……」
「ルイズ!」
その時、キュルケが不意にルイズを突き飛ばした。ルイズがいきなりの出来事に地面に倒れ伏す。
すると、彼女が立っていた位置をスパンと一閃が通り抜けた。ルイズの背後の大木が、ずん!と音を立てて倒れる。
土埃の中から声がした。
「私一人撃ったことに耐えられませんか?お優しいですね……」
次の瞬間、ぶおんと鎌が振るわれ、土埃が払われる。その中から、傷一つ無い天海の姿が現れた。
ルイズ達は驚愕した。あれだけの呪文を受けて平然としている男の姿に。
「そんな!確かに命中したはず!」
キュルケが驚きの声を上げ、呪文を詠唱する。しかし。
「ヒャアオッ!」
天海が奇声を上げながら、詠唱中のキュルケに踊りかかった。頭上から二本の鎌が、まっすぐに振り下ろされる。
あぶないっ!とルイズが声を上げ、それと同時にいち早く呪文を完成させたタバサが魔法を放つ。
杖先から巨大な空気の槌が放たれ、天海をとらえて吹き飛ばした。
天海は横殴りに風圧を喰らい吹っ飛ぶ。しかし、空中で体を捻り猫のように回転させると、背後の木にすとんと足をつけた。
そして、そのまま横向きに跳躍した。着地していた木にキュルケのファイヤーボールが着弾するが、彼には掠りもしない。
そして、跳躍した天海は今度は倒れたままのルイズに向かってその凶刃を向けた。
弾丸の如き速度で飛んでくる天海に、ルイズは目を瞑った。その時だった。
「させるかっ!」
がしん!と鈍い音が響き、天海の鎌が受け止められた。
見ると、ルイズと天海の間に転がり込んだ官兵衛が、抜き身のデルフで二本の鎌を受け止めている。
「いや〜やっとまともに振るってくれる日が来たかい!相棒!」
「無駄口は後だデルフ!今はこいつを片付ける!」
「はいよ、はいよっと」
天海の一撃を弾き返すと、そのままデルフを横薙ぎに振るう。
天海は、すかさず地を蹴り上に跳躍すると、官兵衛に対して一直線に上から鎌を振るった。
その一撃が、同時に繰り出された官兵衛の一撃と激突する。武器同士の衝突で辺りに土塊が舞い上がった。
そのまま幾度かの衝突が起こると、両者は己の得物を激しくぶつけ合い出した。
激しい剣劇の応酬。その周囲には何人たりとも立ち入る事は出来ない。
キュルケとタバサが魔法を放つが、中心から発生する衝撃は激しく、両者に届く直前で尽く消滅した。
「カンベエ!」
「手を出すな!」
官兵衛が怒鳴り声を上げた。
目をむき、気迫迫る様子の官兵衛。そんな彼は、普段とは全く違う戦場の将の顔をしていた。
それでも尚のこと魔法を放とうとするルイズを、タバサが制した。
「入り込んでは駄目」
短く、しかし悔しげな表情を僅かに浮かべながら、彼女はそう呟いた。
二人の剣劇は、より激しさを増す。まるで嵐の中にあるように。周囲の木々がギシギシと仰け反った。
「ま、負けられん!」
「ククッ、それでこそ」
状況は官兵衛が有利に思えた。力も勢いも官兵衛が勝っている。しかし。
「相棒!?どうした?」
「クソッ!」
デルフが違和感を感じながら話しかける。官兵衛がいくら激しく武器を打ち振るおうと、消耗しているのは官兵衛のみであった。
当の天海は、全く疲れを感じさせず、涼しい顔で鎌を振るっているのだ。
「おかしいぜ相棒。なんで奴は疲れない?」
「知るかっ!うおおおおっ!」
激しく息を切らせながら、官兵衛はデルフを振るう。そして官兵衛の勢いが衰え、剣劇に隙が生じた瞬間。
「いただきます」
天海の双鎌が、官兵衛の懐を深々と切り裂いた。

244 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/07(日) 20:05:07.47 ID:XUTKI3ir
「ぐあっ!」
そのまま吹き飛ばされ、背後の木に激突した官兵衛。
頭を打ちつけたか、立ち上がろうにも意識が朦朧とする。
「相棒!しっかりしろ!」
「ぐっ……畜生」
そんな官兵衛にさっと近づくと、天海はおもむろにその鎌の柄についた穂先を、官兵衛の傷口に突き刺した。
「ぐあああっ!」
「カンベエ!!」
ルイズが即座に天海に向けて呪文を放つ。だが狙いが逸れ、背後の枝が小さく破裂しただけで、ダメージはない。
「ダーリンを離しなさい!」
キュルケが再び火球を放つ。しかし、天海がもう片手で鎌を振るうと、その炎は斬撃に弾かれた。
「うそっ!?」
狙いを180度変えた火球が三人に迫る。タバサの風の槌がそれを打ち消した。
彼女らは目を疑った。仮にもトライアングルクラスの放った火球である。それを無造作に、鎌一本で打ち返すとは。
「どうなってるのよ一体!」
キュルケは悔しげに唇を噛んだ。
その攻防の間に、ドクンドクンと鎌を伝い、官兵衛の体から天海に緑色のオーラが吸収される。
そして、鎌を引き抜くと、官兵衛はどう!と地面に倒れ伏した。
「カンベエ!」
三人が駆け寄ろうとするが、天海に阻まれ身動きがとれない。
「さて、もういいでしょう」
ルイズの失敗爆発を次々と避けながら、天海は三人に近づいた。
タバサが風の魔法を放つ。しかし天海は背後に大きく仰け反ると、身体をそのまま捻らせ弧を描くように斬撃を放った。
すると、彼の目前に発生した真空の刃が、タバサのエアハンマーを相殺する。
馬鹿な、と次の詠唱を完成させるがもう遅い。
瞬間、天海の周囲で何かがはじけるのが見えた。地面を伝い、玉虫色の邪気が辺りを包み込む。
「うっ!」
得体の知れない瘴気が、ルイズ達を襲った。思わずその場に膝を突き、三人は息を切らした。
「はぁっ……はぁっ……何なの、一体」
キュルケが目の前に立つ長身の男を睨みつけた。
天海はそんな彼女らの様子を満足そうに眺め、次に立ち上がれない官兵衛を見やると。
「これくらいにしておきましょうか。」
クックックと不気味な笑みを浮かべた。
「ここで貴方達を亡き者にするのは簡単です。しかし、それでは面白くありません。
貴方達とはいずれ、盛大なる宴の場であいま見えることでしょう。私もそれが愉しみです。
それまで、どうか健やかにいてくださいね」
そういって、地面に放置されたままの包みを抱える天海。
彼は鬱蒼とした森の奥へと歩き出すと、そのまま闇に溶け込むようにスッと姿を消した。
そこには、寂しげに地面に転がった、破壊の杖が残るのみであった。


長いので、今日はここまでとさせていただきます。
味気ないので、今回から各話にタイトルをつけることにいたしました。
これまでのものもすでにwikiのほうでタイトルをつけておりますので、よろしくお願いします。
続きは、明日あたりに投下できればと思います。 それでは失礼します。

245 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/08(月) 02:10:21.19 ID:en5wFPHP
暗の使い魔の方、乙です。

深夜で申し訳ありませんが、2:15ごろより続きを投下させてください。
非情に短いですが……。

246 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/08(月) 02:15:21.02 ID:en5wFPHP
 
盛大な宴から一夜明けた、『虚無の曜日』のうららかな午後。

ディーキンは昨夜は『魅惑の妖精』亭での演奏が終わった後、ルイズらや熱狂した観客たちと一緒に明け方近くまで宴を続けて……。
流石にみんな眠くてたまらなそうだったので、スカロンに頼んで空いている部屋を一部屋借りて、そこで全員一緒に、ぐっすりと眠った。
ディーキン以外は全員女性だが、ディーキンは子どもっぽいし何よりも亜人であるので同室でも特に問題にはされなかった。

まあルイズは、学生の身で夜更かししてしまった事や、部屋が汚くて狭いこと、平民やキュルケと一緒に寝ることなどにぶつぶつ文句を言ってはいたが。
何分、あまり強く不平を言ってまたディーキンに意見されるのも嫌だったし、何よりも眠気には勝てないものである。

そうしてゆっくり休んだ後、正午辺りになってようやくみんな起き出したので、ジェシカたちに別れを告げて街へ繰り出した。

ディーキンはまず、美味しそうな料理店を見繕って、みんなに昼食を奢った。
昨夜貰ったおひねりは既に半分以上は宴で消えていたが、それでも数エキューは残っていたので、学院の食堂にも劣らない豪勢な昼食を摂ることができた。

それから、先日貴金属等を預けた店に、換金したお金を受けとりに出向いた。

とりあえず当面の資金にと換金を頼んだ分は、あわせて五千エキューあまりの額になったようだった。
少々額面が大きくて貨幣だけではかさばるので、八割方はハルケギニアの基準で通用する交易用延べ棒で受け取り、残りは金貨で用意してもらった。

ルイズやシエスタはあまりに大金なことに驚き、キュルケも目の色を変えていたが……。
実際のところディーキンとしては、そんなに大金だとも思っていなかった。
フェイルーンでは高レベルの冒険者の買い物は高額なマジックアイテムや魔法武具などで、一度に金貨数百枚から数万枚分も支払う事がザラにある。
もちろん数万枚ともなれば全部貨幣では払っていられないので、宝石や延べ棒を使うことも多い。

とはいえフェイルーンでも、大半の一般人にとっては金貨五千枚といえば、生涯働いても手にすることのできないであろうほどの大金なのだが。
高レベルの冒険者というものは、一般人とは金銭感覚が相当にかけ離れているのである。格差の大きい社会なのだ。
ただし、冒険者というのはそれだけの価値を認められる、恐ろしく危険の伴う仕事だということでもある。
一般人が何十人束になっても勝てないような怪物とも頻繁に戦うのだから、一概に不公平だともいえまい。

「ええと、ところで……、ルイズ?」

「……ん? 何よ?」

友人の少女たちに囲まれてのんびりと王都を見物して歩きながら、ディーキンはふと思い出したことがあって、ルイズに声を掛けた。

「ディーキンはね、もっとルイズの役に立ちたいと思うの。
 だってディーキンは、ルイズの使い魔だからね?」

唐突にそんなことをいわれて、ルイズは嬉しさ半分、困惑半分といった感じで、首をひねった。

「……ええと、その、ありがと。
 でも、あんたはもう十分役に立ってくれてると思うし、感謝してるわ。
 なんでまた、急にそんなことをいい出すのよ?」

「ええと、つまり……、ディーキンは今のコボルドのバードのままで、十分ルイズの役に立てるかが心配なの。
 ディーキンは大して強くもないし、魔法の相談に乗るのだってエンセリックの方が得意でしょ?
 だから、ええと、何か……、新しい訓練を始めたらどうか、って思ってるんだよ」

「新しい訓練……って、何よ?」

今ひとつディーキンの言わんとするところがわからず、不思議そうに首を傾げるルイズ。
シエスタ、キュルケ、タバサも、興味を惹かれたようにディーキンの方を見つめる。

247 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/08(月) 02:18:08.22 ID:en5wFPHP
 
「ンー、ディーキンの一番の仕事は、ルイズを守ることなんだよね?
 いつか危ないことが起こった時にルイズを守って戦うなら、ファイターとかの戦士になるのもありかな、って思うの」

今のディーキンにも、肉弾戦闘ができないというわけではない。
しかし、ディーキンの戦士としての強さは主に経験と基礎身体能力の高さに依るもので、戦士としての専門的な技巧はさほどない。
もちろん戦い方の基本くらいは抑えているし、実戦経験も積んでいるが、洗練された高度な戦闘訓練を受けたことはないのだ。

一応戦えるというだけで、誰かを守って戦えるほどの力があるかといえば実に心もとない……。
少なくとも、ディーキン自身はそう思っていた。

(それにディーキンが勉強すれば、シエスタにももっとちゃんとした戦い方を教えられるようになるかもしれないしね……)

ディーキンとしてはシエスタにもう少し戦士としての技巧を身につけてもらいたいのだが、生憎とディーキン自身にも今のところ大した心得がない。
基礎的な訓練以上のものを教えるには、自分自身がもう少しそういった技巧を身に付けることは有益かも知れない。

戦士になるのではなくドラゴン・ディサイプル(ドラゴンの徒弟)としての修練をさらに続けるというのも、一応考えてはみた。

竜としての力を覚醒させてゆくこのクラスは、純粋な前衛戦士としてのそれではないものの、肉弾戦にも大きな力を発揮できる。
事実、ディーキンはこのクラスの修練を始めてから、コボルドの域を越えた超人的な身体能力を身に付けてきた。
他にも、魔力容量の大幅な拡張や、ブレスを吐いたり飛行したりする能力、視覚に頼らない鋭い知覚力など、このクラスの修練から得られた恩恵は大きい。

しかし、ドラゴン・ディサイプルとして身に付けられる力は、シエスタに訓練を施す上では、あまり有用ではありそうにない。
このクラスは戦士としての技巧を磨いて強くなるというよりは、身体能力を超人的に高めて強くなるものだからだ。
その問題を解決できないのでは、ドラゴン・ディサイプルとして修練を続ける意味は薄い。

自分自身の戦士としての力を高めるという点においても、これ以上ただ単に身体能力を高めようとするのが最適な方針とは思えない。
戦士として腕を磨き、現在の自分に欠けているそういった専門的な戦いの技巧を身に付ける方が、より有益だろう。
それに、ディーキンは既にドラゴン・ディサイプルとしての修練によって、己の身を半竜として覚醒させ終えているのだ。
このクラスが目的とするところは竜となる事であり、ディーキンは既にその目的を達している。
この上さらに修練を積んでも、あまり有意義な結果は得られないかもしれない。

「でも……、こっちのほうでは魔法使いの方が戦士より頼りになる、っていう考えなんだよね?
 それに、魔法の勉強をすればルイズの相談にも、もっと乗れるかもしれないから……。
 バードよりもっと魔法の専門家として勉強をする、っていうのもいいかもね」

本格的な魔法の勉強をするとなると、第一の候補はやはりウィザードやソーサラーだろう。
しかし……、今さら一からそんな本格的な専業職として訓練を積み直す、というのは現実的な選択ではないだろう。

戦士と魔法の両天秤でダスクブレード(黄昏の剣)などというのもあるかもしれないが、いかにも中途半端だ。

ダスクブレードはバードと同様魔法戦士系のクラスであるが、多彩な芸能にその才能を振り分けるバードと違い、生粋の戦闘者だ。
剣技においては純粋な戦士にもそうそう引けを取らず、単純な戦闘能力という点ではバードに大きく勝るだろう。
とはいえ、やはりいまさらバードから転向して一から修行し始めても、あまり報われるとは思えない。

魔法を伸ばす選択をするなら、半端なクラスを一から選ぶよりももっと特化しているクラス。
それでいて、既に習得しているバードとなんらかのつながりがある、これまでの経験を活かせるクラスを選択すべきだろう。
そうなると……。

「うーん、もしディーキンが今から魔法をもっと勉強するのなら……。
 サブライム・コード(崇高なる和音)になるのが、一番いいかもしれないね」

248 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/08(月) 02:20:10.65 ID:en5wFPHP
 
音楽と魔術、根を同じくするその2つの力にバード以上に深く通じる学究の徒。
時の曙に聞くことのできたという伝説の創造の歌を探求する彼らは、音楽の力を持って時をも操り、宇宙の根源のエネルギーを引き出しさえもするという。

ビガイラー(欺く者/楽しませる者)やウォーメイジ(戦の魔道師)なども、一応考えてはみた。
だが、どれも今ひとつピンとこないし、バードとのつながりもない。
バードとしての経験を活かし、なおかつ魔法に関する理解と力とを高めていくのであれば、サブライム・コード以上のクラスはあるまい。

「もちろん、ディーキンにはルイズをがっかりさせるつもりはないよ。
 もしルイズが、このままディーキンがバードを続けるのが一番だって言うなら、ディーキンはそれで幸せなの。
 どうする?」

「ど、どうするって、そんなこと急にいわれても……」

ファイターはなんとなくわかるけど、サブライム・コードってのはそもそも何よ? ……とルイズは思ったが。
まあ文脈からすれば、要するに今よりも魔法が得意な職業ということなのだろう、と理解した。

とはいえ、唐突にそんな事を聞かれても返答に困る。
そりゃあ、戦士と魔法使いの両方になれるんだったらハルケギニアの常識的に魔法使いの方が断然いいんじゃないか、とは思うが……。
別に現状のディーキンに不満などがあるわけでもないし、どうしたものか?

「その、先生はもう十分強いとは思いますけど……。やっぱり、向上心が大切なんですよね」

「ふうん。ディー君が今よりもっといろいろな事をできるように勉強しようってこと?
 あなたの歌はすごくいいし、このままでいてくれても全然いいとは思うけど、面白そうね」

「興味ある。あなたの言った職業について聞きたい」

他の3人も次々に口を挟む。
そうして楽しく雑談や相談などしながら、いろいろ見て回ったり買い物をしたりして、5人で楽しく休日を過ごしていた。

もう少し後で、昨夜から長時間にわたって放置されたシルフィードにディーキンとタバサは散々文句を言われるのだが、それはまた別の話である。





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所変わって、こちらはトリステイン魔法学院。

「ミスタ・コルベール」

249 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/08(月) 02:21:54.71 ID:en5wFPHP
 
「おや、ミス・ロングビル。こんなところでなにを?」

自身の研究室へ向かう最中に突然思いがけない人物に声を掛けられたコルベールは、間の抜けた声を出した。
ここは彼女の普段仕事をしている場所とは離れている。
それに、今日は休日だ。ここは来て楽しいようなところでもない。

「いえ、遠くから姿をお見かけして。休日なのに熱心に研究をしておられると思いまして……。
 他の教師の方々は大概休むか出かけるかしておられますのに、勤勉ですのね」

「そ、それは、どうも……。いやあ、ただ、暇人で。趣味でやっておるだけでして……」

照れくさそうに顔を赤くして、コルベールは相好を崩した。

内心、この女性秘書にいささか気があるのである。
そんな相手に御愛想程度とはいえわざわざ声を掛けられ褒められて、多少舞い上がるのも致し方ない。

ミス・ロングビルは、そんな彼の様子を見てにっこりと微笑んだ。
そして、多少くだけた調子になって話しを続ける。

「ねえ、ミスタ・コルベール」

「は、はい? なんでしょう?」

密かに懸想していた相手からそんな声を掛けられたコルベールは、跳ねるような調子で答えた。
そして彼女の次の言葉で、完全に舞い上がってしまった。

「もし、よろしかったら、なのですが……。
 もう少ししたら、夕食をご一緒にいかがでしょうか?」

250 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/08(月) 02:24:43.08 ID:en5wFPHP
今回は以上になります。
ディーキンがいくつかの進路を今後の候補として出していますが、すべてD&Dのクラス(職業)です。
さほど必要ではないかと思い、あまり細かい説明はしていませんが……。

それでは、また続きを早めに書いていきたいと思います。
次の機会にもまた、どうぞよろしくお願いいたします……(御辞儀)。

251 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/08(月) 02:34:37.12 ID:qJk65rC2
ディーキン乙
そろそろようやく原作路線に戻りそうでディーキンの活躍に期待

D&D3e(3.5e)のルール的には、エピックつっこんでる時点で
ファイタークラスから得られる高い攻撃能力(基本攻撃ボーナス)は関係なくなった気がしますけど
原作がゲームの方だから違うんでしょうか

252 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/08(月) 02:37:39.35 ID:en5wFPHP
>>251
ありがとうございます
説明不足で申し訳ありません

ディーキンの言っている高い技巧云々というのは、
特技とか、軍用武器その他の習熟などのことを指しております
基本攻撃ボーナスについてはおっしゃるとおり、エピックですのでどのクラスでも関係ありませんね

253 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/08(月) 12:08:16.82 ID:QoT7Lt/I
ほうお。

254 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/08(月) 15:49:24.34 ID:KhCiZt5z
こんにちは。
宜しければ55分から、11話の終盤を投下させてください。
短いですが、よろしくお願いします。

255 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/08(月) 15:55:02.69 ID:KhCiZt5z
深い深い森の上を、双月をバックに一匹の風竜が飛んでいた。官兵衛達を乗せたシルフィードである。
官兵衛達は無事破壊の杖を取り戻した。傷つき、意識の無いフーケを連れ、一向は急ぎ学園への帰路についていた。
ちなみにフーケは、適切な応急手当をされ出血は止まっている。
結局、あの後一向は天海の足取りを追うことが出来なかった。
ルイズ達はタバサのシルフィードの上で、疲れ切った様子で座り込む。
シルフィードの背中の上では、タバサは相も変わらず読書に浸っていた。
シエスタなどは満身創痍の官兵衛を心配し、傍から離れないで居る。
だが官兵衛は、天海から受けた傷が見た目より深くなく意識も明瞭であった。
「カンベエ、本当に大丈夫なの?」
「ああ、思ったより傷は深くない。まあ死にゃせんだろう」
「でもちゃんと学院で水のメイジに見てもらったほうがいいわ。ダーリンに何かあってからじゃ遅いんだし」
ルイズとキュルケから、それぞれそんな心配の言葉がかけられる。
しかし、あくびをしながら話を聞き流す官兵衛を見て、やがてそんな心配は吹き飛んだようだった。
「無駄にタフ」
タバサがそんな官兵衛を見て、短く呟いた。
「それにしても」
キュルケが不意に呟く。
「あの男、テンカイ。一体何者?」
「分からない。でも恐ろしく強い」
タバサが本を手放さずに呟く。しかし、その進みはいつもに比べかなり遅い。
「ありゃあ手ごわい使い手だねぇ。相当な修羅場を潜り抜けてらあ。それにしても引っかかるが……」
官兵衛の背に背負われたデルフが呟く。そしてそれにつられるように、官兵衛はゆっくりと喋りだした。
「あいつは、あの男は、小生と同じだ。」
「ダーリンと同じ?」
キュルケが瞬きしながら聞き返す。
「ああ、小生と同じく日本という国からやってきた。」
官兵衛の言葉に皆が聞き入る。それまで本から目を離さなかったタバサが、ゆっくりと顔を上げた。
「ニホン……」
「あいつは、かつては小早川って武将の家臣でな。話じゃあある日突如現れ、一介の僧として身を寄せたらしい。
素性も目的も不明。ただし腕は誰よりも立つ。そんな謎の男だった」
もっとも官兵衛はその正体にすでにアタリをつけてはいたが。
「まさかこんな所で会うことになるとはな。奴さんが何を企んでるのかはわからん。だが気をつけろ。
天海はあの端正な表情の内に何かを隠している。」
一同は、そんな官兵衛の話を聞き終わると、ほうとため息をついた。
ルイズが杖を握り締めながら、口を開く。
「あのまま、あの男が逃げなかったら私達……」
その場の雰囲気が一様に暗くなる。そんな雰囲気を察して、シエスタが明るく振舞う。
「で、でも結果として皆さん無事で良かったです!」
「そうだそうだ。生きてるんだからつべこべ言わず今を受け入れればいい」
官兵衛がそれに同調する。
「そうね、二人の言うとおりかもね」
キュルケもその言葉で多少前向きになったようだった。しかし、彼女は内心悔しがっていた。
普段から炎の扱いで自分の右に出るものはいない。クラスメイトも、教師でさえも。
そんな自分が、杖を持たない人間に遅れを取ったのだ。
いやそれだけではない、彼女は、相手が平民だと踏んで油断していたのだ。
その油断が、結果として自分の親友を含めた皆を危険に晒してしまった。彼女は、それが許せなかった。
タバサも同じ気持ちであった。何より、自分の目指すものの為にもこのままではならない。そう思った。
得体の知れない術を用いる、あの天海という男。そしてその男と渡り合う官兵衛。彼らは一体何者なのか。
それらを知らねばならない。彼女は、密かに官兵衛に興味を持ち始めていた。
そしてルイズは。
「ハァ……」
深く深くため息をつきながら、己の手にした杖を眺めていた。
『お前さんの名誉を守ってやる』
ルイズは官兵衛の言葉を思い出していた。

256 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/08(月) 15:57:03.25 ID:KhCiZt5z
今回は主に官兵衛の活躍で、こうして破壊の杖を取り返し、無事フーケを捕らえることも出来た。
天海という男は逃がしてしまったが、皆こうして無事学園に戻る事も出来た。
だがこれで自分の名誉が守られたのだろうか。ルイズはとてもそうは思えなかった。
先の戦いでも、自分は殆ど役に立っていない。天海相手にただ守られているだけであった。
そんな自分がどう自信を持てというのだろうか。そんな様子で落ち込んでいたルイズに声が掛けられる。
「ルイズ」
見ると官兵衛が、破壊の杖を抱えながらこちらを見据えていた。
「お前さん、やるじゃないか」
「何のことよ」
官兵衛のいきなりの言葉に、ルイズは戸惑った。若干上から目線な感じが気に障ったが。
「あの時、お前さんがゴーレムを足止めしてくれなかったら。今頃小生らは無事にこうしていられなかった」
「あの時?」
恐らくは、官兵衛が破壊の杖でゴーレムを狙い打った時の事であろう。
官兵衛に言われ、ゴーレムの足を爆発させ、転倒させて時間を稼いだ。それが何だというのか。
「この『破壊の杖』はな。『狙弾カワセミ』といって小生の生まれた国の兵器だ」
「カンベエの国の兵器?」
全員が興味深げに官兵衛の話に耳を傾ける。
「そうだ。こいつは強力な威力だが欠点もあってな。それは発射までにやたら時間がかかる事だ。」
成程、確かにあの時官兵衛がカワセミを構えてから発射までにかなりタイムラグがあった。
あの隙では、ゴーレムに攻撃を許してもおかしくはない。そこまで考え、ルイズははっとした。
「そう。こいつを無事にぶっ放せたのは、お前さんが時間を稼いでくれたからだよ。ご主人様」
官兵衛がルイズを見て微かに笑った。ルイズは信じられない、といった風に官兵衛を見つめていた。
「私が……」
「あら、たまにはやるじゃない。ルイズ」
キュルケが笑いながら、ルイズにそう言う。見るとその笑みにはいつものバカにした表情はない。
純粋に賞賛の含まれた表情が見て取れた。
タバサもそんな様子を見ながら短くお手柄、と呟いた。
「キュルケ、タバサ……」
ルイズの胸の内に温かいものが広がっていった。
「ミス・ヴァリエール……」
シエスタも笑みを浮かべながら、そんなルイズを見守っていた。
 
「そういえば聞き忘れてたけど、どうして貴方はモット伯の館に?学院のメイドなのに」
ルイズが今思い出したかのようにシエスタに訪ねた。シエスタが気まずそうに答える。
「私は、今朝伯爵様のメイドとして引き抜かれてお屋敷にやってきたんです。それを官兵衛さんが――」
「ああそうだ、小生が無理言って学院に戻すよう頼み込んだんだよ」

257 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/08(月) 15:58:29.26 ID:KhCiZt5z
それを聞いてルイズはようやく納得した様だった。
「なあんだ。それであんた急いでモット伯の所に行った訳ね。まったくご主人様に相談もなしに」
「仕方無いだろう。どうしても時間が無かったんだからな」
シエスタはモット伯に妾として迎え入れられたのだ。
その日の内に取り返さなければどんな仕打ちを受けていたかも分からない。
「ふ〜ん」
ルイズがなにやらつまらなそうな表情で官兵衛を見ていた。
「でも良かったわね。モット伯っていえば好色で結構有名だし」
「そうなんですか?」
シエスタは今になって顔を青くした。そんな彼女を見てキュルケが付け加える。
「でも大丈夫よ。ダーリンが交渉してくれたなら。それにしても……」
「ん?どうした?」
「モット伯爵、今頃悔しがってるでしょうねぇ、大事なお宝とメイド。両方とも奪われて」
うんうんと頷く一同。
「そうだな今頃……あ――――っ!」
その時、官兵衛は重大な何かに気がついたように声を上げた。
「どうしたのカンベエ、あっ!」
ルイズもしまった、と言う顔で官兵衛と同じリアクションをする。
「どうしたのよ二人とも。鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
キュルケが二人の間抜け面をみて、疑問符を浮かべた。タバサがぽつりと呟く。
「モット伯はどこ?」
「あ」
 
薄暗い鬱蒼と茂る森の中。辺りに何も照らすもののない黒一色の闇が広がる。
そんな場所に、ロープでグルグル巻きにされ、身動きの取れない男が一人。
「お、おい!私の事!忘れてないか!?」
横たわりながら、芋虫の如く体をグネグネさせ、モット伯は声を張り上げて助けを呼んでいた。
「おぉ――――い!私はここに居るぞ!誰か助けにきてくれえ!」
叫び声を上げるも、返事は無い。
「くそう。な、なんで私がこんな目に。誰か!」
一際大きく声を張り上げる。するとギャアギャアと一斉に鳥が飛び立つ音が森に響いた。
ヒィ!と短く悲鳴をあげるモット伯。ガサゴソと暗闇に何かの生き物の目が光った。
「うっ!うわあ――――っ!」
一つ、また一つと、暗闇に光る目の数が増えていく。
「うぅうう……私が悪かった。もういたずらに平民のメイドを雇ったりしません。妖しげな物品の収集も止めます。
だから誰か助けてくれ。もう一人はいやだぁ……」
必死で許しをこうが、誰にも届かない。光る目の数々がモット伯に近づいてきた。
モット伯のおびえが頂点に達し。
「ヒィエ――――――――――――!!」
情けない叫び声が、モット伯邸すぐ傍の森に響き渡った。

好色波濤
    ジュール・ド・モット
               放置

258 :暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2015/06/08(月) 16:04:09.63 ID:KhCiZt5z
投下完了です。これにて11話は終了です。
いかがでしたでしょうか?
ここ最近、どうしても一話の文章量が多くなってしまい、一度に投下できない事が続いています。
もうすこし文章量減らすか、前編後編の間隔を開けたほうがよいでしょうか?
問題になるようでしたら、改善いたします。
それでは、また。

259 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/13(土) 11:54:17.83 ID:u6AfXbOH
もしも才人が地球人ではなくてM宇宙ハンター星雲人だったら

260 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/14(日) 07:59:40.00 ID:vZMcGzmL
遅くなったけど乙

261 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:17:13.18 ID:51tiI8KD
夜分遅くに失礼します。
よろしければ、1:20頃から続きを投下させてください。

262 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:20:37.50 ID:51tiI8KD
夜のトリステイン魔法学院。
窓から二つの月の光が差し込む学院のとある休憩室で、ロングビルとコルベールは遅い夕食の卓を囲んでいた。

ロングビルがここで食事をしようと提案したのには、いくつかの理由があった。

まず第一に、ここは『火』の塔にある部屋で、女子生徒らの寮が近いということだ。
コルベールの研究室もこの塔の傍にあるので、あまり不自然なく誘うことができる。
それに、まずないとは思うが、コルベールが興奮して食事中に自分に手を出して来たりしたら予定が狂いかねない。
万が一にもそんなことのないように、傍に女子生徒らの部屋があって迂闊に不埒な真似などのできない場所として選んだのだ。

そして第二に、こちらこそが本当に重要な点なのだが、この場所は宝物庫のある本塔から程よい距離にあるということだ。
具体的には、窓から本塔のおおまかな様子が見える程度には近く、何かあってもすぐには駆けつけられない程度には離れているのだ。

今の自分の目的を考えれば、この場所は実に都合がよい。
これからの予定について思いを巡らすと、学院長秘書ミス・ロングビルこと『土くれ』のフーケは、ひそかにほくそ笑んだ。

それから、かちこちに緊張して顔を赤くしながらも、なんとかこちらの気を惹こうと様々な話題を振ってくる目の前の中年教師のことを考える。

コルベールは、たかが同僚の女性から同じ学院内での夕食に誘われた程度のことで、滑稽なほどに着飾ってきていた。
頭に馬鹿でかいロールした金髪のカツラを乗せ、レースやら刺繍やらでゴテゴテに飾られた装飾過剰なローブを実に不恰好に着込んでいる。
最初にその姿を見た時、フーケは思わず吹き出しそうになった。

まったく、ちょろい男だ。
この間もちょっと食事の誘いに乗ってやっただけでデレデレして、まるで無警戒に宝物庫の弱点に関する考察だのをしゃべってくれた。
だからこそ、今回もこの扱いやすい男を利用してやろうと決めたのである。
案の定、今度はこっちから食事に誘ってやったというだけで、前以上に有頂天になっている。

単にこの間のお返しでこちらも誘っただけの、社交辞令の類だろうとは考えないのか。
もっとも彼に限らず、このあたりの貴族たちには、概していささか芝居がかって夢見がちな傾向があるような気はするが。

結局、前回この男から聞き出した考察は何の役にも立たなかった。
物理的な攻撃が弱点だなどと、まったく机上の空論もいいところだ。
確かに固定化以外の魔法はかかっていなかったから、物理的な攻撃を続ければいずれは破壊できるのだろうが……。
魔法以前に素の壁が分厚く頑丈で時間がかかりすぎるために、そんな手段は全然現実的ではない。
10分も20分も巨大ゴーレムでガンガン殴り続けていたら、その間に学院中のメイジが集まって来るだろう。

が……、とはいえ。
この男が学院の教師の中でもっとも勤勉で、いろいろと変わった研究をしているのは確かだ。
どう見てもうだつの上がらない、冴えない男なのだが、学院長からの信任も妙に厚いようだし……。

(もしかしたら、あの杖の使い方を知ってるかもしれないね……)

さほど期待してはいないが、まあ駄目で元々だ。
今回もまた上手く水を向けておだて上げ、さりげなく聞き出してみよう。
もしうまい具合に知っていて、口を滑らせてくれれば御の字だ。

「ミスタ・コルベールは本当に物知りでいらっしゃるわね。
 私などは無学なものですから、ミスタのお話についていくのが難しくて……。
 ……ああ、そうですわ。確かミスタは、宝物庫にある学院長秘蔵の2振りの杖のことなどご存知でしたわね?」

「え? ……あ、ああ! あれですか、ええ、それはもう、知っておりますとも!」

前回、宝物庫の弱点について聞き出そうとしたときに、コルベールがあの杖を見たことがあるのは確認済みだ。
まあその時は、まず宝物庫を破るのが優先で杖の性能などは二の次だったので、あまり詳しいことは聞かなかったのだが。

263 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:22:17.71 ID:51tiI8KD
「ミスタ・コルベールは、本当に博学でいらっしゃるわ。
 私もこの間、『眠りの鐘』を取りに入った時に少し目にしたのですけど……。
 ミスタのおっしゃったとおり、両方とも奇妙な感じの杖でしたわね」

「い、いやあ……、光栄ですな。
 はは、博学だなどと……、ひ、暇にあかせて書物に目を通すことが多いだけで。
 ミス・ロングビルこそ、そ、聡明な上にお料理も上手ですな。
 こうして手作りの夕食などいただいてしまって。本当に多芸で素敵な方ですな。
 わ、わたくしなどは研究一筋とでも申しましょうか、はは。
 おかげで、この年になっても独身でして……」

フーケはその様子をにこやかな表情を繕って眺めながらも、内心では冷ややかに毒を吐いていた。

(そんなこと聞いちゃいないよ……。
 手料理食わせてもらったくらいで夢見てるんじゃないよ、このハゲ!)

ちょっと話を振ってやっただけでいちいち舞い上がってべらべらと、まったくウザったいハゲ親父だ。
余り物を挟んだだけのサンドイッチや、温めなおした昼間のミルクティーの残りをもらえたのがそんなに嬉しいか?

しかし、そんな胸中はおくびにもださずに、晴れやかな笑顔を維持する。
今回付き合っているのはいろいろと目的もあってのことなのだし、せっかく目当ての話も聞けそうなのだから、今しばらくは我慢しよう。

「……特に片方は、ずいぶん奇妙な形でしたわね。あんな杖、どうやって使うのかしら?」

「ああ、『破壊の杖』ですな。確かに、まったく奇妙な形でしたなあ。
 なんでもオールド・オスマンが昔助けられた恩人が持っていたものだそうですが……。
 使い方は……、そうですなあ、学院長しか知らないのではありませんかな」

それを聞いたフーケは、心中で忌々しげに舌打ちをした。
しかしすぐに気を取り直すと、目の前の男を信頼しきって期待に目を輝かせた女、のような表情を浮かべる。

「……そうですの。でも、ミスタ・コルベールのように博学な方でしたら、使い方の推測ぐらいはつくのではありませんか?」

「え? い、いやあ……。そ、そういわれると、ですな……」

舞い上がったコルベールは、ミス・ロングビルの気を引きたい一心で頭を働かせた。
宝物庫で許可をもらって杖を調べてみたときの記憶を、一生懸命に思い出す。
危険なものだということであまり詳しくは弄らせてもらえなかったが、それでもある程度の観察はしたはずだ。
その時に自分がした考察は、どんなものだったか?

「それはその、こうではないかという推測くらいは……、ええと……」

期待した顔で待ち続けるロングビルを失望させまいと頭をフル回転させて、どうにか十秒あまりで考えをまとめた。
そして、もったいぶって一つ咳払いをする。

「……おほん。ああ、失礼。
 その、まったくの推測ですが、それでもよければ……」

「かまいませんわ。それが正しいかどうかよりも、ミスタのお話だから興味がありますの」

フーケは机に肘をつくと、上目づかいにコルベールの顔を見つめる。

「そ、それは……、ま、まったくもって光栄ですなあ……。はは、は……」

すっかりのぼせ上ってゆでダコのように真っ赤になったコルベールは、額の汗を拭いてどうにか心を落ち着けると、真顔に戻って話し始めた。

264 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:24:17.52 ID:51tiI8KD
「……突拍子もない話のようですが……、わたくしの考えでは、実はあれは杖でもマジックアイテムでもないのではないか、と思います」

「え……? まさか! だって、学院の宝物庫に秘宝として……」

「いや、そう思われるのはもっともです。順序を追って説明しましょう」

それから、コルベールはまず、自分がオスマンから聞いたこの杖にまつわる話をかいつまんで説明した。

それによると、オスマンは三十年ほど前、森でワイバーンに襲われ、その時に『破壊の杖』の持ち主によって命を救われたという。
その人物はワイバーンを、その杖から放った強力な魔法の弾丸のようなもので爆裂させて倒したらしい。
彼は見たこともないような服装の人物で、件の杖を2本携帯していた。
その後、深い怪我を負っていたその恩人はしきりに自分の故郷を想ってうわごとを吐きながら、手当ての甲斐もなく息を引き取ったそうだ。
そしてオスマンは杖の一本を彼の墓に埋め、もう一本を形見として宝物庫にしまい込んだ……。

フーケは、杖がもう一本あると聞くと早速その墓の場所を質問してみたが、コルベールもそれは教えられていなかった。
少々残念だったが、まあそれはまた機会があれば探ってみようと決めて、続きを促す。

「……さて、今の話によりますと……、杖が使われているところを見たのは学院長のみで、それもただ一度きりのことです。
 魔法の杖だと思ったのは、何かを撃ち出してワイバーンを一撃で爆発させて倒したという、ただそれだけの根拠によるものですな。
 ところが実際には、あの杖を『ディテクト・マジック』で調べてみても魔力は一切関知できません。
 それならば、実はマジックアイテムではなく、例えば火の秘薬から作った火薬を詰めた、炸裂弾のようなものを発射したのだとも考えられます。
 実際、あの杖の形は、メイジの杖というよりは銃や大砲の仲間だと考えたほうがまだ近いかと。
 持ち主の装いも、学院長でさえ見たこともないようなものだったということで、少なくともメイジ風ではなかったようですし……」

「……は、はあ、なるほど……。
 ……でも、魔力を感じないということに関しては、隠蔽してあるということも考えられませんか?
 強力なマジックアイテムでしたら、そういうものもあるでしょう?
 それに……、見かけない装いの人物だったというのなら、東方とか、離れた場所から来た方だったのかもしれません。
 そちらのメイジはこちらとは装いが違うのかもしれませんし、たとえ杖ではなかったにしても、魔法の品である可能性は……」

「そうですな、それはありえます。
 しかし、私としては、その可能性は低いと思っています」

「……なぜですか?」

内心の不機嫌さが僅かに表情に出ているフーケの様子にも気付かず、コルベールは説明を続けた。
こうして一旦研究や分析の話を始めると、先程まで夢中になっていた相手のこともすっかり頭からなくなるらしい。
そのあたりはやはり、生粋の研究者気質なのであろう。

「ミス・ロングビルは、確か土のメイジでしたな。
 ならば、あの杖の材質が、非常に珍しい金属だったことに気付かれましたか?」

「ええ、見た事もないような、不思議なものでしたわ」

「あんな珍しい金属を使って奇妙な形に作り、それをカモフラージュもしていないのではどう考えても人目を引きます。
 その事から考えるに、『破壊の杖』の製作者にはその正体を隠そうとする意図はなかったはずです。
 ですから、私はおろかオールド・オスマンでさえ看破できないほどに完璧な魔力の隠蔽を施している、というのは考えにくいことです。
 それだけのことができる製作者が本気で品物の正体を隠そうとするのならば、もっと目立たない作りにするか、そう見せかけるくらいはできたはずです」

一通り説明を終えたコルベールは、そこで一旦言葉を切ると、温くなったミルクティーを啜って一息入れた。

「………」

フーケはその間に、少し眉根を寄せながらじっと今の話を検討してみた。

265 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:26:21.30 ID:51tiI8KD
駄目で元々と大した期待もせずに聞いてみた話だったが、予想外に興味深い内容である。
真偽のほどはともかく、ただの冴えない中年教師だと思っていた目の前の男のことを、多少は見直した。

しかし……、もし仮に、今の考察が正しいとすると……。
あの『破壊の杖』はマジックアイテムではないということで、普通の場所で高値で売るのは難しくなるだろう。

第一、コルベールの言うように銃や大砲の仲間なのだとすれば、そもそも弾や火薬が入っているのかどうかがわからない。
入っていなければ使えないし、仮に入っていても、一発撃てばそれまでだということになる。
いや、たとえマジックアイテムだったとしても、元々の持ち主が“2本”持っていた、という今の話からすれば、どの道使い捨てなのかもしれない。
たとえば火石などを動力としていて、それを補充すれば再利用できる、というような作りならば、かさばる本体を2つも持ち歩く必要はないはずだ。

してみると、使うにしろ売るにしろ、大きく価値が落ちたと言わざるを得まい。
今までにないほど高性能の武器だとすれば、分析して量産を目指すようなしかるべき相手なら、相当の高値で買ってくれるかもしれないが……。
どうにも、そこまでする気は起きない。
自分は盗賊であって戦争屋ではないし、手間や危険の度合いを考えると割が合わないだろう。

残念なことだが、まあそれについては今ここでどうなる問題でもない。
フーケは気持ちを切り替えて、また笑顔を浮かべた。

「とても興味深いお話でしたわ。
 将来ミスタ・コルベールのお傍にいられる女性は、幸せでしょうね。
 こうして、誰も知らないようなことを、たくさん教えていただけるのですから……」

少し夢見るような、うっとりした調子でそう言われて、コルベールはまた一瞬で真っ赤にのぼせた。
がちがちに緊張したぎこちない動作で、禿げ上がった額の額の汗をぬぐう。
それから、少しためらった後、咳払いをしてキリッとした顔を作ると、ロングビルを真っ直ぐに見つめ返した。

「……お、おほん。その、ミス・ロングビル。
 明日、ユルの曜日の夜に開かれる、『フリッグの舞踏会』はご存知ですかな?」

「……フリッグ……、ああ、ええ。
 確か、学校主催のダンスパーティでしたね。それが、どうかしまして?」

「ははぁ、いや、御存知ないのは当然です。貴女は、ここに来てまだ二ヶ月ほどですからな。
 その、なんてことはない、おっしゃる通り、学生たちも参加する、単なる学校行事のパーティなのですが……。
 ただ、ここでいっしょに踊ったカップルは結ばれるだとかなんとか、そんな伝説がありまして、学生たちは毎年熱心でして……、はい」

「……それで?」

フーケはにっこりと笑って、続きを促した。

「その……、もしよろしければ、僕と踊りませんかと……。
 いえ! けっして、その、妙な意味合いではなくてですね、はい!」

ますます笑みを深めて、表面上は嬉しそうに装いながらも、フーケは心中うんざりしてきていた。

ガキじゃあるまいし、たかが学校行事の舞踏会で一緒に踊ったくらいで結ばれるだとか……。
たかがリップサービスごときでどれだけ浮かれてるんだ、この純情ハゲは。

(……ま、いろいろと情報提供してもらったことだし。
 青臭い伝説だのはともかく、ダンスくらい付き合わない事もないけどね……)

もっとも、今夜から明日にかけてはいろいろと騒ぎが起きる予定なので、中止にならなければの話だが。

「まあ……。ええ、喜んで。
 舞踏会も素敵ですが、今はそれより、もっとミスタとお話がしたいですわね。
 もう片方の『守護の杖』については、どうですの?」

さらりと流してサンドイッチやミルクティーのお代わりなどを勧めながら、フーケは先程の話の続きを促した……。

266 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:28:26.77 ID:51tiI8KD




(……ふう。結局、どれもあんまりありがたい話じゃあないね)

おおむね目当ての話を聞き終えたフーケは、にこやかに食後のビスケットなどをコルベールに勧めながら、内心溜息を吐いていた。

あの後、もう一方の杖についても色々聞いてみたのだが……。
わかったことは、そちらの方は間違いなく強力なマジックアイテムだが、使い方はやはり誰も知らないらしいということだけだった。

何でも、十数年前に学院長の友人であるとある遠方の地の魔道師が置いていった品なのだとか。
その人物はエルミンスターと言う名の老人らしいが、コルベールも彼について詳しいことは聞かされていないという。
そして、その老人は杖をここに置いたまま、ここ十数年あまり学院に姿を現していないらしい。
オスマンならば、あるいは使い方を知っているのかも知れないが……。

となるとどちらの杖も、使い方を誰か知っていそうな教師から聞き出したり、おびき寄せて使わせてみたりして知る、ということはできないわけだ。
使い方不明の杖では、いくら学院のお宝だと言っても高値で売り飛ばす事などできようはずもない。
かといって、捨て値で処分するには勿体無さすぎる。

(学院の教師の誰にも使い方がわからないってんじゃ、自分で調べてみるってのも難しそうだし……。
 こりゃあ、あのエロジジイから直接聞き出すしかないか)

まあそのあたりは、なんとか機会を見て疑われないようにやってみよう。
それよりも、そろそろ予定の時間だ……。

フーケは窓の外にちらりと目をやって、予定通りに事が動き出したのを確認した。
それから、未だにかちこちに緊張して赤くなったままビスケットを無闇にかじっては、咽てミルクティーで流し込んでいるコルベールの袖を引っ張る。

「ミスタ、あれを!」

「え、……っ?!」

注意を促されて窓の外を見たコルベールは、たちまちぎょっとした顔になった。

何と、いつの間にか窓の向こうに見える本塔の近くに、身の丈30メイルはあろうかという、巨大な土ゴーレムが出現していたのだ。
ゴーレムは、ゆっくりと本塔の方へ歩いて近づいていく。

「……あ、あれは……。学院の中であんな巨大なゴーレムを、一体誰が……」

コルベールはそう呟きながら、困惑気味の頭でとりとめのない思考を巡らせた。

ただの土ゴーレムとはいえ、あれほどの大きさは少なくともトライアングルクラスの土メイジでなければ作れないだろう。
だが生徒の中に、あんなゴーレムを作れるような優秀な土メイジがいただろうか。それとも教師の誰かだろうか。

いずれにせよ、学院内であんな巨大ゴーレムを作るなど非常識にもほどがある。
一体何の目的で……。

そこまで考えて、コルベールはハッと思い当たった。

本塔には、宝物庫があるではないか。そして巨大なゴーレム。
ということは……。

「ま、まさか、『土くれ』のフーケとかいう盗賊では……!?
 ……し、失礼しますぞ、ミス・ロングビル! あなたはここに残っていてください!」

267 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:30:17.45 ID:51tiI8KD
そういって慌てて部屋を飛び出していくコルベールの後を、フーケも追いかける。

「いえ、私も学院の職員の端くれですわ! ご一緒します!」

口では殊勝なことを言いながらも、口元には密かに笑みを浮かべていた。
今ならコルベールは背を向けて走っているから、表情を見咎められる心配もない。

もちろん、あのゴーレムはフーケの事前の仕込みによるものだ。
あれだけ巨大なゴーレムは普通、術者がごく近くにいなければ作成や操作をすることはできない。
だが土の精霊力の結晶であり、永続するゴーレムやガーゴイルなどを作成する際に用いられる『土石』を使用すれば話は別だ。
フーケは小さな土石の欠片を用いることで、時限式で巨大ゴーレムが作成され、宝物庫の壁を自動的に殴るように、事前に仕込んでおいたのである。
土石は貴重なのであまり大きい物は用意できなかったが、この程度のごく単純で短時間の自動操縦ならば小さな欠片でもなんとか間に合うのだ。

コルベールがやっと外に飛び出したときには、ゴーレムは既に宝物庫の壁を殴り崩していた。

「ああ……! なんということだ、宝物庫が!
 やはり、物理的な衝撃に対する備えが十分ではなかったのか!」

もちろんそれを聞いたフーケは、内心で彼を嘲笑った。

(十分じゃないのはあんたのお頭の方さ、ハゲ頭さん。
 お利口だけど、外面も中身も抜けてるんだよ!)

ゴーレムが堅牢な宝物庫の壁を短時間で殴り抜けたのは、フーケの事前の仕込みによるものだった。
宝物庫の外壁は固定化で守られていて容易に変成させられないが、内側は別である。
あらかじめ宝物庫の内壁の一角にある種の酸を塗り、数日かけてゆっくりと融かして、薄く脆くしておいたのだ。
その仕込みが進むのに時間がかかったのと、休日で人が少ない方が作業がやりやすいのとで、決行を今日の『虚無の曜日』まで待ったのである。

もちろん宝物庫の中の杖2本は、昨夜のうちに既に盗み出し済みだ。
普段から犯行後に現場に残しているサインも、その際に事前に書き込んである。

だが、今ゴーレムが現れて壁をぶち抜いたのをコルベールが証言してくれれば、誰もが犯行は今日のこの時間だと思うだろう。
ゴーレムだけなら、あるいは自動操縦の可能性を推測する者もいるかもしれないが、現に宝が盗まれ、現場にサインまで残っているのだ。

フーケが今、この時点で犯行現場にいて、ゴーレムで壁をぶち抜いて宝物庫に押し入ったのは疑いようもない。
まさか昨夜の内に既にお宝が盗まれていたなどとは、誰も夢にも思うまい。
ましてやその犯人が、コルベールと一緒に離れた場所から“犯行の瞬間”を目撃していた、この学院長秘書だなどとは。

(これで私は、完璧に容疑者から外れられるってわけさ……!)

フーケはほくそ笑みながら、急いで宝物庫の方へ向かおうとするコルベールの後を追った。
一生懸命な彼には気の毒だが、どんなに必死に急いだところで、お宝はもうとっくに盗まれた後だ。

ゴーレムの方は、壁をぶち抜いた後は適当に学院外の草原のあたりまで歩いてから崩れるようにセットしてある。
仮に彼が追い付いて攻撃を加えられたとしても、その前に破壊することはまずできまい。まあ、仮にできたとしても何も困らないが。

「……あら?」

そんなことを考えていたフーケは、ふと学院の外から、ゴーレムに向かって飛んでくるものに気が付いた。

「あれは……、昨夜の」

見れば、それは昨夜、女子生徒らを乗せて学院の外に向かって飛んで行った風竜であった。

どうやら、あれから今まで、ずっと学院外で遊んでいたらしい。
宝物庫を襲うゴーレムを見かけていち早く事態を察し、賊を取り押さえようとしているというところか。

案の定、竜の背のあたりからは火球や竜巻、それに妙な爆発の呪文などが放たれたが、ゴーレムはビクともしない。
学生にしてはなかなか見事な腕前らしいが、今は自動操縦で攻撃に対応したりはできないとはいえ、30メイル級のゴーレムに対しては無力なものだ。

268 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2015/06/15(月) 01:32:30.24 ID:51tiI8KD
(やれやれ。まったく最近のお嬢ちゃんたちときたら、やんちゃなもんだねえ……)

夜遊びが過ぎる上に、無鉄砲ときた。
学生ごときが、自分の巨大ゴーレム相手に何ができる?

「い、いかん! 君たち、相手は凶賊だ、うかつに手を出すな!」

コルベールも事態に気付いたらしく、彼女らに自重するよう呼びかけている。
まあ、実際には事前のプログラム通りに動くだけの自動操縦だから攻撃されても反撃などはできないので、無茶をしようと危険はないのだが。



「ぜんぜん、効いてないわね……」

シルフィードの上で、キュルケが悔しげに呻いた。

彼女とタバサ、それにルイズが同時に攻撃したが、賊のものと思しき巨大ゴーレムには堪えた様子がない。
せっかく居合わせたのに残念だが、ここは教師らに任せた方がよいだろうか。

そう思っているところへ、ディーキンが声を掛けた。

「ねえ、キュルケ。今の火の球が、キュルケの一番強い魔法なの?」

「違うわよ。……でも、私の一番強い呪文でもあのゴーレムは焼ける気がしないわね。
 残念だけど、今の手応えでわかったわ」

キュルケは肩を竦めると、お手上げだと言うように手を広げてみせた。
しかし、ディーキンは首を横に振ると、ぴっと指を立てて見せる。

「チッ、チッ。諦めたらそこで試合終了なんだよ。
 ディーキンもお手伝いするから、キュルケはもう一回、その一番強い魔法ってやつでやってみて!」

「お手伝い、って……」

キュルケはいささか困惑した。
しかし、ディーキンの自信と信頼に満ちてきらきら光る目を見ていると、何も聞かずにやってみようという気になった。

「オーケー、私の一番の炎をお見舞いしてあげるわ。ディー君はそのお手伝いってやつをしっかり頼むわよ!」

「もちろんなの、ディーキンはいつだって期待に応えるよ!」

それから、ディーキンはすうっと目を閉じて精神を集中すると、キュルケに贈り物を渡すかのように腕を振り、歌うような呪文の詠唱を始めた。
甘い旋律に乗った魔力が、包み込むようにキュルケの体に纏わりつく。

キュルケは一瞬驚いたように目を見開いた後、自信に満ちた笑みを浮かべて呪文の詠唱を開始した……。



「………なっ……!?」

フーケは思わず、驚愕の叫びを漏らした。

突然、先程とは段違いの、スクウェアクラスのメイジが放ったかのような凄まじい業火が竜の背のあたりから伸びて、ゴーレムの体を包み込んだのだ。
業火に晒されて脆くなったゴーレムの体に、さらに続けて、再度竜巻が叩きつけられる。
ゴーレムは耐えきれずにバラバラに吹き飛んで、ただの土の山に変わった。

呆気にとられて見上げるばかりのコルベールとフーケの前に、シルフィードがゆっくりと降り立った……。

269 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2015/06/15(月) 02:05:28.13 ID:51tiI8KD
 
ハーモニック・コーラス
Harmonic Chorus /調和の合唱
系統:心術(強制)[精神作用]; 2レベル呪文
構成要素:音声、動作、焦点具(音叉)
距離:近距離(25フィート+2術者レベル毎に5フィート)
持続時間:精神集中、術者レベル毎に1ラウンドまで(解除可)
 術者は他の呪文の使い手の呪文発動能力を向上させることができる。
この呪文の持続時間の間、対象はその術者レベルと発動するすべての呪文のセーヴ難易度とにそれぞれ+2の士気ボーナスを得る。
この呪文はバードにしか習得できない。
 本文中のキュルケは、この呪文の効力によってスクウェアクラスのメイジ並みの術者レベル(魔力)でトライアングルスペルを放ったので、フーケのゴーレムに有効打を与えられたのである。

270 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2015/06/15(月) 02:07:07.68 ID:51tiI8KD
今回は以上になります。
ようやくフーケの話に本格的に入りました。
進行はゆっくりですが、何卒気長にお付き合いいただければ、と思います。

では、またできるだけ早く続きを書いていきたいと思います。
次の機会にもまた、どうぞよろしくお願いいたします……(御辞儀)

271 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:17:38.28 ID:p+Lsa0CC
ディーキンの方、お疲れさまでした。焼き鮭です。投下させてもらいます。
開始は21:21から。

272 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:21:02.13 ID:p+Lsa0CC
ウルトラマンゼロの使い魔
第六十五話「銀河に散った二つの星」
異次元超人巨大ヤプール
究極超獣ゼロキラーザウルス
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス
カプセル怪獣アギラ 登場

「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」
 ジャンボキングの亡骸を核として、数え切れないほどの侵略者、超獣の怨念と、ヤプールの象徴たる
血のような赤い雨、そして巨大ヤプールの精神そのものが混ざり合うことで完成した大怪物、その名は
ゼロキラーザウルス! ウルトラ戦士抹殺用に作り上げた超獣Uキラーザウルスの生体情報に、ゼロたちへ
向けられる怨念を組み込んだことで変異を起こし、対ウルティメイトフォースゼロ用超獣として新たに生誕した、
「最強」を超越する「究極」の超獣だ!
 かつてヤプールがアナザースペースでウルティメイトフォースゼロを攻撃した際にも、
とっておきの切り札として投入された怪獣兵器である。そのおぞましい威容を目の当たりにした、
シティオブサウスゴータの外へと避難した人々は一様に恐れおののいた。
「な、何だ、あの怪獣は……。でかい……でかすぎるぞ!」
「巨人のゼロたちが、まるで子供みたいじゃないか!」
 その言葉の通り、ゼロキラーザウルスはあまりに大きかった。その背の丈は、ゼロたちの倍近くもある。
ハルケギニアの人々は、ここまで巨大な生物は噂にも聞いたことがなかった。
 通常の怪獣でも、恐ろしいほどの破壊を振りまくことはもう知っている。それならば、あれほどの
巨体からは如何なる威力が発揮されることか……。最早計り知れない。
 この世のおしまいかと思われた、超獣大軍団を蹴散らしてからの、まさかのそれらをも上回る
大超獣の出現……。多くの人は、到底受け入れられない現実に心が折れかかっていた。
 しかしその時、ギーシュが叫んだ。
「皆の衆、心配はいらない! ゼロたちは必ず勝つさ! 彼らはこれまで、如何なる絶望も打ち砕いた! 
大きいだけの怪獣など、粉砕してくれるとも!」
 ギーシュの絶対の信頼を置いた言葉は、人々の心に強く響いた。
「そうだ……ウルティメイトフォースは、どんなに恐ろしい敵にも負けなかった! 今回だって
勝ってくれるに決まってる!」
「彼らは絶対に、俺たちの未来を導いてくれるぜ!」
 人々は思い出す。ウルティメイトフォースゼロの勇姿を。彼らの飾ってきた勝利を。
 大円盤も、宇宙人連合の軍団も、ナックル星人の大部隊も、電脳魔神も、ヒッポリト星人と大怪獣たちも、
サイボーグ超人も、最後には打ち破って人類の明日を見せてくれた。今目の前にそびえ立つ邪悪も払ってくれるに違いない!
「がんばれー! ゼロー!」
「ウルティメイトフォースゼロ! 負けるなー!」
 人々は勇者たちの勝利を信じ、精いっぱいの応援を送る。その声は、確かにウルティメイトフォースゼロに届いている。
『行くぜ、みんなッ!』
『はい!』『うむ!』『おうッ!』
 見よ! ウルティメイトフォースゼロはこの状況にも少しもひるまずに、大超獣に一直線に
挑んでいくではないか! 人々は、彼らの熱い奮闘を信じて疑わなかった。
「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」
 しかしゼロキラーザウルスが刃つきの触手をひと振りすると――。
『うわあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!』
 勇者四人は、一瞬にして蹴散らされた。
「えッ……!?」
 衝撃的に過ぎる光景に、人々の応援の叫びは思わず停止してしまった。
 しかもそれだけではない! 触手のひと振りは四人を紙屑か何かのように吹き飛ばすだけに
飽きたらず、ザンンッ!! とサウスゴータの大地を深々と切り裂いた!
 あまりの出来事に、一斉に絶句する人々。大いなる古都の土地は、半ばから真っ二つになっていた。
とても信じられないが、幻覚ではない。
 地割れでも起きたのか……? いや、地割れではあんなに綺麗に割れる訳がない。しかし……
実際にその目で見ても、人々は信じたくなかった。
 まがりなりにも一個の生物が、大地を両断するなどという事実を……!

273 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:24:59.35 ID:p+Lsa0CC
『くっ……! まだまだぁッ!』
 弾き飛ばされた四人の内、グレンファイヤーがいち早く立ち上がって再びゼロキラーザウルスに
突っ込んでいく。胸のファイヤーコアと全身に炎をたぎらせた、彼の最大出力の状態だ。
 が、ゼロキラーザウルスは扇状の腕を振るい、手の甲でグレンファイヤーを払いのける。
『ぐわあぁぁぁぁぁぁッ!』
 ベチンッ、と軽く叩いただけで、グレンファイヤーは大きく吹っ飛んで地面に真っ逆さまになった。
 パワーとタフネスなら誰にも負けない炎の戦士が……羽虫か何かのようだ……!
『グレンファイヤー! おのれ、よくもぉ!』
『はぁぁぁぁぁッ!』
 ジャンボットとミラーナイトが地を蹴って、ジャンミサイルとシルバークロスを放った。
 しかし刃つきの触手が伸び、ミサイルと光刃を一瞬で粉々に砕いた上に、ジャンボットたちも空中から叩き落とす。
『がっはぁッ!!』
 触手はそれに飽きたらず、二人を真っ二つにしようと狙っている!
『させるかぁぁぁぁッ! おおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!』
 それを食い止めようと飛び出したのがウルトラマンゼロ! カラータイマーはとっくに点滅しているが、
ゼロツインソードDSを固く握り締め、消耗をものともしない勢いで触手の刃を受け止める。
 ガガガガガッ! と激しく火花を散らしていたが……ゼロまでもが弾き飛ばされ、大地に沈んだ。
『うおあぁぁぁッ!!』
 ゼロと才人、そしてデルフリンガーの絆の象徴の武器も……呆気なく破られてしまった……!
『愚か者どもめぇッ! この究極超獣の前には、貴様らの力など塵芥に等しいわぁッ!』
 ゼロキラーザウルスの中からヤプールが傲然と豪語する。そしてゼロキラーザウルスが
ゼロたち四人にとどめを刺そうとする……!
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
「キギョ――――――ウ!」
 それを阻止しようとカプセル怪獣たちが立ち向かっていく。超巨大超獣と比べて幼獣のような彼らだが、勇気は満点だ。
『よ、よせ! 駄目だ、戻れぇッ!』
 だがゼロは慌てて制止をかける。それも間に合わなかった。
『雑魚どもがッ! 目障りなんだよぉぉッ!』
 ゼロキラーザウルスの触手が、カプセル怪獣たちも石ころか何かのように弾き飛ばした! 
たった一瞬の出来事だった。
「グワアアアアアアア!!」
「グアアアアアアアアッ!!」
「キギョ――――――ウ……!」
 蹴散らされた三体は、あまりのダメージの深さに立ち上がることも出来ず、自動でカプセルに戻っていった……。
『ゼロキラーザウルス、やれぇいッ! 連中を消し飛ばせぇぇぇぇぇッ!』
「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」
 ヤプールの命令により、ゼロキラーザウルスの頭部から莫大な歪んだ光がほとばしる! 
超絶破壊光線、ゼロキラービームが放たれた!
 着弾したビームは、ゴガアアアァァァァァァァァンッ!! と耳をつんざく轟音とともに、
ハルケギニアの誰もが目にしたことのないきのこ雲を巻き起こす!
『うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――!!』
 壮絶な大爆発に呑まれるウルティメイトフォースゼロ!
 そしてきのこ雲が晴れると……人々は完全に言葉を失った。
 シティオブサウスゴータの街が、土地が……そのままの意味で、半分消えてなくなっていた! 
残ったのは、ぽっかりと開いたクレーターだけだ! こんな光景、誰一人として想像したことすらない!
『ぐッ……うぅぅ……!』
 それでもゼロたち四人は健在……。
 いや、果たしてこれが健在と呼べるのであろうか……? 四人ともが等しく身体に無事なところがなく、
立つどころか身を起こすだけで精一杯であった……。

274 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:27:30.99 ID:p+Lsa0CC
「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」
 対してゼロキラーザウルスは全くの無傷! わずかでも消耗した様子すらない! その上で、無情にも
死にかけているゼロたちの息の根を完全に止めようとしている!
「――やらせない! ゼロたちを……才人をやらせなんてしないわ!」
 そこに立ち上がったのは、ルイズだ! 一人、避難民の中から脱け出し、杖を握り締めて半壊した街の側に立つ。
 ここまで彼女は、自身の『虚無』の魔力を温存していた。ヤプールは恐ろしい相手だ。
万が一の時のために……と、戦闘中は使用をこらえて、ひたすら感情を高めて魔力を蓄えていた。
そしてそれは正解であったようだ。
「私の一番の武器で……ゼロたちを、トリステインを、ハルケギニアを救ってみせるッ!」
 世界を救う使命に強く燃えるルイズの魔力は、最高潮に達していた。その魔力量は、タルブの時と同等であるほどだ!
 朗々と呪文を唱え上げて――最も得意とする、究極の攻撃呪文を発動する!
「『爆発』!!」
 カッ――!
 再び、大地に太陽の輝きが生じる! その輝きは完全にゼロキラーザウルスの巨体を覆い、
壮絶な爆発の中に閉じ込める。
 その爆発は、まさしくタルブの時の再来であった。
「あれは、タルブの時の奇跡の光!」
「我らの勝利の光だぁッ!」
 トリステインの人々は、『虚無』の爆発がタルブ戦で勝利をもたらした輝きだと理解し、歓喜に打ち震えた。
あの輝きは今一度、人間の勝利を授けてくれると、固く信じている。
「ルイズ……!」
 アンリエッタはルイズの働きに感動し、感謝の念を胸に抱いた。

『効かぁぁぁんッ! 効かんわぁぁぁぁぁぁッ!!』

 ――光が収まり、再び姿を現したゼロキラーザウルスは、依然として全くの無傷であった。
 ルイズは、杖を取り落とした。
「う、嘘……」
 誰しもが、これは夢を見ているのではないか、と錯覚した。
 不完全でもアントラーに致命傷を負わせ、キングジョーとブラックキングの大軍団をも一撃で滅した
『爆発』ですら……ゼロキラーザウルスには微塵も通用していなかったのだ!
『馬鹿な人間どもがぁッ! 貴様らの明日など、最早どこにもありはしないのだぁぁぁ――――――ッ!』
「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」
 ゼロキラーザウルスの無数のトゲが発射され、ゼロたちに迫る。トゲミサイルだ。
『ぐぅッ……!』
 ゼロとミラーナイトがウルトラゼロディフェンサーとディフェンスミラーを重ね合わせた
ディフェンスミラーゼロを展開。ジャンボットとグレンファイヤーも支えて防御を固めたが……
トゲミサイルは協力バリアを易々と粉砕した。
『ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
 四人が爆発の嵐にもてあそばれ、転げ回る。
 惨劇! 最早そうとしか言いようがない……。これはもう戦いとは呼べない。一方的な蹂躙……
処刑の有り様であった!
「もう、もうやめてくれぇッ!」
 誰かが現実を直視できずに目を背け、叫んでいた。その気持ちは、全員が同じであった。
 先ほどまでは確かに存在していた、ゼロたちが、才人が灯した希望は……もうひとかけらも残っていなかった。
彼らの心の支えすら、ゼロキラーザウルスの圧倒的な暴力は蹂躙してしまったのだ。
 人々の心が……闇に囚われようとしている。
「どうして!? どうしてなのッ!? 何でこんなことになってしまったの!? わたしたちが何をしたというの!?」
 誰かが忍び寄る闇に耐え切れず、泣き崩れた。誰しもがそうしたいところであった。
 人々の努力を、奮闘を軽く叩き潰す、絶望的なまでの理不尽。人々はゼロキラーザウルスから
その理不尽を感じている。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)


275 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:31:10.11 ID:p+Lsa0CC
 しかしヤプールは、そんな人間たちの心情も嘲笑する。
『どこまでも愚かな生き物どもよ。この究極超獣を生み出したのは、我ら闇の化身の怨念だけではない。
貴様らの心からも生じたのだッ!』
 人々は、その意味が理解できなかった。自分たちの心が、あんな化け物を作り出した? そんな馬鹿な!
 しかしそれは、紛れもない真実なのである。
『我らヤプールは、貴様らの争いを求める心、目先の欲に走る心、薄っぺらな虚栄を得ようとする心、
全ての醜い心から発生するマイナスエネルギーによって生きる。我らが作り出す超獣もまた、貴様らの
醜さを食って強くなった。名誉などという言葉だけの空虚な幻影を欲し、同胞同士でひたすらに殺し合う
貴様らが、終末を招く無敵の超獣の親なのだぁぁッ!!』
 ヤプール人は負の心の具現化。人間の醜さの象徴だ。延々と繰り広げられた貴族と平民の確執、
目先の富と欲に溺れる姿勢、命の奪い合いの意味をろくに考えないで争いをやめない暴力性が、
巡り巡ってゼロキラーザウルスという終わりを作り出すものを産んだ。
 また、人間たちの心の暗闇こそが、世界を終わらせる。世界の守り神であり、人間を信じた
ウルティメイトフォースゼロという希望を、人間自身が殺す。そういう意味での『ゼロキラー』でもあるのだ……。
「そ、そんな……」
「他ならぬ俺たちが、破滅の原因だったなんて……」
 ヤプールの突きつけた残酷な真実に、人間たちは今度こそ打ちのめされた。皆がもう希望を
見出すことが出来ない。いや、知らず知らずの内に、自分たちで壊してしまっていたのだ……。
「わ、わたくし……わたくしは……」
 こんな時にこそ心の支えとなるべきアンリエッタまでも……絶望に呑まれていた。何を隠そう、
アルビオンへの侵攻を推し進めたのが彼女だ。自分があんなことを言い出さなければ……
まさかこんなことになってしまうなんて……。今の彼女の心にあるのは、後悔の念だけだ。
「あ……あぁ……」
 ルイズも、絶対の絶望に沈んでいた。彼女が輝かしいと信じた「貴族の名誉」は……
真逆の暗闇だった……。ルイズの光も、暗闇に覆い隠されてしまった……。
『ウルティメイトフォースゼロッ! 貴様らは貴様らの愛した人間の暴力によって死ぬッ! 
恨むなら、醜い人間どもを信じた己らを恨むんだなぁッ! グハハハハハハハッ! 
グハハハハハハハハハハハハ―――――――――ッ!!』
 いよいよゼロキラーザウルスがゼロたちの命を終わらせる……! その次は人間、そして世界そのものだ……!
 今日が、世界の終わりだ……。

『――そいつは違うぜ……』
 その終わりに、この状況に至っても、ノーを突きつける者が一人。
 ウルトラマンゼロだ。満身創痍、全身がボロボロになってもなお立ち上がる。
 だがひたすらに諦めないゼロを、ヤプールは嗤うばかり。
『まだ立ち上がるというのか? 全て無駄なのだよッ! 今の貴様のどこに、逆転の芽がある!? 
そんなものは全て摘み取ってやったわぁッ!』
 かつて出現したゼロキラーザウルス。それもゼロたちの攻撃をことごとくはね返し、彼らをギリギリまで追い詰めた。
 それは、ゼロキラーザウルスがゼロたちに向けられた怨念の結晶だからだ。ゼロたちがどんな攻撃をしようとも、
底なしの恨みから無尽蔵に生じる負のエネルギーが必ず攻撃の威力を上回ったので、ゼロキラーザウルスは
ゼロたちに対して無敵だったのだ。
 だがウルティメイトフォースゼロは勝った。それは、四人の絆、心の光を一つに合わせ、相乗効果で
一層強めた光を纏った体当たりで、底なしの怨念を打ち砕いて浄化したからである。負の闇で生まれた怪物は、
心の光で照らすことが出来る。
 が、しかし……今の四人は、先の超獣軍団を倒すために、体力を消耗し切っていた。もうあの時と同じ、
四人の合体攻撃はとても出来ない。ゼロたちは、ヤプールの罠に完璧に嵌まっていたのだ。

276 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:34:00.77 ID:p+Lsa0CC
 ――それでも、ゼロにはたった一つだけ、究極の闇を消す手段があった!
『見せてやるぜ、ヤプール……! 俺の光はぁッ! テメェなんかにッ! 絶対に消されないってことをなぁッ!!』
 気合い一閃。ゼロはまっすぐ上に飛び立ち、ウルティメイトブレスレットを展開して本来の銀色の鎧の形にした。
 その鎧、ウルティメイトイージスを装着したゼロの姿は――人々の目に、神々しい輝きを焼きつけた。
「あ、あの姿は……」
 降臨、ウルティメイトゼロ。
 それはアナザースペースの人たちの心の光が生み出した、まさしく希望の光。宇宙のどこからでも駆けつけ、
闇を追い払う力を持った、究極の光輝だ。
 しかしゼロキラーザウルスという闇は、その光すらも呑み込んでしまいそうだ。
『何かと思えば、貴様も底抜けの愚か者だなぁ、ゼロッ! その威力もゼロキラーザウルスには
通用せんこと、忘れたのかッ!』
 そう、ウルティメイトゼロの力までもが、ゼロキラーザウルスには届かなかった。その怨念は、
一人の力では祓いがたいほどに大きくなっているのだ。
 だが、ゼロが行うことは――攻撃ではないのだ。
『これからすること、俺はちっとも恐れてなんかいない。だが、才人……お前まで巻き込んで
しまわなければならないこと、それだけが心残りだ』
 ゼロはヤプールの嘲りには構わず、己の中の才人に呼びかけていた。
 それに才人は、達観したような声音で応える。
『大丈夫だよ、ゼロ。怖くない訳じゃないけど……嫌って訳じゃない。むしろ嬉しい気持ちさ』
『本当か?』
『ああ。ただの高校生だった俺が、この絶望をひっくり返して世界を救うんだぜ? こんなにすごいことはないよ』
 それからひと言、こう語った。
『ルイズが言った、守るための名誉。今なら分かる気がする』
『そうだな。――行くぜッ!』
 ゼロは飛び出す。右腕の剣を前に突き出し、一直線に――ゼロキラーザウルスへ目掛けて!
『何ッ!?』
 まっすぐ突っ込んでくるとは思っていなかったヤプールは、反応が遅れた。その一瞬が勝負を決する!
『おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあぁッ!!』
 銀色の鋭い弾丸と化したゼロは、ゼロキラーザウルスの体表を突き破って体内に潜り込んだ! 
そしてカラータイマーより、自身の光の「全て」を解放する!
『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
『な、何をする!? まさか……やめろぉぉぉ―――――――――!!』
 焦るヤプール。しかしもう遅い。ゼロキラーザウルスの肉体から、溢れるように光が漏れていく。
何が起こっているのか?
『ま、まさか……!』
『ゼロ、やめて下さい! そんなことをしたら、あなたがッ!』
『ゼロぉぉぉぉ――――――――――!!』
 ジャンボット、ミラーナイト、グレンファイヤーが気づいて叫んだが、ゼロは止まらない。
 ウルトラゼロレクター。怨念の闇をかき消す浄化技だ。しかしゼロキラーザウルスのそれは
あまりに莫大すぎて、普通にやってはまるで通用しない。
 そのためゼロはウルティメイトイージスを展開し、その上で最大出力を超えた、限界突破の光を
相手の体内から解き放って、この絶大なる邪悪を消し去ろうとしているのだ。
 ……自身の「命」までも光に変換して。
『ぐッ、がぁッ! ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』
「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」
 二つの邪悪が断末魔を残し――。

 二つの星の輝きが、闇を破裂させた。

 その時、人々も直感で理解した。ゼロは……命と引き換えに、自分たちを救ってくれたのだということを。

277 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:36:35.11 ID:p+Lsa0CC
『おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! ウルトラマンがああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』
 光によって破裂したゼロキラーザウルスの残骸から、巨大ヤプールの怨霊が立ち上って怨嗟の声を上げた。
その怨嗟も、直に光によって消されるであろう。
 それまでの間に、ヤプールはミラーナイトたちへ向けて言い放った。
『こ、これで勝ったつもりか!? 馬鹿めがッ! この星には俺の他にも、邪悪がまだ潜んでいるというのにッ!』
『何ッ!?』
 驚愕するミラーナイトたち。彼らは、M78ワールドからハルケギニアに侵入した巨悪が
ヤプールのことだと信じて疑っていなかった。
『俺はその悪の波動に導かれて、この星を発見しただけだ! 貴様らが遠からず、姿の見えない邪悪に
滅ぼされるのが見えるようだわ! クハハハハハハハッ!』
 負け惜しみを込めた呪いの言葉を、ヤプールは遺す。
『破滅の未来で待っているッ!!』
 そして、光がヤプールの怨霊を消滅させていく。
 二つの星の輝きも――ヤプールを消し去ったすぐ後に……消え失せた。
『なッ……あッ……ゼロ……』
『ぜ、ゼロ……』
『うあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――! ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――!!』
 三人の仲間が名を呼んだが……それに応じるべき者は、いなくなっていた。

「……はい。ヤプールの敗北、この目でしかと確認しました」
 シティオブサウスゴータを一望する山の頂上で、一人の女性が人形に向かって話しかけていた。
クロムウェルの秘書であったシェフィールドだ。
 こんなところで、一人で何をやっているのか?
『そうか。余のミューズ、これまでご苦労だった。褒美をとらそう』
 人形からは人の声がする。人形に見せかけた、通信機の役割を果たす魔法の道具なのだ。
「もったいなきお言葉です、陛下……」
 そしてその声を聞いたシェフィールドは、うっとりと陶酔しているようだった。
 シェフィールドは、本当にクロムウェルの秘書だった訳ではない。実はクロムウェルは元々、
今の彼女の話し相手に祭り上げられたお飾りの皇帝で、人形の声の主がシェフィールドを通して
アルビオンを操っていた。アルビオンがヤプールたちの巣窟とされてからは、人形の声の主は
彼らの存在にいたく興味を示し、その動向をシェフィールド越しに観察し楽しんでいたのだ。
『外世界からの侵略者たちも、手を変え品を変えウルトラマンという巨人たちを苦しめ、
なかなかに楽しかった。しかしそれももうおしまいか』
 残念そうな口ぶりだが、実際には惜しむ色は全くなかった。玩具が壊れたので違うのを買おう、
そんな感じのひと言であった。
 あろうことかヤプールの行いを間近から観察し、彼らを玩具同然に見なすこの者は、一体何者なのだ? 
どんな力を有しているというのか?
『これからは余自身でゲームの盤を動かすとしよう。余のミューズ、お前にはもっと働いてもらわねばならなくなる。心してくれ』
「元よりそのつもりでございます、我が陛下!」
 ヤプールという巨悪を打ち倒したばかりだというのに……新たな暗雲は、遠くないところまで来ているようであった。

 激戦の影響により、更地同然となってしまったサウスゴータ。その中を、ルイズが一人ヨロヨロと歩いていた。
「ぜ、ゼロ……どこへ行っちゃったの? 敵を倒したのなら、いつものように、私たちの前に姿を見せてよ……」
 ルイズは真っ青な表情で、一人ブツブツとつぶやいていた。誰にも問いかけは届いていないが、
現実を受け止められない気持ちが問いかけという形で表れているのだ。
「ゼロ……サイトをどこへ連れていっちゃったの? こんな時に、冗談はやめてよ……。
どこかに隠れてるだけなんでしょ? 私が意地悪なことばっかり言ってたから……からかってるだけなんでしょ……?」
 そんな訳がないということ、ルイズは理解していた。しかし感情が認めていなかった。
ゼロが戻ってこないということ、それはつまり、一心同体の才人も……。
「サイト……サイト……。
 サイトぉぉぉぉぉ――――――――――――――――――――!!」
 ルイズの呼び声は――朝焼けに染まりつつある、何もない焦土に虚しく響くだけだった。

278 :ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2015/06/15(月) 21:38:21.78 ID:p+Lsa0CC
以上です。

ウルトラマンゼロと才人が死んでしまったので、『ウルトラマンゼロの使い魔』は今回でおしまいです……。
皆様さようなら、さようなら……。



後ほど次スレ立ててきます。

279 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/15(月) 23:50:30.85 ID:wqL8wQAq
ゼットン、ガッツ、ナックル、ヒッポリト、バードン
シリーズごとに一回は死んでるウルトラ兄弟
んでもってブニョのときなんかは・・・

280 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/16(火) 23:37:43.16 ID:ZOTHhpZq
ウルゼロの人どうした?
スレ立てしようとしたら画面からダダが出てきてパソコンに引きずり込まれでもしたのか?

281 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/19(金) 10:38:11.28 ID:GQsXQSKQ
ん?

282 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/06/22(月) 07:16:21.07 ID:vojR+Wko
次スレ
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